黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

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63話 1周目の時間

「という訳なんだ。どうしよう殺せんせー。」

 

「ほほう、お母様が転級の相談にいらっしゃると。」

 

電話で話す2人。

 

「うちの母親、言い出したら聞かないんだ。

 

烏間先生は出張中だし、部下の人は先生じゃないから…

 

第一、僕E組抜けたくないよ…」

 

そう漏らす渚。

 

「心配せずとも、三者面談、上手く乗り切ってみせますよ。」

 

…不安だ。

 

 

「絶対に親に正体を明かすなよ!赤の他人の老人の時は止むを得ず良しとしたが、

 

実の親となれば話は別だ!自分の子供が危険な怪物を殺す暗殺をしているとなれば黙っていない!」

 

「安心してください烏間先生。心配せずとも、上手くやり過ごしてみせましょう。」

 

***

 

「渚の母ちゃんかー、一回家に遊びに行った時見たけど、割ときつい反応されたよなー。」

 

そういえばそんな事もあったっけか。

 

確かに厳しそうな親だったな。

 

「殺せんせー任せとけって言うんだけど…」

 

渚は不安そうに言う。

 

「あの見た目で怪しまれない訳がないよね…」

 

その通りである。

 

「ていうか、E組の表向きの担任は烏間先生だよね。私の親も三者面談やってけど、

 

烏間先生がやったし、統一しないと、親同士で話が合わないよ。」

 

「…そだね。」

 

確かにこれはまずい。話が合わなければ混乱する。

 

「今日は急用が入ったから後日にしてくれってのは駄目なのか?

 

それで烏間先生が帰ってきた日に…」

 

と俺が提案したら…

 

「ヌルフフフ、その必要はありません。要は烏間先生に化ければいいんでしょう?」

 

ドアの影に映る殺せんせー。

 

「化けるって、いつものクオリティ低い変装じゃ駄目だよ。」

 

「そうだよ、面と向かって話すんだから。」

 

烏間先生そっくり、そんな事が出来るのか?皆不安がっている。

 

「ヌルフフフ、今回は完璧です。」

 

不安すぎる。

 

そしてドアを開けた先には…

 

「わいや。烏間や。」

 

烏間先生とは似ても似つかぬ変人が。

 

「再現度ひっく!」

 

ソーセージ型の腕。ダサいパンタロン。

 

顔も丸い。

 

「いつも通り似せる気ゼロのコスプレじゃねーか!」

 

「いや、烏間先生を忠実に再現したんですけど!」

 

「んな訳あるか!なんだそのソーセージみたいな腕は!」

 

よくそんなに突っ込めるな…俺なんかもうその気力も無い。

 

「そもそも口、鼻、耳が…」

 

「今までギャグのノリで誤魔化してたけどさ…、真面目に人間に似せるって難しいね。」

 

不破が悩む。ていうかギャグのノリってなんだよ…

 

「こうか、いやこうか…」

 

殺せんせーの表情を変え、烏間先生に似せてみる。しかしなかなか上手くいかない。

 

「あとサイズ!殺せんせーデカいんだよ。」

 

そう突っ込まれる。確かに巨体だからな、いかにも怪しい。

 

そこで矢田が提案する。

 

「じゃあさ、こういうのはどう?

 

座りっぱなしで、常識的なサイズだけ上に出して、後は下に詰め込むってのは?」

 

なるほど、それならサイズは誤魔化せるな。

 

「うーん、気持ち悪いけどこれでいいや。」

 

という事でサイズ問題は解消。

 

「そんな無理矢理!」

 

ん、なんか言ったかな殺せんせー。

 

「後は眉毛と鼻と口。烏間先生にそっくりな奴作ってやるぜ。」

 

(皆楽しそうで何よりだ…

 

不安だけど、祈るしかない、殺せんせーが、母さんの機嫌を損なわずの説得してくれる事を。)

 

そして放課後。渚の母親が来る。

 

「あれが渚の母さんかー。」

 

「確かにきつそう。」

 

見た目でそれが分かるほど厳しい母親だ。

 

「母さん…」

 

渚が不安そうに言う。

 

「安心しなさい渚、私の言う通りにしなさい。そうすれば母さんが、あなたを救ってあげる。」

 

渚の母親の目には、確固たる自信があった。

 

