予選会当日。ケビン・オマル・新垣は委員会に働きかけ、会場の警備に当ててもらえるようになった。敢えて銃を見せることで威圧感を与え、アナコンダが迂闊に動けないようにし、同時にスクールアイドル達に対して興奮し襲い掛かる暴漢達を鎮圧させる狙いがあった。会場が開く前に、最近進出し、合同で仕事する地元特別警備会社の職員にも通達することにした。
「このライブ会場に国際指名手配の男が現れる。護衛も同行するだろうから、銃身の短いサブマシンガンかアサルトカービンを携帯。多くを巻き込むフラググレネードは使用禁止、使うならスモークを持ってくれ」
「了解。ところでケビンさん、敵の装備はわかってんのか?」
「敵はAK74、F2000もしくはMP5A4を武装してる可能性大。ただし、彼らを狙っている連中は俺達だけじゃないのが問題だ」
外港から沼津に入る男達の写真をテーブルに置く。
「こいつらは?」
「所属不明の武装集団。三つ巴になるのは確かだが、彼らとは交戦しない方向で行く。1人だけ身元が割れたからだ」
イタリア系の男の顔写真を見せる。
「コイツは元DEAFASTA、コードネーム・シュガー。北海道・札幌を恐怖に陥れたスナイパー、ゴーストと交流があることがわかっている」
全員、背中から戦慄を覚える。遠くの沼津にも影響力があったようだ。
「残り4人の1人にゴーストがいると思われる。スナイパーを敵に回すことほど怖いものはない、したがって交戦は許可しない」
「わかった。だが、ひとつ質問いいか?アナコンダの目的はなんだ?」
「複数ある。一つは日本撤退も兼ねた新薬の臨床実験、ハッシシの強力版を関東の大学生達に使わせ兵器としての実用性を確認すること。その大学生達は我々によって射殺及び拘束されたため、次の目的を実行した」
「逃亡資金を地元綱本の黒澤金剛からせしめること。これは簡単すぎるほど早く終わりました」
「そして次が重要。Aqoursメンバー、黒澤ダイヤ、松浦果南、小原鞠莉の誘拐。目的はフィリピンの自宅で飼い慣らすことだ」
「か・・・飼い慣らすって」
「奴のアジトに面白いことの書かれた作戦資料を押収しておいた・・・正直、呆れたがな」
宏美は地元特別警備会社から借りた爆弾探知機を使って周辺のあらゆるものを振るいにかける。
「爆弾は無さそうね。あってもオマルが解除するでしょ」
クラウンに戻り、気楽な態度でPCを開き、監視カメラの映像を見る。やはりターゲットらしき人間は見当たらない。
「変装してるかもしれないわね」
ふと窓の外を見ると、雨が多く降り出した。まだ二月にも関わらず。
「(酷い雨・・・雪よりはマシね。でもおかげで視認し辛いわ)ケビン、外は大雨よ。音に紛れての襲撃もあるから気をつけて」
「了解」
いつも以上に警戒しながら巡回していると、入場してくるファンの中に星空らしき男を発見する。
「おい、あの男を追え」
ケビンは近くにいた警備兵に指示し、星空を追わせる。
「こちらアルファ、男はトイレに入った模様。追跡を続けます」
「了解。油断するなよ」
トイレに入り、M9A1を手に警戒しながら進む。大便器のある場所のドアを下から覗き、有無を確かめるが、いない。
「東京モンの見間違いか?」
後ろを振り向くと、その星空らしき男が立っており、アルファの視界が一瞬にして消えた。しばらく経っても報告がないため、ケビン自身がR5を手にトイレまで行くと、便座に座ったまま事切れているアルファの姿があった。眉間に穴があることから、サプレッサー付きの武器で撃たれたことがわかる。
「(消されたか。まずいな)ケビンから全員へ、アルファがやられた、厳戒態勢を敷け。トイレ付近にいる兵士は清掃員に変装し死体袋を用意しろ」
清掃員に変装させ死体を運ばると、ケビンは改めてトイレを確かめてみる。ドアを閉めて下から覗くと足元は碌に見えず靴が辛うじて見える視界だとわかる。しかし、上はかなり広く、170センチほどの身長でも登れば脱出も容易だとわかる。襲撃者は靴を脱ぎ、登って隣のトイレに忍び込み、隙をついてアルファを攻撃したのがわかった。現場になかったため、既に靴は回収したものと思われる。
(既に観客に紛れてるかもな。だが、何故アルファが撃たれる必要があったんだ?俺達とは関係ないからか?)
