「さあさあ皆さん、いよいよA組を超える時が来たのです!
2週間後の中間テスト、熱くいきましょう!熱く!」
殺せんせーが例によって大量の分身で教える。熱苦しい…
とまあ、体育祭の浅野の罠も無事乗り越え、中間テストに全力で集中出来るのだが…
一方、どこか皆落ち着かない様子だった。
殺せないまま、勉強の時間だけが過ぎていく。
焦りの10月、殺せんせーの暗殺期限まで、後5ヶ月。
一方その頃職員室では
「何調べてるのよカラスマ。」
烏間先生は何かを調べていた。
「…報酬代わりに、生徒達にプレゼントをしようと思ってな。
2学期より暗殺訓練もより一層厳しさを増すからな。」
「ハハーンなるほどね。」
ビッチ先生、何かを察した様子。
「しっかし女心が分かってないわねえカラスマ。どきなさい、女子の分は私が選んであげるわ。」
そう言って身を乗り出すビッチ。一体何を?
「男子のプレゼントは私が選びます。烏間先生はイリーナ先生へのプレゼントを。」
殺せんせーまで入ってきた。
「消えろ邪魔共!」
…
放課後、授業も終わり、皆帰途につくのだが…
と言っても俺は1人で帰る。多くは電車通学、近場なら自転車通学も何人かいる。
だが俺は椚ヶ丘中学から歩いて10分もしない場所に住んでいるので徒歩で通っている。
そんなのは俺1人。だからこれは俺のいない時の話。
「しっかし殺せんせーも良くやるよな。今日なんか分身だけじゃ無く立体視も使ってた。」
「何でもアリだな。」
第1このタコに常識とかは通用しない。すると、
「でもさ、勉強に集中してる場合かな私達。あと5ヶ月だよ、
暗殺のスキル高める方が優先じゃないの?」
矢田がそう皆に訊いた。
確かに5ヶ月しかない、焦りが出るのも仕方ないが…
「仕方ねーだろ、勉強しねーとあのタコ来なくなるんだからよ。」
吉田が諦めたように言う。
「へへ、深く悩むなお前ら。俺に任せろ。スッキリ出来るグッドアイデア見つけたぜ。」
「…?」
岡島のアイデアとは?
建物の上に立つ岡島。
「すげー通学路開拓したぜ。こっからフリーランニングで建物を伝って行くとな、
ほとんど地面に付かずに隣町の駅まで行けるんだ。ただ通学するだけで訓練になる。
今日からここを皆で行こうぜ!」
フリーランニング通学、それが岡島の提案だった。
「えー、もし落ちたら危ないよ〜。」
倉橋が危険だからと止める。
「そうよ、烏間先生も裏山以外でやるなって…。」
片岡も止める。そもそも岡島の提案はルール違反なのだ。
「へーきだって、行ってみたけど難しい場所はどこもなかった。今の俺らなら楽勝だぜ。」
「うーん。」
磯貝が渋っている。彼の性格からしてルールを破るのはやはり賛同出来ないのだろう。
「へーきだって磯貝、勉強の邪魔をせず暗殺に集中出来る。
まさに殺せんせーの理想とする、二本の刃を同時に磨くってことだろ。」
「良いかもな。」
「うん。」
皆が賛同し始める。
「よっしゃ、先導するぜ、ついて来い!」
岡島の先導の元皆が建物の屋上を駆ける。
「うっはー気持ち良い!」
「最高!」
颯爽と走っていき、楽しそうな皆。
「楽勝だな!」
「だろう?俺らもう一般生徒とは段違いなんだよ!」
岡島の目は自信に満ちていた。
「へー、楽しそう〜。」
「安全そうだったら私も明日から行こうかな。」
女子の何人かは様子見のよう。
(棒倒し、暗殺訓練の日々で身に付けた力で僕らはヒーローになった。
本校舎の生徒も、僕らの事を少しずつ認め始めている。
出来ることもどんどん増え、これならー、暗殺だって…)
「よっしゃ、1番乗りゴール!」
岡島と木村が真っ先にゴールした。しかし、彼らはその時知らなかった。
…烏間先生が、フリーランニングを裏山以外で禁止した、本当の理由を。
自転車に乗っていた老人がそこを通っていた。その老人は転んでしまった。
「今の音、何があった?と、とりあえず救急車を!」
近くにいた人が慌てて駆け寄る。
うめく老人。鳴り響くサイレン。彼等は事の重大さにようやく気付いた。
***
「右大腿骨の骨折だそうだ。程度は軽いので2週間程度で治るそうだが…
何せ君らの事は国家機密。部下が口止めと示談の交渉をしている。
頑固そうな老人だったが、必死で説得している。」
「…。」
事の重大さを前に、何も言えない生徒達。すると後ろからドス黒いオーラを感じ、振り向くと、
顔を真っ黒に染めた、ド怒り状態の殺せんせーがいた。
その恐怖の中、誰もが何も言い出せずにいる中…
「だってよ、あんな小道でチャリこいでる爺さんがいるとは思わねーだろ普通!」
「悪い事したとは分かってるけど、暗殺の力身に付ける為なんだし…。」
「地球を救う焦りと重圧がテメーに分かるのかよ。」
そう言い訳する皆。すると、
スパン!
