Fate/カレイド CCC   作:時杜 境

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Second day

――How are you?

 

 

 

「壊れてるわね」

 

「……はい?」

 

 猶予期間ニ日目、恒例行事のように保健室へ支給品を取りに行った時のこと。

 テーブルの席に座りながら、新任の保険医が半ば呆れたような、残念そうな表情でそう溜め息を吐いた。

 ……初めに挨拶(ノック)をしなかったからだろうか。まぁ確かに、いきなり扉を開けてズカズカ職場に入り込んで開口一番「アイテム寄越せ」は常識があるとはいえないか。

 

「そっちの件を気にする必要はないわ。所詮、支給品を渡すというのが私の役目。けれど保険医という立場である以上、マスターである貴方の健康管理も任されている身なのよ――最も、他人の治療なんて私の趣味じゃないのだけれど」

 

「カレンちゃんさんは歪んでるなぁー。そういところ、なんか言峰神父に似てますよね」

 

 刹那、ティーカップがこちらに飛んできた。が、自分という標的への当たりは大きく外れ、壁にぶつかるとそのままカップは重力に従って床に砕け散る。

 どうやら彼女自身の運動神経は皆無らしい。ちなみに無残な姿になった緑茶入りカップはムーンセルの処理能力で二秒後には跡形もなかった。

 

「それで、私の健康に何か異常でも?」

 

「健康というか存在自体が異常ね」

 

「酷い暴言だ!」

 

「事実でしょう」

 

 断言されて、うぐ、と押し黙る。

 蘇生してからこのセラフ内で異常異常と言われ言い続けてきたのだ。今更、反論の余地など一欠片も残っちゃいない。

 

「ケッ、そーですよー。魂ぶっ壊れかけて命からがら存在してる意味不明な生命体ですよ私は。全くカレンちゃんは冷たいなぁ、親の顔が見てみたい」

 

「ムーンセルに顔なんてあるのかしら……」

 

「マジレスありがとう。あやふやな推測でネタに走った私が愚かでした、ハイ」

 

 潔く煽るのを止める。

 ……しかし、本当にカレンと言峰神父は無関係なのだろうか? あの他人が苦しむ様をニヤニヤと愉しむ顔、どちらも結構ソックリな性質をもっていると思う。こうなってくると、地球上にいたオリジナルの方で何かしらの関係が――

 

「そうだ。オリジナルといえばカレンちゃん、月聖杯の元になった地上の聖杯戦争ってどんなものだったの?」

 

「マトモそうな質問で安心したわ。けど……どうして今更そんなことを?」

 

 言いながらカレンは部屋の隅へと移動していく。

 移動先に設置されている棚に茶葉入れらしき容器があるからして、単にもう一度茶を淹れるつもりなのだろう。

 

「開催地が地元の冬木で何回かやってた儀式っていうことをつい先日思い出してね。(ここ)のやつは何百体もの英霊を召喚して、優勝商品はあくまでムーンセルという聖杯の使用権で、しかも負けたらその時点でゲームオーバー。

 だから元の聖杯戦争はどれぐらいハードだったのかなぁ、と」

 

「……そう。随分と知りたがりになったのね、貴女」

 

 この知識への欲はどちらかと言うと月成(わたし)のものだと思う。

 後からつけられた理由は死徒のものだろう――といってもまぁ、過去のことなぞ正直どうだっていいのだが。

 

「結論から言ってしまうと、地上の聖杯戦争はここよりずっと緩いわよ。なにせ参加者の主従合わせても最低14人。まぁ各陣営の協力者も含めればもっと多いでしょうけれど――そもそも、聖杯によって全てが管理された霊子虚構世界じゃないし、トーナメント制でもない。だから少なくともサーヴァントを失った時点で死ぬ、なんてことは起きないわ」

 

「……それはそれでまぁ、随分とハードだこと」

 

