黒崎翔太の暗殺教室   作:はるや・H

73 / 109
65話 縁の時間

渚、聞いたよ。あんたが髪伸ばしてる理由。

 

そんな深いわけがあったんだね。それも知らずさ、からかったりしてごめん。」

 

中村がしおらしく謝る。責任を感じているんだろう、

 

でも、

 

「そんな事ないよ。カルマ君や中村さんにいじられる分には気にしてないよ。」

 

と言って笑って許す渚。

 

「そう、でもこれからはあんまりからかわないようにするね。」

 

そう言った中村。だがその言葉は数秒後に否定される。

 

「おーい、渚ちゃーん!」

 

この軽薄な声…

 

「ユウジ君!」

 

「ああ、南の島で渚に惚れたってガキね。」

 

ユウジは頬を染めこちらへ走ってくる。

 

「あの後島の宿泊客調べたんだ、そしたらさ、ホームページに学園祭の事書いてあって、

 

ここに駆け付けたってわけさ。」

 

「そうなんだ、ってええ!」

 

渚が大きく動揺する。それもそのはず、何と中村が渚のズボンを下ろし自分のスカートと履き替えたのだ。

 

「今回だけ、今回だけ。」

 

そう言ってニヤリと笑う中村。掌返し早!

 

「舌の根も乾かぬ内に!」

 

渚が涙目になる。うーん、本当に可哀想だな。

 

「あいつ金持ちなんでしょう。上手い事接客して金巻き上げてよ。

 

行ってこい渚ちゃん!クラスの売り上げは君に託された!」

 

渚は中村に蹴飛ばされ校舎から出る。さあ、潮田渚(♀)の運命やいかに。

 

「黒崎君まで!」

 

 

「学園祭来て良かった!渚ちゃんに接客してもらえるなんて。」

 

(うーん。)

 

若干興奮気味のユウジである。それにしても、渚を女だと勘違いした奴は何人もいるが、

 

渚に惚れた男は初めてだろう。

 

「ん?」

 

スケッチブックに書かれた言葉。

 

「私のオススメ、ぜーんぶ食べて欲しいなあ。」

 

棒読みで言う渚。

 

「渚ちゃんの為ならオススメ全部食うよ!」

 

あの棒読みで興奮するかい。

 

「やっぱ金持ってるなああのボンボン。渚ちゃん、どんどん稼いで〜!」

 

「デートで一万払えるか聞いて」

 

「カルマ君、それもう違う商売!」

 

(とある事情で、女装した僕に好意を持ってしまったユウジ君。

 

僕の性別の他にも、この教室には秘密だらけ。ユウジ君には悪いけど、全部隠し通さなきゃ。)

 

「怪しいハーブはもうやめたよ。渚ちゃん心配してたし。」

 

「そっか。」

 

隠し通さなきゃいけないのだが、周りは渚の悩みも知らず状況を狂わせる。

 

例えばレッドアイ。

 

「手土産だカラスマさん。」

 

猟銃片手にキジを持つレッドアイ。

 

「レッドアイ、死神にやられたと聞いていたが…」

 

「若いから回復も早くてな。一時は死線を彷徨ったが。」

 

「銃は隠せ銃は。」

 

「平気だ、世界各国の狩猟免許持ってるからな。」

 

そういう問題じゃない。

 

「おい、銃持ってるぞ、アレ。」

 

動揺するユウジ。

 

「じ、地元の猟友会の吉岡さん。」

 

苦しすぎる。

 

「吉岡さん!どう見ても外人だろ!」

 

「帰化したんだ。日本のアニメ好きだから。」

 

そう苦しげに言う渚。だが上手くごまかせたようで、

 

「ま、吉岡さんはいいけどよ、正直な話、渚ちゃん、俺の事どう思ってるの?」

 

そう顔を赤らめて言うユウジ。だけど多分何とも思ってないだろう。

 

だって渚は一応男だ。

 

すると…

 

「あんたもだ。こんな時に気配を消すな。」

 

茂みから突然現れたロヴロさん。

 

「うわっ!」

 

「あのタコから招かれてな。」

 

「そうか、あんたも生きてて何よりだ。」

 

それにしても、と前置きしてロヴロさんは語る。

 

「失礼だが、よく君に死神が倒せたものだ。君1人では奴に敵わないと思っていたからね。」

 

「…俺1人じゃ倒せなかっただろうな。それと、あんたの弟子が心配してたぞ。行ってやれ。」

 

「ああ」

 

そう言ってロヴロさんは去っていった。しかし…

 

「何なんだあの人、どう見てもパンピーじゃねえ!」

 

ユウジは動揺する。

 

「あ、浅草演芸場の重鎮、マイルド柳生。さっきの会話もネタ合わせで…

 

弟子がここでお笑いやめて教師になって…」

 

「お笑い芸人!ふーん。」

 

ユウジは訝しげに渚を見る。

 

