ソードアート・オンライン ~IF 黒の剣士と絶剣~ 作:舞翼
では、投稿です
本編をどうぞ。
俺は弾かれたように勢いよく顔を上げた。
ベットの上で眠る木綿季を見るが、先程と何も変わっていない。 しかし、側面に設けられたインジケータの一つが、不規則に点滅しているのに気づいた。
其処には小さな文字で、【User Talking】という一文が浮かんでいる。
「……ゆ、木綿季か?」
『うん。 レンズ越しだけど、見えてるよ。 凄い……キリトって向こうと、ホントそっくりなんだね。 ありがと……来てくれて』
「見つけるの大変だったんだぞ。 まあ、根性で如何にかなったが。 お前にも会いたかったしな」
『ふふ、キリトって、ホントに天然シゴロなのかもね。 そんな事、サラって言えちゃうなんて』
「は、はあ」
はて、そんな事とはどんな事だろうか?
倉橋医師は苦笑するだけだ。 え、何で?
『先生、キリトに隣の部屋を使わせてあげてください』
疑問符を浮かべながら振り向くと、倉橋医師は穏やかな笑みを浮かべていた。
「いいでしょう。――あのドアの奥に、私がいつも面談に使っているフルダイブ用シートとアミュスフィアがあります。 時間は、二十分程にしておいてください。 色々手続きを省略してるもので」
「あ……ありがとうございます」
すると、再び木綿季の声が届く。
『ログインしたら、ボクたちが初めて会った場所に来て』
「おう、了解」
俺は倉橋医師に一礼してから、身を翻し、奥の部屋に入った。
其処は、モニタールームの半分程の部屋だった。 黒いリクライングシートが二つ並んで据えられ、双方のヘッドレスト部分にアミュスフィアが掛けられていた。
シートに体を横たえ、アミュスフィアを取り上げると頭に装着する。
電源を入れると、電子音と共に、俺の意識は現実世界から切り離された。
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第22層ログハウスのベットの上で
翅を鳴らして空を滑り、床に足を着けずに窓から飛び出す。 最速で翅を羽ばたかせ、雲を切り裂くように第24層まで到達。
外周部からアインクラッド内部に入り、都市の北にある小島を目指す。 朝靄が流れる湖に影を落としながら、全速で飛行する。
向かう先の大きな樹のシルエットが姿を現し、あの木の根元で《絶剣》が俺の事を待っている。
徐々に速度を落としながら、樹を回り込むように着陸態勢に入った。
地面に降り立つと周囲を見渡した。 ユウキは俺に背を向けて、長い濃紺の髪と、矢車草の色のロングスカートを風に揺らしていた。
ユウキは振り向き、アメジストの瞳で俺を真っ直ぐ見詰めた。
「――不思議だね。 キリトが現実世界でボクを見つけてくれる予感がしてたんだよ」
「いや、シウネーから『病院』のヒントを貰ったんだ。 まったく、探すの苦労したんだからな」
「そっか、シウネーが。 あとでお礼しとかなくちゃ。 でも『病院』だけで、ここを当てるなんて普通じゃできないよ」
「っておい、俺は普通じゃないのかい!」
「ふふ、冗談だよ。 やっぱり楽しいな。 キリトと話すのは」
いつのように言葉のキャッチボールを交わす、俺とユウキ。
だが、ユウキ今にも消えてしまうそうな儚いものであり、何処か透明感を増してるようにも思えた。
ユウキは一歩、また一歩と歩み寄る。
俺の目の前に立ったユウキは、ニッコリと微笑んだ。
「改めて、久しぶりだね。 キリト」
「おう、久しぶり」
樹の根元に、俺は胡坐で座り、ユウキは体育座りで腰を下ろした。
「倉橋先生に聞いたよ。 ユウキのこと。……お姉さんのことも」
「うん。 姉ちゃんはね、初代スリーピング・ナイツのリーダーだったんだよ。 ボクなんかより、ずっと、ずーっと、強かったんだ」
誇らしげに姉のことを語るユウキ。
「ほう。 是非とも手合わせをしたかったものだ」
「キリトはボコボコにやられてたね。 うん、絶対」
「で、ですよね~っ」
がっくりと項垂れる俺。
「スリーピング・ナイツのメンバーは、最初は九人いたんだ。 でも、姉ちゃんを入れて三人いなくなっちゃた……。 だからね、シウネーと話し合って決めたんだ。 次の一人の時には、ギルドを解散しよう、って。 その前に、みんなで最高の思い出を作ろうって……。 姉ちゃんたちに胸を張ってお土産にできるような、すごい冒険をしようって」
ユウキたちが最初に出会ったのはセリーンガーデンと言う、医療系ネットワークの中にあるヴァーチャル・ホスピスらしい。
病気は違っても、大きな意味では同じ境遇の人同士、VR世界で話し合ったり、遊んだりという最期の時を豊かに過ごそう。という目的で運営されてるサーバーの事だ。
