毎度のようにあたしの家に集まるのはどうかと思う。
迷惑だということはないが夏休みになってから楓や紅葉ちゃんの家に行ったことはない気がする。というか、ない。
紅葉ちゃん曰く、「だってわたしと楓ちゃんの家の間に梓ちゃんの家があるんだもん」だそうだ。
要するに移動が一番楽だからだ。
そんなことはどうでもいいとして、今日も今日とて三人で遊んでいるわけだが、何か目的がない時は基本的にダラダラしているだけのあたし達は今もダラダラしている。
具体的に言うとあたしは小説の続きを読んでるし、楓はスマホ片手にアチョー、アターと何やら構えている。そして、紅葉ちゃんは麦チョコをポリポリ食べていた。
……楓は何をやってるんだ。
「あ、そうだ」
紅葉ちゃんが何かを思い出したように呟いた。あたしは目で文字列を追うのをやめ、楓は「やはりお前だったのか……」と真剣に液晶を眺めている
。
この一瞬で何があった……。
「そういえばわたしとってもすごいことあったよ」
「何?」
なんだろう。すごいことあった、に反応したのだろうか。液晶を見ていた楓の目が紅葉ちゃんに移っている。黙ったままじっと見ている姿はある種の恐怖を感じる。
「この前アイス買ったの。当たりがあるやつ。そしたらね、当たりが出たの」
「お、すごいじゃん。紅葉ちゃん」
でもそれだけじゃーとってもすごいことにはならないと思うけど。まあ結構すごいけど。と、思っていたのだが話にはまだ続きがあることが、ふふんと鼻を鳴らす紅葉ちゃんを見れば分かる。
「それだけじゃないんだよ。その当たりアイスを食べたら、それまたその当たりアイスが当たりだったんだよ」
おおお。それはとってもすごいことと言って差し支えないだろう。
「紅葉ちゃんすごい!」
突然大声で会話に入って来た楓に二人して驚いてしまう。それも大声で!? こんな感じで二人で某出会ったらすぐバトルが始まる(始まらない)漫画的なリアクションを取るほどだ。
「どれぐらい?」
若干引きつつも楓のテンションについて行こうとしている努力には目を見張るものがある。流石は紅葉ちゃんと言ったところだ。
「七十億番目ぐらい!」
「おい低いな!」
基準は多分世界鬼の中でだろう。思ったより低い順位につい、反射的に、脊髄で、反応してしまった……。不覚。
「やった! わたしすごい!」
紅葉ちゃんの中ではどういう基準で七十億番目が凄いということになっているんだろう。
しかし、夏の暑さというのはなぜこう肌に引っ付いてくるのだろう。じめじめ暑いのは正直やってられない。もっとも今は家の中でクーラーの恩恵に預かっているのだが。一日中ずっと中にいるのもなんだか健康的に悪そうであまり良くない。
「わたしこの前ラーメン屋行ったんだけどね」
「ラーメン屋?」
「うん。家族で行ったんだ」
あたしの疑問に紅葉ちゃんは返答し、話を広げる。
ちなみに紅葉ちゃんの家族とは父母のことである。紅葉ちゃんは一人っ子だ。
「後から来たお客さんに足に包帯巻いて両手に松葉杖持ってる女の子がいたんだよ」
「骨折だったのかな?」
負傷した女の子の話を聞いて興味を持ったのか割って入ってくる楓。この言い方だと楓の評価下げてしまう気がするが、まあいいや。
「多分ね。でわたし思ったんだけど、その女の子は相対した敵にやられて『その程度か……』なんて言われて足で蹴られて骨折したんだと思うな」
どうしよう…。ちょっと意味が分からない。いや、意味は分かる。ただ想像の飛躍がすごい。仮にその女の子が転がったボールを拾おうとして道路に飛び出した幼児がいて、そこに車が近づいていたから庇おうとして飛び込んだ結果足を骨折したのなら意味は分かる。うん、これも意味分からないな。何言ってんだろ。
「それはないね」
そうだ。言ってやれ楓。
「きっとその女の子は公園から飛び出した幼稚園児が車に衝突しそうだったところを庇ったんだよ。それで骨折したんだ」
いやそれあたしが考えたやつー! 絶対違うやつー! 紅葉ちゃんも呆れてポカンとしてるよ。紅葉ちゃんも大概だけどね。
「なるほど……。そうだ、そうだよね!」
呆れていたのではなかった。考えを整理していたのだ。駄目な方に。発想の自由度が高すぎる。両方共有り得ない。この中で無事なのはあたしだけだったか……。
「いや、ねーだろ」
むーと不満そうな楓。それがコロッと変わったと思うとまた変なことを言い出した。
「じゃああれだー。漫画とかでよくあるじゃん? 私敵役ね」
はっと反応した紅葉ちゃんは体を倒し、謎の演技を始める。
「くそう。なんでこんな奴に……!!」
倒れた体をずるずると動かし、恐らく敵役の楓から逃げようとしているのだろう。
それを封じるように紅葉ちゃんの足を踏みつける楓。
「まだ逃げる力があるとはな……ふんっ!」
踏んでいた足に力を加え、バキッと音が鳴る。楓の口から。痛みに喘ぐ紅葉ちゃんと満足気な楓はこっちを見る。
なんだそのコンビネーションは。
「こんな感じ?」
「いやねーよ!」
いやほんと、何言ってんだ。ほんとに……ふっ、ふふふ。
「じゃあ女の子に乾杯しよう」
「待って楓ちゃん。黙祷だよ」
「勝手に殺すなよ……」
〜〜〜
いつものようにごろごろだらだらしているといつの間にか七時に回りそうな時間だった。晩ご飯を食べていくわけでもないのでさっさとお帰りを願うことにする。
「二人共そろそろ帰る?」
「「ちょっと待ってね」」
何をしているのかと近づいてみると、タブレット端末を二人で弄っていた。その中でしていたことはいつ撮ったのか三人が写った写真を加工アプリでプリクラ的なことをしている。
あたしそれ恥ずかしいんだけど……。
「あ、桐谷の顔ライオンと合わせるとかっこいいねー」
「ホントだねー面白かっこいい」
「やめろーーー!!!」
と言うわけで二人には帰ってもらいました。また明日。