渚、聞いたよ。あんたが髪伸ばしてる理由。
そんな深いわけがあったんだね。それも知らずさ、からかったりしてごめん。」
中村がしおらしく謝る。責任を感じているんだろう、
でも、
「そんな事ないよ。カルマ君や中村さんにいじられる分には気にしてないよ。」
と言って笑って許す渚。
「そう、でもこれからはあんまりからかわないようにするね。」
そう言った中村。だがその言葉は数秒後に否定される。
「おーい、渚ちゃーん!」
この軽薄な声…
「ユウジ君!」
「ああ、南の島で渚に惚れたってガキね。」
ユウジは頬を染めこちらへ走ってくる。
「あの後島の宿泊客調べたんだ、そしたらさ、ホームページに学園祭の事書いてあって、
ここに駆け付けたってわけさ。」
「そうなんだ、ってええ!」
渚が大きく動揺する。それもそのはず、何と中村が渚のズボンを下ろし自分のスカートと履き替えたのだ。
「今回だけ、今回だけ。」
そう言ってニヤリと笑う中村。掌返し早!
「舌の根も乾かぬ内に!」
渚が涙目になる。うーん、本当に可哀想だな。
「あいつ金持ちなんでしょう。上手い事接客して金巻き上げてよ。
行ってこい渚ちゃん!クラスの売り上げは君に託された!」
渚は中村に蹴飛ばされ校舎から出る。さあ、潮田渚(♀)の運命やいかに。
「黒崎君まで!」
…
「学園祭来て良かった!渚ちゃんに接客してもらえるなんて。」
(うーん。)
若干興奮気味のユウジである。それにしても、渚を女だと勘違いした奴は何人もいるが、
渚に惚れた男は初めてだろう。
「ん?」
スケッチブックに書かれた言葉。
「私のオススメ、ぜーんぶ食べて欲しいなあ。」
棒読みで言う渚。
「渚ちゃんの為ならオススメ全部食うよ!」
あの棒読みで興奮するかい。
「やっぱ金持ってるなああのボンボン。渚ちゃん、どんどん稼いで〜!」
「デートで一万払えるか聞いて」
「カルマ君、それもう違う商売!」
(とある事情で、女装した僕に好意を持ってしまったユウジ君。
僕の性別の他にも、この教室には秘密だらけ。ユウジ君には悪いけど、全部隠し通さなきゃ。)
「怪しいハーブはもうやめたよ。渚ちゃん心配してたし。」
「そっか。」
隠し通さなきゃいけないのだが、周りは渚の悩みも知らず状況を狂わせる。
例えばレッドアイ。
「手土産だカラスマさん。」
猟銃片手にキジを持つレッドアイ。
「レッドアイ、死神にやられたと聞いていたが…」
「若いから回復も早くてな。一時は死線を彷徨ったが。」
「銃は隠せ銃は。」
「平気だ、世界各国の狩猟免許持ってるからな。」
そういう問題じゃない。
「おい、銃持ってるぞ、アレ。」
動揺するユウジ。
「じ、地元の猟友会の吉岡さん。」
苦しすぎる。
「吉岡さん!どう見ても外人だろ!」
「帰化したんだ。日本のアニメ好きだから。」
そう苦しげに言う渚。だが上手くごまかせたようで、
「ま、吉岡さんはいいけどよ、正直な話、渚ちゃん、俺の事どう思ってるの?」
そう顔を赤らめて言うユウジ。だけど多分何とも思ってないだろう。
だって渚は一応男だ。
すると…
「あんたもだ。こんな時に気配を消すな。」
茂みから突然現れたロヴロさん。
「うわっ!」
「あのタコから招かれてな。」
「そうか、あんたも生きてて何よりだ。」
それにしても、と前置きしてロヴロさんは語る。
「失礼だが、よく君に死神が倒せたものだ。君1人では奴に敵わないと思っていたからね。」
「…俺1人じゃ倒せなかっただろうな。それと、あんたの弟子が心配してたぞ。行ってやれ。」
「ああ」
