21:00東京・調布にて、とある殺人事件が起きた。被害者は本庄潔、地元で有名な暴走族の一員の少年だ。遺体には右頸動脈を切られており、プロによる犯行と判明した。
「またか。これで3件目だな」
「おとといも昨日も、彼のようなクズ達が狙われていますね」
「板倉、仏に鞭打って楽しいか?」
板倉と呼ばれた若い刑事が頭を下げる。
「す、すいません。言葉を知らないので」
「全く・・・次から次へと・・・どうなってやがる」
親子ほど歳の離れた二人の刑事が発見者に事情聴取しようとしたその時だった。どこからか銃声が響いた。
「なんだ!?」
「こっちです、先輩!」
音のした方に駆け付けた先にいたのは、脳天を撃ち抜かれた一人の男性の遺体だった。周辺を見渡すがやろうと思えば登れる壁が左右あり、どちらに登ったかわからない。板倉は壁を越え、探してみるも、誰もいないと報告する。
「ホントに、どうなってんだ!?」
翌日。連続殺人事件の捜査指揮を執っていた眼鏡の似合う長身の警視、大村益次は知り合いの根岸に電話した。
「根岸、ちょっといいか?」
「なんですかな、電話とは珍しい」
「お前の頼りにしてる探偵の連絡先教えてくれ。鑑識もお手上げなんだ」
「私もあの事件を担当していたら、彼の力を借りるでしょう。一度だけですから、覚えてくださいよ」
大村は昼にケビンの事務所を訪ねた。
「根岸さんから聞いています、調布の連続殺人事件を解決してほしいとか」
「その通りだ。共通して不良グループのメンバーが襲撃され命を落としている、殺害方法はバラバラだ。昨日は近くで2件発生してどちらもアナコンダっていう暴走族のメンバーだった」
「(個体がデカイから群れ造んねぇよアナコンダ・・・)そうですか。捜査資料に被害者のリスト、検死結果のコピーをください。あ、送らなくても俺が署まで行きますから」
「引き受けてくれるのか?」
「えぇ。ただし、これで手を打ちます」
ケビンは手のひらを見せる。
「50万で引き受けましょう。ただし、成功報酬ですから、後払いで」
「おぉありがとう、早速来たまえ!」
「落ち着いてください。少し準備があるので、外で待っててください」
大村が乗ってきた車に待機して数分後、釣り竿ケースの肩にかけたケビンがノックする。
「ちょっと、釣りなんて呑気なことを」
「仕事道具が入っています。お気になさらず」
中身が銃だと言ったら疑われると思ったため、あえて話さない。警察署に着くと、ケビンは署内の受付付近で待たされた。
「待たせたな。これが注文品だ」
「ありがとうございます、これから現場に行くのですが、入っても大丈夫でしょうか」
「一応調べは終わってるから、見ても大丈夫だ」
ケビンが現場で確認したのは、周囲の環境だった。街灯が多く、人通りもあるため辻斬りができるのか疑問に思った。発見された21:00、第一発見者は夜中に散歩していたという。彼によれば最初、酔っぱらいが壁に寄りかかって寝ているように見えたらしいが、肩に触れた途端抵抗もなく倒れ、街灯の灯りが首の傷を照らしたらしい。現場も実際、街灯の近くだ。
「・・・なんだこの違和感は、不自然だ」
壁を確認する。資料によれば壁に血液が付着していない。
(発見者の話によれば被害者は傷のある右側に傾いていたってことだ。なのに血液が付着していない。急所を切られれば当然、墳血し周辺に散る。それがないと言うことは、別のところで殺され運ばれた可能性が高いな)
近所で聞き込みをし、アナコンダの評判を聞くと、案の定最悪で夜中に走り回るだけでなく、年寄や女子供を理由もなく攻撃したり、スリや恐喝も行う、アウトローのひとくくりでは表現できない連中らしい。
