この日、札幌大量狙撃事件解決の報酬として宏美にはPx4の代わりにT62電気ショックを、ケビンには金一封が送られた。T62の理由はいうまでもなく彼女に銃使用が不適格であるためだ。
「宏美、無理して出社しなくても良いんだぞ。精神的に疲れてるだろ?」
「いいの。札幌の一件は良い教訓にしたから」
どこか疲れた表情をしながら答える。ケビンは彼女が好きなオレンジペコーの紅茶を淹れ、彼女のデスクに置いた。
「たとえ戦力でなくても大事な仲間なんだ、辛かったら言ってくれ」
そう言って地下射撃場に向かう。メンテナンス用の机にマイクロUZIがあることに気がついた。確かめると、誰かが使用した形跡を発見する。
「UZI使うとしたら、新垣か?オマルなら、UMP-9だろうしな」
レミントンR5を手にポップアップ式ターゲットを狙い、次々と倒していく。訓練時最速のクリアタイムを叩き出し、ゆっくり息を吐いた。
(あのまま精神疾患になっては大変だ。宏美とミコトちゃんでどっか旅行でも行くか)
そう思った矢先、電話が入った。隣のメイド喫茶からだった。なんでも、人が不足しているらしく、補充として来てほしいらしい。しかし、なぜかケビンにも来てほしいとも言われた。不審に思いながらも、宏美とともに仕事へ向かった。
「探偵さん、お待ちしてました」
聡明そうな女性オーナーが二人を迎えた。
「なんで俺もなんだ?ここは一応メイド喫茶だろう?」
「実はですね、女性客にも足を運んでもらいたくて、あるものを着て頂きたいと」
「!?これは・・・」
シックで無駄な装飾のない、執事服を手渡される。
「執事さんにも店に入ってもらいたくてですね、お願いできますか?」
「他にいなかったのか?」
「臨時採用だと、経費掛かるから」
度し難い理由に何も言い返せなかった。
「いいじゃないケビン、時にはそういうのも挑戦してもさ」
「しかしだな、どうも女の子の中に居辛い・・・」
「ボディガードも兼ねてるのよ。この店、結構やばい客も多いからボディーガードも兼ねて」
断る理由も無いため、ケビンは渋々引き受けることにした。しかし、背中に掛けたUMP-9を見られ、一斉に止められたのは言う間でもない。
結局武装したまま営業していったが、想像以上に客足が伸び、客の男女比が五分五分と良い数字を叩き出していた。昔のようなむさ苦しい男だけでなく、若い女性や外国人客も入っている。特に日本語の通じない客に対してのケビンのネイティブイングリッシュには誰もが注目した。
「探偵さん、本当にアメリカンだったんだ・・・」
「そうね。彼、聞いたところだと陸軍の75レンジャー出身らしいわ」
「レンジャー?軍人だったの彼?」
「みたい。そうじゃなかったら銃なんてぶら下げてないわよ」
いつもと違う緊張感に常連客の男は恐る恐るケビンに問うことにする。
「あ、あのう・・・」
「どうしました?」
「今日は物騒なことが起きるのですか?銃持ってますから」
「職業柄ですよ。手伝いで参加してるだけですから」
この客はかつて、とても不遜で評判が悪いことで有名だったが、ケビンが前店長殺人事件解決後、頻繁に店を出入りするようになってから身形を意識しかつ、態度も改めるようになった。今では彼に憧れて体を鍛えており、贅肉だらけだった体が引き締まった。
「ご用件はそれだけですか?」
「そうなんですがね、気になる噂を聞きまして・・・」
「ほぅ?」
「ミナリンスキーに恋人が出来たって噂です。なんでも、二枚目でお似合いなんだそうでして・・・ちょっと嫉妬してしまいます」
「俺にはそうには見えませんが」
以前、ケビンも情報屋のタクシードライバーから聞いていたが、男性と街を歩いていたり彼氏の家に出入りしてる様子を見たことがない。仮に真実だとしても、友人達が既に把握している。
(彼氏ねぇ・・・いてもおかしくない年齢だが、彼女はちょっとおっとりしてるから、悪い男に引っ掛かってないか心配だな)
店のドアが開き鈴が鳴る。無表情だが端正な顔立ちに物腰柔らかそうな男性が入ってきた。近くにいたことりがハッとした表情で彼を見ているのがわかった。希が案内をかけ、席に案内をかけるが無視してことりに近づき、頬に思いっきり平手打ちをした。緊急事態を察したケビンはUMP-9を構え、銃口を男に向ける。
「やめろ、これ以上彼女に近づくな!」
耳を貸さないため、止むを得ず腕に発砲し怯ませ、力づくで取り押さえ、ストックで殴って気絶させた。
「・・・この男は?」
「私の幼馴染です・・・でもどうして」
「コイツから尋問する必要性が出た。君にも事情聴取をする」
地下に縛り上げた男を連れて行き、コップの水をぶっ掛ける。
「冷!って、どうして縛られてんだ?」
「メイド喫茶で女の子殴ったからだ。どうしてそんなことしたんだ?」
「・・・え、俺行ってない」
UMP-9の銃口を向ける。
「ヒィ!暴力反対!」
ケビンは違和感を覚えた。先ほどまで無表情だった男が怖がっている。どうにもおかしい。
「質問を変える、南ことりに会ったことは?」
「あの子は幼馴染だ。でも大学進学の際に千葉に引っ越して以来、会ってないけど」
ケビンは監視カメラの映像を見せる。予想通り驚いた表情を見せる。
「俺が彼女をビンタだって!?しかも撃たれてる!」
「これが証拠だ。しかし、今のお前見てるとどうも同じ人間がやったとは思えない。今日何してたか教えてくれ」
「寝てたんだ」
「は?」
「今日バイト休みだから寝てたんだ。夕方起きるんだけど、まだ午前中だし・・・」
(どうなってやがる・・・千葉の人間が寝てる間に暴力事件だと?こりゃ気になって仕方ないな)
拘束を解き、事務所で待っている警官に引き渡す。その後仲間達に連絡し、緊急招集を掛けた。
「どうしたんですか?我々を呼びつけて」
犯行の一部始終を映した動画を見てため息をつくオマル。
「この映像の加害者、野平の経歴を調べてくれ」
「・・・は?加害者を追撃するつもりですか?」
ケビンは全員に尋問したことを話す。
「なるほど。人格が全く違う、ですか。稲村ケ崎の件に似てますね」
「あれは先天的なものだが、今回は違うと思うんだ。何より、目が虚ろだったしな」
「ふむ・・・ミスター新垣と一緒に彼の経歴及び、評判を聞いて回ります。一応、武器を持って行きたいのですが・・・」
「明日ジョセフが来るから、新垣も武器を新調したらどうだろう?」
トライデント・アウトカムズのメンバー全員による、奇妙な暴行事件の捜査。果たして、どのように転がるのやら。
次回
新垣君に待望のメインアームが!?