69話 完璧の時間
「さて殺せんせー、貴方にお見せしたい物があります。」
理事長が取り出す一枚の紙。それは…
「こ、殺せんせーの解雇通知!」
「とうとう、禁断の伝家の宝刀抜きやがった。」
「そんでこれ面白いほど効くんだよこのタコには。」
殺せんせーは激しく動揺している。
「不当解雇を許すな!リストラ反対!」
超生物がデモに訴えるのはどうなのか?
しかし、
「早合点なさらぬよう、これはあくまで道具に過ぎない。
私は殺せんせー、あなたを暗殺しに来たのです。私の教育に不要になったのでね。」
ついに理事長の暗殺宣言。
一体どんな暗殺なのか…
「本気ですか?」
「確かにあんたは超人的な頭脳持ってるけど、このタコは思いつきで殺れるほどちょろくないよ。」
「そうだな、理事長、貴方はただテストの敗北の腹いせに暗殺しに来ただけじゃないのか?」
すると理事長は、俺らの質問には答えずに、ただ微笑んだ。
「取り壊しは一時中断して下さい。中で仕事を済ませてきます。」
…
俺らは外に出され、教室には殺せんせーと理事長だけが立っていた。
2人を囲むのは五つの机。そこには問題集が置かれていた。
「さて殺せんせー、もしクビが嫌ならば、私とギャンブルをして下さい。」
「ギャンブルとは一体?」
「5教科の問題集と、5つの手榴弾を用意しました。うち一つは本物の手榴弾。
残り4つは対先生物質の手榴弾です。
ピンを抜きレバーが上がると爆発するように作りました。
ピンを外し、レバーが上がらないよう慎重に問題集に挟む。
これを開き、ページ右上の問題を解いてください。
解き終わったら閉じて結構。」
「そんなの、ほぼ確実に爆発を喰らう!」
原が叫ぶ。
「そうです。順番は、貴方が先に4冊開き、残りの1冊を私が解く。
このゲームで、私を殺すかギブアップさせられたら、あなたの勝ちです。
この校舎とE組を存続し、貴方の解雇を撤回します。
そうだね、では寺坂君。殺せんせーが勝つ確率を計算しなさい。」
そう言われ寺坂は計算を始める。
「タコが勝つには最後まで本物の手榴弾を残さなきゃいけねえ。
本物の手榴弾は1個しか無くて、それを5個のうち最後まで残さなきゃいけないから、
5分の1だ。」
「正解。」
「しかもてめーはいざとなったらギブアップで無傷。タコは4回も爆弾を受けなきゃいけない。
どう考えてもテメーに有利な賭けだろうが。」
寺坂が不平を言う。それに対して、
「そうだね寺坂君。だけれど、社会に出たらこんな理不尽の連続だよ。
弱者と強者の間ならなおさらね。だから君達に教えてきた。強者になれと。
さあ、やりますか殺せんせー。」
そう言って殺せんせーの肩に手を置く理事長。
「これは貴方の教職に対する本気度を示す試験でもあります。」
殺せんせーは絞り出すような声でこう答えた。
「…やります。」
クビをちらつかせ、絶対有利な賭けを申し込む。強者という立場こそ最高の刃!
これが理事長の暗殺!
そして賭けは始まる。
まずは数学の問題の前に立つ殺せんせー。
その異様な雰囲気に心臓が高鳴る。
そして、殺せんせーがいざ問題を開けた。
(平面図形計算!えーとあれですよ、円周角の大きさが…)
テンパって慌てる殺せんせー。そして容赦無く爆弾は爆発し、
殺せんせーを直撃する。
(知恵の輪でテンパった時の反応速度は計算済み。この勝負、私の勝ちだ。)
「まずは1ヒット。さあ、あと3回耐えれば貴方の勝ちです。さ、回復する前に解いて下さい。」
そう宣言する理事長。
対して殺せんせーはボロボロに負傷していた。
「…マジかよ。あと3回耐えられるダメージじゃねえ。」
村松が呟く。その通り、殺せんせーは耐えられそうになかった。
「弱者と違い、強者は好きな時に好きなやり方で殺せる。賞金があれば、
全国に我が系列校を創れる。そこでこのシステムをばらまく。私の教育の理想形です。
さあ殺せんせー、私の教育の礎になって下さい。」
殺せんせーは震える触手で次の問題集を開く。
すると…
問題集は爆発せず閉じられ、答えの紙が表紙に貼ってあった。
「はい、開いて解いて閉じました。
この問題集シリーズ、どのページにどの問題があるか記憶しています。
数学は暗記じゃないので答えまでは覚えてませんでしたが…」
驚いた顔の理事長。
「何故…?私がたまたま持ってきた問題集なのに。」
「当然です。日本全国、ありとあらゆる問題集を拝見しました。
教師になるんだから当然です。こんなルール、情熱のある教師なら誰でもクリアできます。
貴方なら分かると思ったんですがねえ。」
