ケビンはテレビを見ていた。東京が梅雨入りしたらしく、外の大雨も納得がいく。おかげで来客が減り、訓練と見回りしかしない日が続いていた。
「ケビン、黒澤さんから手紙よ。嘘ついた理由がどうとかって書いてるわ」
「人の手紙を勝手に開けるな。まぁいい、どうせ自分が世俗のものを使ってるってバレるのが怖いとかそんなところだろ?」
「読まないでわかるの?」
「あの家は問題が大きかったからな、特に情報収集に関しては」
呆れた様子で再びテレビを見る。宏美は手紙を読んでみると、ケビンの推理通りの内容が書かれていた。
「あんな家に生まれ育った二人が憐れね・・・」
「あの姉妹は立派だよ、素敵な友人が周りにいるからね」
出前を頼もうと思った矢先、根岸から電話がかかってきた。また銃に関しての事件らしく、今度は3日前に起きた園田宗治襲撃に使った銃の特定らしい。
「根岸さん、またサブマシンガンじゃないだろうな?」
「そっちも探したんだが、どれも適合しないんだ。彼の肩から摘出された弾丸、38口径は多く使われてるから、見つけるのが大変で」
「言いたくないんだが、現場に空薬莢落ちてましたか?」
「落ちてないんだ。襲撃受けたのが大雨だった3日前の深夜。今日も捜索しても、何にも落ちてないんだ」
「・・・だったら凶器はリボルバーだってわかるぞ。その線で洗ったらどうですか?」
「え?どうして?」
「オートマチックの場合、どうしても空薬莢を排出する仕組みになるけど、リボルバーはそれができない仕組みだからさ。根岸さんのニューナンブもそうだろ?」
「おぉ忘れておった。ありがとうケビン!」
電話とテレビを切り、自分の好きな曲を流す。雨に合う、しっとりとした男性目線の別れの歌だ。
「いい曲ね」
「歌手はもう亡くなってるけど、好きなんだ」
再び根岸から電話がかかってくる。
「助けてケビン、もう何がなんだかわからないんだ。公園の池に凶器の銃らしい銃が見つかったんだが、なぜかM19リボルバーが見つかったんだよ、38口径とは違う弾使うのに・・・」
ケビンは呆れた声で
「そのM19と線条痕が一致したらそれが凶器だ。357マグナムなら38口径の弾は撃てる」
「え、そうなの?わかった、それを調べてみよう」
電話を切るケビンの口からため息が漏れた。
「ところでオマルはどうした?」
「見回りよ。沼津出張であなたがいない間、立派に仕事してくれたわ。この前はラーメン屋の店主からの依頼で、メニュー開発したとか」
「やることは派手だが、しっかり仕事してるんだな」
事務所のドアが開いた。
「すいません、ここがトラなんちゃらアウトカモンズですか?」
笑顔でトンチンカンなことを言うこの少女、高坂穂乃果が事務所を訪れた。
「トライデントアウトカムズだよ、お嬢さん」
「穂乃果ちゃん・・・μ’sのセンターの?」
「え、知ってるんですかお姉さん!?」
「廃校寸前の学校を救ったヒロインを知らないわけないわよ」
「・・・話は変わるが、俺に仕事の依頼かい?」
ソファーに座らせ、ひとまず落ち着かせる。
「実はストーカー被害がありまして」
「ストーカーねぇ。何か脅迫電話とか掛かってきたの?」
「はい。私の部屋での行動が丸わかりで、これが2回も」
「電話は携帯かな?よかったら見せてくれるかな?」
通話履歴を見せてもらった。しかし非通知設定になっており番号がわからない。通話記録も聞いてみたところ、機械で声を変えて行動を見ていることがわかった。
「ねぇ穂乃果ちゃん、最近誰かからプレゼントもらったことある?」
「お母さんぐらいしかもらってませんよ?」
「なるほど」
ケビンは淹れたてのストレートティーを口にする。
「家を空ける時があるかな?」
「和菓子屋ですから滅多にないですね。基本的に・・・あ!」
「どうしたの?」
「一度だけ、泥棒さんに入られたことがありました!」
「・・・泥棒に?」
話によれば先日の夜、5分ほどで短時間ではあるが、二階にある自分の部屋に誰かが入ってきて声をあげたことがあったらしい。逃げていった後ろ姿は見たものの、夜中だったためあまり見えなかったそうだ。
「盗まれたものはあったかな?」
「それが変なんです、何も盗まれていないんです」
「?まさか、その入られた日から電話がかかってきたの?」
「言われてみれば・・・」
その脱力感ある返事にため息が出る。
「・・・まぁいい、とりあえず君の部屋に行ってみたいから、案内してくれ」
依頼人、高坂穂乃果とともに彼女の実家を訪れる。週に数回和菓子を買いに来る店、穂むらだった。
「いらっしゃい、あらどうしたの?」
「実はね、この探偵さんに隠しカメラ探してもらいに」
店に来ていた客がこちらに注目する。
