PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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 ケビンは宮部と接点のある、UTXに向かっていた


17話  陰と影  後編

 UTX学園の経営・教員陣は混乱していた。何せ出資者の宮部がジャックされた病院におり、人質として囚われている。彼がいなくなれば学園の売りである将来の絶対的約束が資金不足を理由に果たせなくなる、つまり受験生がいなくなり経営が傾くためだ。彼自身を心配しているのではない。

「我々は彼の代わりを探すべきだと思うのだが、推薦できる人間がいるかね?」

 白髪の60代くらいの男、筆頭株主にして創立者の飯岡秀道はそう提案する。

「彼は出資だけでなく、候補生全体の振付を指導した実績があります。A-RISE発足の功労者ですよ、迂闊に新しい人間を採用するなんて」

「それを俗に老害というのだよ、重政君」

 飯岡より若い、40代の男性、重政伸彦。内心乱れるが平静な態度をとる。

「とにかくだ、彼をここから解放し、新しい風を吹かせたい。もちろん、私も同時引退だ、将来を君と大久保君に任せたいのでな」

 大久保と呼ばれた20代の若い男は驚いた様子で飯岡の顔を見る。

「結論は明日にしよう。もう遅いから解散だ」

 

 

 

 

 

 

 全員が立ち上がったその時、ドアから黒人と日本人が混じった男が現れた。

「お取込み中失礼します、トライデント・アウトカムズ日本支部長の菊地と申します。早速ですが、宮部氏と深く交流があった方々とお話をしたいのですが、よろしいですか?」

「菊地?・・・あぁ統堂英玲奈さんを助けてくださった方ですか?」

「えぇ。私ですが」

「そうでしたか、先日の礼ではありませんが協力します」

「ありがとうございます、では別室で一人ずつ話を聞きます」

 宮部と深く交流していた人間は飯岡に重政、声楽担当の大久保猿彦、化粧の濃い羽田弥和という50代の女性と30代の女性、野村ミカンの5人だ。ケビンは一人ひとりから彼の評判及び最近の彼の行動を知っているか否か聞いた。その返答がこれだ。

 

 

 

 

 

「宮部とは小学校からの同級生でしてね、良い奴ですよ。でもアイツ最近、腸にポリープが見つかりましてね。本人に聞くと嘘をつくのですが、これまた下手だからすぐにわかるんです。無論、通院してるのも知ってましたが、まさか人質になるなんて・・・」

 飯岡は宮部とは同級生だったらしい。だからこそ気づけたものがあると考えていいだろう。

「宮部さんとは私がここに勤めてからお世話になっています。いい兄貴分ですよ、爽やかな性格でしたが飯岡さんから聞くまで病気なのは知りませんでした。だって、60代とは思えないほど機敏に動けるんですよ、疑えませんって」

 勤めた時から世話になっていた重政は、彼のことを尊敬に近い目で見ていたことがわかる。

「あの爺さんは、ダンサーらしくさっぱりしてて頑固じゃないけど、デリカシーが少し欠けていて特に優木あんじゅって子は彼が苦手でしたね。最近の行動ですか?前までグイグイ飲みに行ってたのに、ここ最近じゃ飲みの席に出ること減ったことぐらいしかわかんないですね」

 大久保の証言から優木あんじゅと言う少女と揉めていた可能性が出てきた。彼との付き合いに関しての証言は得られなかった。だが、酒の席に出ていないことを知っている。

「確かにダンサーとしての才能は認めますが、口と態度が悪くて、女子生徒からの人気は低い殿方ですわ。私も彼が苦手というより嫌いです。最近の行動?そう言えば孫を探してるって話を聞いたことがありますよ」

 羽田の場合、上辺の付き合いだとわかる。憎しみの籠った話し方だった。

「プライベートでA-RISEの3人とよく宮部さんの話をしますけど、あんじゅちゃん以外は良い印象を抱いてました。ダンスに対しての情熱は人一倍でしたから・・・それ以外は特に変わった行動はしていませんが、時々休憩室で一人、悩んだ顔してコーヒー飲んでたところを見たことがあります」

 ケビンは聴取を終え、一目散に事務所に戻ることにした。証言をまとめるためである。

 

 

 

 

 

 

 

 事務所には尋問を終えたオマルが休憩していた。

「おや。遅かったですね」

「仕事が増えた。これから証言の整理と川良のことを調べる」

「そのことですが、意外なことがわかりましたよ。あのチンピラ、川良って男に依頼されて石間女医を自宅で殺害し、わざわざ千葉に運んで事故に見せかけて捨てたと言っていました。彼は解放し、今頃警察署に自首してますかね」