そう言ってロヴロさんは去っていった。しかし…
「何なんだあの人、どう見てもパンピーじゃねえ!」
ユウジは動揺する。
「あ、浅草演芸場の重鎮、マイルド柳生。さっきの会話もネタ合わせで…
弟子がここでお笑いやめて教師になって…」
「お笑い芸人!ふーん。」
ユウジは訝しげに渚を見る。
すると、だんだん席が埋まってきた。
「お、客足増えたね。」
「うん、殺せんせーを殺せなかった殺し屋たちで。」
これはある意味すごい光景だ。
「これだけ揃うと圧巻だね。」
「殺せないって分かってるから大人しいね。」
だがしかし、何人かは額に青筋浮かべてシャチホコを睨んでいる。
「ただ…、このままじゃ負けるよ。集客ペースが、A組に追いつかない。
何か起死回生の手が無いと。」
確かに、A組はかなりの客が来ている。E組の比ではない。」
そして…
「銃との絡み合いが最高だぜ!この麺。」
「これなら毒入れても食えそうだな。」
南の島の殺し屋たちだ。
「げ、芸人仲間!浅草の、割と僕達、そういう人達に縁があってさ、」
そしてカルマのわさび入りモンブランを食べ吹き出すおじさんぬ。
「あれもさあ、マイルド柳生直伝のリアクション芸でさ。」
言い訳がどんどん苦しくなっていく。
それに気づいたのかは知らないが、ユウジが口を開く。
「渚ちゃんさあ、嘘ついてるよな、親父が大物芸能人だから、擦り寄ってくる奴らの顔は嫌という程見た。
分かっちゃうんだ。上辺だけの笑顔は。島のホテルの君は、そんな顔してなかったのに。」
それはあれだ。グレていたユウジを本気で心配していたからだろうな。
あとは女装の恥ずかしさ。
そして今嘘ついてるのは当然だ。暗殺とか殺し屋とか言えるはずもない。
「すごい観察眼だね。そう、ごめん嘘ついてた。僕もね、子供の頃からこの見た目は嫌だったんだ。」
「?」
「けど、望まぬ才能でも人の役に立てればいいんだって。そう分かってから、少し楽になった。
ごめんね、僕男だよ。」
男(の娘)じゃないか?
「またまたあ。」
当然ユウジは全く信じていない。その言葉が嘘だと思っている。
「見せればOK!」
とは中村のカンペ。それはアウトだ。
「本当だよ、嘘ついてる顔に見える?」
渚がそう言うと、ユウジは信じられないといった目で渚を見つめ、
「マジかよ。」
と言う。
「欠点、弱点も裏を返せば武器に出来る。この教室で学んだのも、
この出店が売れてるのも、全部それのおかげ。今日ここにいる人たちが集まってるのもね。
心が躍って、すごい楽しいんだ。」
そう言って渚は微笑む。彼は嬉しそうだった。
きっと、自分の経験を伝えられたからだろう。
「あ、でも騙してたわけだし、お代は…」
渚は慌てて謝る。しかし、
「いいよ、なんか自分がバカバカしくなってきた。」
ユウジはそう言って、料金を全額払って帰っていった。
「…悪い事、しちゃったかな。」
渚は知らない。彼がバカバカしいと言った本当の意味を。
「あれー、もう帰っちゃったの?コスプレ撮影会で稼ごうと思ったのに。」
駄目だ、この悪魔は救いようが無い。俺は心からそう思った。
「カルマ君は僕で一体いくら稼ぐつもりなの!」
こいつ渚を金儲けの材料としてみてるんじゃ無いか?
こうして、1日目は終了した。
翌日
「いやあ、本校舎に売り上げ速報出てたけど、このペースじゃA組には敵いそうもないや。」
そう言って三村はため息をつく。
「そこそこ売れてたけどね。」
すると、何故かテレビ局のクルーと思われる人物が、山を急いで駈ける。
「急げ、朝の中継に間に合わせるんだ!」
?
