撮影前夜、大学生の男はノートPCでメールを送り終えると、窓から顔を出す。
「明日は撮影だな。星も見えるし楽しみ」
突然、彼の視界が真っ暗になる。
(あれ・・・闇夜だったっけ・・・目、開いてるよな、体が冷たいし動かん)
太陽が昇るころ、撮影現場に来ない彼を迎えに行った同好会の仲間が心配してアパートの部屋に入ると同時に悲鳴が四方に響き渡ったという。額に大きめの穴が開いていたのだ。
翌朝、撮影現場では混乱が生じていた。ケビンは同好会の学生に声をかける。
「どうした?」
「き、気にしないでください、ちょっとしたトラブルが」
「クルー全員が混乱してちょっとじゃないだろ。俺に話してみろ」
「・・・会長が自宅で亡くなってました」
「は?」
「実は」
学生はケビンに知っていることを話した。
「なるほどね、額に穴か」
「警察から聞いた話です、現場を見たわけじゃないんで」
ケビンはビリヤード同好会の連中を思い出す。彼らは直接アナコンダと交流し麻薬を買っていた。そのことを聞いたり知った人間をモルグに突き出し、身体を掻っ捌いて臓器を現金に換えてきた。もしかしたら、彼もその類ではないか、そう疑いたくなった。
「撮影は中止です。脚本書いてる会長がいないんじゃ」
「そうか。今回のやつ、ドキュメンタリー風の作品だったのか」
「えぇ、まぁ」
「俺が彼女達に撮影中止を伝えてくる。これでも顔見知りだから安心しな」
ケビンは現在来ていないダイヤとルビィを除く7人に事情を話す。
「・・・そうですか」
「まぁ仕方ないよ。俺達で君らを送迎する、しかし・・・」
「?」
「あの姉妹はいないのかい?」
「えぇっとその、あの」
「話を聞くよ」
「実は・・・ここ数日連絡が取れなくて」
「どういうこと?」
「わかんないんです!捜してください!」
頭を下げ、必死に頼み込む果南。冷静に答えるケビン。
「・・・落ち着いて話そうか。情報なしで捜せって方が無理だ、まず全員の履歴見せてくれる?」
確認すると、5日前から連絡が途絶えているのがわかる。アナコンダが沼津に入った日付と一緒だ。
「その日の夕方にねぇ。花丸ちゃんは持ってないの?」
「持ってないずら。ルビィちゃんとは家の電話で話すから、実家のお寺で話するずら」
「わかった。花丸ちゃんと彼女と家が近い子は俺の車に乗ってくれ、それ以外はオマルのハマーに乗るように」
他のメンバーの送迎を終え、ケビンと宏美は花丸の実家である寺に着く。住職らしき男性が出迎えてくれた。
「あなたが、以前、娘とこの子の友達を救ってくれた探偵さんですね。国木田元尚と申します」
「トライデント・アウトカムズの菊地です、彼女はパートナーの小畠」
「えぇっと・・・菊地さん?レオンとかじゃなくて、菊地?」
「父はアフリカ系アメリカ人、母は日本人です。父の血が強いのでしょう」
「ハーフの方と会おうとは未来ですね」
住居スペースに入るや否や、二人は驚く。なんと照明以外ほとんど家電がなく、あっても冷蔵庫と洗濯機、古い型のテレビがあるだけだった。
「あのぅホントに断捨離を?」
「いやぁその、電気屋に行っても横文字ばっかりで全然わからないから買ってないだけでして・・・はぁ、テレビが見られない・・・」
「なるほど・・・これじゃスマホどころじゃないですね。今度一緒に見に行きませんか、家電を見に」
ちょっとした約束を取り付けたあと、気を取り直して本題に入った。
「ところで、お嬢さんが定期的に電話してることはご存じで?」
「えぇ。ですが5日前ぐらいから残念そうにして受話器を切ってます。そのせいか、最近ごはんの通りが悪くて心配でして」
「・・・」
彼女の食いっぷりを知っているケビンは心配そうに見る。確かに少し瘦せている。
「確かに顔色が悪いですね。俺達はこれから黒澤家に向かいます、事情聴取に行くんで」
「あのぅ、それはいったい」
「お嬢さんが電話かける先をご存じで?」
「黒澤さんのルビィちゃんです、仲良しですから」
「ちゃんと話するんだな。いい家族だ」
「お母さんはもちろん、お父さんもおばあちゃんも知ってるずら」
安心した様子で黒澤家に向かった。
家付近に辿り着く。車を出ると、嫌な予感が漂っていた。
「宏美、市街地に撤退して2人と合流、俺はこのまま向かう」
「どうして?」
「嫌な予感がする。早く行け」
R5にマガジンを装填し陰に隠れながら家に近づく。
