1話 始まりの時間
俺は黒崎翔太。椚ヶ丘中学の3年A組に所属している。
「退屈だ。」俺はずっとそう思っていた。
椚ヶ丘中学は勉強もスポーツも一流だ。普通は退屈だなんて思わない。
俺の成績は上位だし、部活でもレギュラーだ。
なのに俺は退屈だった。思えば、あの日両親を失った時から、ずっと退屈だった。
何をやっても面白さを見出せず、空虚な日々を送っていた。
最近驚いたのは、月が常時三日月になったことくらいだ。
それさえも、ただ景色が変わっただけだと割り切る。
帰り道を歩いていると、数人の不良が少女に絡んでいた。
「お嬢ちゃん、俺達と遊んで行かない?」
「いえ、結構です。は、離して下さい!」
「そんな事言うなよー。」
吐き気がする。弱者を虐げる奴は嫌いだ。それも一人を数人で。
イラついて手を出した事もあった。
でもいつからか、嫌悪感こそ覚えるものの、止めようとはしなくなった。
どうせ俺が止めても、こういう奴はいくらでも出てくる。
こんな事に意味はない。そう思っていた。
「いいから離して!」
「何だと! 」
不良が少女に殴りかかった。
「やめな、断られたら殴りかかるとか、最低だな、お前ら。人としてクズだと思わないか?」
いつもなら放っておくだろう。でも何故か俺は放って置かなかった。
ただ、我慢できなかった。そして、あの少女を助けたい。そう思った。だから止めた。
「中坊が粋がってんじゃねーよ!大人しくお家に帰りな!」
「帰るのはあんたらの方だよ。それも家じゃない、土に還りな。」
「ふざけんじゃねー!」
不良が俺に殴りかかってきた。だがそんな生ぬるい攻撃ではかすり傷一つ付かない。
不良の腕を掴み、捻り上げ、重心が不安定になった所で足を払い、転ばせる。
後は鳩尾に的確な一撃を打ち込む。それだけで気絶した。
「知ってる?最近の中坊は、格闘技やってんだよね。」
残りの不良は恐れをなして逃げていった。意外と腰抜けだな。そう思った。
そして少女に声を掛けた。
「大丈夫?怪我はないか?」
「はい、助けてくれてありがとうございます!」
少女はぱっと見俺より年下に見えたが、よく見ると俺と同じ椚ヶ丘中学の3年生だった。
しかし彼女を見た事はない。転校生か?
「いいんだ。あいつらの事、気に食わなかっただけだよ。」
「それに敬語を使わなくたっていい。俺も椚ヶ丘中学の3年生。同い年なんだし。俺の名前は黒崎
翔太だ。よろしく。」
俺は無愛想にそういう。愛想が無いと言われた事もあるが、それが俺という人間なのだ。
「私茅野カエデ。よろしくね!」
茅野は明るい笑顔でそう言った。でもなぜか違和感があった。その笑顔が、本物ではないような。
でもそれより、今は、
「もう暗くて危ない。俺が駅まで送ろうか?」
「あ、ありがとう。」
送って行く途中、茅野という女子は話してくれた。最近椚ヶ丘に来たこと、母親はすでに亡くなり、
父親は仕事で滅多に家に帰らない事。
育ててくれた姉が亡くなり、椚ヶ丘にいる親戚を頼って来たこと。そして、E組だということ。
俺も話した。弱者を虐げる奴が嫌いなこと、両親は亡くなったということ。今は妹と二人暮しということ。
俺は彼女と話が合った。久しぶりだ、こんな事は。
「本当にありがとね!」
彼女はそう言い残して帰った。
彼女を送り届けた後、俺は家に帰った。
「お帰り、お兄ちゃん!」
妹の由夏が玄関の前に立っていた。
由夏は俺の一歳年下妹で、たった一人の家族だ。だから一番大切な存在だが…
ちょっと小生意気な所がある。
「ただいま。由夏。」
「遅かったから、心配したよ、まさか不良とケンカしたんじゃないかってね。」
そのまさかだとは言えないので、
「そんなわけないだろ。ちょっと部活が長引いただけだ。」
という事にしてごまかす。
そして俺は食事を済ませ、風呂に入ってさっさと寝る。
眠りにつく前に、ふと考えた。
どうして俺は茅野を助けたのだろう。人助けなんて馬鹿らしい、そう思っていたはずなのに。
自分でも分からなかった。気付いたらそうしてた。
そしていくら悩んでも明確な理由は浮かばなかったので、さっさと寝た。
そしてその行動は、彼の運命を大きく変えていった。
そう、とても大きく、その後の人生すら……
そして翌日
学校へ行くと、職員室に呼び出された。
そこには担任が立っていた。
「全く、E組の生徒をかばうために喧嘩をしただと!ふざけるな。お前はE組行きだ。
今まで成績優秀で部活でも活躍していたから多少は見逃してやったが、
今度ばかりは我慢ならん!お前のせいで、私の評価に傷がつくんだぞ!」
くだらない説教だった。所詮は保身のためか。
こいつを俺は教師として見ない。ただの屑として扱おう、そう思った。
だからこう言った。
「ああそうか。俺はお前を教師として認めない。じゃあさようなら、人間の屑。」
そう言って俺は窓ガラスにヒビを入れて帰った。
その後通知が来た。
俺は1週間の停学の後E組行きらしい。まあいい、あんな担任、元から気に食わなかった。
それに、どうせ今の退屈な日々よりはマシだろう。E組にはあいつがいる。
そして俺は家に帰った。
すると、家の前に車が停めてあり、黒いスーツに身を包んだ男性が中にいた。
俺が驚いていると、車の中から男性が出てきた。
「私は防衛省の烏間という者だ。君が黒崎翔太君か?」
「はい」
防衛省の人が俺に何の用だ?
「今、家には誰も居ないか?」
「はい。」
「では、君に話がある。家に入らせては貰えないか?」
何だろう?俺にしか言えない話?余程重要な事なんだろうが…
「どうぞ。」
家に入り、烏間さんは一枚の写真を俺に見せた。
なんだこれ、タコか?にしては足が多いし、なぜか黄色い。
驚いたが、次の烏間さんの言葉は、もっと衝撃的だった。
「この生物を、君に暗殺して欲しい。」
言葉が出なかった。暗殺?ただの中学生である俺が?
「この超生物は、月の7割を破壊した犯人であり、1年後に地球を爆破すると言っている。
そしてこの超生物が、君が編入されるE組の担任となった。」
そして烏間さんは、説明してくれた。この超生物はマッハ20で動くこと、この特殊なナイフと
銃弾しか使えないこと。E組の生徒が今、暗殺をしていること。
そして資料も渡された。
「マッハ20のターゲットか、面白い。」
そして次の一言は、俺を完全に殺る気にさせた。
「報酬は、100億円だ。」
停学が明けたら君にも暗殺をしてもらう。烏間さんはそう言い残して帰った。
そう、これこそ俺が求めていたものだ。超生物の暗殺?こんなに面白そうなことはない。
俺はずっと退屈していた。全く変わらない日常に飽き飽きして、
それでもやりたいことを見つけられず、色褪せた日々を送っていた。
でももそんな日々はもう終わりだ。マッハ20のターゲットの暗殺、成功すれば100億円。
「殺ってやろうじゃないか全力で!」
彼は不敵で傲慢な笑みを浮かべてそう言った。
遂に退屈から解放された俺の気分は最高だ。
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茅野のあまり知られていない雪村あかりとしてのプロフィールはここに。