そして職員室に入る2人。

 

「失礼します。」

 

「ようこそ、渚君のお母様。」

 

そこにいたのは微妙な感じの殺せんせー。

 

まあ渚の母さんは烏間先生の顔知らないので、人間に見えればよしとしよう。

 

「ようこそこんな山奥にいらっしゃいました。さぞかしお疲れでしょう。

 

冷たい飲み物とお菓子でも。」

 

そう言ってケーキとジュースを出す殺せんせー。

 

「まあ、グアバジュース!私これ好物なんです。」

 

「それは良かった。この前渚君から聞いたんですが、

 

体操の内脇選手の大ファンだそうですね。先生もあの大会は見てました。」

 

「あら、先生も御覧になったてんですか?」

 

「ええ、彼の頂点を示す真摯な姿勢は素晴らしい!」

 

上手いな、話のツボを押さえて上手く会話している。マッハ20の超生物はトークスキルもあるらしい。

 

そうやって2人の会話は、打ち解けていく。

 

これなら上手くいくかもしれない、俺も渚も、そんな期待を抱いたのだが…

 

「いやあお母さん、綺麗でいらっしゃる。渚君も似たんでしょうねえ。」

 

いくら殺せんせーでも、渚の母親の地雷までは、見抜けなかった。

 

「この子ねえ、女の子であれば私の理想に出来たのに。」

 

渚の母の口調が変わる。

 

「お母様の…、理想?」

 

「ええ、この位の歳の女の子であれば長髪が似合うんです。私は子供の頃短髪しか許されなくて、

 

3年生になって勝手にまとめたときは怒りましたが、これも似合うので許してます。」

 

そう言う渚の母、一見笑っているように見えたが、

 

その裏には暗い影と底知れぬ闇が見て取れた。

 

「さて、進路の話でしたね、すみません。この子の年で挫折するのは悪影響。

 

椚ヶ丘は蛍大合格者も多数ですし、中学で放り出されたら悪影響ですわ。

 

是非とも本校舎への復帰を…」

 

そう語る母親。

 

「渚君とはお話を…?」

 

「この子はまだ何もわかってないんですの。

 

だから、失敗を経験した親が主導するのは当然でしょう?」

 

恍惚とした表情をしている。

 

「母さん、僕は…」

 

「渚、少し黙ってましょうね。」

 

渚はそう言われ俯向く。それを見ていた殺せんせー(今は烏間先生)がついに口を開く。

 

「なるほど。なぜ渚君が今のような性格になったのか理解しました。」

 

そう言うと、殺せんせーは…

 

突然カツラを外す。

 

「私、烏間惟臣は、ヅラなんです!」

 

思わず渚も、母も思わず吹き出す。

 

「髪型も、高校も大学も、貴女のコンプレックスを隠すための道具じゃない。

 

全て、渚君自身が決める事です。」

 

渚の母の額に青筋が走る。

 

「この際だからはっきり言います。渚君がはいと言わない限り、

 

担任としてE組を抜けるのを認められません。」

 

そうはっきりと告げる殺せんせー。しかし、

 

「何よアンタたかが教師の分際で親に逆らうの!大体この子が…」

 

そこから先の言葉はもはや聞き取る事すら出来なかった。

 

俺も言葉が出なかった。他人の母親にここまで脅威を感じるとは…

 

俺には、両親すらいなかったから分からなかった。

 

「渚!最近反抗的だと思ったら、この烏間っていうヅラの担任に吹き込まれてたのね、

 

見てなさい、私がアンタの目を覚まさせてやるわ!」

 

そう言って物凄い勢いでドアを閉め出て行く渚の母。

 

「殺せんせー、どうしよう…」

 

「つい強く言ってしまいました。すみません…

 

でもね渚君。大事なのは、君自身の意思をはっきり言う事。」

 

「でも、今のうちは母さんの2週目でいた方が…」

 

「そんな事はありません。君の人生は、この教室から始まっているんです。」

 

数時間後。

 

「見てなさい、渚、アンタを、私が叩き直してやるわ。」

 

車の中に眠る渚。一体何が?

