今回は切りどころを見失い、いつもより少し長めになりました。
でわでわ、どうぞ!
朝起きると昨日プールに行ったせいか、体中が筋肉痛で悲鳴をあげていた。普段運動してなかったら筋肉痛になるのも仕方がない。
もちろん運動部系の部活動に参加はしておらず、文芸部なるものに所属している。部員は四、五人しかいないので真面目に活動に取り組んではいない。一週間のうち学校がある月曜日から金曜日に一度、部長が、「明日やるんでよろしく〜」と通告があった場合に活動する程度だ。今は夏休みなのでSNSを用いて連絡する。急な招集であるので、たまに来れない人もいる。
楓はテニス部に所属している。ほとんど毎日活動しているが、夏休みだろうがそうでなかろうが日曜日は休みだそうだ。
紅葉ちゃんは部活動には参加していないが、趣味程度にピアノ教室に通っている。月曜日と水曜日に通っている。有名な曲なら一通り弾けるそうだ。
そういうわけで楓は昨日プールに行ったことなんてなんて事無いようで今日も元気にテニスラケットを振っている。
紅葉ちゃんといえば、あたしの目の前で転がっている。
「暇だねー」
あたしの部屋は家の二階にある。ドアに入り右奥にベッド、その隣に勉強机があり、その上の方にアナログな時計が掛かっている。部屋の真ん中に丸いテーブルが置いてある。後は本棚やクローゼットなどが空いてるスペースに置いてある。それに突っ伏している紅葉ちゃんは気だるげな様子で言った。気だるげというよりもむしろ眠たそうな様子だ。持ってきた宿題である数学のプリント数枚は邪魔だったようで床に散らばっている。
「今来たばっかだろ。部屋に入ってからもまだ十分も経ってない」
ビシッと勉強机の上の方にあるアナログな時計を指すと現在時刻が二時半である事を示している。紅葉ちゃんが突然来たのはついさっきのことだ。
「てゆーか、眠いんだったらここに来るよりも自分家で寝てた方が良かったんじゃねーの?」
「梓ちゃんに会いたかったんだよー。楓ちゃんはテニスに行ってるしー」
くそう。適当に言われているはずなのにめちゃくちゃうれしいじゃないか……。なんか腹立つ。よし、ここはあたしの失った尊厳を取り戻すため反撃しようじゃないか。(失っていない)
「まあ……紅葉ちゃんがいいなら、いいけどさ……」
弱い、自分の意思弱いよ!照れてる場合じゃない!あっほら、紅葉ちゃんニヤニヤしてる。ゆるほわニヤニヤしてる。紅葉ちゃん可愛いけどその顔はやめて。恥ずかしい。
「梓ちゃんチョロイよ?男の人に騙されないといいんだけど」
「そんなことないよ。そこまで重症じゃないから。多分」
「自信ないんだ……」
呆れ顔で紅葉ちゃんは言った。昨日店に来たばかりの時の奥ゆかしさはどこに行ったんだよ。前から知ってたけど責めすぎてもはや別人とは思えない。
「いいだろ別に」
「うーんでも、チョロイのは良くないよ?」
「分かったよそこは治すようにするよ」
「それならいいよ。あ、トイレー、貸してね」
「はいよ」
扉を開いて出ていったことを確認すると、散らばっているプリントを拾い集める。本人の前で集めるのは少し恥ずかしいためいない間に済ます。
集め終わり手持ち無沙汰になり、楓にメールでも送ろっかなーと考えてる時に紅葉ちゃんは帰ってきた。
「あ、ごめんね。プリント集めてくれたんだ」
先程と同じ場所に座りながら感謝の言葉を述べた。
「いーよ。でも謝るより感謝してくれた方が嬉しいな」
「あ、ほんとだ。ありがとー」
ほんとだってなんだよ。
「そうだ。楓に部活終わったら家来る?ってメールしようと思うんだけど紅葉ちゃんいつまでここにいる?」
紅葉ちゃんは少し悩んで、
「今日は何も予定はないし七時ぐらいまではいようかな」
「わかった。じゃあ楓にメールしておくね」
テニス部の活動が終わったら家に来てもいいんだからね!っと。送信完了のメッセージを確認して携帯を閉じた。