 トーナメント制ではない――これはつまり、参加者以外の、聖杯戦争どころか魔術世界にも無関係な人間を()()()()()ということだ。

 月の聖杯戦争は127人の死亡が確定されているものの、全員が魔術師である以上、フェアな環境ではある。だが地上の場合、最低参加者が大いに少ないとはいえ、その参加者たちの行動によっては一般人すら巻き添えになるのだ。

 

 まぁ基本的に参加者は、目的達成ならば手段を選ばない魔術師ばかりだろうし、そいつらは一般人を巻き込まなかろうが巻き込もうが、そこら辺どうでもいいという感覚であろう。

 事実、死徒(じぶん)がそういうタイプだった。

 

「ところで貴方は緑茶と紅茶、どちらが好みかしら」

 

「コーヒー」

 

「水でいいのね。分かったわ」

 

 全く噛み合ってない会話をし、そろそろと自分もカレンの席と反対側に設置されている椅子に座る。

 戻って来たカレンが自分用のティーポットとカップ、水道水入りのコップをゴトリとテーブルに置くと、こちらもごく自然な動作で水を口に含む。

 

「う~ん、水。水だね。どこまでも水だね。無色透明。自然の味だねぇ」

 

「人類の生命維持に必要不可欠な物質ね。ありがたく大切に飲みなさい」

 

 カレンがそう言っている間にもコップに入った水を飲み干す。

 コップをテーブルに置き、カレンの方も淹れた緑茶(何故か多量の角砂糖を入れていた)を一口飲むと「聖杯戦争の話だったわね」、と切り出した。

 

「基本的なルールは月と同じよ。七つのクラスに分けられた英霊と魔術師が契約を結び、万能の願望器を手に入れる――あぁでも、冬木の聖杯は少し歪みがあったらしいわね」

 

「……歪み?」

 

「えぇ。何回目かの聖杯戦争のとき、どこかの陣営が違法(チート)行為をした挙げ句に惨敗。敗退した英霊の魂は聖杯に取り込まれたものの、その英霊の本質自体が聖杯の在り方を歪める原因になり、以来その聖杯はとんでもない不良品になった――ってね」

 

「なにそれ、スゲー面白そう」

 

 どう聖杯が変質したのはしらないが、ロクなものではないことは確かだ。聖杯戦争での違法行為は大抵ろくでもない結末が待っている。

 

「……ん? そういえば地上って、敗北したマスターの令呪はどうなるんです? 監督役の方で回収されるの?」

 

「聖堂教会、ね。復帰するしないかはきっと本人の自由でしょう。辞退するのならそちらに回収されるだろうし、復帰するのなら他にもマスターを失った“はぐれ”サーヴァントがいなければ不可能でしょうけどね。……まぁ基本的に、敗退者は教会に保護されるそうよ。サーヴァントが消えてもマスターは令呪がある限り復帰可能、イコール他の参加者に狙われるから」

 

 それはそうだ。

 他の参加者としては不安要素はキッチリ消しておきたいものだ。令呪の管理が人間の自由である以上、別陣営のマスターに譲渡する、という展開だってある。

 令呪は三回だけの絶対命令権であり、武器だ。サーヴァントを従わせる程の魔力、行使するだけで常人にとってそれは大魔術を使うのと同義である。

 

「ほほう。ということは、地上版聖杯戦争は裏切りや策略に満ちたドロドロな試合だったってことかぁ。ちなみにそれ、最終的な勝者は出たわけ?」

 

「さぁ。私が知っているのは、地上の聖杯戦争について大まかに『どのようなものであったか』ということだけ。実際この世界で行われた儀式の勝敗結果までは伝えられていないわ」

 

 AIは嘘をつかない。

 いくら保険医らしくなくとも、その部分はムーンセルによって定められたルールの内だろう。よってここは疑いも追求もせずにただ納得しておく。

 

「冬木市がそんな魔境だったとは……うーむ、まさにこれこそ灯台下暗し! けど管理された世界じゃないってことは、結構戦略も多種多様にできるってことですね? いいなぁ、月は学園での私闘でさえ禁止されてるからなぁ。あ、でもフリーな環境でのバトルとなると、敵の情報も一度に6人分は集めなきゃならないのか……やっぱ地上の方がハードじゃない?」

