PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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 スキューバダイビングには免許が必要である。海には危険が多いため素人ができるものではないからだ


19話  巻き添え 後編

 面会に行ったケビンは驚いていた。宝諸はぶらりと寄ったダイビングショップに、2つのロッカーの鍵を置いて行ったのだという。隠し場所を聞かれ、知らないとシラを切った結果が入院というのだから、命あっての物種と同時に死ぬ覚悟を持った人間だとも思った。

「どんな連中だったんです?」

「若い男女だった。だが、近くじゃ見かけない顔でな、言葉も東京モンの声だった」

「訛りが無かった、と、捉えてもよろしいですか?」

「あぁ。外人さん、そう言えば、宝諸の奴、大切な何かを守るとか言ってたんだが心辺りはないか?」

「守るもの?」

 宝諸が家族を持っていることは誰からも耳にしたことがない。

「いえ。俺が知ってるのは、彼が釣り好きの武闘派ってだけです」

「そうか。・・・外人さんよぉ、耳を貸してくれ」

 ケビンは松浦氏に顔を近づける。耳元で何かを小さな声で話した。

「・・・了解しました。それと俺、一応日本人入ってますから」

「そいつは悪かった。あとは任せたぞ」

 

 

 

 

 

 学校帰りの果南とともにダイビングショップに入る。警察もこのころにはテープを張らずに解放していたため、自由に入ることができる。

「さて、実はじいさんから伝言があるんだ。宝物は生命線と一緒にあるってね」

「?どういうことですか?」

「これはちょっとした暗号だね。じいさんは生命線と呼ばれる場所に鍵を隠したんだ」

「・・・もう徹底的に探せばいいじゃないですか?」

「一つ、教えておくよ。こんだけ散らかっている室内で手あたり次第じゃ日が暮れる。今回一番の敵は思考停止だ、暗号の意味を考えてみるのが、近道だと思うよ」

 ケビンは思わずため息をついた。

「君は美人だが、もう少し知恵をつけないと命に関わるよ」

 隣にいる彼女見ると、真剣に考えているのか、頭を抱えているのがわかる。

「ねぇ一般的にダイビングってさ、どんなものを想像するかな?」

「・・・みんなが想像するのは、スキューバダイビングです。いわゆるタンク背負ってシュノーケル着けてやるやつのことかと」

「そうだね。それで一番大事な部分はなんだと思う?」

「うーん、やっぱり点検ですかね。ウチはレンタルしてますから、もし不備があったら命に関わります」

「そこにキーワードがあるんだ」

「え?」

「ここはダイビングショップだ。つまり、ダイビングするための道具に鍵を隠したんだ」

「は?」

「ところでロッカーの鍵のように小さいものを隠すには、どこが適切か」

 ケビンは唯一無事であったシュノーケルの口元と調べる。そこにはタグの付いた鍵が入っていた。

「あ!」

「まさかあんなところにあるなんて、盲点だったな」

 鍵をポケットにしまい、ようやく片づけに入った。彼が手伝ったおかげで早く済み、ほぼ元通りになった。

 

 

 

 

 

