PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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10話 高利貸しにご用心

 千代田区のとあるアパートに芸能事務所の社長、笹山充治が訪ねた。理由はスカウト。二宮ミコトを引退させ下火になっていたため、人材発掘に精を出していた。そして、とうとう見つけたのである。

「もし僕の事務所のアイドルになったら、君の家族を支える可能性が広がるよ。でも、それにはつらくて厳しい道が待っている。それでもいいかな?」

 優しい口調ながらも厳しいことを言う中年男笹山に、黒髪の小柄な少女が答える。

「やるわ、この機会を絶対に話してやるものですか!」

「いいねにこちゃん。その真っ直ぐな目、初めてミコトちゃんにあった時の頃と似てる」

 少女こと矢澤にこは、誓約書にサインする前に笹山に質問した。

「笹山社長。虎太郎達の面倒、どうしよう・・・」

「まだ小さいもんね、君の弟君と妹ちゃん。でも大丈夫、僕の知り合いの保育園の園長に相談するよ」

 ちょうどよく帰って来た彼女の母親に今回のスカウトの一件を話すと、猶予が欲しいと言われ、誓約書を置いて帰ることにした。

 

 

 

 

 その日の夕方。知り合いの営む山海保育園へ足を運び、入園の話をしようと園長室の扉をノックする。

「おーい重田、ちょっと話があるんだが」

「笹山。どうしたんだ?」

「実は頼みがあってな」

 笹山は矢澤家のことを話した。重田と呼ばれた貫禄ある太めの男は頭を掻きながら答える。

「入園か・・・所得が心配だが、明日ぐらいに会ってみよう」

「できそうか?」

「滞ったらまずいし、何より通園にも支障をきたす。だから会ってみなくてはわからん」

「恩に着るよ、重田」

 翌日。重田は矢澤母を園に呼び案内する。現在0から5歳ほどの子供を50人弱預かっているが、広い運動場にしっかり整備された遊具、そして楽しそうに遊ぶ子供たち。

「どうでしょうウチの園は?」

「広いですね。ですが・・・それだけ料金がかかるような気がして」

「大丈夫ですよ。都から認可を受けておりますし、料金も低く抑えています。次はイベントの話でも」

 重田のPHSが鳴り響く。

「ちょっと失礼・・・はい、山海保育園の重田です・・・え、はい・・・わかりました」

「あのぅ、何かありましたか?」

「警察から電話がありまして、大変なことが起きました。休みをもらっていたウチの保育士の一人が、多摩川に遺体で発見されたようです・・・」

 

 

 

 

 その頃トライデントアウトカムズでは、ケビンとオマルとで格闘の訓練を積んでいた。覇気のある掛け声から放たれる蹴りや拳は鋭く、軟な人間なら一撃で倒せるほどの迫力があった。

「よし、終わり。休憩しよう」

「ふぅ、さすが元レンジャーですね。敵いません」

「おいおい俺も一本取られたんだ。いい勝負だったと思うぞ?」

「謙虚ですね。犯罪者には容赦しないのに」

「手加減したらこっちが死ぬだろうが」

 シャワーで汗を流し事務所に戻ると、笹山が困った表情でソファに座っていた。

「ああ探偵さん、待ってました」

「どうしたんですか・・・まさか、また誰かの護衛か何かですか?」

「違うんだ。僕の友人の保育園で働いている保育士が何者かに殺害されたんだ。警察によると、遺体が多摩川の河川敷に流れ着いていて・・・」

「その保育士の死の真相を突き止めることが依頼ですね?わかりました、引き受けましょう」

 

 

 

 

 ケビンは笹山を通じてオマルと共に重田に会うことにした。園長室でうなだれている。

「探偵のケビンです」

「同じく、オマルと申します」

「あなた方が笹山の」

「園長さん。アンタが気分沈んでたら、園内の子供たちが心配します。無理にとは言いませんが、平静を作ってください」

「あ・・・」

「もう大丈夫ですか?仕事の話をしたいのですが」

「は、はい」

 亡くなった保育士の名前は江口久代、47歳独身。園児達から人気があり、保育士達からも信頼を得ていたベテランだ。しかし、無くなる一週間ぐらい前に突然有休を使いたいと懇談し、5日ほどもらっていたという。

