札幌のドミニクの事務所前に大型トラックが停まる。ジョセフのトラックだ。
「新人指導か?」
「コイツ金ケチって護衛する気ないから、一応見繕えるか?」
「任せろ」
ジョセフはドミニクをトラック内まで案内する。中には様々な国家の武器が置いてあり、別世界のようにも見える。
「すげぇ・・・」
「まずはお前の武器を見せろ」
AK74UとM10を作業机の上に置いた。ひとつひとつ丁寧に鑑定すると、彼に振り向き
「確かに護衛向きじゃないな。AKはともかく、M10は制御が難しい。これを下取りして新しいのやる」
「え?」
M10を手に取り、ガンボックスを開ける。取り出したのは2丁の銃。ひとつはイタリア製短機関銃、Mx4。もうひとつはワルサーP99。
「お前まさかPMCやるのにサイドアーム無しでやるのか?ケビンが倉庫見てハンドガンが無いって驚いていたぞ」
「そういわれても・・・」
「金は使ってないからあるだろ。ハンドガンはサービスしてやるからMx4の代金を払いな、今なら110ドルでどうだ?」
「円に直すと・・・55000円!?高いなぁ・・・」
渋々金を渡し、2丁受け取った。
「命を預かるんだ、安いぐらいだと思うがね」
ケビンは鹿角姉妹から重要な話を聞いた。なんでも、札幌では脳天を撃たれて殺害される事件が立て続けに発生しているらしく、市民は陰で怯えているらしい。
「どんな人なんだ?その、被害者は?」
「ヤクザから幼稚園児まで、幅が広いんです。猟奇的としか思えません」
「ふむ・・・(日本に来て初めてのケースだな。まず、犯人はミラーではない。子供は絶対に殺さないからな。ターゲット以外を襲っているとなると、戦場に毒された異常者。となると、殺害も仕方ないな)」
持ってきたM629に弾を装填し直す。
「これって、池袋で使ってた」
「そうだけど。どうかしたか?」
「デカイですね。近くで見ると」
「マグナムリボルバーだから、このくらい大きくないと反動制御できないんだ。もっとも、デカイのが良いわけじゃあないけどね」
ホルスターにしまい、今度はR5をアタッシュケースから取り出した。姉妹から見たらまるで戦争しに行くようにも見える。
「あのぅ、もしかしてですけど、これも使うのですか?」
「そうだよ。ハンドガンだけで護衛はまず不可能だ」
「そこまでしなくても」
「まぁ確かに、ハンドガンだけで十分なケースもあるけど、札幌の猟奇殺人の話聞いて持ってきて正解だと思ったんだ。アサルトライフルなら基本的にどの距離も対応しやすいからね」
背中にかけ、今度はボディーアーマーを取り出した。これを二人に渡し、取り付けるよう指示する。
「服の下に着るタイプだから、ファッション気にしなくても大丈夫だよ。これはマグナム弾受け止められるタイプだから、死亡率は大きく下がるはずだ」
「本物だ・・・」
もの珍しさに戸惑うも、上から着けてみる。想像以上に軽く、不安こそあるがプロの言葉なので信じることにした。
「なぁドミニク、連続猟奇殺人事件の情報ないか?」
「猟奇殺人?・・・あぁ最近だよ、勃発したの。俺の知り合いの刑事の話だと、幼稚園児を除く全員が狙撃銃の弾を使ってたって話してんだ」
「どんな口径だ?」
「確か408チェイタック弾、7.62NATO、一人だけだったけど12.7アンチマテリアルライフルだった。すげぇ趣味悪い奴だぜ」
(アンチマテリアルライフルか。持ち運びに困るだろうから、おそらく協力者によって処分されたと考えてもいい。持ち歩くなら7.62の銃だ。408チェイタックなんてマニアックな弾を使う銃を使うんだ、身元がわかる。少なくとも一人だけとは考えにくい、協力者が必要だ)
「おい、どうしたんだ?」
「持ち主がわかったか?」
「いや、誰が持ってんのかわからん。だから警察関係者は口揃えてこう呼んでる」
息を整え、ゆっくり口を開いた。
ゴーストってさ
ケビンはドミニクの紹介状を手に札幌の街を歩くことにした。すすきのに情報屋がいるらしく、その人物なら何か握っている可能性が高いらしい。最初はドミニクが行こうとしていたが、街の状況を把握したいため、姉妹を彼に預けてケビンが一人で行くことにした。
「狙撃するには狭い気がするが、するとすれば札幌タワーの広い公園だな。ビルの屋上からなら出来そうだ」
肩に誰かぶつかってきた。
