もしも一つでも違うのなら、素人か何かしら調べている人間だと思った方がいい
山梨県山中湖に、一人の男性の遺体が浮かんでいた。身分証によれば、宝諸秀樹55歳。実は彼、秋葉原署が脱税の疑いでマークしていたのだが、まさか遺体で見つかるとは思いもしなかった。休暇を満喫していた根岸は呼び出され、捜査に参加していた。
「どうして私も呼ばれたんだ?眠いんだけど・・・」
「とにもかくにも、過激派極道の宝諸が遺体で発見されてんですよ?しかも脱税の疑いかけられて自殺するタマじゃないです」
山梨県警の岩田という、ベテラン刑事が根岸を説得する。
「はぁ・・・でもさ、これ事故かわからないよ」
「遺体はウチで預かります。ウチの管轄ですから」
「わかったよ、何かわかったら連絡いれてね」
そしてこの日の夕方にさっそく電話が入った。検死の結果、鈍器で後頭部を数回打ちつけた跡があったため他殺となったものの、ひとつ疑問が浮かんだのだ、根岸はそれをケビンにぶつける。
「なるほど。噂では聞きますよ、頭もキレて戦闘力も高い宝諸が、あっさり殺されるなんてありえませんからね」
「それもそうだが・・・」
「資料、見せていただけますか?」
要点だけをまとめた資料をケビンに渡した。宝諸の持ち物は釣竿に身分証明証、餌入れにはオキアミが入っおり、新鮮で未使用だったと記されている。
「・・・根岸さん。もしかしたら、休めない可能性が出てきますよ?」
「え?」
「そもそも山中湖で殺されたわけじゃないです。海から運ばれてきたんでしょう」
「何故それを?」
「持ち物のオキアミですよ、海釣りでしか使われません。それを使って湖で釣りなんてしないでしょう?」
「!?」
「わかったら早速、捜査の指示を出した方がいいでしょうね」
「お、おう、それじゃ署に戻るよ」
根岸が出て行ったのを確認し、いつものようにソファに寝そべった。
同時刻。沼津では一人の少女がとあるものを防波堤で見つけ、それを手に取る。
「なんだろうこれ?」
35と書かれたタグが付いているロッカーの鍵のようなものを拾った少女、松浦果南は呟いた。それ以外は特に何もないので、落とし物だと思い、自分の住んでいるダイビングショップに持ち帰ることにした。
「・・・え・・・?」
帰ってみると、店中が荒らされている。
「さっきまで荒らされてないのに・・・」
店の奥に行くと、頭から血を流している祖父がうつ伏せになって倒れていた。生活スペースになっている場所でもタンスやら引き出しやらが開けっ放しになっている。
「おじいちゃん!」
「・・・果南、無事だったか・・・」
「何があったの!?ねぇ!」
「休んでいたら、男達が襲ってきて、いきなり店と家を引っかき回しやがった・・・宝諸某がどうどかって、因縁つけられて・・・すまん、疲れてしまった・・・」
祖父は眠ってしまった。何度も呼びかけても反応しないため、警察と救急車を呼び、十数分後、近くの総合病院に搬送された。幸い、命に関わるケガではないが、数週間入院するよう言われた。
翌日。彼女の友人である、黒澤ダイヤがお見舞いに来た。近くにいる果南から話を聞くことにする。
「どうなさったのですか?おじい様が入院したって聞きましたが・・・」
「私が留守中に襲われたんだ。宝諸って人が関係あるみたいなんだけど、何か知らない?」
「宝諸・・・ニュース見ましたの?」
「え?」
テレビをつけ、ニュース番組を見せた。山中湖で起きた、宝諸秀樹殺人事件について報道されている。
「あ・・・あぁ・・・」
果南の顔が青ざめていく。
「どうしましたの?」
「この人、一昨日、店に来た・・・竿もってたから釣りしに来たみたいだけど、そのあとは知らない・・・」
「お店も襲撃されたんですよね?」
「でも、何しに来たか知らないよ。だって、すぐ学校行ったんだし」
ダイヤは目を瞑り、良いアイディアがないか考えた。以前、父を救ってくれたケビンの顔を思い出す。
「果南さん、いい考えがありますわ。実は、優秀な私立探偵を知っておりますの」
「え?」
「ルビィが連絡先を知ってますわ。早速連絡させます!」
ダイヤはルビィに連絡し、ケビンに依頼するよう指示した。
そして15:00頃、秋葉原の事務所に一本の電話が鳴り響く。事務仕事中の宏美が出る。
「はい、トライデント・アウトカムズですが?・・・依頼?何かしら?・・・襲撃者の正体を知りたい?詳細を知りたいから、何処で待ち合わせるの?・・・わかった、知らせとくわ」
昼飯を食べ終えたケビンが帰ってきた。
「ケビン。早速依頼よ、沼津のダイビングショップに向かってくれるかしら?住所はこれね」
住所をメモした紙を渡す。
「依頼人の名前は?」
「黒澤ルビィちゃん。あなたの仕事ぶりに感激したから依頼したんですって」
「あの子が?ダイビングするのか?」
「違うと思うわよ。でも、そこで詳細を話すってさ」
「・・・武器、積んでいくか」
クラウンにR5、予備マガジン、スモークグレネードを積んだ。その様子を見ていた宏美。
「今日は軽装備じゃない、いつもなら戦争行くようなゴッツイ感じなのに?」
「おいおい、俺がまるで戦争主義者みたいだな。俺のモットー知ってるだろ?」
「銃は使わないに限るっでしょ?わかってるわよ」