「死因は聞いていますか?」

「いいえ。司法解剖の結果を聞いておりません」

「そうですか。後日、オマルが保育士達に話を聞きに行きます、よろしいですか?」

「え、探偵さん、もういいのですか?」

「その前に、江口さんの住所を教えてください」

 

 

 

 

 オマルと別行動することにしたケビンは、教えられた住所を訪れると、金髪の派手な出で立ちの若い男がアパートの一室のドアを乱暴に叩いていた。

「江口さん、今日こそは払ってもらいますよ!聞こえてんのかコラ!」

「休日の昼間に騒がしい。誰だ」

「あぁ?お前に関係ないだろうが!」

 ケビンは苛立ちを覚え、男の頭を壁に叩きつけ気絶させ、江口の部屋に連れ込んだ。数分で男が目を覚ますと、穏やかな顔でPx4を突きつけた。

「お前は誰だ。答えろ」

「う、撃つな・・・」

 さっきの威勢の良い態度とはうって変わって弱腰になっている。

「ご、権田金融の森って言うんだ。江口が金返さねぇから取り立てに」

「権田金融?あの金利50%の高利貸しでヤクザもどきの」

「も、もどき・・・」

「落ち着いて話そうぜ?それと、無駄だと思うぞ。彼女なら遺体で発見された」

「!?」

 驚いた様子からして、知らなかったようだ。

「契約書は持ってるか?一応、それを見たいんだが」

 森が契約書を取り出す。案の定、金利や返済期間のことについては一切書かれておらず、借りた金額と胡散臭い説明が記載されていた。連帯保証人の名前欄に江口久代のサインが書かれている。

「これ、もらってもいいか?」

「でも何に使うんだよ」

「筆跡鑑定だ」

 

 

 

 

 警察署に契約書を持ち帰ったケビンは、早速筆跡鑑定を依頼し、結果が出るまで根岸と話をすることにした。

「なるほど、借金か」

「裏の顔もあったってことか?」

「信じたくないが、その可能性も否定できない」

「・・・そういえば、司法解剖の結果は?」

「死亡推定時刻は昨日の18:10から18:30。死因は・・・溺死ではなく、窒息死だったんだ」

「窒息死?」

「肺に水が入っていなかったんだ。よく見ると抵抗した掻き傷もあったし首に太めのロープのようなもので絞められた跡があった」

「事件の可能性が高いな」

「だがロープ状のものがないんだよ、家宅捜索してもな」

「確かに、俺が見た時も、それらしいものはなかった」

 ふとケビンは思い出した。まだ被害者の顔を見ていない。根岸に写真を見せてもらうよう頼むと、三つ編みで髪の長い女が写った写真を見せてくれた。

「ロープって編み込んで作られてるよな、これもそんな感じの跡だった。持ち帰ったのか?」

「根岸さん。犯人は凶器を持ってないし、しかも写真に写ってるぞ、凶器が」

「え?言ってることがさっぱり」

「髪だ」

「髪?」

「一応聞くが、どのくらい長いかわかるか?」

「確か背中より少し長い・・・あ!」

「犯人は被害者が背中を見せた瞬間、髪を握り強く絞めたんだ。当然、凶器の処分なんて考えなくていいし、あとは発見現場まで運べばいい」

「だがどうやって?」

 さすがにケビンも頭を傾げた。遺体を運んでいたとなると、夜間であっても怪しまれる可能性が出てくる。

「根岸さん、俺は一回帰る。少し事件を整理するんでね」

 

 

 

 

 