「川良が・・・やはり宮部は川良に孫探しを依頼し、真実を知った川良は金欲しさに殺人を依頼っか。・・・そうだ、どんな尋問したんだ?」

「ねこじゃらしを鼻に入れてくすぐっただけです。それなら拷問じゃないでしょ?」

「まぁ、そうだが・・・せっかくだし、一緒に証言をまとめてくれないか?」

 ボイスレコーダーに録っておいた証言を丁寧に聞き取る。聞き終えると二人は顔を合わせた。

「浮いた箇所があるのがわかったか?」

「えぇ。4番目の発言、気になりますね。ケビンが最近の行動って言っただけなのに、孫探しなんて単語、普通出ませんよ。それに、優木あんじゅって子に話を聞く必要性が出てきました」

「そうだな。3番目と最後の証言にも引っかかる」

 

 

 

 

 

 

 夜が明け、オマルはKSGをジャケットに隠し持ち、宮部の顔写真片手にUTX前で帰宅途中の生徒達に聞き込みを始める。数十分後、頭を抱えた。

「うーん・・・これほど評価が分かれるとは・・・」

 メモを確かめると、ある生徒は楽天的で芯の強い男と、またある人物は短気で口の悪い老人と言われていた。

(共通点はダンサーまたは振付師としては一流で、指導力は確かだったこと。誰に対しても平等に接していたこと。そして、最近疲れた様子なのを目撃されていたこと。独身だったこと)

 そう、誰も彼が家族がいたことは知らなかったのだ。

(やはり、4番目に発言していた羽田さんに話を聞く必要がありますね。さて、帰りましょうか)

「ちょっと、よろしいですか?」

 声をかけたのは茶色のロングヘアーに軽いウェーブ、清楚な顔つきの少女。

「あなたは?」

「優木あんじゅです。ここでは難ですので、別の場所で」

 

 

 

 

 

 

 事務所に案内すると、その地味な雰囲気が苦手なのか、とても緊張している。

「どうぞ、セイロンのチャイです」

 宏美が既に帰宅していたため、オマルが紅茶とクッキーを彼女に振る舞う。

「えっと・・・色黒の探偵さん・・・あ、あなたもですね?」

「もしかしてケビンですか?彼なら別の件で出ています。私で良ければ、話を伺いますよ」

「実はですね」

 依頼を話そうとした、その時だった。窓に銃創が沢山浮かび上がったのだ。RPGの攻撃も受け付けないほど丈夫な防弾ガラスだったため、彼女に物理的危害こそなかったが、とても怯えた表情でソファの陰に隠れた。

「大丈夫ですよ。ここは特別警備会社、ロケットランチャーとかで襲撃されてもいいような造りになっていますよ」

「ひっ・・・」

「先ほどケビンに連絡しましたし、事態は落ち着くでしょう。あなたの身柄は私達が保証します、お任せください」

 彼の優しい声に後押しされ、あんじゅは依頼内容を話した。3ヶ月前、自分達の振付担当だった宮部が突然やめてしまったことに不自然に感じた3人はこっそりと彼の周辺を調べた結果、隠し子がいて、しかも孫もいたことを知った。ここまではよかったが、孫である石間女医を調べていたところ、それぞれの家に脅迫状が届くようになり、中断しようと考えたものの引き下がろうとしない、リーダーの綺羅つばさに押され、仕方なく続けていたのだという。

「脅迫状の内容、覚えていますか?」

「石間を調べるな。それに加え、血の付いた羽毛も一緒に来たのを覚えています」

「なるほど。完全に殺す気満々ですね、でもどうして我々に相談なしに?」

「英玲奈も危険すぎるから、知り合いの探偵に頼もうって言っても聞く耳持たないので・・・」

「彼女が心配ですね。襲撃の可能性がありますので君はここで泊まってください、いいですね?」

 外はとっくに落ち着いており、銃創も新しく付いていない。

 

 

 

 

 

 