すると、だんだん席が埋まってきた。

 

「お、客足増えたね。」

 

「うん、殺せんせーを殺せなかった殺し屋たちで。」

 

これはある意味すごい光景だ。

 

「これだけ揃うと圧巻だね。」

 

「殺せないって分かってるから大人しいね。」

 

だがしかし、何人かは額に青筋浮かべてシャチホコを睨んでいる。

 

「ただ…、このままじゃ負けるよ。集客ペースが、A組に追いつかない。

 

何か起死回生の手が無いと。」

 

確かに、A組はかなりの客が来ている。E組の比ではない。」

 

そして…

 

「銃との絡み合いが最高だぜ!この麺。」

 

「これなら毒入れても食えそうだな。」

 

南の島の殺し屋たちだ。

 

「げ、芸人仲間!浅草の、割と僕達、そういう人達に縁があってさ、」

 

そしてカルマのわさび入りモンブランを食べ吹き出すおじさんぬ。

 

「あれもさあ、マイルド柳生直伝のリアクション芸でさ。」

 

言い訳がどんどん苦しくなっていく。

 

それに気づいたのかは知らないが、ユウジが口を開く。

 

「渚ちゃんさあ、嘘ついてるよな、親父が大物芸能人だから、擦り寄ってくる奴らの顔は嫌という程見た。

 

分かっちゃうんだ。上辺だけの笑顔は。島のホテルの君は、そんな顔してなかったのに。」

 

それはあれだ。グレていたユウジを本気で心配していたからだろうな。

 

あとは女装の恥ずかしさ。

 

そして今嘘ついてるのは当然だ。暗殺とか殺し屋とか言えるはずもない。

 

「すごい観察眼だね。そう、ごめん嘘ついてた。僕もね、子供の頃からこの見た目は嫌だったんだ。」

 

「?」

 

「けど、望まぬ才能でも人の役に立てればいいんだって。そう分かってから、少し楽になった。

 

ごめんね、僕男だよ。」

 

男(の娘)じゃないか?

 

「またまたあ。」

 

当然ユウジは全く信じていない。その言葉が嘘だと思っている。

 

「見せればOK!」

 

とは中村のカンペ。それはアウトだ。

 

「本当だよ、嘘ついてる顔に見える?」

 

渚がそう言うと、ユウジは信じられないといった目で渚を見つめ、

 

「マジかよ。」

 

と言う。

 

「欠点、弱点も裏を返せば武器に出来る。この教室で学んだのも、

 

この出店が売れてるのも、全部それのおかげ。今日ここにいる人たちが集まってるのもね。

 

心が躍って、すごい楽しいんだ。」

 

そう言って渚は微笑む。彼は嬉しそうだった。

 

きっと、自分の経験を伝えられたからだろう。

 

「あ、でも騙してたわけだし、お代は…」

 

渚は慌てて謝る。しかし、

 

「いいよ、なんか自分がバカバカしくなってきた。」

 

ユウジはそう言って、料金を全額払って帰っていった。

 

「…悪い事、しちゃったかな。」

 

渚は知らない。彼がバカバカしいと言った本当の意味を。

 

「あれー、もう帰っちゃったの?コスプレ撮影会で稼ごうと思ったのに。」

 

駄目だ、この悪魔は救いようが無い。俺は心からそう思った。

 

「カルマ君は僕で一体いくら稼ぐつもりなの!」

 

こいつ渚を金儲けの材料としてみてるんじゃ無いか?

 

こうして、1日目は終了した。

 

翌日

 

「いやあ、本校舎に売り上げ速報出てたけど、このペースじゃA組には敵いそうもないや。」

 

そう言って三村はため息をつく。

 

「そこそこ売れてたけどね。」

 

すると、何故かテレビ局のクルーと思われる人物が、山を急いで駈ける。

 

「急げ、朝の中継に間に合わせるんだ!」

 

 

「テレビ局?何だ一体、この先にはうちの店しかっ…てえ!」

 

そこには行列が出来ていた。皆E組の店に並んでいた人達だ。

 

そしたら、不破が慌てた様子で、スマホを持ちながら走ってきた。

 

「大変!今ネットで爆発的に口コミが広がっててさ。

 

情報元を律に探らせたら、これ。

 

法田ユウジ。今1番勢いのあるグルメブロガーなんだって。」

 

「あいつそんな事やってたのか。」

 

ただのボンボンじゃなかったようだな。

 

「小さい頃から良いものたくさん食ってきたおかげで、

 

憎たらしいけど舌の確かさは折り紙付き。

 

金に任せた食い歩きはすごい信頼性なんだって!」

 

「ユウジ君…」

 

渚は驚いていた。あの彼がグルメブロガーだったのもそうだ。

 

でも1番は、E組の店を取り上げた事だろう。

 

その記事にはこう書かれていた。

 

「椚ヶ丘の学園祭で、メチャ美味い出店に出会いました。

 

