皆は崖を登る。その中でも岡野は颯爽と駆けていく。
「先置いてくよー。」
「やっぱり身軽だなー、岡野は。こういう事やらせたらクラス1だ。」
元体操部の岡野は非常に身軽で運動神経がいい。
「それに比べてうちの教師ときたら、動けるのが一人だけか…」
そう言って俺が向いた方向にはビッチ先生を背負いながら殺せんせーを腕に巻き崖を登る烏間先生が。
「あーもう、手滑りそう、もうちょっと丁寧に登りなさいよ!」
挙句の果てに文句まで言う始末。乗られてる烏間先生の身にもなれ。
「しかし皆さん、見事ですねえ。」
殺せんせーが感心している。俺たちが崖を登る所など見ていないからな。
こんな能力があるとは知らなかったんだろう。
「ああ、崖登りなら裏山でもやらせている。どんな場所でも暗殺を可能にするには、
は基礎となる筋力とバランス感覚が不可欠だからな。」
あらゆる局面に対応する力が必要だ。烏間先生は俺たちに崖登りを教えるときそう言った。
「なるほどねえ、フライボードを自在に操ったのもその成果ですか。」
殺せんせーは納得したような様子でそう言った。確かに訓練の技術が活かされたのだろう。
「いいから早く登りなさいよ!」
…本当にやかましいこのビッチ。崖から蹴り落としたくなってきた。
「ていうか、なんでついてきてるんだビッチ先生。」
まったくだ。こんな女置いていけばいい、足手まといなんだから。
と一瞬思ったが俺は閃いた。
そうだ、この手があったか。あのビッチも使い道はあるんだな。
「置いてきぼりが嫌なんだって。」
「フン。」
そうこうしているうちに全員崖を登り終えた。
「ここの監視カメラは私が掌握しました。
しかしこの警備システムは複雑で、私には全てをハックは出来ません。」
「そうか、やはり厳しいな。律、最終確認だ。」
「はい、私たちはエレベーターを使えません。何故なら専用のカードキーが必要だからです。
そこで私たちは階段を利用することになりますが、
この階段も複雑に入り組んでいて遠回りしなければなりません。」
「テロリストによる占拠を防ぐため、テレビ局とかと同じか。」
「なるほどね、これは悪い宿泊客が愛用するわけだ。」
菅谷が言う。これはまさしく裏社会のために存在するホテルだ。
そしてホテルへ入る。しかしここには大量の警備が。
(非常階段はすぐそこだが、全員が見つからずに通るのは不可能だ。どうする?)
なるほどね。ここがビッチの出番だ。
「何よ、普通に通ればいいじゃない。」
「何言ってんだビッチ先生!」
「普通に通ればいいって言ってるの。」
そう言うと堂々とロビーへ向かう。そして警備の一人にぶつかる。
「ごめんなさい、部屋のお酒に悪酔いしちゃって。」
「いえ、お気になさらずに。」
「来週ここでピアノを弾かせて頂くものよ。酔い覚ましのついでに調律をチェックしたいんだけど、構わない?」
「ピアニストか?」
「しょっちゅう来るからその一人だろう。」
「はい、じゃあフロントに確認を…。」
するとビッチが引き止める。
「待って、貴方にも聴いて頂きたいの。そして評価して、どこが良くてどこが駄目か教えてちょうだい。」
「は、はい。」
警備の男は既にビッチの虜だ。
そしてビッチ先生はピアノを弾き始める。
その腕前はプロのピアニストに匹敵する程だ。彼女の奏でる音色はとても美しく、
普段の卑猥で高慢で間抜けなビッチからは想像もつかない綺麗な姿だった。
「幻想即興曲ですか。腕前もさることながら、魅せ方が実にうまい。
色気の魅せ方を熟知した暗殺者が、全身を使って音を奏でる。まさに音色。
どんな視線も引きつけてしまうでしょう。」
「ねえ、そんな遠くで見てないで、もっと近くで見て、」
そう言うと警備が彼女へ集まる。
(20分稼いであげる、行きなさい。)
というハンドサインが見えた。
そこを通るだけなのに、思わず目を奪われる、なんて綺麗な音色なんだろうと。
(決してビッチ本人に目を奪われた訳ではない。)
「普段の彼女から甘く見ないことだ。彼女クラスの暗殺者になれば、
潜入暗殺に必要な技能は大抵身につけている。君達に会話術を教えているのは、世界でも有数の
ハニートラップの使い手なのだ。」
皆驚いた。普段の彼女からは想像もつかない姿。改めてここのプロの教師陣の凄さを実感した。
だが、プロという点では相手も同じ。それをすぐに実感することである。
「スモッグ、ボスから伝言。監視カメラに異常はないが、念のため見張ってこい。
見つけたら即殺りでいいってよ。」
「アイアイサー。」
場面はテラスへ。ウイルスにかかったメンバーを奥田さんと竹林が看病している。
「とにかく発熱が酷い。頭にダメージがいかないよう入念に冷やしておこう。」
「ああ、悪いな竹林。」
そこで奥田さんが訊く。
「あの、これだけ強いウイルスなら、島中に広がってしまうんじゃ。」
「いや、それはないよ。恐らく感染方法は経口感染。となるとジュースか何かに盛られたんだね。
感染力は低いと相手も言っていたそうだし。」
「そうですか…。」
(私達だけを狙った盛られたウイルス、一体何のために?)