(誰かいる)
彼が何故、黒澤家以外の人間がいると判断したのか。昼間にも関わらず全ての部屋から物音が聞こえないからだ。
(翡翠さんは専業主婦だから何かしらの生活音が出ているものだ。しかし、それらしい音がない。昼寝なんてするような顔じゃないから、何かあったに違いない)
塀を乗り越え裏口から潜入する。廊下からフィリピン訛りの英語が聞こえてきた。
『ボスはこの一家を押さえろって言ってたけどどうしてなんだ?小原ファミリーの方が持ってるだろ?』
『あそこは警備が厳重だぞ、装備も正規軍で使用されるものだし元Sealsのボディーガードも多数。無駄に労力を使うだけだ』
『だからこの警備もクソもない金持ちの家を狙ったのか。東京じゃアクション起こしにくかったしな』
『トライデント・アウトカムズってPMC、資金豊富でビル内の警備も厳しいらしいから攻撃しなかっただけさ』
Px4に持ち替えサプレッサーを取り付けると、素早く狙いをつけ仕留めた。
(俺達に喧嘩売ったろうが間接的に)
足音に気をつけながら進んでいきながら探索していき、最後である奥の居間の前で停まる。そこでR5に持ち替える。
「・・・GO!」
襖を蹴り破ると敵に攻撃し、制圧してみせた。拘束されている姉妹及び母親を解放する。
「あぁ・・・助かりました」
「何があったんです?教えてください」
「5日前、主人が仕事に出かけた直後、彼らが襲って来て、主人に電話で身代金と会社の株式を売れと要求がありまして・・・警察には言ってません、そう脅されてましたから」
「ご主人に連絡させてください」
ケビンは金剛に電話をかける。変わらないオーバーな感謝の言葉を聞きながら事情を説明し終え電話を切る。
「二人とも、みんなが心配してたぞ。電話の一本でもかけてやれ」
警察からの事情聴取を終え、旅館に戻ってきた。
「・・・千歌ちゃん」
「あ、ありがとうございました。二人を救ってくれて」
「偶然だ。なんでも、黒澤家の株式が目的だったらしいから警備の手薄な時に狙ったって話らしいし」
「もしよかったらですけど、襲った人達の」
「ダメだ危険すぎる。何する気?」
「手伝えることがあったらと思ってその・・・」
「ミコトちゃんの時と違って、追ってる連中は銃を持ってるんだ。一般人、しかも少女に危険な目に合わせるなんて俺には到底できないよ」
部屋に戻り、それぞれの調査結果を報告する。
「自宅で拘束ですか・・・昼間に電話させて助けを呼ばれたら困るはずですがね」
「恐怖で何もできないと踏んだんだろう。まぁおかげで不自然すぎるほど音が消えたのが盲点だったがな」
「そうそう、殺害された男子学生ですが、彼の身体から麻薬の反応がありました。それと持ち物のノートPCが持ち去られていることもわかりました」
「・・・額に穴があったんだな。口径は?」
「7.62NATOですね。SR-25Mが使用されていることがわかっています」
「ゴーストだろうな、彼が殺しその後、仲間が持ち去ったってことが考えられる・・・振り出しに戻ったな」
苛立つ心を抑えながら寝っ転がる。
「今日はこれで終了。各自調査するなり休憩するなりしてくれ」
「珍しいですね、投げやりなんて」
「違う。無駄に疲れたからだ」
静かな人質立て籠もり事件に疲れたケビンは、テーブルに置かれている饅頭を口にした。
「・・・腑に落ちないな、金剛はチキンだから家族に何かあったら即座に俺達を呼ぶハズだ。だがそれがなかった」
「兵士も私達に警戒していたんでしょ?釘刺してたんじゃないの?」
「だったら俺達が来ない間に交渉して殺すだろう。現に突入されてんだ、リスクも考えないと人質を取らん」
「ねぇこうも考えられない?金剛氏もグルって発想」
「アイツも?・・・電話してみるか」
ケビンは金剛に電話をする。しかし、かかりもしなかった。
「キナ臭いな。翡翠さん及び姉妹にも電話をしてくれ」
結果、彼以外とは連絡は取れ、金剛は出張と聞いていたという。
「行き先を知らないみたいだな・・・本当に出張かわからんから警戒しておこう」
Px4を抜き、玄関前に近寄りドアノブを握る。目くばせしてドアを開けた。
「うわっ!」
銃口を突きつけられ腰を抜かした千歌がいた。
「・・・何しに来たんだ?」
「ゆ、夕食を・・・」
4人分の料理が積載されたカートが廊下に置いてある。
「すまない」