(とんだ奴らだな)
今度は宏美に連絡し、アナコンダのたまり場について調べてもらうことにした。
「あったわ。街の外れにある廃工場を寝倉にしてる、まさかそこを攻撃する気?」
「いや、事情聴取に行く」
街外れの廃工場に行った。見張りらしい橙のジャージを着た男二人に声をかける。
「本庄潔について聞きたい」
「あ?てめぇ何様だ?」
胸倉を掴まれる前に相手の腕をへし折り、もう一人に殴りかかられるが、顎への一撃で気絶させる。
「貴様じゃ話にならん、頭に会わせてもらう」
もがき苦しむ相手を踏みつけて黙らせ中に入った。案の定、複数人に囲まれる。
「ガキが・・・どけ!」
一斉に襲い掛かるが、一人にボディーブローからの肩車で投げつけ、一網打尽にすると、Px4を抜く。
「な・・・なんだよコイツ!?銃持ってやがる」
「落ち着け、エアガンだって」
男の足に照準を定め、引き金を引く。アキレス腱が切れる激しい音が響いた。
「死にたくないなら騒ぐな、お前たちの頭はどこだ?嫌だと言うなら、ここで死んでもらう」
「ヒィ!」
自分の命が惜しいのか、命乞いを始めた。ケビンは内心彼らを侮辱する。
「ししし新城さんは八王子のブルドッグっていう、奴らに遠征してます。そろそろ帰ってくるのではないかと」
その時だった。外から100台近くのバイクから発せられる轟音が鳴り響いてくる。
「アンタ。俺達に殴り込みなんて良い度胸だな」
「新城さん、コイツ銃を」
「黙れ!お前ら、こんなおっさんに負けたのか?ここから出て行け!」
外に取り巻き達を待機させ現れた、生傷の多い長身の男、新城欽也。
「アンタ何者だ?カタギの空気しないぜ」
「トライデント・アウトカムズのケビン菊地だ。今回、本庄潔の件について聞きに来た」
「いたなそう言えば。あんな雑魚、用済みだから」
「仲間意識ってもんが無いんだな」
「ここにいるのは、喧嘩の強い奴だけだ。寝てる見張りをボコし、クソどもを一蹴する実力は認めてやる。ウチに入れよ」
「生憎だが俺は仕事が忙しくてな」
男二人がにらみ合っている。
「もし死んだ原因が、背後からの暗殺だったら?」
「はっくだらねぇ。そんな殺され方されちゃ雑魚も一緒だ」
「そうか・・・それなら、アンタも一緒だ」
「なんだと?」
「どんな人間でも、気づかれずに急所を攻撃されりゃ死ぬ。しかも首を切るなんて正面からじゃ難しい」
欽也はナイフを抜きケビンに襲い掛かった。しかし、動きを見抜かれ躱される。Px4をしまい、マーシャルアーツの構えを取った。
「死ねや!」
欽也の攻撃を全く反撃せず躱し続ける。彼は点と線、両方の攻撃をするがケビンには全く通用していない。
「お前の攻撃はパターンが変わらん、それじゃ相手に読まれる」
今度はケビンがキレのある蹴り技から、肩を掴みヘッドバッドで欽也を気絶させた。取り巻き達は青ざめ、全員腰を抜かした。
「よく聞け、今日で解散を宣言する。文句あるやつ全員射殺するから覚悟しろ」
彼らの足元に石のような球が転がってくる。それに気がついたケビンがとっさに地面に伏せた瞬間、大爆発を起こし、外で待機していた全員が爆死した。あまりの恐怖で生き残った男達は逃げ惑った。
「うぅぅぅ・・・な、なんだこりゃ!?」
「何者かが手榴弾転がしやがった。新城、これでも雑魚って言えるか?」
「言えねぇよ!ととっととにかく、俺を助けてくれ、なんでもするから!」
「・・・二度と住民に迷惑をかけないこと、社会貢献するってんなら、引き受けてやる」
威厳が無くなり完全に怯えまくっている欽也を仕方なく連れ帰り、一時的保護することにした。