 ケビンはオマルと宏美とともに事件を整理することにした。殺人方法、死亡推定時刻、人間関係がわかっているにも関わらず、何故か遺体の運搬方法だけがわからない。

「発見現場ですが、河川敷と言っても木々や茂みが多くて薄暗いから、死体隠すならその中に捨てるだけで余裕だと思いますが」

「運んで捨てるだけなら、なんでわざわざ見つかりやすい川の方に捨てたのかしら?」

「・・・彼女は借金を背負っていた。取り立てから逃れるためにあそこに隠れていたとしたら、有休使って雲隠れで説明がつくな」

「でも、まだ肝心の殺人現場がわかってないわ、犯人が誰かもわかっていないし」

 ケビンもそれに悩んでいた。確かに借金持ちだが子供達にも慕われ、それ以外に人間関係のもつれがない。そんな人物が何故逃げるような真似をしたのか。

(そういえば・・・誰の保証人になったのか、見てなかった)

 途端、根岸から電話がかかってきた。筆跡鑑定の結果が出たらしい。江口本人の筆跡と別の人間の筆跡があった。小高雄三という、既に死亡した人間の名前が契約書に書いてあったという。

「亡くなった小高って男を洗ってみよう。宏美、一緒に頼まれるか?」

「任せなさい、記者の本領よ」

「オマル、引き続き保育園の調査を頼む」

「了解です」

 

 

 

 

 宏美お得意の取材によって小高雄三の正体がわかった。なんと、手段を選ばず借金を踏み倒す達人で1年前に失踪して以来、親戚が死亡届を出して死んだことになっているのだ。生死不明で勝手に殺されては気の毒だが、そうなっても仕方ないとも思った。

「江口さんとは半年前に出会って一緒に暮らしてたそうよ。結婚資金に権田金融に金借りるって、疑わなかったのかしら?」

「オマルによれば、相当お人よしだったらしい。疑うって行動自体、しなかったかもな」

 写真を取り出し、小高の顔を見る。眼鏡をかけ七三分けと、一見どこにでもいそうな中年男だった。ケビンの経験からして、その類の男は気が弱いが人を騙すのが得意で、信用したら最後、財産や生命力を死ぬまで絞り取られる。レンジャー時代、アフガニスタンに派遣された際に出会った、彼と似たような雰囲気の男を思い出した。

「恐ろしいな、ある意味テロリストよりも」

 ある程度わかったところで事務所に帰ろうと思った矢先、ケビンに誰かがぶつかった。

「あっすまないね」

 逃げ去っていくその顔に見覚えがあった。小高だ。

「待て!」

 全速力で追っかけ、どうにかして捕まえる。小高は抵抗するが、ケビンの手は振りほどけない。

「放せ!俺は何もしてねぇ!」

「馬鹿野郎!だったらなんで逃げる!」

「権田金融の追っかけだろ!」

「俺は探偵だ、江口久代の死の真相を探ってる!」

 すると小高の動きが止まった。

「知ってることを話してくれ。もうアンタは死んだことになってるぞ」

「俺が!?」

 親戚が勝手に死亡届を出したことを話す。

「・・・どうりで電話に出ないわけだ、死んでたなんて・・・」

「最後に、18:10ごろ、どこにいたんだ?」

 

 

 

 

 小高と別れたあと、ケビンは根岸に彼の現在の写真を送り、宏美と一緒に蕎麦屋に入った。

「ここの蕎麦屋の主人、小高の顔覚えててよかったわ。そうじゃなかったら迷宮入りよ」

「ここから歩いて江口邸に着くまで20分かかる。しかも遺体を運ぶとなると、もっとかかるだろう」

 ケビンの頼んだ掛けそばが来る。

「恐らく小高はシロだ。そうだ宏美、保険とか入ってなかったか?」

「生命保険には加入してたわね、しかも3つぐらい」

「確かに怪しいな」

 宏美の頼んだキツネそばも来たので食べることにした。

「あらいいわね、蕎麦の香ばしさがいいわ」

「そうだな、本物の江戸前蕎麦だこれ」

 ケビンは先ほど見たメニューを手に取った。やはり1000円ほどすることがわかる。借金してまでここの蕎麦を堪能したかったのだろうか。

「もう一度江口さんの家に行ってみる。宏美は待機してくれ」

「わかったわ」

 

 

 

 

 江口の部屋を訪れたケビン。以前と特に変わっていなかったため近所に聞き込みすることにした。そこで意外な事実を知ることになる。亡くなる5日前には既に小高とは破局しており、かわりに若い男が出入りしていることが判明した。しかも事件のあった時刻には小高は出入りしておらず、その若い男が出入りしていたのを、目撃したらしい。懐から、森の写真を取り出し目撃者に見せた。