 

***

 

「なんだろう、家に帰ったら母さんがやけに上機嫌で、作ってくれた料理を食べたら、

 

急に眠くなって…、ここは、学校?」

 

夜のE組に連れ込まれた渚。

 

炎の燃える松明を持つ渚の母。

 

それを、茂みの中に隠れて俺は見つめていた。

 

「こんな場所に来たせいで、貴方は血迷った。貴方の目を覚まさせてやるわ、渚。」

 

その目は、メラメラと燃えていた。松明の炎が映っただけなのに、

 

まるで彼女の眼が本当に燃えているかのようだった。

 

「この校舎を燃やしなさい。あなたの手で。そうすれば、罪の意識でE組に顔向け出来なくなる。

 

その後誠心誠意復帰のお願いに行くわ。退路を立てば、土下座してでも頼めるはずよ。」

 

そう平然と言ってのける渚の母。

 

その心は、狂気に満ちているかのようだった。

 

「何言ってんだよ母さん、そんなの嫌だ!」

 

真っ向から否定する渚。

 

しかし、

 

「誰が育ててやったと思ってるのよ!誰がここまで来させたと思ってるの!

 

塾に行かせて、高い金払って私立行かせて、仕事帰りで疲れているのにご飯作って!

 

アンタという人間は、全部私が作り上げたのよ!」

 

そう叫び、渚に松明を突きつける。

 

(違う、でも正しい、なんて言えばいいんだ、この気持ち…)

 

渚は葛藤していた、自らの想いに。

 

すると…

 

バン!

 

松明が弾かれる。

 

「キーキーうるせえよババア。ドラマの時間が来ちまうじゃねーか。」

 

鞭を持って現れた男。この殺気、間違いない、殺し屋だ。

 

「誰よアンタ、邪魔しない…キャッ!」

 

再び鞭が鳴る。

 

「邪魔なのはてめーらだ。奴は今夜10時。必ずここでドラマを見る。

 

奴が夢中になってる時に撃つ。銃でダメなら鞭の出番だ。先端速度はマッハを超える。」

 

「殺す…、なんなの、警察を」

 

そう言って携帯を取り出す。しかし…

 

「うるせえな。本番中騒がれるとやっかいだ。ガキを殺しちゃあ賞金パアだが、

 

ババアは殺してもいいよな?」

 

そう言って鞭を構える殺し屋。

 

そのとき、渚は2人の波長を観察していた。

 

(殺し屋、油断している。母さん、怯えている。母さん、あなたの顔色を窺う生活は、

 

僕のある才能を伸ばしてくれた。そのおかげで、僕は今クラスで役に立てている。)

 

「母さん、僕は今、このクラスで挑戦をしています。3月までに、必ず成功させます。

 

成功したら、髪を切ります。育ててくれたお金は全部返します。

 

それでも許してもらえなければ、母さんから卒業します。」

 

 

パン!

 

クラップスタナーが炸裂する。その後、俺が麻酔銃を打ち込み殺し屋は気絶した。

 

すると、殺せんせーが現れた。

 

「この辺りは夜間不良の溜まり場になっています。近づかないほうがいいですよ。

 

それと、麻痺が甘い。この技もまだ完璧とは言えませんよ。それにしても、全く、

 

趣味が悪いですよ。こっそり覗くなんて…」

 

あ、バレてたか。

 

「?」

 

「なんでもない、こっちの話です。お母さん、渚君は未熟ですが、しっかり見守ってください。

 

あなたに反抗しているわけではなく、これは誰もが通る巣立ちへの準備です。」

 

そう語る殺せんせー。その時、本当に殺せんせーは立派な教師に見えた。

 

(渚が、離れていく、私から…)

 

気絶する渚の母。

 

「緊張が解け疲れが出たようですね。先生が送ってあげましょう。」

 

こうして、渚の母との諍いは無事解決した。

 

 

「ところで、黒崎君も、こんな所に夜来ないでくださいよ。」

 

そう言って俺を触手で引き寄せる殺せんせー。

 

俺の手には麻酔銃があった。

 

あの時、見慣れない、渚の母のでもなさそうな足跡があった事に不安を感じた俺は、

 

念の為麻酔銃を持って裏山に隠れ様子を見ていた。

 

渚の母親が火をつけようとした時は慌てて飛び出しそうになった。

 

「しかし、黒崎君も精度が足りない。あの射撃単独では気絶させられませんよ。」

 

殺せんせーは、こんな時でも教師だ。

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