「ごめんねぇお兄さん」
後ろ姿が東洋人の雰囲気だが、彼の肩から漂った硝煙の臭いに気がついた。跡を追おうとするが人混みに消えてしまった。
(なんだろう、あの男から死臭と硝煙が臭ってた・・・まさかな)
商店街の一角にある骨董店に入る。その店主らしい老人に紹介状を渡すと、店の裏に案内された。
「あんたがボウヤの言ってた東京の探偵か?」
「あぁ」
「話は聞いてるぞ。犯人は顔も見せない、名前も不明。ただわかってんのは狙撃の名人だってことだ」
「一件だけ違うじゃないか。その・・・小さい子供の件だけ」
「確かにそうだが、少し変わったところがある。弾丸だ、5.7ミリの弾が少年の向こうにあったブロックに埋まってあったんだ。つまり」
「P90かファイブセブンを使って撃たれたと?」
「御名答。手口も脳天一発だ、P90よりもファイブセブンを使ったって説が有力。PDWは馴染み薄いし、ハンドガンなら携帯に便利だ」
「目撃者はいたのか?」
「いや全然。昼間に撃たれたのに、誰も見ていないんだ。しかも音が聞こえていない」
「(サプレッサーか)厄介だな」
「あぁ。すぐ身元わかると思ったんだが、全くダメだ。狙いもわからない」
(確かに被害者の共通点がサッパリだ。だが調べる価値がある)
小切手を取り出し、5万円の数字を書き手渡す。
「兄ちゃん。用心しろよ」
(せっかく来たんだから、寿司のひとつやふたつ、食って帰ってもいいだろう。捜してみるか)
その時だった。札幌タワー付近から銃声が聞こえ、多くの人間の悲鳴が響き渡る。現場に駆け寄ると、若い金髪の男が脳天を撃ち抜かれて死んでいた。その恋人だろうか、女性が遺体を揺さぶっている。
「ケント、ねぇケントってば!」
「おい、離れろ。警察が捜査できなくなる!」
ケビンが彼女を無理矢理引き剝がし、現場保管をする。遺体を見てみると、コメカミから左斜め下に貫通していることがわかる。
「ここから計算して・・・あのビルか」
目線の先のビルの屋上に何やら光るものが見えた。ケビンは見覚えがあった。
(スコープか!?やはり狙撃だな)
光る物体はすぐになくなり、追うことも考えたが現場を荒らさないことを先決した。
数分後、警察が駆けつけ、ケビンは事情聴取を受ける。
「Saint Snowの護衛を引き受けた探偵が、何故ここに?」
「この街を歩くのは初めてなので、頭の中に地図を叩きこんでおこうと」
「ふむ・・・特別警備会社のケビン菊地。聞いたことありますよ、東京で多くの殺人事件を解決し、大臣に襲い掛かる暗殺者達をひとりで退けた武勇伝は」
どうやら過去に解決したことが、遠くの札幌にも知れ渡っているようだ。
「ともかく、あなたの仕業ではないことは確かです。口径が合わないようですし」
既に荷物検査しており、R5のこともそこで知った。被害者を襲った弾丸は、7.62NATOだった。5.56NATOより大きい。
「また誰も見ていないんですよね。被害者達の共通点、調べた方がいい」
「もちろん、調べましたが・・・奇妙なんですよ。なんせ、Saint Snowのファンという事しか共通点がないんです」
「そのSaint Snowだが、東京で二回も命を狙われていた。しかも不良品の銃を渡されていたんだが、心当たりないか?」
「なんですって!?その襲撃者はどうなったのですか」
「そいつらは二人とも北海道の人間で東京で捕まった。秋葉原署にいるんじゃないか?根岸って刑事に連絡したら、教えてくれる」
「わかりました。詳細も聞きたいと思います」
刑事と別れ、一旦事務所に戻ることにした。帰路でも通りすがった男のことを思い出していた。
(ゴーストの正体及び目的がわからない以上、これは慎重に手掛かりを探す必要がある。相手はスナイパーだ、R5じゃ射程で負けるからな。こちらが先制しないと勝ち目がないだろう)
途中で寿司をテイクアウトし、手土産に持ち帰るのであった。
札幌某所。一人、木箱に入っているM40A3を手に笑う人物がいた。
「幸せの絶頂に死んだんだから、感謝してもらいたいな。でも、女の狂ったように泣き叫ぶ顔も、なかなか面白いもんだなぁ」
そのゴーストの薄ら笑みは消えることはなかった。そしてまた、闇へと消えていく。
札幌に現れたゴーストという謎の人物。彼がどう動くかは、次回をお楽しみに