「それじゃ、あとは自由にしてくれ」
車のエンジンをかけ、ケビンは沼津に向かった。
待ち合わせ場所に到着したケビンは車内で待つことにした。
(大まかな依頼内容、聞けばよかったな。それにしても、この地にも縁があるな)
左のサイドミラーを見ると、ダイヤとその友人らしき少女、果南がいる。
「乗りな。そこで話しよう」
二人を後部座席に乗せ、果南は簡単な自己紹介と依頼内容を確認した。
「・・・じいさん、大変だったね」
「探偵さん。その、宝諸って男は何者なのですか?彼が来た翌日におじいちゃんは襲われたんです」
「彼は今じゃ希少の武闘派極道だ。しかし、カタギを襲うってタマじゃないのは知り合いの刑事から聞いてる」
「じゃあ、誰が!」
「今から調べるし、君の護衛もする。それと、無くなったものはないのかい?」
「言われてみれば・・・ないですね」
「強盗じゃないのは確かだ。宝諸が何故、沼津に来たのかが鍵だな」
ケビンは車を総合病院に走らせ、果南の祖父に事情聴取することにした。病室には彼の他に、スーツ姿の男が座っていた。
「・・・どちらさん?」
「松浦果南のボディーガードをしている、菊地です」
「あぁ。以前黒澤氏を救った探偵の・・・沼津署の松井です」
「この様子だと、被害者は眠ってるみたいですから、また別の機会に話を聞きますよ」
「そうしてください」
松井はそのまま歩いて行った。だが、ケビンは彼の後ろ姿を見て違和感を覚えた。
「どうしたんですか?」
「あの男に気をつけろ、油断するな」
「え?」
「奴は完璧に刑事に偽装したつもりだが、詰めが甘かったな」
「言っている意味がわかりませんわ」
「彼が履いていたのは白い靴下だったんだ。スーツなら普通、紺か黒い靴下を履いてるから白なんて履かない、しかも刑事課の人間なら大抵スーツだ、そんなケアレスミスなんてしない。つまり、どこかでスーツに着替えた際、気づかれないと思って替えてないのがミスだったな」
まだ近くにいるであろう松井を追いかけることにした。彼に追いついたケビンは屋上に呼び出し、簡単な尋問を始める。彼の正体が刑事ではないことを証明する証拠を指し示すと、あっさり身分を偽っていたのを認めた。
「同業者?」
「松井は本名ですよ。俺は夕日探偵事務所に勤めている探偵です、トライデント・アウトカムズの噂は存じ上げていますよ。なんでも、銃の携帯を許可されているとか」
「その通り。文句あるのか?」
「いえいえ。日本で銃使うなんて、度胸ある方々だと、そう思いましてね」
「下手な変装して、何か調べてる人間の方が度胸あると思うがね」
皮肉たっぷりな態度を取る。
「ところで、何を調べてんだ?」
「何をって、あなたと同じことですよ。松浦果南の実家を襲撃した人間の正体です」
「・・・」
用が済んだと判断し、帰ろうとする。
「それと、沼津駅で怪しい人間達がロッカーの前に並んでいたんですがね」
ケビンは足を止めた。
「調べたのか?」
「それ以上は言えません。目上の同業者と共闘なんてしたら、プライドを溝に捨てるものですからね」
「・・・食えない奴だ」
振り向かず、そのまま建物内へと消えた。
車内に戻り、その中で宏美に電話して出張を命じた。
「オマルじゃなくて私でいいの?」
「アイツなら大丈夫だ。それよりも、頼まれたいことがある。松井っていう夕日探偵事務所に勤めている男を調べてもらえるか?場合によっては任務の障害になるし、護衛対象と一緒だと動きにくいところがあるからな」
「わかったわ、明日行くから」
「頼んだぞ」
電話を切ると、まず最初にダイヤを自宅に送り届けることにした。道中、特に問題なく送り、次に果南と共に宿泊先である小原鞠莉宅へ向かう。規模の大きさに息を飲んだ。
「デカイな」
屈強そうな黒服の男達に豪華な内装に加え、外にはヘリポートまであり、明らかに庶民とは違う生活をしていることがわかった。
「チャオー、果南おかえり・・・誰?」
ブロンドの良く似合う、イタリア系アメリカ人と日本人の血が混じった少女が現れる。
「トライデント・アウトカムズの、ケビン菊地だ。よろしく」
握手代わりに名刺を手渡す。
「あなたもハーフですか?」
「そうだけど・・・それがどうした?」
「ずいぶん、Coolな態度ですね」
「血が混じっていようが否か、関係ないからさ。ハーフだからって特別視する理由がない、違うかな?」
鞠莉の顔を見る。透き通った瞳に否定の文字は無かった。
「まぁいい。これから沼津駅に向かうから、もし問題が発生したら名刺の連絡先に電話してくれ。ここの警備、なかなか厳重みたいだから、その心配はないけどね」
そう言って、再び外に出た。
「ねぇ鞠莉。探偵さんが言ってたことホント?」
「セキュリティーに関しては本当ですよ」
そして沼津駅前。少し遠い駐車場に車を止め、いつ交戦してもいいように装備をトランクから取り出すと、駅内に向かう。流石に東京に比べると規模は小さいものの、それなりにきれいな駅舎だ。
「コインロッカーってこれか?」
外にポツンと置いてある、スピード証明の機械が隣あるコインロッカーを見つけた。送り届ける途中で受け取ったコインロッカーの鍵と同じ番号のロッカーに差し込み、回す。
(なんだこりゃ?)