「お母さん、穂乃果ちゃん、裏までいいですか?」
二人を店の裏に呼び出し、自分の受けた依頼を説明する。
「君はアホか。大声で隠しカメラって言っちゃだめ、客の中の一人がストーカーの可能性があるでしょ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「済んだことだ、別にいい。少し部屋を探らせて頂きます、よろしいですね?」
親の許可を得たケビンは彼女の部屋に入ると、さっそく窓を見てみる。
(昼間に忍び込めないことはないが、あれだけ客が来てんだから夜中がベストだな。通話には確か、服が素敵だとか写真がどうとか、ポスターがどうとか)
机の上に園田海未と南ことりと一緒に撮った写真が飾られていた。壁を見てみると、スクールアイドル時代に作られた自分たちのポスターが貼られている。ケビンは背後を振り向いた。
(反対側にはクローゼットと本棚か・・・本棚すっかすかだな)
本と本の間に黒っぽい小さな箱状のものを見つけた。ケビンはそれを手に取りうなずいた。
「やはりここか」
見つけたカメラを穂乃果に見せると、驚いた様子だった。
「すぐ見つけるなんて、すごいです探偵さん!」
「電話の内容を聞いて推理した結果だよ。でもここからが本番だ、おそらくストーカーは君に電話を入れてくるうえにもう一度忍び込んでくる。そこで提案だ、ストーカーと話をしてほしい」
「え!?」
「大丈夫、絶対に危険な目にあわせないから」
ケビンは穂乃果に耳打ちし、さっそくUMP-9を取りに一旦戻った。
深夜。雨もすっかり上がり、月が昇っているのがわかる。何者かが屋根を伝い鍵の付いてない窓を開け、近くのベッドの布団をめくった。途端、部屋に明かりがつき、UMP-9を持ったケビンが廊下から姿を現した。
『お前だったのか、彼女をストーキングしていたのは・・・』
『灰狼じゃないか・・・沼津以来だね』
犯人の正体、それは沼津で再開したジョナサン・ミラーだった。
『おおっと動くな、動いたら脳天撃ち抜く』
しかし、にわかに信じられないでいた。何故ならあのミラーがストーカーしたとは俄かに考えられないからだ。
『誰に依頼された、言え!』
『怒るなよ、この仕事はさすがに引き気味だったんだ』
『暗殺者がよくもまぁのんきに』
『でもこれだけは言えるよ、度が過ぎれば温厚な人でも怒るってね』
スーパーボール状の玉を地面に投げつけると、煙幕が焚かれ、ミラーは逃げ去ってしまった。
「探偵さん無事ですか!?」
「大丈夫。さっき入ってきたのはストーカーに雇われた暗殺者だ」
「え!?」
「おそらく今回の依頼の真実を知ったから、依頼人を殺しに行くと思うよ。っと、音声データ解析が終わったみたいだ」
宏美からメールが届いた。穂乃果のストーカーの声の主がわかったらしい。男性で、訛りのない流暢な日本語を話していることから日本人の可能性が高い。
「まず最初にすることは電話番号変えて、二度とかかって来ないようにした方がいい」
その後、調査を続けた結果、一人の男が浮かび上がった。名前は満井斉、スクールアイドルが一般的になる前から応援していた古参のファンだった。ケビンは住所を突き止め、夜中に訪問することを決めた。だが
『またお前かミラー』
『・・・依頼人がウソついてたから始末しに来たのに、灰狼と玄関で鉢合わせなんて、ついてないな』
『この国でも殺人を犯すのか?』
『興醒めしちゃった。でもいっか、ここで足つかれちゃ、ケープタウンに帰れないから』
あっさりと帰っていくミラーの後姿を見送り、改めて呼び鈴を鳴らした。ドアが開き、どこにでもいそうな男が姿を現した。
「探偵の菊地と申します。あなたに忠告しに来ました」
「・・・?なんのことでしょうか?」
「これを見ていただきたい」
取り出したのは隠しカメラを購入した人間の名前が書かれたリスト。満井の名前が赤でマーキングしてある。
「それともう一つ、高坂穂乃果さんの部屋の窓にあなたの指紋が見つかりました。いたいけな少女の部屋に忍び込んで隠しカメラを仕掛け、あげくに逆探知で携帯番号を入手。もはや救いようがありません。そこで、あなたには条件を飲んでもらう。金輪際、穂むら及び高坂家に近づかないこと。破れば・・・わかってますよね?」
Px4を腹に突きつけ、有無言わさず了承させた。
「そうそう、俺を捕まえようとしても無駄だ。凶悪犯への攻撃は許可されている、ハッカーも例外ではない」
後日、ストーカーからの電話がさっぱりなくなったと言う。穂乃果の元気ある声が、ケビンの顔に笑顔を作った。
「どうしちゃったのケビン?ちょっと気持ち悪いわ」
「あぁ。依頼人に笑顔が戻ったから、安心してな」