「ごめんね。 本当のことを言えなくて、スリーピング・ナイツが解散する理由は、みんなが忙しくなってゲームを引退するからじゃないんだ。 長くても後三ヶ月、って告知されてるメンバーがいるからなんだよ。 だから……だからボクたちは、最高の思い出が作りたかった。 剣士の碑に、ボクたちがここにいたよ、っていう証を残したかった」
俺は、彼女の言葉を一言一句聞き逃さないように耳を傾け続けた。
「でも、なかなか上手くいかなくて……一人だけ、手伝ってくれる人を探そう、って相談したんだ。 反対意見もあったよ。 もしボクたちのことを知られたら、その人に迷惑をかけちゃう、嫌な思いをさせちゃうからって。……その通りになっちゃったね。 ごめんね……ごめんね。……今からでも、ボクたちの事は忘れて……」
俺は重い口を開く。
「いや、お前の事は一生忘れないし、迷惑だとも思ってないぞ。 お前たちと一緒に居た期間は短いかもしれないけど、俺は楽しかったぞ。 共に笑い、共に戦い、この世界に思い出を残す、って。 俺はスリーピング・ナイツに出会えて本当に良かったと思ってる。 友達にもなれたしな。……だから、そんな悲しい事言うな」
俺の言葉を聞いて、ユウキは瞳から涙を零していた。
それは、頬を伝って一筋の光に変わる。
「ボク……この世界に来れて、キリトに出会えて本当によかった。……今の言葉でじゅうぶん、じゅんぶんだよ。 これでもう……何もかも……満足だよ……」
俺はユウキの頭をぐりぐりと撫でる。
「まったく、お前はこんなに諦め安い性格だったのか? 違うだろ、まだやってないことが山ほどあるはずだ。 アルヴヘイムにも冒険してない場所がたくさんあるはずだし、VRワールドだって無限にあるんだぞ。――さて、何でも言ってみ。 やりたいこと、行きたい場所。 俺が出来る範囲なら、何でも叶えてやるぞ。……あ、お前が言う、えっちいことは禁止な」
ぷっ、と噴き出すユウキ。
え、何で。 俺、おかしな事言ったの? あれー、カッコいい事言ったと思うんだが。
「キリトは、悲しい事を吹き飛ばしちゃうんだね。 凄いよ」
ユウキは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「そうだね。……ボクね、学校に行ってみたいな」
「ふむ。 学校か。……――可能だな」
そう、《視聴覚双方向通信プローブ》を使えば可能なのだ。
「ほ、ホントッ!? うわっー、楽しみだなー」
「ふっ、俺にかかれば不可能はないのさ」
「……キリト、カッコつけすぎだよ。 ナルシスト見たい」
「うぅ、そこは突っ込まないで欲しかったな……」
この後、俺たちは吹き出し笑いをしてしまった。
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ユウキと話したあと、俺は第22層ログハウスでログアウトした。
ログアウトし、現実に帰還した俺は、一連の流れを倉橋医師に相談した。
「と、言う事なんです。 先生の力もお貸し頂けると嬉しいんですが」
「僕もその案に賛成ですね。 僕も後で、学校に連絡しておいた方がいいかもしれませんね。 それにしても、木綿季くんからのお別れをこのような形にしてしまうとは……。 桐ケ谷君は凄いですね」
「いえいえ、俺には大そうな力はありませんよ。 ただ、友人の為に出来る事をするだけです」
「本当にありがとうございます。 桐ケ谷君」
頭を下げる倉橋医師。
「あ、頭を上げてください。 これからなんですから」
「そうでしたね」
笑みを浮かべる倉橋医師。
俺は倉橋医師に送られて、病院を後にした。
帰ったら、やらなければならない事が山ほどある。 さて、気合を入れて行こう。
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翌日の一月十二日。 第二校舎三階北口。
昼休みの電算機室にある椅子に俺は座っていた。 また、俺の右肩には、細いハーネスで固定された、直径七センチ程のドーム型の機械が載っている。
基部はアルミの削り材、ドーム部分は透明なアクリル製で、その内部にレンズ機構が見て取れる物だ。 基部ソケットからは二本のケーブルが伸び、一本は俺のポケットに収められた携帯端末に、もう一本は鎮座されたデスクトップPCへと接続されている。
PCの前では、俺と同じくメカトロニクスを受講してる生徒が集まっている。
「パラメータにも少し遊びを作ってくれよ」
「でもよ、カズ。 それじゃあ、急な挙動があった時にラグるんじゃねぇか?」
「うーむ。 確かに」
「その辺は、最適化プログラムの学習に期待するしかねぇよ」
「何か、議論だけで昼休みが終わりそうだな……。 初期設定は、最初の奴でいいんじゃないか」
「まあ確かに。 取り敢えず、これでOKにしとくか」