「テレビ局?何だ一体、この先にはうちの店しかっ…てえ!」
そこには行列が出来ていた。皆E組の店に並んでいた人達だ。
そしたら、不破が慌てた様子で、スマホを持ちながら走ってきた。
「大変!今ネットで爆発的に口コミが広がっててさ。
情報元を律に探らせたら、これ。
法田ユウジ。今1番勢いのあるグルメブロガーなんだって。」
「あいつそんな事やってたのか。」
ただのボンボンじゃなかったようだな。
「小さい頃から良いものたくさん食ってきたおかげで、
憎たらしいけど舌の確かさは折り紙付き。
金に任せた食い歩きはすごい信頼性なんだって!」
「ユウジ君…」
渚は驚いていた。あの彼がグルメブロガーだったのもそうだ。
でも1番は、E組の店を取り上げた事だろう。
その記事にはこう書かれていた。
「椚ヶ丘の学園祭で、メチャ美味い出店に出会いました。
人生観が変わりました。不利な立地を生かした自給自足の食材。
欠点や弱点を武器にする。店で働く友達がそう言っていたのを聞いて、
偉大な親の陰に甘やかされ、どこかそれを後ろめたく思っていた、
自分がバカらしくなりました。」
…そう、あの時、バカバカしいとユウジが言ったのは、
何も渚が男だと分かったからではない。自分の事が馬鹿らしくなったのだ。
「親の金だって自分の武器。開き直ってオススメの情報を発信します!」
こうして、学園祭はスパートに入る。
…
そこからは、もう皆必死だった。注文が入る度、取って、作って出して、売って、
知り合いや、ゆかりのある人達。
例えば、進藤だったり、前原の元カノとか、魚のフリした時の多川だったり、
それからビッチが男を集めて食わせまくってたり、
例のモブ2人が来て、後は、俺の妹が来たり、三山が来たりとあったものだが、
「まずいです!どんぐり麺もうすぐ在庫なくなります。」
「予想以上に売れたからな。」
どうしたものか…
「サイドメニューも売れ行き良いよ。残り時間はこれで粘ろう。」
「もっと奥まで行けばまだまだあるよ。」
それぞれの報告を聞いて、殺せんせーは少し考える。
「ふーむ。」
そして殺せんせーはこう結論を出した。
「いや、ここいらで打ち止めにしましょう。」
そう言って手を×にする殺せんせー。
「でもこのままじゃ負けるぜ。」
そう、A組の売り上げにはこのままじゃ勝てそうもない。けれど…
「いいんです。これ以上採ると山の生態系を壊しかねない。
植物も、鳥も、魚も、あらゆる生物の縁が恵みとなる。
この学園祭で分かったでしょう。君達がどれだけの縁に恵まれたか。
お世話になった人。助けられた人。迷惑をかけた、かけられた人。
ライバルとして競い高めあった者達。」
殺せんせーはそう語った。やっぱりどこまでも授業なのか。
「結局今日も授業が目的ね。」
「負けちったのは悔しいけどよ。」
そして片付けをすると、そこに人影が。
「あ、ごめんなさい、売り切れちゃって、もう閉店なんです。」
「そう、凄い人気だったのね。」
それは渚の母だった。
「母さん…」
…
「はい、最後の山ぶどうジュース。美味しいよ。」
「…CATVで紹介されてたわ。あんた達のクラス、凄いわね。
この前、ここの校舎で思い知ったわ。私の息子は私とは別人だって。
ここで、不良から私をたすけた、その背中を見た時に。
卒業するって言ったのも本気だって。」
そう渚の母はいった。これからは、渚の生きたいように生きてくれと。
「でもさ、せめて成人までは一緒にいてよ。せっかく、あんたの母になれたんだし。
もう少し心配させて。」
「うん。」
どうやら、2人は無事関係を修復したようだ。
それを見て、殺せんせーはふと微笑む。
「縁か…」
(この世で出会った全ての縁が、人を育てる教師になる。君から教わった縁、うまく繋げているでしょうか。)
「今日をあなたの、生まれた日にしませんか?」
ガラス越しにそう語る女性。殺せんせーに、縁を教えた人なんだろう。
…
すると烏間先生がやってきた。
「渚君の母親が謝ってきたぞ。学校に火をつけようとしたようだな。」
「ええ、過ぎた事です。」
殺せんせーはそう返す。気にしてはいないようだ。しかし…
「それと…、帰り際に、彼女が俺に囁いたんだが、
『俺のヅラの事は黙っておきます』ってどういう事だ?」
あの時、殺せんせーは烏間先生を騙りヅラだとカミングアウトした。
…余計な事したな殺せんせー。
「さ、さあ、何の事でしょう。」
すぐさま烏間先生がナイフを振るう。殺せんせーは慌てて逃げ回る。
「烏間先生は、あのタコに関わったのが縁の尽きだね〜。」
のんきに眺めながら言うカルマ。
確かにその通りだ。
***
そして結果発表が行われる
もちろん優勝はA組。E組は3位だった。2位は高等部の3-Aらしい。
「やっぱ浅野君は凄いな、高等部を抑えて堂々の1位。」
「でもやっぱE組だろ目に付くのは。2日目の途中で店閉めたのに3位。
最後までやってたらどうなってたか。」
「E組って地獄みたいなところだと思ってたけど、
あの山の中で自給自足って、案外良いかもな。」
こうして、またE組に対する称賛の声が増え始めた。しかし、理事長がそれを快く思っているはずもなく…