「彼がアナコンダのリーダー?カッコ悪いわね」
「こんな男に苦しめられた住人が惨めですね。私ならゆすってフルボッコにしてしまうのですが」
宏美とオマルに過小評価されるが、事実なので言い返せない。
「しかしケビンは甘いですね、どうしてこんな男を保護するのですか?」
「コイツの配下、M67手榴弾で殺されたんだ。しかも俺の目の前で」
「なんと・・・あれは安くて簡単に殺せるから、カタギが持っていい品ではないですよ。したがって敵は我々の同業者か、ヤクザか」
「あるいはそういう連中から買ったか」
「・・・明日は私が調布に行って、変わった動きがないか調べてみましょう」
「頼めるか?俺は警察に行って保護申請してもらってくる」
だが、警察は取り合ってもらえない。昨日の事件も事故として処分されたらしく、彼が保護される理由がわからないとのこと。だが、ケビンは不審に思った。明らかに彼らを消し炭にしたのは手榴弾であり、その破片も残っているはずである。にも関わらず事故として処分されたのだ。
「俺どうしたらいいんだよ、死にたくねぇよ」
「いいか、お前は殺されても同情できないようなことを平然としてきたんだ。今さら命が惜しいとか抜かすな」
「でも」
「命が惜しいなら、端からそんなことするなバカが」
結局連れ帰ることにしたが、警察署から出てきたところを狙撃され、欽也は帰らぬ人になってしまった。ケビンは柱を遮蔽物にし様子を見ると、近くのアパートの屋上から何者かが急いで脱出するところを目撃する。急行するが、既に逃げられていた。
「くっそ」
一旦警察署に戻り、事情聴取を受けることにした。ケビンがシロだということはわかっていたため解放されたが、彼らが役に立ちそうにないため、独自で調査する方針を続けることにした。
21:00に現場の本庄潔と連続してあったという別の事件現場を歩く。とても閑静で事件とは無関係とも取れた。壁の向こうにあった茂みで何か拾った際、ケビンの背後に誰かがついて来ていた。
「俺に用か?」
振り向くと、フルフェイスのヘルメットを被り、鉄パイプを持った何者かが襲い掛かってきた。攻撃を受け止め、腹への一撃で怯ませると鉄パイプを叩き落とす。それでもなお、素手で殴りかかってくるため、頭部への回し蹴りの一撃でダウンを奪い、無理矢理ヘルメットを脱がせた。
「!?お前は」
「くっそ、探偵がこんなに強いなんてな・・・」
大村だった。
「どういうことだ?」
「俺がアンタが怪しいと思った。だから襲った!」
「・・・ウチの規則、3つ教えてやる。殺しの依頼は受けない、怪しい依頼は受けない、悪党の依頼は受けない。その3つだ。それに俺は事件発生時には飲み屋で飲んでたぞ、ちゃんと調べたか?」
「な!?」
「したがって、俺が殺害したなんて考えられない。検討違いだな」
一息つくと、話を続けた。
「それと、前の立て続けに起きたやつ、本当に連続だと思うか?」
「なんだと!?」
「アンタのところの刑事が最初に見つけたんだってな。報告書、信じられるのか?銃声したのに弾丸が遺体からも周辺からも残っていないって」
「確かにそうだが・・・」
「簡単だ。犯人は予め別の場所で殺しておいてそこに捨てる、次に銃声を録音したボイスレコーダーをセットしておいて、あたかも連続して起きたように細工したんだ。どうせ検死してないだろ?」
ポケットからボイスレコーダーを取り出し、それを大村に渡した。
「じゃあ、誰が犯人なんだ?」
「それ調べるのは警察の仕事だろ。まぁ、俺も俺で調べるさ」
そう言って、ケビンは闇へと消えた。
珍しく進展しないため、落ち着くために穂むらに足を運ぶことにした。
