「着いたね!」
「あ、ああ」
俺と茅野は今、駅前のカフェの前にいる。
茅野が助けてくれたお礼にと、俺を誘ったのだ。
何で俺なのかは分からないけど、誰かに感謝されるのは嬉しかった。
それに、カフェから漂う甘い匂いが心地よくて、
すぐに中に入りたいと思った。
だけど、男女二人きりの時に何をすれば良いんだ?
俺にとってそれは下手したら、いや確実に、椚ヶ丘中学のテストより難しい問題だ。
「それじゃあ入ろう!」
茅野は俺の手を引っ張って店に入る。それも楽しそうに。
そんなに楽しみにしていたのか。スイーツを食べる事。機会があったら何かプレゼントしようか。
「あ、ああ」
店に入って、二人掛けの席に座る。
ふと茅野を見ると、とても楽しそうにしていた。本当に無邪気な顔をしていた。
いつも演技じゃなくて、本当にこういう顔だったら良いのに。と思ったりもした。
そんなに楽しみだったのか、ここへ行くの。
そんな茅野を見ていると、何だか可愛く思えたのは内緒だ。
俺はチョコレートケーキを頼んだ。
「黒崎くん、チョコレートケーキが好きなの?」
「ああ、チョコの味がたまらないんだ。」
「そうなんだ。ふふ、意外だね。」
「意外?」
「だって、甘い物が好きってイメージじゃないもん。」
「そうか?」
そう思われていたとは。
茅野はプリンを頼んだ。
「やっぱりプリンか。」
茅野はプリンが大好きで、よく放課後に殺せんせーと一緒にプリンを食べている。
「プリンっていくらでも食べられるよね!」
「それは大げさなんじゃないか?」
「それでさ、黒崎くんに聞きたい事があるんだけど。」
「何?」
「どうして二度も私を助けてくれたの?」
「それは、…」
俺は少し考えた。
「一回目は自分でもわからない。気付いたら体が動いてた。
二回目は茅野を助けたいって思った。ただそれだけだった。」
それは俺の、飾りの無い純粋な気持ちだった。誰かを助けたい、と。自分でもらしく無いとは思ったが。
「そ、そうなんだ。あ、ありがとうね。」
心なしか茅野は照れているようにも見えた。
「このプリン、美味しい!」
「良かったな。」
「うん、いつか私も、こんなプリン作ってみたい。」
「それは楽しみだ。」
まさかそれが実現し、暗殺に使われるとは、夢にも思わなかった。この時は。
だが、それはしばらく後の話。
俺が頼んだチョコケーキも美味しかった。いい味だ。
「そういえばさー、明日転校生が来るらしいね。」
「ああ。烏間先生から一斉メールあった。」
「どんな人なんだろう。」
「写真見たけど、女子らしいね。それと、この時期に来るんだ。ただの転校生じゃなさそうだ。」
「そうだね。ひょっとして暗殺者とか?」
「あり得るな。」
そんなことを話していたら、俺も茅野も食べ終わったので、
「そろそろ帰るか。」
「まだ少しいようよ。もう少しこの時間を楽しみたいから、さ。」
「そうか、わかった。」
何故かは理解出来なかった。カフェに行くんだから食べて終わりじゃないの?
と思ったが、茅野の明るい顔を見たらそんなことは言えなかった。
そういえば、初めて出会った時の茅野の笑顔は、どこか偽物のような気がしたけど、
今の笑顔は、本物に見えた。それが良かった。
「じゃあ帰ろうか。」
「ああ。」
そして家に着くと、由夏が出迎えてくれた。
「お兄ちゃん嬉しそうな顔してるね。もしかしてデートでもしてきたの?」
「まさか。俺がそんな事すると思うか?」
あれをデートと呼ぶかは分からないが、とりあえずそう答えた。
デートしたなんて言ったら色々うるさそうだったのもある。
「まあね、お兄ちゃん付き合っても振られるタイプだからね。
女の子への気遣いが出来なさそうだしねー。」
グサッときた。だけど本当に気遣いが出来てなかったので、何も返せなかった。
けれど、今日は良い1日だった。本当にそう思った。
そういえば、女子と二人きりで出掛けるなんて、初めてだったな。
気遣いとか知らなくて当然じゃん。そう気付いたのは寝る直前だった。
俺はどこか抜けているようだ。
「まったく、由夏の奴ときたら…。」
ため息をつきながら俺は寝た。
***
「はぁ。」
帰り道、茅野はため息をついていた。
私を二度も守ってくれたのは本当に嬉しかった。けれど、心の奥には罪悪感があった。
私をただ守ろうとしてくれた彼の純粋な善意に対し、自分が嘘をついていることに。
そっと首元に手を当てる。そこには触手があり、決して茅野カエデが、いや雪村あかりが
引き返せない事を意味していた。
演じ切らなきゃ、完璧に。たとえみんなを騙す事になったとしても。
触手に魂を吸い取られ、地獄の業火に焼かれようとも。たとえいかなる犠牲を払ってでも。
たった一人の、最愛の姉を殺したあの怪物の息の根を止めるその時までは。
「お姉ちゃん。」
時々虚しくなる。復讐を果たしても、自分をあんなに大切にしてくれた姉は帰ってこない。
でも、これがせめてもの姉へのはなむけ。だから、私は復讐する。
彼女はそう決意した。
けれど、彼女の迷いは、次第に無視できないほど大きくなってゆくのだった。
そしてそれは、復讐に大きな影響を与える…