「この人じゃないな。もっとこう、真面目そうな人だったかな?」

 聞き込みを終え事務所に帰る途中、根岸から電話がかかってきた。筆跡鑑定の結果、サインは江口のものではなく第三者のものだと判明した。前科リストには載っていないことから、初犯か手慣れた人間によるものらしい。

(オマルが頼りだな)

 事務所に帰ると、オマルが困った顔で書類に目を通していた。

「いやぁ困りましたよ、これを見てください」

「なになに。保育士の一人が江口さんと並んで歩いている男性の素性?」

「相手の名前は美濃部海翔、かの悪徳PMC、マーキュリーセキュリティーの元社員だそうです。現在は権田金融の営業員として採用されているとのことです」

「あそこか・・・いくつだろう・・・31歳か、確かに若いな。写真はあったか?」

「これですね。一見真面目そうですが、彼の友人によればかなり性悪だったらしいですよ」

「オマル、権田金融に行こう。武器は持っておけ、マーキュリーセキュリティーから武器ぐらいは購入してるだろうからな」

 

 

 

 

 目黒にある権田金融に足を運んだケビンとオマル。周りに誰もいないことから、何者かが付近の出入りを制限させる情報を流したのだろうか。

「想像より小さいビルだな。用意はいいな?」

「いいですよ。ですが、名刺ではなく、銃を持って入るのがいいかと」

 その時だった、ビルの窓ガラスが割れ、鉛玉の豪雨が降り注ぐ。二人は乗って来た車を遮蔽物にし、それぞれの得物を装備した。

「敵は多いが、狙うのが下手だ。本職の力量、見せてやろう」

 最小限に身を乗り出し反撃していく。確実に仕留め、鉛の雨も弱まってきたところでオマルはフラッシュバンを投げ込んだ。

「どこで買ったそれ?」

「ジョセフさんがおまけでくれました」

「感謝しないとな」

 建物内に入っても抵抗は続くが、素人がなまじ銃を取って戦ったとてプロには敵わず、すぐに鎮圧した。生き残った全員が銃を捨て、両手を挙げている。その中に美濃部の姿もあった。

「お前が美濃部か?」

「確かにそうだが、何の用だよ。俺達は普通に営業してただけだぜ!?」

「連帯保証人の名前に江口さんの名前を勝手に使っといて、何が真っ当な商売だ。筆跡鑑定が彼女のものではないと証明されてる。それと、彼女を殺したのは貴様だな、美濃部」

「な!?」

「洗濯機の中に洗う前の男物の下着が見つかった。付着した毛や皮膚を調べれば出入りしていたことがわかる、それでも白を切る気か?」

「・・・」

 オマルがちょうどいいタイミングで美濃部の履歴書を見つけ、調べてみると、ところどころの癖が一致した。

「これであなた方悪徳金融はおしまいです、皆さんで仲良く刑務所に行って来てください」

 

 

 

 

 

 後日の調査でわかったことだが、小高が借りた金は予想通り遊ぶ金欲しさだった。しかし、彼の本性を知った江口は別れを切り出し、一方的に追い出した。その後SNSで出会った美濃部と交際を始めるがそれは彼の罠だった。彼は彼女の信頼を得ると真っ先に殺し、遺体をダンボール箱に詰め、リヤカーで河川敷に運び、そこに捨てた。予め加入させた保険から保険金を受け取り姿を消す算段だった。しかし、トライデントアウトカムズが動いていることを知った美濃部が古巣から銃を購入するが、時すでに遅し、美濃部は観念したのだった。

「最っ低ね、その美濃部と小高って男。女の敵じゃないのよ!」

 報告書の整理をする宏美が愚痴を漏らす。

「まぁいっか。おかげで矢澤さんの子供達が入園出来たし、保育園も通常運行だしね」

 昼食の時間になり、外に食べに行く宏美の姿を静かに見守るケビンであった。




 アイドルの最高年齢って何歳なのでしょうか?
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