 

「私から見ればどちらもそう差はないと思うけど。聖杯に辿り着く為に地上の方は、別にマスターを殺す必要はなく、上手くやれば最低でも数体のサーヴァントの魂だけが犠牲になれる。けれど肝心の景品は不良品。

 月の方は127人……英霊分を合わせればその倍の魂を踏み台に、たった一人だけが本物の願望器の使用権を。――ほら、どういう基準でハードだと言えるのかしら?」

 

「どっちもどっち、って言いたいんですかね? 私としてはアレですよ、一体どちらがやりごたえのある試合(ゲーム)か、っていう基準です」

 

 どちらの聖杯戦争にもスリルはある。

 月は生きて帰れるのが一人だけ。ただし運営側はしっかりしている。

 地上は本当に上手く事が進めばマスター側は全員生還できるものの、賞品が欠陥品である以上、それまで行っていたことは全て無駄――……地上版は、まず運営側から疑ってかかるべき代物だったということだ。

 そして今の私の基準では、目標が不良品であろうと、地上の方がとても面白いものであると感じただけの話。

 

「そう。やっぱり壊れているわね、貴女」

 

「そりゃ魂が侵食されている身じゃあねぇ。……って、言っても分かんないか」

 

 客観的に見て、こう言っている自分が死徒側だということは分かる。

 というか月成ルツの方は、まず聖杯戦争というもの自体があんまり気に入っていない感じなのだ。面白いものは好きだが、別に殺し合いが好きというわけじゃない。

 

「魂の侵食……ああ道理で。貴方、いつもバイタル値が低いもの。()()()()()()()()()()らしいから、いつ発狂するのか楽しみだったのだけれど――そう。残念だわ」

 

「アンタ保険医だよな?」

 

 どうしてムーンセルはこんなのを保健室に置いたのだろう……稀に見るバグか? それとも桜の役割を変えてしまった私達が悪いのか?

 

「そういえば貴方、サーヴァントはどうしたの? ここに来てから全く気配を感じないけれど」

 

「あぁ、食堂の方で人類最古の腕相撲勝負が始まってな。審判を岸波に押し付けてきたところだったんだよ、実は」

 

「……どういう流れでそうなるのかしら。さっさと合流しなさい。敵が一人だけとはいえど、ぼんやりしていたら本当に――いえ、なんでもないわ」

 

「その切り方はなに。なんでそう先が気になるような発言すんの! AIだよね、嘘をつかず、必要と判断すればきちんと忠告だってしてくれる心優しいAIのハズだよね!?」

 

「これはあえて私からは言わずに本人が見つけるべきこと――そう、試練の時よ月成ルツ!

 ……などと言ってはみたけれど、貴方の場合は常に試練というか苦難に向かっている様子だから全然面白くないわ。せめて表に出して頂戴、そういう表情(カオ)

 

「一瞬アンタのキャラが崩壊したのかとびっくりした私の時間を返せ」

 

 あと支給品ちょうだい、と言った途端に濃縮エーテルが顔面目掛けて飛んできた。

 それを容易くキャッチして端末のデータへと変換すると、これ以上物を投げつけられる前にとっとと席を離れて退散する。

 

 しかしあの保険医、私みたいな奴の扱いに慣れてると感じたのは気のせいか?

 

 




 7章配信されましたねヒャッハー! ただし作者はプレイできないので動画サイトでネタバレを踏むのじゃ。
 設定の矛盾が起きないかと心配でしたが、まぁこっちはFGO関係ないのでストーリー上の問題はほぼナシ。

 だがしかし、攻略サイトとかの台詞集見た限り、なんか思ってたよりずっと機械に徹してましたなエルキさん。
 まぁこっちはそういう設定が明らかにされる前に公開されてた情報で6割方「戦車男」のイメージと、あとの4割は「Fake」で大方のキャラ構築してるわけでして。
 だから公式のエルキと比べて少しズレてても大目に見てね。あくまでも本作は7章配信前の設定を元にしておりまーす!

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