これで黒崎の面談編は終了です。
追記:ランキング入りしました!これも皆さんのお陰です。
まさかこんな作品がランキング入りできるとは思ってなかったので嬉しいです。
「これが、翔太の過去です。分からない点があったらお訊きして結構ですよ。」
全てを語り終え、やや疲れた俺と叔父さん。
それに対し、殺せんせーは黙り込んでいたが、やがて口を開いた。
「黒崎君、君の過去は断片的にしか知っていませんでした。
しかしまさか、ここまで重い物を背負っていたとは。
話を聞いて、君が今のような性格になった理由が、よく分かりました。
何と言ったら良いのか…」
殺せんせーも気まずそうにしている。それもそうだ。こんな重い過去を抱えた中学生は普通いない。
「出来れば、過去の話は最後までしたくなかった。俺にとっても辛い記憶だったから。
けれど気にする事はない殺せんせー。確かに俺の過去が俺を大きく変えたのは事実だ。
だけど、今俺がこういう考え方をして、こういう性格でいる。
それは全て俺自身の意思だ。後悔はしていない。」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。
言い訳をするつもりはない。あの事件によって俺の人生の歯車が大きく狂ったのは事実だ。
けれど、そこから先、何をするかは自分次第だ。だから俺はそう言った。
「それで、話を続けましょう。」
叔父さんがそう切り出す。
「…黒崎君の将来の話、でしたっけ…」
「はい、そうです。では翔太、お前は将来どんな道を進みたいんだ?」
「それは…」
俺は口ごもった。答えは決まっていなかったから。
なりたい職業とかどんな道に進みたいだとか、そんな事は今まで一度も考えたことがなかった。
「そもそも俺は、器用貧乏というかね、何をやっても上手くいくけれど、
突出した個性を持っている訳じゃない。
だからね、俺は何をすればいいのかが分からない、
ー悲しいかな、完璧人間とかよく言われて、皆がその才能を羨むけど、
本人はそんな才能望んじゃいない。 皮肉なものですね。」
俺は自嘲気味にそう語った。
所詮俺はただの器用貧乏。出来ることなんてたくさんあるようで何一つない。
俺はそう思っていた。
しかし、
「そんな事ないですよ。」
殺せんせーはそれを否定した。
「黒崎君、君は謙虚ですねえ。自分がどんな才能を持っていようとも、
驕る事なく常に謙遜している。でも行き過ぎた謙虚さはただの卑下になりますよ。
君の個性はね、磨けばどんな力にもなれます、
器用貧乏になるかならないかは君次第。どうかその才能で未来を掴み取って下さい。」
そう殺せんせーは言う。
そんな風に言われたのは初めてだった。他の教師だったらそんな事は言いやしない。
やはり殺せんせーは、ただの教師じゃない。
「…南の島で、ヴァンパイアを倒したその実力、決して器用貧乏などではありません。」
「え、南の島?ヴァンパイア?一体何を言ってるんですか先生?」
…色々な意味でただの教師じゃない。
俺はこの後、殺せんせーの失言のフォローで大変だった。
「とはいえ、君が進路を決めるのに、急ぐ必要はない。先生とじっくり相談しましょう。」
それから進学先の高校の話になる。
俺が行きたいのはとある公立の進学校。
「君の高い学力なら問題ないでしょう。公立とは、やはり叔父さんに迷惑掛けたくないと?。」
「まあそうです。今までの生活費とかもあるんで、これ以上の負担は掛けたくないです。」
「…君らしいですねえ。」
その後も話は続く。俺の事が主だが、叔父さんの経験談など色々な話をした。
そうして三者面談は終わりを告げた。
「いやあ、今日はありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。黒崎君をよろしくお願いします。」
俺も礼をして去る、だがその前に、
「殺せんせー、俺の過去の事、E組の皆には絶対に話さないでくれ。」