殺せんせーは皆の頬を触手で叩いた。
「生徒への危害として報告しますか?烏間先生。」
「…今回だけは見なかった事にしておく。
暗殺期限まで時間が無い。危険承知で高度な訓練を取り入れたが…
やはり君達には早すぎたようだ。それに、裏山以外では禁止とした本当の理由も説明しなかった。
俺の責任だ。」
そう言って去る烏間先生。
「…君達は、強くなりすぎたのかも知れない。自分の身に付けた力に酔い、
弱者の立場に立って物を考える事を忘れていた。それでは本校舎の生徒と同じです。」
(殺せんせーは顔をバツ印にしてそう言った。叩かれると悔しい筈なのに、
何も言い返せなかった。これが、間違うって事なのか。)
すると殺せんせーは教科書を持ち出す。
「話は変わります。これから2週間、テスト勉強を禁止します。」
「…え!」
「罰ではない。それより大事な勉強をするだけです。あーそれと、まずは被害者を説得してきます。」
そう言って飛び立った殺せんせー。
***
「ですから、そこを穏便に…。」
「きかん!2週間も経営から離れるんだ!あのガキ共、並みの謝罪じゃ許さんぞ!
もっとこう、見た事のない謝罪を…」
するとあたりに大量の花が。
「すみませんでしたあああああ!」
土下座する殺せんせー。
「この度はうちの生徒達がご迷惑をおかけしましたあああ!」
マッハで土下座だ。
「ぎゃああああああ!」
***
「みんなー、園長先生はケガしちゃってしばらくお仕事出来ないの。
代わりに、このお兄ちゃんお姉ちゃん達が何でもしてくれるって。」
2週間のただ働き。それが老人をケガさせた代償だった。
…
「保育施設を経営している松方さんです。まずはしっかり謝りましょう。」
「…ごめんなさい。」
「さて、訓練中の事故ですから、君達がプロの暗殺者である以上自分で責任を取らねばなりません。
治療費ばかりは防衛省が出す他ありませんが、仕事を休む分の損害は、君達が払いましょう。」
「…支払うってどうやって…。」
「要はタダ働きです。2週間働いてもらいます。この老人の代わりに。
2週間、松方さんが歩けるようになった時、賠償分の働きをしたと認めてくれれば、
今回の件は公にしないでくれるそうです。」
殺せんせーはそう言った。そして俺らはそれに従う他ない。
「お前達に務まるのならいいがな。わしの所は保育所から学童保育まで手広くやっとる。」
皆はただ、俯いていた。
「それにしても、こんな怪物が受け持つ学級があったとはな。」
「ええ、正体を明かしたのも誠意の内です。」
「フン、生徒を健全に育てる為と言われれば、同業者として断れんわ。」
…
「全く、なんであたしら無関係の生徒まで連帯責任かねえ。」
狭間の言う事も最もだ。彼女からしたら不満だろう。
魔女だとか呼ばれてくっつかれているのが特に。
「…面目ねえ。」
子供達に噛み付かれている寺坂が謝る。
「私たちももっちりビンタされたよ。全員平等に扱わなきゃ不公平だからって。」
その通り全員頬を叩かれた。申し訳なさそうにとても弱くやってたので痛くもかゆくもないが。
「本当にすまねえ…。」
岡島がしおらしい顔で謝る。彼は言い出した張本人だけに、責任を一番感じているのだろう。
「気にしないで、他人にケガとか、予測出来なかった私達も悪いし。」
「そうね、私にも監督責任があるわ。こいつらおもしろサーカス団の調教師として。」
何だそりゃ。まあ言いえて妙だ。
「ま。良いじゃないか。クラスの秘密を守る為なら、2週間のただ働きなど安いものだ。
勉強なんて、家でこっそりやれば良い。」
竹林がメガネをクイと上げてそう言う。
「…パンツ一丁じゃなきゃカッコ良い事言ってるんだけどな。」
なかなかやんちゃな子が多いようだ。
「それでだ、何で俺に子供が寄ってこないんだ…?」
「怖いから、じゃない?」
え、そんなに怖いか…
すると1人の子供が現れた。
「で、何してくれてる訳あんたら。こんだけ大挙して押し掛けて。
減った酸素分くらいの仕事はしてくれるんでしょうね。」
そう言って俺らを睨むその子。
「な、なかなかとんがった子もいらっしゃる!」
「ヤバイ、さくら姉さんがご立腹でいらっしゃる。」
「入所5年の最年長者。学校の支配を拒むこと2年、エリートニートのさくら姉さんだ。」
「なんか急にスイッチ入ったぞ!」
「っていうけど、要は不登校じゃねーか。」
ていうか何だそのキャラは。しかし、2年も不登校しているとは、それは学校に戻りにくいだろう。
「まずは、働く根性あんのかどうか、試してやろうじゃないの、えー!」