「んじゃ、レンズ周りの初期化を頼んだ。 木綿季も、視界がクリアになったら声を出せよ」
『はーい、了解です』
そう、これが通称《視聴覚双方向通信プローブ》だ。 俺たちが、今年度試行錯誤してるテーマでもある。
簡単に言えば、アミュスフィアとネットワークを通して、現実世界の遠隔地と視覚、聴覚のやり取りをするプログラムでもある。
プローブ内部のレンズとマイクに収集されたデータは、携帯端末を介してネットワークに送信され、横浜港北総合病院のメディキュボイドを経由して、専用の仮想空間にフルダイブしている木綿季に届く仕組みである。
レンズはドーム内を自由に回転し、木綿季視点の動きと同期して映像を得る事が出来る。 木綿季は今、自身の体が十分の一ほどになり、俺の右肩に座っている感じである。
レンズがフォーカスを調整するモーター音が響き、木綿季の『そこ!』と言う声と同時に止まった。
「さて、俺は先生に事情を説明に行くから、後は頼んでもいいか?」
「OKOK。 また授業でな」
「つ、疲れたぜ」
「お前は、爺か」
とまあ、このように、俺と木綿季は電子機器室を後にした。
「さて、まずは職員室か。 先生に事情を説明しないとな」
俺が言うと、すぐにスピーカーから木綿季の声が届いた。
『げっ、職員室』
「ふむ。 木綿季は、職員室は苦手と見た」
『……まあそうなんだけど、うん。 頑張るっ!』
それから職員室まで向かう間、ユウキは何かを見つけるたびに小さな歓声を上げていた。
その様子を見て、俺は笑みを浮かべる。
木綿季には、俺が《SAO生還者》であることは伝えてある。 この学校が、生還した学生たちが通う学校であることも。
其れでも木綿季は、『そうだったんだ。 ボクと同じで、キリトも大変だったんだね……。』の一言で一蹴してしまった。 【職員室】プレート前に来た時、木綿季が静まり返ってしまった。
「到着だな」
『……うぅ、やっぱり緊張する』
「問題ない。 この学校は、変わった先生が多いからな」
『も、もう、先生に聞かれた怒られちゃうよ』
そう言いながら、俺は勢いよくドアを開けた。
ちなみに、この学校ではVRネームはご法度なので、現実名前で。と言う事になっている。
「失礼します」
『失礼しまぁす』
俺は大きめに、木綿季は小さめに挨拶をすると職員室に入っていく。
俺が職員室に入ると、この後の授業を受け持つ先生が俺の前に立った。
「と、言う訳なんです。 OKですか?」
「私は構わないわ」
「ええ、私もです。 倉橋先生からも大まかな事情は聞いています」
流石、倉橋医師。 手回し早いです。
「君、名前をなんと言ったかね?」
『は、はい。 ユウキ……紺野木綿季です!』
現代国語を担当する60代後半の白髪白髯の先生が訊ねて、プローブから返答があると少し驚いてから表情を綻ばせた。
「紺野さん。 君が良かったら、これからも授業を受けに来たまえ、今日から芥川の《トロッコ》をやるんでね。 あれは最後まで行かんとつまらんから」
『は……はい、ありがとうございます』
礼をして職員室を出ると、早足に教室に向かった。
自身の席に座った途端、質問攻めにあったが、木綿季は入院中であることを説明し、実際に木綿季が喋ると仕組みを理解して、次々に自己紹介を始めた。
「なるほどね、事情は分かったわ。 あたしは篠崎里香よ。 よろしく」
「わたしは結城明日奈。 よろしくね」
『うん、よろしく!』
各自が着席し、日直の号令を終え授業が開始された。
「それでは、今日から教科書九十ページ、芥川龍之介の《トロッコ》をやります。 これは、芥川が三十歳の頃の作品で――」
俺はタブレット型端末を持ち上げ、テキストの該当箇所を表示させ、木綿季に見えるようにする。
てか、《トロッコ》の授業は眠くなる……。
だが、次の先生の言葉で素っ頓狂な声を上げる事になる。
「では、最初から読んでみましょう。――紺野木綿季さん。 お願いできるかな?」
「は!?」
『は、はい!?』
この声に、教室が一瞬ざわつく。
明日奈と里香は苦笑するだけだ。
「無理かね?」
木綿季が大きな声を上げた。
『よ、読めます!』
俺は立ち上がり、両手でタブレッド端末をレンズの前にかざした。
「お前……読めるか?」
『むっ、これでもボク、読書家なんだよ』
「ほほう。 お手並み拝見といきましょうか」
木綿季は一息吐いてから、テキストを朗読し始めた。
『……小田原熱帯間に――』
木綿季は名分を読み続け、先生、生徒たちも止めようとしなかった。
教室内は静まり返り、生徒全員が、木綿季の凛とした声に耳を傾けているようだった。 そのまま授業を受けてから、学校案内をして、学校見学は終了した――。
MR編も中盤に差し掛かってきましたね。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!