「いらっしゃいま・・・あ、探偵さん!」
「あれ、店番かい?」
割烹着姿の穂乃果が店番をしていた。
「この前はありがとうございました!」
「仕事だから気にしないでくれ。それはそれとして、席空いてるかい?」
案内された席に座り、ほむまんを口にする。
「どうしたものかな・・・」
「探偵さん。元気ないですね」
「また厄介ごと引き受けてね、考え事してたんだ」
「いつもバンバーンって、決める人だと思ってましたけど、悩むことあったんだ」
「おいおい俺がまるで何も考えずに行動してるみたいじゃないか」
苦笑いするケビン。
「穂乃果、憧れちゃいます。だってカッコ良くてクールだもん」
「そうは思わないな。一見カッコ良く見えても、裏じゃとんでもない悪党だったり、中身のない人間だったりするもんだ。見た目じゃ何もわからんものさ」
静かにお茶を飲むと、ふと脳裏によぎった。
「・・・いたな、皮被った悪党」
「え?」
「君じゃないよ。いたんだよ、近くに犯人が」
その日の夜、ケビンは元アナコンダのアジトに犯人を呼び出した。
「アンタは報告書に銃声を聞いたと書いた、だが弾丸がどこにも見当たらない。そりゃそうだ、別の場所で殺して捨てたんだからな。二人を殺したのはここだろ、この廃倉庫だ。ここなら銃声が響いても誰も駆け付けない。違うか、板倉?」
「それだけじゃ犯人と決めつけられませんよ探偵さん、証拠はあるんですか?」
「銃声だよ」
「?」
「ここの廃倉庫は音が反響する、しかも銃の種類によって音も違うんだ。38口径と45口径じゃ弾速が違う、知ってたか?」
懐からボイスレコーダーを取り出し、犯行時刻に聞いた銃声が響いた。まるで小さなコンサートホールでパーティークラッカーを鳴らした音がする。
「45口径ならもっと太い音がするぞ」
「ここで録ったって証拠と違うんじゃないですか」
「あるぞ。まだ再生中だ」
銃声から30秒後、バイクのエンジン音が聞こえる。そこで終わるがケビンは満足そうだ。
「実はそのトリックは一人じゃ無理だ。だから組んだんじゃないのか、新城とさ。仏二人の共通点、アイツとトラブル起こして脱退寸前だったらしいじゃないか」
ケビンは話を続ける。
「それにアンタ、新城とクラスメイトでつるんでたんだって?悪い連中ともその頃からの付き合いらしいじゃないか」
遅れて大村と他の警官がパトカーに乗って駆け付けてくる。
「板倉、もう言い逃れはできん。手榴弾を売りつけた人間を逮捕した。そいつが吐いたぞ!」
「まだだ!まだ弾丸が見つかってない!」
「・・・それなら見つかったよ、ソファの中に入ってたのを、頑張って探ったんだ」
袋に入れた弾丸を見せる。
「近距離で撃ったら貫通する。それを計算に入れなかった貴様の負けだ。それともう一つ、本庄を殺したナイフの形状と新城の持っていたナイフの形状が一致した上に何故かアンタの指紋も検出された。騒がせたのは、とんだ素人だったな」
板倉は腰にあるニューナンブを抜きケビンに向けるが、彼の投げつけた仕込み警棒が肩に当たり怯んだ隙に大村に取り押さえられた。
「全く手こずらせやがって。50万と迷惑料で合計60万を請求するぜ、調布署に」
事件は解決した。後日、アナコンダを壊滅に追いやった板倉を慕う住民の多くが裁判所に厳罰を控えるよう運動を起こした姿が報道されその様子は夜中でも続いたという。見ていられなくなったケビンはテレビを消す。
「まさか警察官の犯行だったなんて、信じられないわ」
「だが、行き過ぎた正義感は道を誤る。俺も気をつけないとな」
レミントンR5を解体し、いつものように手入れをすることにした。