平和な事務所に一通の封筒が届く。黒澤金剛からだった。なんでも明日、山中湖付近にある別荘でパーティーがあるらしく、ケビン及び宏美宛てに招待状を同封したらしい。
「あら、ずいぶん洒落た招待状ね」
「我々にはないみたいですね。まぁ会ったことないですから仕方ないですが」
「二人は来るであろう様々な依頼をこなしてくれ。まぁ日帰りできると思うから、気にしないでくれ。オマル、新人のショットガン指導を頼んだ」
「はい。わかりました、ミスタ新垣、早速射撃訓練です」
オマルと新垣が地下射撃場に入った直後、ミコトが絵里と花陽を事務所に入ってきた。
「おや、この組み合わせは珍しい。どうしたんだ?」
「これを」
見せられたのは自分達にも届いた招待状だった。
「君達も呼ばれたの?」
「先生もですか?でも、何故絵里さんも呼ばれたのか・・・」
「娘二人がμ’sのファンだからさ。だいぶ、家族間の隔たりも減ってきたんだろうな」
「よかったですね。・・・でも、行き先書いてなくて」
「そう言われてみれば、そうだな」
電話して聞いてみたところ、ただ単に地図を記載し忘れただけらしく、ケビンは住所だけを聞き、地図をネットで見てみることにした。敷地の広い別荘周辺には山と湖があり、桟橋もあるようだ。
「本当に別荘みたいだ。でも、金剛さん名前負けしてるからな」
「どんな人なんです?」
「自分の非を認めようとせず、力で無理矢理納得させようとする悪い癖がある男だ。まぁそれが原因で死にかけたことあるから、多少は良くなったと思うぞ」
「ケビンが言うんなら、相当ね。二人とも明日に備えて準備したらどう?」
「そうします。じゃあドレス新調してきます」
二人は帰っていくのを見届けた。ケビンは宏美を早めに帰し、山中湖に行く準備を始めた。
翌日の朝。ハマーのエンジンをかけ5人が乗ったことを確認し出発した。中山道を通り3時間後、無事に到着した。
「ねぇケビン、どうしてハマーなのよ、セダンがあったでしょ?」
「オマルが任務で使うんだと。それに山道走るかもしれないから、こっちにしたんだけど」
確かにオフロード向けの車でパーティーに参加するものではないとは思うが、ケビンにはそれなりに考えがあったのだろう。
「まぁ落ち着けよ。それより先に行っといてくれ、あとで追いつくから」
宏美達を先に行かせると、荷台にあるレミントンR5を取り出し、山に入って行った。地形の確認と狙撃の可能性を確かめるためである。
「想像以上に狙いにくい立地だな。木々が邪魔して、視界が悪すぎる。だが、良いものが採れるらしい」
ケビンは蔓になっている茶色の小さな木の実を見つけた。これはムカゴといい、平たく言えば山芋の実である。
「見たところ誰も手につけていない。勿体ないな」
手で摘み取りビニール袋にいっぱい入れていく。
「親父と山登りしに行ったとき、よく茹でて食べたな」
背後から気配を感じ取り、ナイフを抜き取った。
「誰だ?危害が無いなら姿を現せ」
振り向くと主催者の金剛がそこにいた。抜き身のナイフを見て腰を抜かしている。
「ヒィ、ど、どうしてここに!?」
「山の幸を見に来たんですが、ほぼ採ってないみたいですね」
ナイフをしまい、安心させる。
「ところで探偵さん、これは?」
「ムカゴですよ。知りませんか?」
「ムカゴとは?」
「・・・塩で茹でて食べたら美味いですよ、前菜でお出ししてみては?」
ムカゴの入った袋を渡し、山を下りようとする。
「勿体ないですね。こんなに良いものがあるのに全く利用してないなんて」
「えぇまぁ・・・山の幸を知らないので」
「じゃあその履き古した登山靴は何ですか?」
金剛は自分の足元を見てハっとする。
「調べさせてもらいましたよ、アウトドアが好きだってね。にも関わらず山の幸に手を出していない」
「妻が山菜を食べようとしないんです。ですから、ここに来たらコッソリ採って一人で楽しむんですよ」
「そうでしたか。そろそろパーティの始める時間ですし、行きましょう」
改めて別荘に入ると、エントランスホールに自分達以外の客人がいることに気がついた。金剛曰く、友人達らしいがケビンの目にはそうは映らなかった。どちらかと言えばお零れを狙うハイエナのような雰囲気だった。
(鈍感なだけなのか、バカなのか・・・独裁者の腰巾着みたいにも見えるな)
彼らには彼らの事情があるのかもしれないが、権力抗争と言うものには必ず腹の探り合いがある。ケビンには縁がないことは確かだった。
(しかし、何故俺に注目を?)
