PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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11話  同じ穴のムジナ

 一日の仕事を終えたオマルは、行きつけのラーメン店で自身のアイディアが組み込まれた、鶏チャーシューラーメンを食べていた。鶏ガラのあっさりスープに、胸肉を一度蒸してタレに漬け込んだチャーシューをメインに、ネギ、煮卵、キクラゲ、海苔を乗せたラーメンだ。

「おや、どうなさいましたか?」

「お兄さんのアイディアラーメン、食べに来たにゃ!」

「うれしいですね。美味しいの声が聴きたい限りです」

 語尾が少し変わっている、小柄でボーイッシュな印象が残る少女、星空凛。ケビンが沼津に出張していた時、オマルが偶然訪れたラーメン屋で出会い、意気投合したのが始まりだった。

「そう言えば、勉強は捗っていますか?」

「全然にゃ!」

「ダメですよ。パキスタンにはしたくても出来ない人が大勢います、彼らの分も精一杯しなくてはいけません」

「うぅ、お兄さんの話は生々しいにゃ・・・」

「まぁまずは食べてからでもいいでしょう。空腹は敵ですからね」

 帰り道。凛を家まで送り届ける最中、普段の元気の良い声ではなく、大人しく静かにオマルに問いかける。

「お兄さんのお仕事って、何してるのかにゃ?」

「私のですか?そうですね、ボディーガードから猫探しまでやってますよ、言わば探偵の仕事です」

「探偵さんだったにゃ。じゃあ事件解決とか、してるのかにゃ?」

「以前、殺人事件があったでしょう?あれは私達が解決したんですよ」

「大変だったね、お兄さん」

「まぁカッコ良くはないですがね」

「凛ね、実はお願いしたいことがあるにゃ。お友達を助けてほしいにゃ」

 

 

 

 

 翌日。ケビンは凛とオマルの話を聞き、園田海未と神田明神前で待ち合わせすることにした。なんでも、海未の父である園田宗治襲撃事件以来、彼女の様子がおかしく、ほとんど眠っていないだけでなく通学しているときもプライベートでも竹刀や警棒といった武器を装備しているため、近くにいるだけで殺気を感じてしまうらしい。友人である凛や穂乃果、ことりも心配して落ち着くよう説得しているが全く効果がないため、説得できそうなケビンとオマルに相談したのだ。

「お待たせしました」

「やぁ。久しぶりだね」

「先日はありがとうございました。ところで、お話しとは?」

「君の手にあるものについてだ。こんな昼間に竹刀持ち歩くなんて、尋常じゃない」

「それは、父の敵を取るためです!」

「顔もわからないのにかい?それに、相手は銃を持ってる可能性が高い。竹刀じゃとても太刀打ちできないと思うよ」

「・・・」

「君の仲間達がとても心配している、しかも俺に頼み込む程にだ。それでも敵を討ちたいなら、止めはしないが命の保証もしない。俺からは以上だ」

「・・・わかりました。武器は収めます」

 握っていた竹刀を収めた。

「わかってくれて嬉しいよ。その代わり、俺が犯人を捜す」

「で、ですが!?」

「俺の本業は特別警備会社の職員だ、銃の扱いなら慣れてる。俺を信じてくれ」

「ええっと・・・警備会社?」

「探偵も確かに本業だけど、世間一般には民間軍事会社って言った方がわかるかな?」

 周囲に誰もいないことを確認すると、懐からPx4を取り出した。

「君の父上はこれとは違う銃で撃たれたんだ。無念は必ず晴らす、だからもう、友達を心配させてはいけないよ」

 

 

 

 

 その後、ケビンは根岸から捜査資料を見せてもらい、当時の状況を洗い直すことにした。深夜2時の豪雨の中で撃たれたそうだが、些か疑問に思う。何故、外出困難な状態かつ深夜に外出していたのか。