「ただいま。少し気になることがわかったぞ」

 襲撃者撃退から帰還したケビン。本格的に銃撃戦をしたのだろう、頬の傷がまた増えている。

「本来、宮部が持っているはずの株式が、一時的に全部石間女医に譲渡されていた。彼女が死んだことで戻ってきたんだが、何故か半分だけ売却していることがわかった」

「株式を売るってことは、権限を捨てることに等しいですね」

「そうだ。彼は成功の立役者だったにも関わらず、発言力を捨てる行動に出ていた。まるで去りたいような行動だ」

 ケビンはソファの近くにいる少女に気がついた。

「彼女は優木あんじゅさん。そう言えば、誰に襲われたか調べましたか?」

「もちろんだ。奴らは日本においては非合法のPMC、ファランクスの職員だった。言ってしまえば犯罪集団みたいな奴らに襲われたんだ」

「ファランクスと言えば、東南アジア系PMCでしたね。金とギャンブルをこよなく愛するクズ共の」

「なんだ知ってたのか?」

「先ほどのチンピラもそこの所属みたいでしたし」

「・・・ちなみに、相手は払い下げのAK74にドラグノフ、トカレフを装備していた。防衛省から直々に彼らを攻撃するよう指令が出ている。住所もわかってるから今すぐ行くぞ」

「彼女の護衛はどうするのですか?宏美さんじゃ頼りないですよ?」

「あんじゅちゃん、だったね?上の生活場所に移動してくれ。それと、俺らが帰ってくるまで誰も入れないでくれ」

「え、どこに行くんですか?」

「ここからは俺らの領分。聞かない方がいい」

 

 

 

 

 

 

 ケビンはR5を、オマルはKSGショットガンを手にハマーに乗り込んだ。北関東の田舎にある、古びた工場跡地に明かりが灯っていることがわかる。そこがファランクスの本拠地だ。

「主犯は生かしとけ、それ以外は・・・」

「わかってます。行きましょう」

 ドアを開け、フラッシュバンを投げ込み、室内にいた警備全員を射殺。派手な身なりの東南アジア系の男を捕らえ、ハマーに押し込めた。

「お前がショーンだな?何故我々を襲った?」

「俺らは雇われただけだ。アンタらがあの女医の事故を調べてるって知って騙し撃ちにしようとしたが、返り討ちになったんだ」

「さっき雇われたって言ったな。誰に雇われたんだ?」

 ケビンは聴取した5人と川良の写真をショーンに見せた。

「正直に話した方がいいですよ。嘘ついて逃げても、日本のSATやらがあなたを追いかけまわすでしょうしね」

「わわわかった話す・・・このババアとこの真面目そうな日本人だ」

 川良と羽田を指差した。これで誰が石間を消そうとしたのかがわかった。

「本当だな?今、ここに警察もやって来て証拠品押収もするから、嘘だけはつくなよ。それと、病院ジャックを辞めさせろ。あれはお前たちの部下だろ?」

「どうしてそれを?」

「勘じゃないぞ。病院の窓に東南アジア系の男達が武装してるってことを解放された患者達に確認を取った。だから今すぐに」

 ショーンは携帯を取り出し、部下に連絡を取った。その10数分後、犯人達は武器を捨て投降したと根岸から連絡が入った。

 

 

 

 

 

 

 後日、基地内から契約書の写しが見つかり、羽田と川良は逮捕された。何故、罪のない石間女医を殺すよう依頼したのか、それを聞いたケビンは背筋に寒気を覚えた。なんと、彼女の目的は宮部の所有していた大量の株式が目的であり、違法PMCに二人の殺害を依頼し消す予定だった。だが予想外なことに宮部を調べていた石間女医がそれに気づき、手に入れた株式を売却し、別ルートで接触した重政と野村に買うよう懇願したのだ。懇願したその夜、鈍器で殴られ殺され、事故死したように工作され捨てられたのだ。既に株式は重政・野村の手に渡っており計画は失敗、今度は共犯者の川良が通院している事実を利用し消そうとしたが、ケビン達の奮闘により阻止され、見事に捕まったというわけだ。ちなみに、川良は給料に不満を抱いていたため、羽田の誘いに乗っただけだった。

「・・・彼女、宮部さんのことを心配していたのか。医師としても孫としても」

「しかし、会社が欲しいがために人を殺せる人間がいるなんて、なんとも残酷です」

「そうだな・・・スクールアイドルの闇の正体、それは、UTX限定だがあまりにも貪欲な経営陣がいるという、下らないものだったんだな。だが、少女達の夢を壊しかねない、黒い影であることは間違いないだろう」

「恐らく、A-RISEの3人はとばっちりでしょうね。ケガが無くて良かったですよ」

 オマルは前日あんじゅが隠れたソファの陰を見ながらそう呟いた。




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