事務所の前にハマーを改造した車が停まった。ボディやガラスは防弾仕様でタイヤも軍用のモノを使っているタイプだ。
「これで街を走るんですか?尾行できそうにないですね」
「これは遠征用だ。もう一台も送られてる」
次に来たのはクラウンだった。もちろん防弾はバッチリだ。
「駐車場大丈夫なの?」
「もう借りてる」
駐車場に停め直すと、早速事務所に入り、仕事に戻った。何も依頼が来ないため、早めに昼飯を取ることにした。
いつも通う飯屋に入ると、ミコトも一緒に入ってきた。
「先生、同席いいですか?」
「いいよ。今日はいつもより上機嫌じゃないか?」
「モモちゃんが退院したんです。嬉しくて」
「そうか」
この日は気分を変えて丼ではなく、カレイの煮魚定食を食べる。
「あれ、いつものと違いますね?」
「時にはいいだろう、俺も健康に気を使ってるんだ」
「先生はお魚好きですから、そこは外さないんですね」
「まぁね」
のんびり食べていると、見たことある少女が店に来た。以前沼津で出会った、国木田花丸がいた。
「どうしてここにいるのでしょうか?」
「夏休みで遊びに来てんだろう」
「でも、ここに来ますかね。ファミレスもあるし、名物のメイド喫茶もありますよ」
「後者はともかく、彼女がここにいる理由がわからんな」
「何話してるんですか?」
いつの間にか花丸が二人に近寄って来ていた。
「おら探偵さん探してたら、事務の人からここにいるって聞いて来たんだずら」
「・・・つけてた?」
「はい」
「・・・飯おごるから、話を聞くよ」
花丸がケビンに会いに来た理由、それは意外なものだった。なんと、黒澤ダイヤがμ’sの絢瀬絵里のサインを旅行ついでにもらって来てほしいと頼まれて、仕方なく秋葉原に来たのはいいが、いかんせん困ってしまい、悩んだ結果、ケビンにお願いしようと考えたそうだ。
「ルビィちゃんのお姉さん、変わってると思ってたけど、ここまでとは・・・」
「なんだろう、生徒会長って変人しかいないの?」
「そういえば生徒会長だれ?」
「高坂穂乃果」
「わぉ」
飯を食べ終え茶を飲んだ。
「探偵さんお願いします、代わりにサインもらって来てください!」
断る理由も無いため、色紙をもらい、絵里に電話した。
神田明神前で待ち合わせ、絵里にサインペンと色紙を渡した。
「・・・探偵さんも大変ですね」
「まぁボランティアみたいなものだよ」
以前の危ない一面が嘘のように穏やかなケビンを見て、思わず笑ってしまう絵里。
「どうした、俺の顔に何か付いてるか?」
「危険人物だと思ってたけど、全然違うって思ったんです」
「できるなら、銃なんて使わない仕事がしたいさ。でもそれが許されないみたいでね」
笑顔でサイン色紙を受け取り、花丸に電話する。
「サインもらったよ。これから帰る」
途中で二人に合流し、彼女を紹介した。ミコトに限ってはにらみを利かせている。
「おら国木田花丸です、Aqoursっていう、スクールアイドルしてます」
「二宮ミコトです。ケビン先生の助手をしています」
「よ、よろしくね・・・ずいぶん個性的な方々ですね」
「俺に言われても」
秋葉原を観光案内していると、すっかり夕方になり、彼女をホテルまで送ることにした。クラウンのカギを開け、絵里を除く3人は乗り込む。
「私はここで。お疲れ様でした」
「じゃあね」
ホテルまでの道中、帰宅ラッシュに巻き込まれる。助手席のミコトがケビンに話しかけた。
「寝てますね、花ちゃん」
「そうだね。初めての東京だったから、疲れててもおかしくないよ」
「・・・あの子、ファンに追い回される可能性あるのにアイドルやる勇気があるなんて、すごいと思ったんです。私もそれについては覚悟してました、しかし、信じていたマネージャーがモモちゃんにカメラ仕掛けて私生活覗いてただけでなく、貞操まで奪おうとしてたなんて、思いもしませんでした」
自分がアイドルやってる頃を思い出したのか、窓に映る街並みを見ている。
「でも同じ女の子だったんですね。寝顔見てると、そう思ってしまって・・・」
「戻りたいか、芸能界に」
首を横に振る。
「そっか。君の決めたことだ、俺がどうこう言うことはないよ」
信号が赤になり、前の車が動いたため自分達も動く。10分後、渋滞地点を抜け、行先のホテルに車を止めた。
「ふぇ・・・着いた?」
「着いたわよ、部屋に入ったらゆっくり休むといいわ」
「今日はありがと、また会えたらいいずら」
花丸が車を降り、ホテルに入ったのを確認すると、再び発進しようとしたその時、オマルから電話が入る。
「俺だ」
「ケビンですか。今日も飲みに行きたいのですが」
「お前そういえば酒大丈夫なのか?宗教的に」
「ふふふ・・・日本に来た際に、もう棄教しました。確かに宗教は心の支えになりますが、行き過ぎると過激になりますからね。だったら、そんなモノは捨てた方が、世のためでしょう?」
「そんなパキスタン人初めて見た」
「この前行った店に来ませんか?ミコトさんもぜひ」
二人は待ち合わせの居酒屋に入り、オマルがいるテーブル席に座った。既にジョッキを握っており、顔も真っ赤だ。
「お疲れ様です。まさか観光案内の仕事するとは、探偵というより何でも屋ですね」
「ジョークとして受け取っとく」
バイ貝の含め煮を取り、爪楊枝で殻から身を抜き出し、それを口に入れる。
「バイ貝いいですね。気に入りましたよ、ケビンも良い店選びますね」
「これでも食にはこだわりがあるんだ。この店は特に魚介に強い」
「先生って、こういう店に入るんですね」
「まぁね、俺も飲みに行きたいって思うことあるよ」
硬派なケビンにはあまり似合わない、乳酸菌飲料を頼む。
「そういえばミコトさん。ケビンのどこを気に入ってるのですか?」
「その・・・照れくさいのですが、一緒にいて安心するんです。優しくて強くて、何より私が生きてこれたのも、先生のおかげですから」
「?ケビン、彼女何があったんですか?」
「彼女な、実は俺と会うまでは一人ぼっちに近い状態だったんだ。初めて会った時は暗い表情で部屋の隅でじっと座って、寂しそうだった」
頼んでいたものがテーブルに置かれ、それを口にする。
「担任の先生からは誘拐未遂されたり、同級生からはからかわれたり、少ない理解者であろうマネージャーに貞操奪われかけたりと、すさんでいくのも納得がいくよ」
「・・・辛かったですね」
「でも、先生はいつも側に寄り添って話を聞いてくれた。だから、私も負けないように頑張れたんです」
「ケビン・・・良い仕事しましたね」
「俺はただ、女の涙を見たくなかっただけだ」
グラスに残ったものを一気に飲み干した。
「こういうところも好きですよ、せんせ」
「モテますねケビン?」
「ったく、茶化すなよ」
その後楽しい時間は過ぎていき、時計をふと見ると時間的に条例違反になりそうなので、ケビンはミコトをマンションまで送るため、オマルと別れることにした。
ミコトを送ったあと、事務所に戻ったケビンは2階にある住居スペースに上がり、PCを点けメールを確認する。特に何もないためシャットダウンし、自分の寝室に向かい、窓を開けた。
「今日は平和に終わったな。こんな日が続くことを祈ろう」
部屋の明かりを消し、ベッドに横たわった。
目指せ神宮寺三郎ですが、どうしても彼には近づけない・・・