紅葉ちゃんは呟いた。
「暇だねー」
「またそれか」
「だってね?やることないんだよー。なんかやろーよー」
「宿題やりなよ、わざわざ持ってきたんだし。わからないんだったら教えようか?」
今は宿題のやる気はないだろうに、紅葉ちゃんは少し考えて、というか考えているフリをして、
「それも良いけどね、せっかく友達といるんだから何かしたいなって、ね?」
「そうは言ってもなあ。あたしゲームとか何も持ってないぞ?一人でいる時は大体本読んでるし。あ、なら好きな小説について語り合う?」
「それは文芸部の人達とすればいいと思うの。語り合うなら、そうだなあ。楓ちゃんについてとか?」
「なんだそれ!楓の生態とか癖とかか?」
「いやいや楓ちゃんの可愛いところだよー」
そんなほわほわーっと言われてもなあ。それはそうと、生態って言い方はどうかと思うよ。なんて事も聞こえた気がするがそこはスルーして、何故あたしがそんな恥ずかしい事を話題にして盛り上がらなきゃいかんのだ。わけわからん。しかし、そういう話が好きな紅葉ちゃんが言い出すと結局言わされる事になるのだ。はーやれやれ。それならばあたしが言うべきことは決まっている。
「じゃあ、紅葉ちゃんからどうぞ」
はい、と手を出すと紅葉ちゃんはあたしが素直に了解したことが予想外だったのか戸惑った様子だった。ちょっと可愛いな、なんて思った。
「う、うん。えーとね楓ちゃんの可愛い所はね、わかりやすいので言えば顔かなー。なんて」
「ビックリした。紅葉ちゃん面食いなの?」
いや本当にびっくり。人は見かけによらないものだねえ。面食いだけに。やばい、何考えてんだろ。
「いやーそういうわけじゃないけどね?今は梓ちゃんが楓ちゃんのどこを可愛いと思ってるか知りたいわけじゃん?」
「そうなの?語り合うんじゃなくて?」
確かそうだったよな。いつの間にあたしが恥ずかしい思いをすることになってるんだ。語り合うのも恥ずかしいけど。
「だからね。梓ちゃんに本当に思ってることを言ってもらうためにわかりやすい所を言ったの」
あーなるほどね。それなら一応納得できるな。
「わかったよ。紅葉ちゃんは面食いじゃない。まあそれ置いといて、次はあたしの番だろ?」
「三つぐらい言ってね。外見の事だけじゃ駄目だよ?それではどうぞ」
待ってましたーと囃し立てるのはどうかやめて頂きたい。
「そーだなあ。髪が綺麗な事かな。明るくて元気な性格で黒髪ロングってあたし的には好きだなあ」
「可愛いとはちょっと違う気がするけど、まあいいや」
それからそれから、と続きを促す紅葉ちゃん。そんなに興味津々になることないと思うんだけど……。
「怖がりで涙脆いところ。ホラー映画とか観たらすぐ泣いちゃう。可愛いよな」
「わかる!抱きつくのは恥ずかしいから手を繋いでくるのも可愛いよね!」
「そーなんだよな。後は、そうだなあたし達のことが大好きな所、とか?」
少しいい事言ったーという気分になっていると、やはりというか大体想像ついてたけど顔に出てたみたいだ。
「わーすごいドヤ顔だねえー。梓ちゃんのそーゆーとこ私好きだよー」
えへへーと照れ笑いを浮かべていることから嫌味ではなく本心からそう思っていることがわかる。
「照れるぐらいなら言わなくていいだろ」
「梓ちゃん冷たいよー。でも照れ隠しなのバレバレだよ?顔赤いよー?」
これはいかんぞ。こんな調子じゃ体温が上がってしまう。タダでさえ真夏日で暑いというのに!クーラーが頑張ってるおかげで暑くないけど。でも雰囲気が暑いし。
「あ、そうだアイス食べない?」
「食べたいー」
そう、夏ならば、例えクーラーが点いていようともアイスが食べたくなるものだ。
「何がいい?だいたい何でもあると思うけど」
「じゃあーブラックサンダーのアイスでー!」
「わかった。待ってて」
階段を降りいる時はふと思った。冷蔵庫にアイスあったっけ?