 その夜、果南の家で夕食を取ることになった。

「ねぇ探偵さん。あなたも海が好きなのですか?」

「叔父貴から釣り竿買ってもらってから、時折釣りに行くよ」

「じゃあダイビングしたことある?」

「あるよ。ソマリアで」

 日本に帰ってくる前、任務先のソマリアで海賊と戦った際、海底から進攻し海賊達を浜から追い出す作戦に参加した経験を話した。

「・・・あれは死ぬかと思った。武装せず敵の武器を奪って戦うんだから、ひやひやものだったよ」

 果南はまたしても首を傾げる。

「敵と戦うんだから、怖いのは当たり前でしょ?」

「確かに奴らは訓練されてたよ。一番怖かったのは・・・っと、ここは君に推理してもらおうか。俺は何故死ぬかと思ったかを」

「え?いきなりですか?」

「会話を振り返ってみると、答えが見えてくるよ」

 またしても必死になって考えている。

「うーん・・・どこがどう危険か考えればいいのよね?」

「そう。ヒントを言えば、ソマリアは非常に貧困が深刻な国家だ。だから基本的に物はお粗末だよ」

「もう、意地悪ですよ!」

 怒った顔でケビンをにらみつける。しかし彼は笑っていた。

「でも大ヒントだと思うな、俺は」

「何処がですか?」

「よく考えてみてよ。ソマリアの海賊達と戦う際、陸に上がって何をしたか思い出してくれ」

「確か、武器を奪ったんですよね。それのどこが?・・・もしかして、逃げたんじゃ」

「・・・物が粗末な国の銃を使ったんだ。だから、壊れやすい銃で戦ったってことだよ。実際に戦闘で一番怖いのは銃が使えなくなること、暴発や弾詰まりがそれだね」

「うわぁ・・・」

 ようやく理解したようだった。映画で壊れた拳銃使って死んだシーンを思い出してしまう。

「まぁ日本じゃ気にならないからいいが、それでも犯罪が凶悪化してる今日だ、俺のような人間が増えるだろうな」

 彼はどんな環境で生きてきたのだろう、そう考えてしまう果南。高校卒業してアメリカに渡るまでは、釣りと剣道が得意な普通の男子生徒として生きていたというのが答えなのだが、聞いても野暮と判断し、彼女は黙ることにした。

「飯食って終わったらロッカーを開けに行くから、用意してくれ」

 

 

 

 

 

 沼津駅に急行し、タグと同じナンバーのロッカーを開けた。ひとつはバラクバラが入っている紙袋、もうひとつは脅すために使うのであろうM19に似せたモデルガンが入っていた。手に取って見ると、恐ろしい事実を知る。

「こいつら、いったい何をしでかす気だ。実弾が込められている・・・」

「え?」

「本物とフレームの耐久度が桁違いだ。モデルガンで実弾なんて撃ったら、一発ならいいが二発目は高確率で暴発する」

「!?どうして、人がいないの?」

 ケビンはPx4を抜き、警戒する。まだ夜8時だ、確かに人気が無くなるには早い。すると、黒のスーツ姿の複数の男達が現れた。

「松浦さんですね。我々は宝諸組の人間です、ボディーガードさんの手にあるものを渡してもらえるか否か、聞いてください」

 このタイミングで何故、宝諸の部下達が現れたのか。

「どうしてモノが欲しいんだ?親を殺した奴らと関係あるのか?」

 ケビンが彼女を守るように前に出る。

「オヤジはそいつらが別の場所で集団自殺するのを、事務所に帰る途中、偶然見かけ救ってみせたのです。あれから説得とカウンセリングをしていたのですが、あろうことか組長の自宅に遊びに行ったフリをして睡眠薬入り麦茶を振る舞い、寝かされた際に殺されたのです。何故奴らが組長殺したかわかったのが最近、この沼津に行き、君のおじい様にロッカーの鍵を託したことを知ったのです」

 長身で右の頬に傷のある男が説明してくれた。

「つまり、俺を泳がせていたってことか?」

「えぇ。あなたの素性も存じ上げておりますよ、ミスターケビン」

「なぁ、聞いてもいいか?どうしてこのモデルガンに実弾が入ってんだ?普通に手に入る代物じゃない」

「簡単な話ですよ。オヤジ宅の引き出しに357マグナム弾があったんです、俺らは悪用されないか心配でしたが、このような結果になって残念になりません」

「つまり、アンタらは盗まれたモノを取り返し、親を殺した奴らに報復するのが目的か」

「察しの良い方だ。さぁもういいでしょう、早く渡してください」

「条件がある。そいつらは年寄りを病院送りにした卑劣漢共だ、俺が代わりに手を下す。それなら渡してやってもいい」

「・・・殺しはしないかもしれないっと。そう捉えてもよろしいですか?」

「場合によってはな。だが、ふざけたことしたら真っ先に始末するさ」

 モデルガンとバラクバラの入った袋を渡した。

「極道として少々気が引けますが、ありがとうございます。そして、松浦さん。申し訳ありませんでした」

 一斉に頭を下げ、彼女に詫びる。

「え・・・その・・・顔を上げてください、気持ちはわかりましたから」

 ようやく頭を上げた。

「ありがとうございます。ミスター、これが奴らの写真です」

 3枚の顔写真が渡された。

「では、失礼」

 男達は駅のホームへと向かった。どうやら電車で来たようだ。これでホテル占拠事件を回避できたが、まだ果南自身の身に危険が残っている。そう、彼女を襲った犯人達が再び襲い掛かる可能性があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 車に戻り、彼女の家に帰ることにした。