殺せんせーは少し黙った後、こう言った。
「君がそう言うのなら、良いでしょう、ですが、いつかは、しっかりと過去と向き合う事も大事ですよ。」
叔父さんに別れを告げ、俺は教室を出て帰路に着く。
「いつかは、過去と向き合う事も重要ですよ。」
殺せんせーの言葉が、頭から強く離れなかった。
別に過去から逃げていたつもりはない。
あの辛い記憶を無理矢理忘れ去ろうとか、そういう思いはなかった。
ただ、過去に向き合って決着をつけていたかというと、そうは言えなかった。
俺はずっと過去を引きずっている。
あの日目にした両親の無残な姿は今でも忘れられないほど目に焼き付いた。
しかも両親は自殺したんじゃない。あの非道な殺し屋、ヴァンパイアに殺されたのだ。
事故、はたまた自殺を装って。
南の島のホテル、あの場所でその真実を告げられた時、気が狂いそうになった。
親が他人の手で殺されたという事に対するショックと、俺から何もかも奪った男への憎悪で。
それが、あのゾーン状態と暴走に繋がったのだ。
正気を失ったとは言え人を殺しかけた事実は重い。
もしあの時茅野が止めてくれなければどうなっていたか。
考えたくもない。
過去、というのは南の島で起きたあの出来事も含めるんだろう。
過去と向き合う、その為に俺は何をすれば良いんだろうか。
いくら考えても、答えは出てこなかった。
結局その後は、いつものようにトレーニングだけして1日を終えた。
過去だけじゃない。
俺は卒業までに、自分の進む道を決めなければいけない。
自分は器用貧乏だとずっと思っていたが、殺せんせーはそうじゃないと言う。
と言っても、特にやりたい仕事は思い浮かばない。
俺の数少ない特性の一つ。ゾーン状態を制御し、意図的に身体能力を向上出来る。
こんなのが役に立つ職種などそうそう思い浮かばない。
使用後の負担が大きく、効果が切れると1日は激しい運動が出来なくなるので、
格闘技やスポーツには向いていない。
どんな職種が…
「身に付けた刃は、自分の為だけじゃなく、誰かの為に使う。」
職場体験が終わった後、皆で殺せんせーにそう誓った。
その言葉を裏切らない未来へ進みたい、と俺は思う。
「…過去に決着をつけ、未来の進む道を決める。これは相当な難題だな。」
今まで暗殺に熱中してきた。全力でやる気を出していた。
けれど、その先、暗殺を終えた後に何をするか、まだ何も考えていない。
けれど…
「ま、殺せないから多分無駄になりますがねえ。」
1番の課題は、やはり暗殺だ。
未来を決めるのは、それからでも遅くはない。ただ、今からじっくり考えよう。
俺はそう結論を出し、眠りについた。
***
翌日、俺は何事もなかったのように学校へ向かう。
「おはよー、黒崎君。」
茅野が俺に挨拶する。
俺はおはようと返す。
「昨日の三者面談、どんな話ししたの?」
茅野の質問に、俺は少し黙り込む。
真実を言うわけにはいかない。どこまで本当の事を伝えるべきか。
俺は悩んだ末こう言った。
「進路の事だよ。俺が将来どんな道へ進むか、まだ決まってないからさ、
これからじっくり相談する事に。」
「ふーん。そうなんだ。」
嘘はついていない。湧き上がる罪悪感をそう自分に言い聞かせ抑え込む。
俺の過去は、できればE組の皆には伝えたくない。
俺の過去を知って、それでも皆は仲間だと思ってくれるか、
今まで通りに接してくれるか、それが不安だから。
「あ、校庭でなんか暗殺やってるよ、私達も行こう!」
茅野が校庭に向かう、彼女の明るい笑顔と、
E組での暗殺の日々、それを振り返れば、そんな不安は薄くなっていく。
それでも、やはり真実は言えなかった。
そんな自分に少し後悔を感じながらも、俺は校庭に向かう、
やはり暗殺は、心地いい。嫌なことも、辛い事も忘れられる。
でもそこから逃げちゃいけない。そう胸に刻みながら、俺はナイフを振るう。
俺らは暗殺者であり生徒。担任教師はターゲット。始業のベルは、今日も鳴る。