背中を触れ、答えを知る。
(・・・それもそうか。銃背負ってたら誰だって気になる)
「アー・・・お気になさらず」
興味があるのか、こちらに寄って来た一人の男。
「こんなもの持ち歩いて良いのか?」
「は?」
「ジョークグッズなんてそんな不謹慎なもの、僕が没収します!」
手に触れようとした瞬間アームロックをかけ、そのまま投げ飛ばす。
「仕事道具に触れるな。素人が触れて良いものじゃない」
「!?どういう意味だね?」
「これは本物の銃だ。紹介が遅れたな、トライデント・アウトカムズの菊地って人間だ」
彼を起こし、ついでに名刺も渡す。
「ま、まさか・・・本物?」
「そうに決まってるだろう。これ見て信じろ」
マガジンボックスに入ってる弾丸を見せ、納得させる。
「アンタ名前は?」
「し、白山寿です・・・」
この後金剛が駆けつけ、どうにか事態は収まった。
「探偵さんどうして彼を投げたんですか!?」
「俺の仕事道具に触れようとしたからですよ。暴発してケガさせたら責任、取れますか?」
「ですがね、ダイヤにカッコ悪いところ見せて良いわけじゃないですよ?」
ケビンは静かに驚く。
「あの、白山は何者ですか?」
「白山君はダイヤの見合い相手の一人なんですよ!今日はお見合い相手の見定めパーティーです」
「じゃあ俺が呼ばれたのは?」
「あなた達には審査員ポジションとして」
ケビン渾身のコークスクリューパンチが金剛の左頬に入る。
「てっきり仕事だと思って来たのにそれか!」
「だって一人じゃ不安だったんだもん」
「・・・はぁ・・・審査員引き受けますから、報酬はガッポリもらいますよ。100万で」
「な!?・・・た、探偵さんが言うなら」
諦めた様子で小切手に100万を書き、ケビンに手渡した。
「さて、彼らにどのような試験を?」
「まずは知能を見たいので、簡単な問題を作成できませんか?」
「いいでしょう。ざっと3問ぐらいですがね、推理系の」
パーティーが盛り上がっていたところで、ケビンが現れる。
「招待された青年諸君、君達はもう知っているだろうが、これは黒澤ダイヤさんの見合い相手を決めるパーティーだ。君達には最初に柔軟な思考を持っているかのテストを受けてもらう、制限時間は5分、さぁ考えてみろ」
青年達が動揺するなか、大型スクリーンに即席で作った問題を映し出した。
ある女性が後頭部を殴打され殺された。その時間、男が出入りしていたらしく、その男を調べたが凶器が発見されなかった。さて、彼はどうやって凶器を隠したのだろうか。
映像の部屋の見取り図にはタンスや引き出し、テーブルがあって、その上にはグッピーの水槽が映っている。
「なんだこりゃ?」
「ヒント、ヒントはないですか!?」
「そうだな、木を隠すなら森の中ってところだな」
意地悪なヒントにブーイングが響いたが、ケビンの一睨みで一瞬で黙ってしまう。
「これは回答用紙とシャーペンです。近くの人と相談はダメですよ~」
宏美がそれらを配り終えると、候補の青年たちは一斉に頭を捻って考え出した。隣にいたミコトが小さな声でケビンに話しかける。
「これもこの前やった、どう自然に見えるか考えることが大事でしたよね?」
「そう。疑われないってことはそういうことだよ」
5分経ったところで次の問題を映すことにした。
4階建ての、とある高校で男子生徒が花壇に落下して死亡した。彼の持ち物は生徒手帳に財布、鉛筆だけであり、事件性がないように見えたが、刑事が目撃者C・Dと、被害者と親しい人間A・Bに事情聴取すると、一人、不自然な証言をしていることがわかった。さて、誰が嘘をついていたのだろう。ちなみに、事件発生後、誰も現場に触れていない。
A 彼ってちょっと変わってて、本を窓に座って読んでたのよ。いつもCさんに注意されてた。今日も窓に座って本読んでたかも・・・いつかはと思ってたけど、本当に落ちちゃうなんて思いもしなかったわ
B アイツさ推理系のラノベ好きで、将来ラノベ作家になりたいって言ってた。そこまで成績悪くないけど、化学と社会全般の成績が悪くて向かねぇと思ったんだよ
C 彼は今日も窓に座って本を読んでいました。いつも注意してたんですが、どうも聞かなくて・・・私は書架で本の整理してたのですが、悲鳴が聞こえ駆けつけたときには既に姿が見えませんでした
D 放課後、花の手入れを終えて道具を整理して帰ろうとしたんです。背後からドサッって音が聞こえたから振り向いたら・・・彼が頭から血を流してて・・・
「よく問題読めよ」
そういうと塩ゆでのムカゴを摘み、中身を出して食べる。
「やっぱうまいなぁ」
「あらケビン、ずいぶん楽しそうね」
今度は宏美が興味津々に寄ってきた。
「ボンボン達の困ってる顔見てたら、そりゃね」
「これっていわゆる仮定して考える問題でしょ?」
「宏美、それ以外にも重要なことがある。よく問題を読んでみな」