「M19から指紋が出なかった。しかも、購入した人間もわかっていない。ケビン、どうにかならんか?」

「園田さんは何も話さないのでしょう?何故その時間に外に出たか」

「それもだが、市街地でリボルバーなんか撃ったら住民に気付かれるだろう」

「俺思ったけど、最初犯人はサプレッサー付きのオートマチックで撃とうと思ってたんじゃないかな?でも、故障して撃てなくなったから、仕方なく予備のリボルバーを使った。・・・そう考えることもできそうでしょう?」

「ううむ・・・しかし、ハンドガンを2丁持ってることなんて、あり得るか?」

「・・・ボディーガードか何かしていれば、考えられなくもない。実際にそのケースもありました」

 次に向かったのは園田家周辺の聞き込み。宗治の評判を聞いてみたが、悪い噂はなく、不良が近所に悪さしに来た際は堂々と注意しに行くほど正義感の強い人物だったらしい。

「そういえば探偵さん、ここ2ヶ月前ぐらいから、深夜に変な人が歩いているんですよ」

「?」

「体格の良いパジャマ姿でしかも近所を裸足で歩いていたかと思ったら、どこかに消えていってしまって・・・園田さんが徹夜で見回りしてくれた時は、その人はいなくなったのですが」

「彼が見回りしない日は、今でも出没するのですか?」

「えぇ、まぁ」

「・・・わかりました、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 そして深夜。タクティカルライトを装備したレミントンR5を手に出没する場所に張り込むことにした。30分くらい待っていたその時、街灯に照らされた、裸足でパジャマ姿の男が現れた。

「失礼、どうかなさいましたか?」

「・・・」

 様子がおかしいので、ケビンは男の頬を思いっきりつねってみた。

「痛い何を!?」

「もしかして、夢遊病ですか?」

「・・・こ、ここは、家の近所じゃないか!?」

「あなたは?」

 かなり驚いている様子から、自覚は無いようだ。

「私は園田宗治。この辺で道場を切り盛りしている」

「園田・・・なるほど、深夜に現れる不審者は、あなたのことだったのですね」

「え?」

「近所で話題になっていることは、ご存知ですね?しかもあなたが見回りする日には現れていない」

「私に怖気づいたのだろうな」

「さっきも言いましたよ、不審者の正体は、あなただって」

「・・・あ」

「履物も履いていないし、あなたは体格もいいしパジャマを着用している。不審者の特徴にことごとく一致してるんです」

「じゃ、じゃあ私が見回りしているときに現れなかったのは!?」

「あなたが眠りながら歩いていないからです」

 宗治はうなだれている。自分が不審者の正体だったからだろう。

「せっかくですし、撃たれた現場に案内していただけませんか?」

「・・・何故だ?」

「娘さんと約束したんです、犯人を捕まえるって」

 

 

 

 

 案内された現場は街灯のない一本道だったが、すこし歩いたら交差点があり、深夜の人通りは皆無だった。晴れた今日でもこれなのだから、雨の降っていた事件当日の目撃証言なんてないだろう。

「ここで、撃たれたのですね」

「あぁ、気がついたら肩を撃たれてたんだ。今までわからなかったが、ようやく夢遊病だってことがわかって安心したよ」

「心療内科の受診を勧めますよ」

 どんなに調べてもやはり何も出ない。既に警察が証拠等を持ち帰ったのだろうか。

「痛・・・」

 撃たれたであろう、右肩を押さえる。

「肩が痛みますか?」

「何故だが知らないが、二発撃たれて」

「二発?」

「一発目から少し経ってから、もう一発を」

 ケビンは肩の傷を見ることにした。38口径の跡とは別の、より大きな弾痕があった。

「このことを警察に話しましたか?」

「あぁ。まだ捜査中だと聞いているから、詳細は知らないが」

 報告書には確かに2つほど弾痕があることは記載されていたが、口径が違うとは書いていなかった。推測だが、M19とは違う銃を使って彼を撃ったということだ。

「ご協力ありがとうございました。もう遅いので送りますよ」

 

 

 

 

