宏美は商店街周辺で聞き込み調査していた。ほぼ全員の住民が反対しているだけでなく、中村建築の雇ったチンピラ達に嫌がらせを受けていたという。噂レベルではあるが、商店街を立て直すのではなく、別のショッピングビルを建てるのではと語られているそうだ。
(一見にぎやかで楽し気だけど、中村建築の評判といい、やり方といい、あまり評価出来たもんじゃないわね。しかも議員と友人と来た・・・抜け出す方法もあるってわけね。報道関係の人間が黙ってないわよ)
目を光らせ、宏美はそのまま市街地にある、議員の坂本の家に向かった。しかし、警察車両が囲んでいることがわかる。
「何かしら?」
野次馬のおばさんに話を聞く。なんと、坂本が何者かに殺されたらしい。
「でねでね、仲良くなった警官から聞いた話なんだけどさ、坂本さん、頭を撃ち抜かれたって話よ?窓には小さな穴が空いてたみたいなのよ」
「撃ち抜かれた・・・ねぇ」
メモを取り、そのまま様子を見ていると、灰色の布をかけられた何かを担架で運ぶ姿が見えた。
(変ね、中村がもしゴーストを雇ったのなら、わざわざ仲間の坂本を殺すよう依頼するかしら?それはともかく、ケビンに報告する必要性が出てきたわ)
夕方、調査報告を終え、ソファに座ってコーヒーを一服する。
「協力者である議員の坂本が殺されたか・・・ゴーストは恐らく、中村と対立する立場の人間が雇った可能性が高い。対立する人間を調べてくれ」
「わかったわ。狙撃されないように、気をつけるわね」
「・・・いや、今度は俺も行こう。ドミニク、鹿角姉妹の迎えは任せた」
久しぶりにコンビを組み、有力候補を絞り込むことにする。聞き込みとインターネットによる検索の結果、一人の人物が浮上する。それは意外な人物だった。
「対馬芸能社長、対馬治五郎。元々は中村の友人だったが、ある事件を境に決別。Saint Snowの鹿角姉妹の才能を見出し振付指導とビジュアルレッスンを無償で行う人徳者。人徳者って見られてる時点で怪しさ満載なんだが」
「芸能なんてそんなもんでしょ?まぁミコトちゃんは例外だけどね」
対馬芸能に電話、治五郎と会う約束をし、集合場所の商店街にある高級寿司屋で待つことにした。しばらくすると、気さくな声が後ろから聞こえる。
「やあやあ東京から来た探偵さん、ワシが対馬治五郎だ。ここの大将と仲が良くてね、会合の場所として使ってんだよ」
芸能事務所の社長とは思えぬ、穏やかな目つきの初老の男性が現れる。
「そうですか。では、この写真を見てください」
子供以外のゴースト狙撃事件被害者全員の写真を見せる。
「彼らに心当たりは?」
「コイツら知ってるよ。全員中村の会社の工作員じゃないか」
「何ですって!?」
「ワシの事務所にビンを投げ入れたり、睡眠薬入りのお茶を提供したり、挙句には社用車のブレーキを壊したり・・・昔から癇癪持ちだから、アイツ何するかわからないよ。探偵さんも気をつけた方がいい」
「えぇ、肝に銘じます。ところで工作員とは?」
「文字通り妨害活動する奴の陰さ。元公安やら軍の工作兵だったり、とにかく性質の悪い者共だ。実はね、そいつらに撃たれたこともあるんだ」
腹に巻かれている包帯を見せつけられる。それを取っていくと、肝臓辺りに銃創があり、本当に撃たれたことがわかった。
「弾は貫通してることが幸いだったよ。もし残っていたら、今頃ベッドの上かも」
「巻くの手伝います」
ケビンは丁寧にまき直す。
「ありがたいねぇ。あの子がもし生きていたら、こんな感じに孝行してくれたかもねぇ」
「あの子?どなたですか?」
「佐伯エリカ。亡くなったよ、デビューして間もない頃にね」