いやいや昨日プールから帰った時にリンゴのアイスキャンデー食べたけど、多分まだあったし何かはあるはず。
分からないことを考えても仕方ない。目の前にある冷蔵庫の中を直接見た方が早いに決まっている。
そういうわけで、いざ、
「勝負!」
冷蔵庫のドアを開いてまずは、昨日右側にあったアイスキャンデーの箱を確認。ない。親父食いやがったな。
右から左へ見てみるとある物は冷凍食品やパックに詰められたご飯やらしかない。
アイスないじゃん。ブラックサンダーのアイスどころかガリガリ君すらないじゃん……。
家には家で使う冷蔵庫と店で使う冷蔵庫があるが、店の冷蔵庫にアイスがあるとは考えにくい。どうしようか、アイスの代わりに飲み物でも持っていこうかな。
「どうかした?梓ちゃん」
それか今からコンビニへダッシュかなあ、と考えているうちに戻るのが遅かったのか、紅葉ちゃんが様子を見に来ていた。
「ごめん紅葉ちゃん。アイス一つも無かった」
「なかったら買いに行こうよ。コンビニまで十分もないよ?」
飲み物でもいいか聞こうとすると先に言われてしまった。ブラックサンダーのアイスがよっぽど食べたいんだろう。
「あ、いや勿論一緒にね?」
「なんで?……あー、当たり前だろ」
一瞬何を言いたかったのかわからなかった。あたしは買いに行くなら当然二人で行くものと思っている。紅葉ちゃんもきっとそう思っているだろう。しかしさっきの言い方だと暗に「行ってこい」と言っているようにも取れる。だから二人で行くことを強調したのだろう。
◆◆◆
家を出ると肌を刺すような日差しと脳まで溶かしそうな熱気に襲われた。必死に泣きじゃくる蝉の声が騒がしい。空には清々しいほどに青が広がっている。この熱の中歩いてコンビニまで行くのはなかなかの苦行だとおもう。
「暑いねー」
「さっきは暇で今度は暑いか。心弱すぎだろ」
「そんなことないよー超強いよ?付き合ってた男の人にDVされた挙句捨てられたとしても泣かないと思うぐらいには超強いよ?」
「なんだその怖い例えは。ちょっとありそうだからやめてくれ」
なんてやりとりをしていると目的のコンビニに着いた。その頃には雨でも降ったのかという程に汗をかいていた。タオルぐらい持ってきたらよかったなあ。
「あ、私ハーゲンダッツでもいい?」
「いいけど、ブラックサンダーのアイスはいいの?」
「あ……どっちにしようー」
「忘れてたのかよっ。どっちも買えばいいんじゃない?」
「そうするー。じゃあ梓ちゃんお願いします」
「何をだよ。いや、お金自分で払えよ?」
「えー、わかったー」
よかった。先に言っておかないと本当に払わさせられかねないからな。そういや自分のはどうしよう。……ガリガリ君でいいか。
◆◆◆
家に着いた時にはあたしのガリガリ君は既にあたしのお腹の中に移動していた。これはすぐ溶けちゃうからな。コンビニから出たらすぐ食べた。
紅葉ちゃんの手に残っているものはハーゲンダッツだけだった。ハーゲンダッツは多少溶けても冷蔵庫(正しくは冷凍庫)に入れて置けばいいからブラックサンダーのアイスは食べる。とのことだ。
紅葉ちゃんのハーゲンダッツを冷蔵庫に入れてから部屋に戻って一段落すると、心の耐久力が回復していくように感じる。
「外暑かったな」
「そーだねー。あんなに暑いならここでお茶とか飲んでた方が良かったかも」
「かもじゃなくてもうそっちの方が良かったよ。お金無駄になったし」
「んーまあそこは美味しかったし?味あったし?セーフってことにしよ?」
「はいはい」
あたしが食べたのガリガリ君なんだけどな。まあいいか。
「あ、ハーゲンダッツ楓ちゃんにあげてもいい?」
「ご自由に」
あたしにいう必要はないと思うけど。
しばらく取り留めのない会話を交わしていると、暑さのせいでお互い疲れていたのか、自然と会話は無くなっていった。
手持ち無沙汰になり、読みかけの本があったのを思い出す。勉強机に置いてあった本を手に取り栞を挟んでいたページから読み始めた。
紅葉ちゃんも持ってきた数学の問題を解き始めていた。
一時間ぐらい経つと、紅葉ちゃんはテーブルに突っ伏し、寝息をたてていた。
大体何してもめっちゃ可愛いし、からかってくる時の意地悪な顔も可愛いんだけど、困るからやめて欲しいものだ。
紅葉ちゃんは会話不可能の状態に陥っていたので、本を黙々と読んでいき、後数ページで終わるといった頃にインターホンが鳴った。
今いいとこだったのに……、と思いつつもインターホンを鳴らした相手に対応するため一階に降りる。
「はーい」
物語が盛り上がっている所で読むのを邪魔をされた苛立ちを交えつつ返事をした。
「はいはい!!桐谷が大好きな女の子が来ちゃいましたよ!」
「うるせえ」
邪魔をされてなくても、誰もがうるさいと感じる、テンションの高いやつは楓だった。