 翌朝。ケビンは肩の傷のサイズを思い出しながら円を描いていた。いつ見ても38口径のサイズではない、どちらかと言えば、7.62NATOのサイズだ。ライフル弾を使ったとなれば、例え豪雨だったとしても、市街地で撃てばそれなりに響くはず、にも関わらず誰も聞いていないとなれば、サプレッサーをつけていたとなる。

「犯人はなぜ、彼を撃ったんだ?逃げる最中だったのか?」

 地図を見てもライフルで撃てば間違いなく貫通する。しかし、現場付近には落ちていないとなれば、どこかに残っているはずだ。再び現場に行き、撃たれた場所から真っ直ぐ進むと、T字路に出る。すると一か所だけ壁の色とは違うことに気がついた。よく見てみると、弾丸らしきものが埋まっている。持っていた爪楊枝で掘り出した。道路をよく見ると、跳弾したあとも残っていた。

「これは・・・やはり7.62NATOだ。誰かが狙撃したってことか?」

 傷の入射角の違いから、屋根の上から撃ったものだと判断し、違う人間が彼を狙ったと判断する。

「どうせなら、頭狙うよな。なんで肩だったんだ・・・!?」

 何者かが自分を狙っていることに気がついた。目線の先にFRF2スナイパーライフルを持った男がいた。しかし、彼は感ずかれたからか、急いで逃げ出した。

「待て!」

 ケビンは後を追う。想像以上に相手の足が速く、見失うことこそないが、なかなか追いつけない。仕方なく足に数発発砲し、そのうちの一発が命中。派手にこけたところを取り押さえた。

「誰だ!答えろ!」

「俺はフランクリン、フリーのスナイパーだ!アンタあの時の犯人じゃない、だから逃げたんだ!」

 拘束を解き、落ち着いて話すことにした。

「どういうことだ。被害者を狙ってたんじゃないのか?」

「あの日本人には悪いことをした。俺の腕が悪いばっかりに誤射を・・・」

「まさか。犯人探すために、この場所を張ってたんじゃ」

「あぁ」

「なぁ、ターゲットの写真、まだ持ってないか?」

「持ってる」

 写真を見せてもらった。どこからどう見てもヤクザの組員にしか見えない、強面の男。

「こいつは真鍋功男。野嶋組の構成員を名乗っていたが、実はマーキュリーセキュリティーのスパイだったんだ。組の資金持ち出しで逃げ回っている。今回あの日本人を撃ったのも奴だ。先回りしたのはいいが、狙いが外れたんだ・・・」

 フランクリンのFRF2の手に取る。

「なぁひとついいか?」

「?」

「これ、ちゃんと整備してんのか?サイトがガタついて合ってない」

「・・・金欠で・・・」

「そんな銃でよく撃てたな。俺に相談したら、ガンスミス紹介したのに」

 ケビンは自分の名刺を渡した。

「これからどうしたらいいか、よく考えな。俺は奴を探すといい」

 

 

 

 