入っていた封筒を取り、それを車の中で調べてみる。中には何らかの複数枚の見取り図があり、広い一階とは対照的に他のフロアが何処も似たような構造から、ホテルだとわかる。だが、どのホテルかまではわからなかった。
(内装はどれも似たり寄ったりだから、どこかわからん)
レンジャー時代にアフガニスタンのモスク内にいるテロリストを襲撃するために、モスクの見取り図を見たことがあったことを思い出す。作戦は成功し、ホワイトハウスから勲章が送られたのも、いい思い出だ。
「だが、意味のない襲撃は勲章なんてもんじゃない。これは怪しい」
封筒の裏を見てみると、O.Hと書かれている。
「なんだ、ホテルの名称か?」
ふとメールが来たアラームが鳴る。差出人は宏美だった。松井健三、元SITの探偵で掴めない人柄から、クラウドと呼ばれていたらしい。退職後、友人が営む夕日探偵事務所に勤め、今のところ華々しい経歴はない。
「そろそろ戻るか」
小原邸の一室を貸し与えられたケビンは、夜襲を警戒し、R5にマガジンを装填し構えていた。
「見て回ろう」
ケビンはあの見取り図を何に使うのか考えた。もし強襲計画に使うのなら、何かが足りない。懐にしまってあった見取り図を見直すと、あることに気がついた。
(一階のフロアに多くの線が引かれている。恐らく移動経路だ、どこの線も一か所から出ている。本数からして三人が玄関から襲撃し、そのままエントランスホールから窓辺に移動している・・・しかし、何故だろう、どう考えても死にたくて立てた計画じゃないか)
通常立て籠もり事件なら、狙撃されるような窓側ではなく、外からあまり見えない奥に移動する。それをしていないのだから明らかに殺してくださいと言っているようなものだ。したがって、プロの犯罪者が立てたとは考えにくい。
(もし死が目的なら、何故そこのホテルなんだ?自殺したいだけなら、山奥でも良いはずなんだが・・・)
ケビンは二通り考えた。一つは自爆テロ。中東で起こっていることの真似を日本ですればメディアで大きく取り上げるうえに犯人達の悪名が全世界に広がる。しかし、それなら他の特別警備会社の人間が動いていてもおかしくない。街を見た感じだと、それらしい人間が動いているわけではない。もう一つは保険金目当て。自殺では降りないことが多い生命保険の保険金を、警察か誰かが狙撃などで射殺すれば保険金が降りるという算段。確実に死ぬにはホテル内の誰かを人質にし、殺すよう見せかけることが大事だ。しかし、警察は基本的に射殺ではなく、逮捕が目的になる。特に日本ではその傾向が大きい。
(・・・これだけじゃわからん。もっと情報が欲しい)
そう考えながら廊下を歩いていると、照明が漏れていることがわかる。ノックし、ドアを開けると、果南と鞠莉が枕投げをしており、その枕がケビンの顔面に当たった。
「あ!ご、ごめんなさい!」
「良いんだ、無事なら」
気持ちを改め、警備に戻ろうとすると、見取り図の入った封筒が落ち、鞠莉がそれを拾い中身を見る。
「Oh・・・もしかしたら小原ホテルの見取り図かもしれません」
「・・・え?」
足を止め、彼女の顔を見る。
「実はホテル経営しています。その見取り図は、最近建てたばかりの駅前ホテルのモノなんです」
「なんだって!?」
ケビンはその後評判や強い恨みのある人間の心当たりを探る。しかし、彼女には心当たりがない。
「・・・これで見取り図の建物がわかったけど、何故、そこのホテルにしたかわからないね」
もし自爆テロなら近くに駅があるのなら、むしろそこを狙えばいい。そちらの方がメディアが食いつくからだ。この時点で自爆テロ説は消えた。
「確かに・・・」
「明日、おじいちゃんから話を聞きに行くけど、大丈夫かな?」