箒を持って襲い掛かるさくらという子。いきなり襲い掛かるとは気性の荒い…
「ぐわっ!」
突然床が抜け、そこにはまってしまったよう。
「あーあ、そこの床痛んでるのに。」
例のキャラがそうため息を吐く。
「悲しきかな、暴力では真の勝利は掴めない。」
もう1人が哀しげに言う。こいつら本当に幼稚園児かよ。というほど偉そうだ。
「お前らのキャラの方が掴めねーよ。」
その通り。
そこで磯貝が何か疑問に思ったようだ。
「修復とかはしないんですか?それにこの建物、老朽化がかなり…」
磯貝の言った通り、建物はだいぶヒビや汚れが目立ち、劣化していた。
すると職員の人が答える。
「金がないのよ。うちの園長、不登校児や待機児童がいれば片っ端から格安で保護してたから、
園長自身が一番働いてたわ。」
(…漸く分かってきた。僕らがいかに重要な戦力を潰したのかを。)
「28人で2週間か、なんか色々出来るんじゃね?」
ふと誰かが言い出す。
「出来る出来る。」
「やってみよう。」
皆は賛同する。そして磯貝が話をまとめる。
「よし皆。作戦会議だ。各自の役割を決めていこう。」
「あのじーさんの骨の倍額仕事してやる!」
こうして俺らの作戦は始まった。
***
「もうやめて騎士黒崎!もう誰も傷つけないで!」
「いやいや姫、これも貴女を助けるため。姫がお望みなら誰だって犠牲に…。」
「黒崎てめえ当てるのなしって…て何だその殺気は、ちょ演技だろうが!」
「おお、本格的なアクションだ。」
「ディズニー1人勝ちのハリウッドより余程良い。」
「2人の男女が結ばれていく様も良いな。」
「ああ、ストーリーはベタだが演技が新鮮だな。」
「それでいてなかなか上手い。」
そして…
「ね、眠れ魔物よ!」
寺坂は奥田さんのクロロホルムで眠らされる。(本物)
「魔女のクロロホルムで、悪者は無事眠ったのでした。めでたしめでたし。
はーい皆さん、面白かったら拍手〜!」
その頃
「いやー、茅野の劇子供に受けてるなー。」
「空気の掴み方が上手い。それに体型も近いしな。」
それは酷いコメントだな。
「で、俺ら力仕事班は?」
「千葉が今設計図面を仕上げてる。
烏間先生の部下の鵜飼さんて人が建築士の資格持ってて助言くれる。」
そう、今俺らがやっているのはこのわかばパークの修復作業。
一方、渚達は小学生の子供に勉強を教えている。
渚は先ほどの子を相手にしていた。
(うーん、やっぱりこの子勉強遅れてるなあ。学校通ってないから無理もないか。)
「渚早く!私を東大に連れてくんじゃなかったの?」
多分そんな事は言わないと思う。
「ねえ、さくらちゃんはどうして学校行かなくなったの?」
渚がそう訊く。確かに教える上で知っておいた方が良いだろう。
すると彼女はこう語った。
「いじめだよいじめ。典型的な程度の低いやつ。みんな、あの子達くらいの頃は無邪気なのに、
どうしてちょっと成長して力付けると、それに酔いしれて誰かを傷つけるの?」
(…耳が痛い。)
「そしてね、そんな奴が大人になってね、権力って力持つと今度は会社でパワハラ。
こんな世の中、やってらんないわよ。どうせあんたも思ってるんでしょ。逃げるなって。
パパやママみたいに言うんでしょ。悔しかったら学校行って力付けろって。」
「…。」
渚は黙っていた。すると…
中庭の方で何かあったようだ。窓を開けて様子を見る2人。
どうやら猫が木に登って、降りられなくなったらしい。
「ほらね、勇気出して高いところ行ったらあのザマ。安心安全な地べたにいて何が悪いの?」
すると、
「よし、俺が助けるわ。棒倒しのアレ頼むぜ。」
木村が救出を買って出る。
「了解。」
「…木の上が学校、地べたがここだとするならば、僕らは皆、地べたで力を付けたんだ。」
そして木村は棒倒しと同じようにハイジャンプする。
そして木の枝を掴む。
「木の上の人を見上げ、木の上の人から見下されながら。」
猫を捕まえて救出する木村。どうにか成功したようだ。
「だから木の上でも自在に動ける。高い所の怖さを知っているから。ここで学ぼう、
学校へ行くのは力を付けてからで良い。ここだけの、秘密の勉強を教えてあげる。」
そうしてあっという間に2週間が過ぎた。
「さて、私の生徒達の働きはどうでしょうねえ。」
「フン、ガキの重みで木造平屋が潰れてなきゃいいがな。」
しかし、松方さんの目に飛び込んできた物とは…
「なんということでしょう!」
二階建ての綺麗な家。
「よう爺さん、2週間の損害と見合ってるか?」