「なあ親父」
場所はとある喫茶店。夏休みの初日、わたしは父親にそう呼びかけてみる。
「なんだ梓?」
「そろそろ客が来てもいいんじゃないかなって思うんだけど……」
朝食をとりに来た客達はとっくに店からご退出願った。食器の片付けも終わったし、昼の分の準備も済ませている。他にやらなければいけないことといえば宿題ぐらいのものだが、あんなものは夏休みが始まる前にすべて終わらせた。
要するに暇である。
「まあそのうち来るだろ。そう焦るな。それまで自由にしてていいぞ」
仕方が無いもうしばらく待つか……
「りょうかーい。つっても今までも自由みたいなものだったけどな」
暗に客が全くいないことを告げたつもりだったのだが聞いていないようだ。
何かすることはないかと、周りを見ると本棚が目に入る。読みかけの本があるのを思い出し立ち上がったその時。カランカランと扉の鈴の音が鳴り響いた。
「こんにちはー!!ここ桐谷の店であってますかー!?」
んー。確かこの辺にあったはずなんだけどなー?あれ?ここじゃなかったっけ?
「あれあれ桐谷さん、無視とはいい度胸してますね!お父さんも何か言ってやってください!」
親父は何事も無かったかのように掃除をしていた。流石親父、最高にノリがいい。
「あれ?桐谷だけでなくお父さんも無視!?なんだよもう!親子の仲は良好!何も言わなくても心は通じ合う、まさに以心伝心?二人の絆はダイヤモンドより固く結ばれてるってことなのかな!?」
あったあった。なんだか少し騒がしい気がするがきっと気のせいだろう。さてと座って読むか。本が見つかってよかったー!
「ちょっと!そろそろ何か言ってよ!私泣いちゃうよ!」
「あれ?いつからいたの?」
「いたよ!桐谷が立ち上がった頃からいたよ!」
「なんだよ。それなら声かければよかったのに」
ほんとは知ってたけどね。
「堂々とドア開けて挨拶したのに……」
「まあ気づいてたけどね」
「なら返事してよっ!?」
「わるいわるい。親父ももういいぜ」
親父は怯えた顔をしてこう言った。
「知らない女の子が店の中に!?」
本当に気づいてない………だと……?
「あー。紹介するよ。新しいクラスメイトの佐倉楓ちゃん。会うのは初めてだね」
「「え?」」
はもりうぜぇ。
「友達じゃないの!?」
楓ちゃんが言った。
「そんなに仲良かったっけ?」
ていうかそんなに怒らなくてもいいじゃん。びっくりしたよ、びっくりしすぎてむしろびっくりしてないよ。
「仲いいよ!ラブラブだよ!」
「それはない」
即答した。
そして親父は桜か楓かどっちかにしろよ、と一人で笑っていた。
桜じゃないよ、佐倉だよ。というか私の名前も桐と梓入ってるんだけど。人のこと言えませんね親父。
「まあいいや。よくないけどまあいいや。そんなことより」
と前置きしてこちらをじっと見る楓ちゃん。そんなに見つめられると照れるな(真顔)
「今の季節は夏だよ!夏といえば何かな!?はい!お父さん!」
「不純異性交遊!」
「娘とそのクラ……友達にセクハラしてんじゃねえよ!」
親父のテンションが上がってるみたいだ。珍しいこともあるもんだ。
「今言い間違えたよねクラスメイトって言いそうだったよね?」
はぁ、とため息をつく楓ちゃん。
「お疲れのようだね。コーヒーは飲むかい?少し時間がかかるけど」
「誰のせいだと思ってるんですか、誰の……。砂糖多めでお願いしますー」
了解した、と親父はカウンターへ戻る。何故かこちらにウインクをしてきたのでウインクし返す。何かやる気だな?ま、それは後でいいや。
「それで?夏がどうしたの?」
逸れていた話を元に戻す。
「ああそうそう。で?夏といえば?」
なんでもいいから早く言えと言ってるのだろう。うんちょっと投槍じゃないですかね。
「暑い?」
「そう!夏といえば海!プール!水着!の季節だよね!」
言ってねえよ。
「それが何?」
「でね〜私秘密兵器を持ってきたんだよ!」
はいはい秘密兵器ね。かっこいいかっこいい。ん?
「はぁ?秘密兵器?うちの店と戦争でもしようっていうの?いい度胸じゃないか。返り討ちにしてあげる」
その言葉にわざと青ざめる楓ちゃん。わざとですねわかります。
「そ・れ・は、もみじーが来たら教えてあーげる!」
語尾に♡が付きそうな勢いで言われました。まったく。あざとい笑顔はいらないよ。
ちなみに紅葉ちゃんとは新しくできた友達のことである。クラスメイトじゃない。もう一度言おう、友達である!
とても可愛いので思わず告白しそうになっちゃう。
「コーヒーどうぞ楓ちゃん」
「ありがとうございます!って苦っ!これ絶対砂糖入ってない!」
キッと親父を睨みつける楓ちゃん。
「気付かなったんだよ、ごめんね」
ははは、とにやにやしながら気持ち悪く笑う親父。さっきのウインクはこれだったのか……。なんてしょぼい。
「まあいいです……。砂糖ください」
「はい、砂糖だよ」
まさかそれ塩じゃないだろうなと思ったが見たら普通に砂糖だった。
それそれが自由に過ごし少ししてからである。
カランカラン。再び扉の鈴の音が鳴り響いた。
第二話からはもう少し落ち着きます。