「・・・なるほどね、これぐらいは出来て欲しいわね」
アパートの一室でしがないサラリーマンの男が腹を刺され死んだ。彼の手にはカップラーメンの出来上がり時間を計るであろう、砂時計が握られていた。捜査の結果、死亡推定時刻にアパートに出入りしていた人物がおり、それぞれ三好、赤城、岩井と名乗った。さて、ダイイングメッセージの意味とそれを示す犯人を答えよ
ここまで来ると誰もブーイングしては来なかった。彼らも真剣に考えるようになり、中には既に回答を書き終える人間もいた。
「終わったら挙手してくれ。俺が回収する、他の奴に回答見せるなよ」
ケビンが回収しているなか、絵里がスクリーンに静かに注目している。
(意味がわかれば一発でわかる問題ね。探偵さん、人が良すぎ)
回答用紙を回収し終えた。
「これで試験終了だ、お疲れさん。結果は後日、金剛さんに伝えるから、じっくり待っててくれ」
こうしてパーティーは終わり、ケビン達も秋葉原に帰ることにした。
道中のサービスエリアで休憩することにしたケビン達。車内でトイレに行った宏美を待っていると、後部座席に座っている花陽がケビンに質問してきた。
「探偵さん。あのテストに意味はあるんですか?」
「あるよ。俺が注目したのは問題に真剣に取り組みかつ、頭の回転が早いかを見てた」
「へぇ・・・」
「君達には簡単だったと思うのだが、どうだった?即席にしてはいいと思うけど」
「即席だったのですか!?」
「下地はあったけど、アレンジにしては下手だったような気がしてね」
ケビンは宏美が帰ってきたタイミングで答え合わせ及び解説をすることにした。
「さてと、この問題のヒント、どこにあったかわかった?」
「映像にあるんじゃないですか?それと殴打されたってことは鈍器を使ったってことですよね」
「そう。でもハンマーやらバールじゃない、むしろ鈍器はそんなものじゃなくても作ることができる」
「あれ~追いつかないんだけど・・・」
宏美がパニック寸前に陥っている。ミコトが彼女をカバーするように話し始めた。
「宏美さん。凶器を隠すには自然でなくてはいけません、ですから、注目すべきは水槽のある部分です」
「水槽に凶器なんて入ってないわよ?」
「確かにそのものは入っていません。ですが、一部なら入っていました」
「わかりやすく言いなさいよ!」
「砂利ですよ。それが凶器の一部です」
「水槽に入ってたから見つかりにくかったってこと?じゃあ残りはどこよ?」
「皆さん、誰もが履いたことあるものです」
絵里はハッとした表情で
「靴下だ!靴下に砂利を詰めたものが凶器だったんだ、水槽に砂利を捨てて自分で履けば、全くわからない!」
「御名答。だからと言って実際にやらないでくれよ。2問目も問題をよく読めばできる問題だから、花陽ちゃん、ズバリ嘘つきは誰だろう?」
「ええ!?えっと、たぶんCだと思います・・・」
「Cの何処が嘘だと思ったの?」
完全に固まってしまい、答えようにも答えられないようだ。
「ちょっとケビン、彼女シャイで控え目なんだからいきなりは無いわよ」
「・・・すまない」
「これは私でもわかったわ。Cの不自然な点、それは、被害者が窓に座って本を読んでいたって部分よ。誰も触れていない現場でしょ?遺留品に本がなかったのに、Cはどうして本を読んでいたって言えるのかしら。明らかに嘘をついてた以外に考えられないわ」
「記者だった宏美には簡単だったな。さて、ラストは・・・ミコトちゃんにシメてもらおうかな?」
「先生・・・私は中学3年のころから助手をしてきたんですよ。砂時計の意味は上下が無い。つまり、上下どちらから読んでも同じという意味です。犯人は岩井ですね」
「最後が一番簡単だったと思うが・・・流石だね。でもひとつだけ違うところがあるんだ」
「?どういうことですか?」
「俺は君を正式に助手にしたつもりはないよ・・・そりゃ手伝ってもらうことはあるけどさ、危険な張り込みやボディーガードとかさせたくないんだ。俺の仕事、鉛玉が飛んでくるからね」
「そうですね・・・ですが、先生に認められる存在を目指して頑張ります!」
(銃は持たせないし危険な仕事はやらせないけど、最初に会ったころとは違って、冷静な分析ができるまでになった。彼女がどう成長していくか、楽しみだな)
少女達を送り届け終え、一人自室で回答用紙を見る。その出来高は想像以上に悪く、オマルが見たら腹抱えて絶倒するほどだった。
(・・・俺の文句ばかり書いてるやつもいるな。こいつら全員不合格でいいんじゃないか)
金剛に電話し、全員不合格という結果を伝えると、一通のメールが届いた。ミコトからだった。
(近日、北海道で人気のSaint Snowが池袋に来るから一緒にどうですか。か・・・その日予定無いし見に行ってもいいか)
しかし、この行動が新たな事件に遭遇するとは思いもしなかった。
もし金剛のような依頼人がいたら、私なら依頼蹴ります