さすおね!なんて言わないで -魔法科高校の劣等生if-   作:ちゃんぷるー

1 / 1
春の夜の夢

 国立魔法大学付属第一高校、講堂

 

 

 

 演台を見上げる形で造られた特徴的な施設の最上段、壇上に立つ少年は朗々と答辞を読み上げていた。

 

 八枚花弁のエンブレムのついた真新しい制服を着た少年、彼は第一高校の主席合格者であった。

 濡れ羽色をした髪は少し長めに切り揃えられ艷やかとしている。

 黒と白のコントラストがハッキリとした瞳が印象的な形の良い二重の目はライトに照らされて一層輝いていた。

 肌は日焼けなどしたことの無いような白さだが、不健康さとは無縁で水も弾かんばかりである。

 

 美少年、という言葉がこれほど似合う少年はそうはいまい。

 性別を越え、見るもの全てを恥じらわせるほどの完全な美。

 

 やや高めのアルトボイスに誰もが聞き入っていた。

 

 魔法に携わる者としての責任と覚悟を語る彼の答辞は優等生と呼ぶに相応しいものであった。

 

 しかし

 

 澱みなく進んでいた答辞が突然止まってしまった。

 

 一瞬の沈黙のあと、先ほどまでの堂々たる態度はどこへやら、彼はプルプルと震えだしたかと思うと書状を投げ出した。

 

 優等生の突然の豹変に厳粛な雰囲気は霧散してザワザワとにわかに騒ぎ出す観衆。

 

 我関せずと少年は壇上のマイクを台から引きちぎり、大きく息を吸い込んだ。

 

「やっぱり、やっぱりお姉様が二科生とか、ありえないんですけどおおおおお!!」

 

 突然の叫びに生徒たちは面食らった。

「お姉様」とは誰か、なぜ彼が憤っているかなど理解できる人間は、ただ一人を除いて存在しなかった。

 困惑する彼らを尻目に少年は語気を荒げていく。

 

「お姉様を正しく評価しない学校なんて、消えちゃえばいいんですけどおおおおお!!!!」

 

 手にしていたマイクを放り投げ――恐ろしいまでの勢いで投擲されたマイクは前列に座っていた生徒の頭部に激突し、哀れな犠牲者をノックダウンした――もはや少年の興奮はピークに達していた。

 

 懐に伸びる手。何かを掴んで引き出す。

 その手に握られていたのは金属製の端末――現代の魔法の杖 "CAD"だ。

 

 入学式での魔法の不正使用。前代未聞の事態に控えていた大柄な男子生徒が飛び出す。

 彼が発動したのは速度を意識したは極単純な移動魔法。

 後方の壁に衝突させ意識を奪うのが狙いだ。

 魔法師にしか視認できないサイオンの光が迸る。書き換えられたイデアは現実を改変する。

 

 しかし、少年は不動であった。

 

 壇上の少年が無意識に放っていた干渉力。

 それが強力な領域干渉となって魔法の発動を許さなかったのだ。

 

「ふ、ふふふふふ……… 邪魔立てするなら先に止めますよ(・・・・・)?」

 

 少年がそう言い切る前に、既に哀れな風紀委員の精神(・・)は停止していた。

 少年の特異(・・)魔法 コキュートス。それは不可逆の”止”を齎す力だ。

 

 停止を確認した少年は、くるりと振り向き、大仰にCADを掲げる。

 次はお前たちだ、と宣言するように。

 

 そして、恐慌が始まった。

 逃げ惑う生徒達、しかし一人、また一人とその魂が停止させられる。

 

 ――なんだ これは?

 

 阿鼻叫喚の地獄のなか、壇上から離れた席で少女は呆然と思う。

 

 ――深幸が なぜ こんなことで……

 

 思考は空転し、ただ傍観するほかなかった。

 

 やがて、停止した世界の中で動くものは少年と少女の二人。

 

 死体を踏みつけにしながら少年は少女に駆け寄った。

 

「お姉様、お姉様を愚弄するモノはすべて止めてしまいましたよ!」

 

 顔を紅潮させて迫る少年は、褒めてもらうのを待つかのように腰を落として少女に語りかけた。

 

「え、いや……深幸……?」

 

 異様な雰囲気に思考は止まったままだ。

 

「お姉様を正当に評価しない世界なんて、必要ありません! お姉様には僕だけいればいいんです!

 もう、縛るものなど何もありません。 ですから……」

 

 少年は少女に迫る。顔には怒気や興奮とも違った粘ついた感情が浮かんでいた。

 少女は抵抗することもなく、腕を捕まれ、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あわや、というところで少女は目を覚ました。

 4月もはじまったばかり、未だに肌寒いというのにその身体は僅かに汗ばんでいた。

 

「妙な、妙な夢……」

 

 額を拭いながらポツリと呟く。

 彼女は一般的に悪夢とされる類の夢にも動じない性質だが、今夜の夢のことさらに衝撃だったようだ。

 

 少女は視線を動かす。壁にかけられた時計は午前6時を指していた。

 早起きを旨としている彼女としては遅い時間だった。予定がないからといって油断していたのかもしれない。

 

 胸の中のもやもやとしたものと汗を流しに、シャワーを浴びることにした。

 

 入学式に何百人もの人間を惨殺した男に関係を迫られる夢なんて、新しい環境に置かれたストレスによるものとしてもあまりにも悪趣味にすぎる。

 その男が彼女のよく知る、どころか一番大切にしている人物なのだからなおさらであった。

 

「……そうだ、忘れるところだった」

 

 着替えを用意して部屋を出る前に彼女は机へと向かう。

 

 机に仕舞われた日記帳。

 そこに”深幸が入学式で暴れる夢を見る 汗を流した 強い恐怖と思われる”と書き記した。

 

 自分が感じたであろう(・・・・)感情を書き留める。

 それが彼女の、3年前からの日課だった。

 

 ――少女の名は司波達夜。

 本日より第一高校の生徒となるイレギュラーの片割れである。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。