残りの2つも一瞬で解いて閉じる殺せんせー。
「さあ、貴方の番です。どうです?目の前に自分の死がある気分は。」
理事長の前には手榴弾入りの問題集。
「人は死の直前に走馬灯が見えると言います。完璧だった貴方の脳裏には、何が浮かんでいるのでしょう…」
理事長が思い浮かべた過去とは…
何故、彼は歪んだ教育論を持ってしまったのか。
***
2人の怪物が、同じ学び舎で教鞭を執った。
1人は強さを悔いたから。もう1人は、弱さを悔いたから。
…
そこは旧校舎の教室。そこにはいつも私と3人の生徒がいた。
生徒の1人が言う。
「相変わらず化物だよな、浅野先生。でもどうして、こんな山奥の廃校借りて塾開いたの?」
「確かに、海外の一流大学で資格取ってるんでしょ?」
「才能の無駄遣いな気がします。」
すると理事長はこう答えた。
「世の中に無駄なんて無いんだよ永井君。君の運動不足を解消するにはこの裏山はうってつけだ。」
「…お金は?」
「株式投資で補填しているから大丈夫。」
それを聞き、1人が呟く。
「先生って完璧だけど教師バカだよなー。そこまでして俺らをどう育てたいんだよ。」
「簡単だよ。良い生徒に育ってくれれば良い。
永井君は真面目が良い、森さんは要領が良い。池田君は元気が良い。
皆の良いを伸ばすには、先生が全ての良いを熟知している必要がある。
だから完璧になっただけだよ。」
私塾の滑り出しは良好だった。最初の1期生は3人だけ。
雑音のない山奥で、個人の長所を最大限伸ばす。私の教育の理想形だ。
池田と呼ばれた少年がバスケットボールで遊ぶ。
すると永井にボールが当たってしまう。
「いったー。」
「おいおい、声掛けたんだから避けろよ。」
「全く、塾終わったらすぐこれだ。乱暴者。」
「へん、良いだろ、俺の夢はバスケの選手になる事だ。
勉強ばっかしてる奴の気が知れねえ。」
そう得意げに話す池田。しかし…
「良い夢だね。じゃあ私と1対1で勝負しよう。」
そう言ってボールを取り、すぐさまシュートを決める。
「…勝てるわけ無いじゃん完璧超人に。」
「そうだねえ、確かに、君が持ってない才能の多くを私が持っている。
同じように、君の才能を誰もが持っている訳じゃ無いんだよ。」
「う…、分かったよ。ごめんな永井当てちゃって。」
誰しも欠点はある。だからそれをケアする教育が必要だった。
将来社会で長所を発揮出来るよう。
私は全力で教育に当たった。
思いやりを持ち、相手の長所を理解できる。そんな生徒を育てるため。
あっという間の1年間、生徒たちも良くついてきてくれた。
そして卒業の日。
「…これは?」
私は3人からネクタイピンを受け取った、
「クヌギの葉っぱのネクタイピン。」
「みんなでお金出して買ったんだ。」
「株式投資の金からすればはした金だろうけど。」
「…本当に嬉しいよ。」
理事長は笑みを浮かべる。
「皆志望の中学入れた。浅野先生のお陰だよ。」
「大人になったら、良いやつになって帰ってくるよ。」
すでに十分だ。本当に良い生徒に育ってくれた。
…
私の実績を見て、子を預ける親も増え、3年経つ頃には塾は大盛況だった。
そしてある休憩時間。
私の元に電話が来た。
「お!池田君か、久しぶりだね。」
「…浅野先生、久しぶり。絶好調らしいじゃん。」
「多少ね。どうした急に?」
「元気にしてるかと思ってさ。」
「私は元気だよ、この通りだ。」
「そっか、忙しそうだし今日はここで切るわ。じゃあな、先生。」
「ああ。」
来週仕事で彼の家の近くを通る。その時にでも寄っていくか。
しかし、私が彼の家に行くと、そこでは葬儀が行われていた。
飾ってあるのは彼の遺影。焼香をしていると話し声が聞こえた。
「部活の先輩にタチ悪いのがいたらしくて、暴力は勿論お金も取られてたみたい。」
「中学の時から優しい子だと評判だったけど、少しくらい抵抗しても良かったのに。」
普通なら、教え子がいじめで自殺した。大いに悲しむだろうがそれだけだ。
だが私は違った。
(私は何を教えてきた?3年で死ぬのが良い生徒だっただと?)
強くなければ意味が無い。まずは私自身の強さを求めた。
教え子を自殺に追い込んだ男は言葉巧みにギャンブル中毒の廃人にした。
洗脳のスキルはそこで高めた。
新たに学校を開き、そして私の弱さの象徴は、弱者への見せしめの場所とした。
強く、いざとなったら他人を踏み台にしても生き残れる強者を育てようと。
そして舞い込んだ暗殺依頼。
好都合だ、教育に使えれば何でも利用する。
…そして現在、強者も弱者も私の元を去り、目の前には死だけが残った。