 肝心の真鍋を探すため、野嶋組に足を運んだ。野嶋組組長、野嶋源五郎とは品川時代からの付き合いで、組内の揉め事やペットのカモの散歩などで信頼を得ていた。

「菊地さん。組に顔を出すとは、いかがしました?」

 ヤクザとは思えない、物腰の柔らかい老紳士が迎えてくれた。彼が野嶋源五郎だ。

「組員の、真鍋功男に会いたいのですが」

「アイツとは絶縁しました。あのマーキュリーセキュリティーとやらのスパイだっただけでなく、組の資金をネコババするとは・・・」

「しかし、どうしてまたそんな奴を組に入れたんですか?」

「相原の学生時代からの悪仲間だと言うので、好で入れました」

「相原?ここの若頭補佐のですか?」

「えぇ。ですが、相原は真鍋を探すと言ったきり、帰って来ないのです」

「帰っていない?」

 ケビンは捜査資料を思い出した。交差点に車のブレーキ痕があったことを。

「失礼ですが、園田宗治襲撃事件の日、相原はどこにいましたか?」

「あの雨の中、車に乗って真鍋を追っていましたね」

「相原はもしかしたら、真鍋と組んで金盗む手筈だったんだと思いますよ」

「なんだって!?」

「明らかにおかしいです、そんな都合よく消えますかね?今頃マネーロータリングして、自分たちで山分けでもしてるのでしょう」

「・・・思えば、相原は常に真鍋と一緒に行動しておりました。下っ端の仕事も手伝うようなこともありました」

「早く見つけて、金を返してもらいましょう。それに、あいつらはカタギを撃ったのですから、ケジメつけてもらわないと」

 

 

 

 

 組事務所を出たケビンは、根岸から電話を受ける。

「どうしましたか?」

「さっきフランス人が自首してきてな、相原と真鍋の情報を教えてくれた。ケビン、住所を送るからそこに行ってくれ。くれぐれも派手にやるな、なるべく非殺傷で」

「わかった」

 住所どおりの場所に向かうと、昼間にもかかわらず薄暗い裏路地。レミントンR5を取り出し、慎重に足を進める。少し脇を見ると通りすがるように何かの取引をする様子も見られる。

(野嶋さんは麻薬や武器が嫌いだった。まさか、それらを仕入れる資金だったのか?)

 角で話し込む人間がいる。

「リーダー達やりますね、これで商売できますよ」

「まさか組から金持ってくるとは、思わなかったぜ」

(やり過ごすか、いや)

 Px4に持ち替え、サプレッサーを取り付ける。早業で脳天を撃ち抜くと、死体のポケットを漁る。予想通り白い粉の入った袋があった。

(これの売買のために、撃たれたのか)

 それを捨て、行き止まりのような場所にあるビルに入る。地下に続く階段を下りると、予想通り、M10を武装した護衛と、金勘定する相原と真鍋の姿があった。

(ここで終わらせてやる)

 ケビンは堂々と現れ、護衛の脳天を撃ち抜き、R5の銃口を二人に向けた。

「ななな何だよアンタ、人に銃口向けるなんて、どうかしてるぞ!」

「そ、そうかわかったぞ、アンタ、俺たちの商売を奪いに来たんだな、そうだな」

「何故野嶋組の資金を奪い、カタギを撃った?」

「ああああれは事故だ、金奪って逃走してるのを見られたと思ったから、でも、ハジキ壊れてヤバイと思ったら、迎えに来た兄貴がリボルバーで撃ったんだ!」

「私達はこういう商売で生活してるんだ、ひとりやふたり、撃ったって別にいいだろ。アンタもこちらの人間なんだ、そのくらいわかってるだろ!?」

「なるほどな。・・・貴様らと同じにしてもらいたくなかったな!」

「「!?」」

「確かに俺の手は血で汚れている。だがな、無駄な殺しだけは絶対にしない。自分たちの利益のために簡単に人を殺せるほど、残酷な生き方は出来ないんでな」

 直後。突入した警察隊によって、相原と真鍋は逮捕され、役目を終えたケビンはその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛と海未をラーメン屋に呼び出し、ケビンは事件解決を報告した。しかし、二人は浮かない顔だった。

「・・・どうした、食欲沸かないか?」

「探偵さんに、危険な仕事をさせてしまったことに罪悪感が・・・」

「いいんだよ。俺の仕事は、普通の人間じゃ出来ない仕事だ。報酬はもらってるし、君の父上は睡眠外来で治療を受けている。いいことじゃないか」

「でも、間違えたら死んじゃうところだったニャ」

「覚悟は出来てるさ。それに、君達みたいな子に迫る脅威から守るのも、俺の仕事だしな」

 注文していた鶏チャーシューラーメンが来た。

「さぁ気を病んでる場合じゃない、食べよう」

 この後、アフターケアーの一環で、二人にほむまんもおごることにした。

 




 少し、長くなってしまいました
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