人生観が変わりました。不利な立地を生かした自給自足の食材。

 

欠点や弱点を武器にする。店で働く友達がそう言っていたのを聞いて、

 

偉大な親の陰に甘やかされ、どこかそれを後ろめたく思っていた、

 

自分がバカらしくなりました。」

 

…そう、あの時、バカバカしいとユウジが言ったのは、

 

何も渚が男だと分かったからではない。自分の事が馬鹿らしくなったのだ。

 

「親の金だって自分の武器。開き直ってオススメの情報を発信します!」

 

こうして、学園祭はスパートに入る。

 

 

そこからは、もう皆必死だった。注文が入る度、取って、作って出して、売って、

 

知り合いや、ゆかりのある人達。

 

例えば、進藤だったり、前原の元カノとか、魚のフリした時の多川だったり、

 

それからビッチが男を集めて食わせまくってたり、

 

例のモブ2人が来て、後は、俺の妹が来たり、三山が来たりとあったものだが、

 

「まずいです!どんぐり麺もうすぐ在庫なくなります。」

 

「予想以上に売れたからな。」

 

どうしたものか…

 

「サイドメニューも売れ行き良いよ。残り時間はこれで粘ろう。」

 

「もっと奥まで行けばまだまだあるよ。」

 

それぞれの報告を聞いて、殺せんせーは少し考える。

 

「ふーむ。」

 

そして殺せんせーはこう結論を出した。

 

「いや、ここいらで打ち止めにしましょう。」

 

そう言って手を×にする殺せんせー。

 

「でもこのままじゃ負けるぜ。」

 

そう、A組の売り上げにはこのままじゃ勝てそうもない。けれど…

 

「いいんです。これ以上採ると山の生態系を壊しかねない。

 

植物も、鳥も、魚も、あらゆる生物の縁が恵みとなる。

 

この学園祭で分かったでしょう。君達がどれだけの縁に恵まれたか。

 

お世話になった人。助けられた人。迷惑をかけた、かけられた人。

 

ライバルとして競い高めあった者達。」

 

殺せんせーはそう語った。やっぱりどこまでも授業なのか。

 

「結局今日も授業が目的ね。」

 

「負けちったのは悔しいけどよ。」

 

そして片付けをすると、そこに人影が。

 

「あ、ごめんなさい、売り切れちゃって、もう閉店なんです。」

 

「そう、凄い人気だったのね。」

 

それは渚の母だった。

 

「母さん…」

 

 

「はい、最後の山ぶどうジュース。美味しいよ。」

 

「…CATVで紹介されてたわ。あんた達のクラス、凄いわね。

 

この前、ここの校舎で思い知ったわ。私の息子は私とは別人だって。

 

ここで、不良から私をたすけた、その背中を見た時に。

 

卒業するって言ったのも本気だって。」

 

そう渚の母はいった。これからは、渚の生きたいように生きてくれと。

 

「でもさ、せめて成人までは一緒にいてよ。せっかく、あんたの母になれたんだし。

 

もう少し心配させて。」

 

「うん。」

 

どうやら、2人は無事関係を修復したようだ。

 

それを見て、殺せんせーはふと微笑む。

 

「縁か…」

 

(この世で出会った全ての縁が、人を育てる教師になる。君から教わった縁、うまく繋げているでしょうか。)

 

「今日をあなたの、生まれた日にしませんか?」

 

ガラス越しにそう語る女性。殺せんせーに、縁を教えた人なんだろう。

 

 

すると烏間先生がやってきた。

 

「渚君の母親が謝ってきたぞ。学校に火をつけようとしたようだな。」

 

「ええ、過ぎた事です。」

 

殺せんせーはそう返す。気にしてはいないようだ。しかし…

 

「それと…、帰り際に、彼女が俺に囁いたんだが、

 

『俺のヅラの事は黙っておきます』ってどういう事だ?」

 

あの時、殺せんせーは烏間先生を騙りヅラだとカミングアウトした。

 

…余計な事したな殺せんせー。

 

「さ、さあ、何の事でしょう。」

 

すぐさま烏間先生がナイフを振るう。殺せんせーは慌てて逃げ回る。

 

「烏間先生は、あのタコに関わったのが縁の尽きだね〜。」

 

のんきに眺めながら言うカルマ。

 

確かにその通りだ。

 

***

 

そして結果発表が行われる

 

もちろん優勝はA組。E組は3位だった。2位は高等部の3-Aらしい。

 

「やっぱ浅野君は凄いな、高等部を抑えて堂々の1位。」

 

「でもやっぱE組だろ目に付くのは。2日目の途中で店閉めたのに3位。

 

最後までやってたらどうなってたか。」

 

「E組って地獄みたいなところだと思ってたけど、

 

あの山の中で自給自足って、案外良いかもな。」

 

こうして、またE組に対する称賛の声が増え始めた。しかし、理事長がそれを快く思っているはずもなく…

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。