「そう言えばじいさん、いつ退院できるんだ?」

「数週間は入院します。でも今さら聞くんですか?」

「忘れてただけだ」

 先ほどの組員達には驚いたものの、こちらに危害を加えて来なくてよかったと、内心安堵していた。いくらケビンでもハンドガンしか持っていない状態で多くの男達を相手にするのは厳しいからである。

「とにかくそろそろ事件解決だろうね・・・おや?」

 ダイビングショップに明かりがついている。退院したとは考えにくいため、恐らく犯人達がもう一度入り込んで鍵を探していると見て、ケビンは彼女に車の中にいるよう指示し、トランクからR5を取り出し現場に向かった。

(誰であれ、じいさんと孫を恐怖に陥れたんだ、許されるわけがない)

 店内は荒らされておらず、住居スペースで動いていると判断し、R5を構えながら歩く。すると、果南の部屋から物を動かす音が聞こえた。ドアノブに左手をかけ、回し、勢いよく開けた。

「動くな!全員手を上げろ!」

 驚いた3人の男女はケビンに振り向き両手を上げた。全員写真の人物だった。

「聞きたいことは多いが、何個か絞ろう。何故、宝諸を殺した?」

「俺らの邪魔をしたからだ、死なないで生きていればなんとかなるって言いやがって!」

「私らはいろんな理由があって自殺サイトにアクセスして集まったの。でも、邪魔されて・・・その後自宅に招待されたり、下らない話を聞かされたり」

「イラついた僕達は計画を立てたんだ、飲み物に睡眠薬を入れて寝かせた後、バットで殴り殺して釣りに出かけて足滑らせて死んだことにするシナリオだったんだ・・・次の自殺場所候補に沼津だったんだけど、俺達焦ったんだ。宝諸が持っているであろうロッカーの鍵が、なかったんだ」

「・・・誰から、この家にあるって情報を聞いたんだ?」

「サイト運営者だ。あの人はたぶん、迷える子羊の僕達を救うために頑張って探したんだと思う」

 ケビンは運営者に心当たりがあった。彼らを扇動でき尚且つ松浦家の人間に平然と近寄れることができる人間がいることを。

「自分が死ぬためなら、他人を傷つけても平気だってことか?」

「俺達は、そんなつもりじゃ・・・」

「良いこと教えてやる。ただじゃ人間は死なん。覚えておくといい」

 果南が通報したのか、サイレンの音が近づいてくるのがわかる。そろそろ潮時と判断し、銃口を下げた。

「死ぬ前にちゃんと罪を償え、約束だ」

 

 

 

 

 

 

 黒澤家から報酬を受け取り、帰る前に病院に行った。護衛完了の報告のためである。

「そうか。孫を守ってくれたのか・・・」

「もう大丈夫でしょう。それと、ひとつだけよろしいですか?」

「・・・わかってる。あの松岡って奴とどんな会話したか、だろ?」

「話が早いですね」

「奴は鍵の在り処を聞いてきたんだ。シラを切っても切ってもしつこいからナースコールで出て行かせようと思った矢先にアンタが来たんだ、あの時は助かったよ」

「いえ、仕事だっただけですから」

 挨拶を終え、事務所に帰還し、早速テレビをつけると松岡が警察に連行されている映像が映った。3人が自白したのだろうか。それとも、警察のサイバー犯罪対策課が動いて調べ上げたのだろうか、だが、そこまで知る元気がなかった。

「お疲れ様。発端は松岡の趣味だったんですってね・・・死んだ人間を写真に撮ってサイトに上げて侮辱するなんて、最低最悪よ」

 宏美がケビンにお茶を出す。彼女も事件に対して胸を痛めていることがわかる。

「その巻き添えが宝諸と松浦家だったって話か。俺達、護衛や事件を解決できても、未然に防ぐほどの力はないのかな?」

「弱気になってちゃダメじゃない。そんな顔、依頼人に見せるの?」

「そうだった・・・さて、俺は報告書書くから、持ち場に戻ってくれ」

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