「ど、どういうことですか?」
目を白黒させながら聞く宏美。
「後でわかったんだけどね。彼女、帰宅途中に中村の工作員に拉致され暴行を受けたんだ。発見された時には既に冷たくなっていたってさ・・・」
どことなく悲しい顔で熱い焼酎を飲む。
「佐伯さんの両親は?」
「元はビル管理の会社をしてたけど、二人とも後を追ってね・・・会社は中村によって買収・・・後悔してるよ、もしも送っていたら、もっと輝いていただろうにね」
中村と対馬が対立している理由、それは過去にあった少女暴行殺人事件に関係しているのではないか。
「なぁ探偵さん。自分を慕っていた夢を抱いた若者が先に亡くなるって悲しいと思わないかい?」
彼の手が震え、目には涙が浮かんでいる。ケビンは彼の手を優しく握った。
「対馬さん。俺も大事な人を同時に亡くしました、だからその気持ちよくわかります。ですが、あなたが泣いた顔を天国にいる佐伯さんが見たいと思いますか?それに、鹿角姉妹を指導してるのでしょう?彼女達を心配させることをしてはいけない」
「・・・若いのに立派だね」
翌日。事実確認のため、被害者の経歴を調べてみた。すると、全員が同時期に中村建築の庶務3課と呼ばれる窓際部署に配属されており、元社員話を聞いてみると、庶務3課地下に部屋を設けているらしく、庶務3課社員と社長以外は誰も入ったことが無いという。
その事実を踏まえ、ケビンは仮設を立てた。庶務3課は窓際部署に見せかけた工作部隊で、自分達に不利益な人間に対して妨害活動を行い、果ては裏ルートで手に入れた武器を用いた実力行使をも厭わない危険な連中ではないか。そうであれば、ゴーストは彼らの味方ではないことがわかる。
(その場合、ゴーストを雇ったのは誰か・・・一番可能性が高いのは、対馬治五郎だ。復讐という連続殺人の手助けしてることを考えると、やはり・・・)
ケビンはドミニクに佐伯絵エリカ殺人事件の資料を警察に取り寄せることを指示した。数分後、FAXで捜査資料と加害者のデータが送られてきた。
(全員で7人か・・・狙撃された被害者の名前と顔、どれも一致してるな。しかも二人は池袋で捕まった男だ。あと1人は自殺している・・・っとなると、最後の標的は・・・中村社長か)
考え込んでいると、ドミニクが声をかけてきた。
「暴発銃事件も調べたんだけどさ、中村のガキ、親父さんの事業に反対してたらしいね。馴染みの店がなくなるととかどうとか」
「つまり、反対派だったってことか?」
「そうみたいだな。息子に不良品銃持たせて事故に見せかけて殺したのも、説明がつくんじゃない?」
「あぁ、これで中村を追い詰められそうだ。ドミニク、宏美、姉妹を頼んだ」
R5を手に取り、クラウンに乗って中村建築へ向かった。
ビルの近くにたどり着くと、通常なら賑わっている時間にも関わらず誰一人として歩いていないことがわかる。ケビンはR5を手に取り、マガジンを装填する。宏美から電話がかかってきた。
「大変よケビン、対馬さんが中村の手下にさらわれたわ!恐らく今まで部下を殺してきた報復をするつもりなのよ、早く探し出して!」
「落ち着け。俺に任せろ」
電話を切り、出ようとしたその時、運転席側の窓ガラスが一瞬で白く染め上がった。雪の白ではなく銃撃を受け防弾ガラスに当たった際に出来る白色だ。
「盛大な歓迎だな。嬉しいねぇ」
助手席側から出、車を遮蔽物にし、様子を見る。遮蔽物に身を隠した、黒のスーツの男達がVz61やらマカロフやらを握っていることがわかる。
「どうやら素直に通してくれそうになさそうだな」
次回は銃撃戦が多めになります