「さて、君達に普段着で来させたのも理由がある。いったん入口を抜ければ、ここからは客のフリができる。」
「客?悪い奴らが泊まるホテルに中学生の団体客なんているんですか?」
いやいるだろう。おそらくあの手のホテルには、
「聞く限りではいる。芸能人や金持ちのボンボン達だ。周りからチヤホヤされて育った彼らは、
あどけない顔の内から悪い遊びに手を染める。」
「そう、だから君達も、世の中をなめきった感じで歩きましょう。
そう、そんな感じ。」
みんなは一斉に舐めた顔をする。あれ?カルマはいつもと変わっていない気がする。
普段から世の中なめてるからな。
「この調子か?あとお前までナメるな。」
殺せんせーもシマシマ顔に。
「ただし、我々も敵の顔を知らない。相手も客のフリをして襲って来るかもしれない。
十分に気を付けて進みましょう。」
そして場面は変わりボスの部屋に。
「流石にホテル全部が我々に協力はしない。おいガストロ、もしもの時の迎撃体制は万全だろうな。」
「問題ないっす。取引に応じるなら、相手はエレベーターで来る。その際はフロントから連絡がある。
忍び込んだとしてもここまでは一本道。スモッグの奴が発見しますよ。
あんたには日本政府より高い金もらってる。ちゃんと役割果たしますよ。」
「ククク、そう期待しているよ。」
そして場面は戻る
「ホテル内の全員が敵かと思ってたけど、違うみたいだね。」
と茅野が言う。
「仮に何かあっても、前衛の烏間先生が見つけてくれるさ。」
「じゃあ時間ねえんだ。さっさと進もうぜ。」
そう言って寺坂と吉田が駆け出す。
すると向こうにも客が。はっ!そいつ確か…
「二人とも、そいつ危ない、離れて!」
不破が叫ぶ。
と同時に烏間先生は二人を引き離す。すると男はガスを噴射する。
「なぜわかった?すれ違いざま殺気を見せず殺る。俺の十八番だったんだがなおかっぱちゃん。」
「だっておじさん、ホテルでトロピカルドリンク配った人でしょ。」
「判定するには証拠が弱いし、ドリンク以外にも毒は盛れるぜ。」
そうだ、ならなぜ不破は見抜いたんだ?
「皆が同じものを飲食したのはドリンクとディナーだけ。でもディナーを食べてない
三村君もかかったってことは、犯人はおじさんだけって事よ!」
「すごいよ不破さん、探偵みたい!」
「ふふ、普段から少年漫画読んでるとね、こういう状況にすぐ対応できるようになるのよ。
特に探偵物はサンデー、マガジン共にメガヒット揃い!」
「ジャンプは!」
「うんと、単行本が出てるから読むといいよ。」
「ステマが露骨だよ不破さん。もっとマーケティングに配慮して!」
本当にメタ発言が多い。まあいいか。これも元々はSSとして…
「黒崎までメタ発言やめて…」
ばれたか。
すると烏間先生が膝を着く。
「ククク。」
「毒使いですか、実用性があり優れている。」
「ああ、いったん空気に混じれば検出不能だ。俺特製の室内用麻酔ガス。
ウイルスの開発者も俺だ。」
「ええ、無駄に感染を広げない、これまた実用的だ。」
そうか、ウイルスの開発者もこいつか。なるほどね。この二つには共通点がある。
証拠を残さない。自家製。威力は強い。感染を広げない。洗練されている。
問題はこのあとどう動くか。
「まあ、お前達に交渉の意思がないことはよくわかった。交渉決裂、ボスに報告するか。」
すると皆が素早く周囲を取り囲む。全て烏間先生の指示通りだ。
「敵の退路を塞ぎ、選択肢を奪う。指示は済ませてある。
…最初に我々を見つけた時、お前はすぐに帰り、ボスに報告すべきだったな。」
そう、この時のスモッグの判断は間違っていた。本来ならば無駄にガスを使うまでもなく
帰れば良かったのだ。そこは殺し屋としての自信が邪魔したか。
ともあれこれで殺し屋の逃げ場は無くなった。
「まだ喋れるとはな。だが先生よ、お前が気絶すればガキの統制は失われるだろう。」
「…」
烏間先生はかろうじて立ち上がり、スモッグと対峙する。まだ立ち上がれる気力があったのか。
やはりこの先生は化け物だ。そう思った。
まあ大丈夫、おそらく殺し屋は毒使い。近接戦闘は烏間先生には敵わない。俺はそう思っていた。
すると烏間先生が蹴りかかる。その蹴りは見事スモッグの顔面に命中。
スモッグは倒れる。
「速い、人間の速さじゃねえ。だがおっそろしい先生よ、お前の引率はここまでだ。」
すると烏間先生は倒れてしまった。
「烏間先生!」