客を一度、会場から退出させ外で待機させていた宏美も呼ぶ。捜査の結果、爆発物はなかったが、アルファが何故殺されたのかわからなかった。
秋葉原のメイド喫茶で働くミコトは休憩室で休んでいた。ここでも雨で、窓が濡れているのがわかる。
(あの時も、雨だった・・・初めて先生に会った、あの日も)
佇んでいると、一緒に休憩に入ったことりが声をかけてきた。
「どうしたの?お客様にそんな悲しい顔見せちゃダメだよ?」
「あ・・・すいません・・・」
「当ててあげる。探偵さんの事、考えてたでしょ?」
「う・・・あ、当たりです。出会った時、雨でしたから」
「へぇ。でも、出会ったときのことじゃないでしょ?そう・・・宏美さんに対しての嫉妬!」
「もう嫉妬してません。先生が今回の任務終わったら、宏美さんにプロポーズするってこと、知ってましたから」
「・・・え?ホント?」
「二人は両想いです。先生から聞く前に、宏美さんが私に好意があるって話してくれたから」
前日、宏美とミコトはカフェで落ち合い、互いの心の内を晒し合った。
「その時わかったんです。私ではなく、宏美さんの方が先生に近いうえに良いパートナーになるって・・・寂しかったけど、いい思い出です」
「そう・・・でも、危険な目に晒される必要がなくなったよ。探偵さんのお仕事って凶悪犯ばっかり相手してるから、ミコトちゃんみたいな普通の女の子を、自分の近くに置きたくないって思ってたんじゃないかな?」
「・・・戻ります、仕事に」
ことりが気まぐれにテレビをつけると、速報が流れていた。沼津駅周辺で大規模な銃撃戦が発生、交通機関及び多くの一般人が被害を被っていると報道されていた。
2017/2/14 昼間
駅前に、バンから降りてきたサングラスを掛けた集団が現れ、突然AK74を取り出し空へ向かって発砲した。それに驚いた通行人たちは逃げ出し、駅の北口周辺は一瞬にして戦場となった。そのことに気がついたケビンは大部分を引き連れ戦闘を開始し、残りのメンバーは逃げ遅れた民間人の救出及び治療に専念させた。
「敵は何人かわかるか!」
「おおよそ100名、全員がケビンの予想武器を持っています!」
「了解。全員、車両を遮蔽物にし応戦!スモークで敵の視界を遮るんだ!」
前代未聞の銃撃戦に地元警察もこちらに加担するが、装備がベレッタM9と最低限のものなだけにあまり戦力にならないと判断したケビンは、会場内の一般人のいる場所まで行くよう指示する。
「ここは俺達に任せ、アンタ達は奥にいる一般人と一緒にいてくれ!」
「我々も戦う、機動隊の繋ぎぐらいには」
「手が震えて弾が敵に当たってない!そんなに銃を向けるのが怖いなら、ホール内にいる一般人を安心されてくれ!」
新垣に警官達を護衛させ、再び戦闘に戻る。最後の一人を倒し終え、現状を確認する。
「無事か!?」
「5名負傷、3名死亡。強襲こそ退けましたが、仲間が・・・」
「巻き込んでしまってすまない・・・敵の死体を確認するぞ」
全員で死体の顔を確かめることにした。東南アジア系と日本人がおり、彼らの持っていた身分証から行方不明になっていた一般人であることがわかった。彼らの口内を調べると、独特の香りが漂う。
「これは・・・新型ハッシシ・・・造られた兵士ってことは」
「彼らを捨て駒に逃亡を図ったと考えるべきでしょう」
「なら急ぐぞ、向かった先はわかってる」
ケビンとオマルはハマーで沼津外港へ向かう。その途中、予想していた事態が発生した。大型トラックでアナコンダ一味が追ってきたのだ。窓から身を乗り出し、R5で運転席にいるドライバーを狙う。
「どんだけ大将逃がすのに精一杯なんだか!」
「さぁ知りませんね。とりあえず頭潰せば弱体化でしょう」
この非常事態に冷静なオマル。ドライバーの頭を撃ち抜くと派手に横転し、複数の車を巻き込みながら炎上し、停まった。
「ぶっ飛ばすぞ」
「えぇ」
外港では東南アジア系の中年が数人の幹部級の部下を引き連れて迎えのクルーザーを待っていた。
「いやぁ最後は残念だった。ダイヤちゃんのパフォーマンスを見られなかったのが」
「左様ですな。かの陸軍中将、トーマス・ハミルトンの息子、ケビンが我々の計画の邪魔をしたばかりに、日本にはいられなくなりますからな」
「多くの国で入国禁止されてる我々だ、今さらだろう?」
変装用のサングラスを外した男が落ち着いた口調で部下を諫める。彼こそが麻薬カルテルのボス、アナコンダだ。
「もう日本には用はない。これを中東・アフリカのレジスタンス及び、政府関係者に売れば良いビジネスになるだろう、来たようだぞ」
手にしたジェラルミンケースを手に不敵にほほ笑む。
「おっと待ちな、このクルーザーに乗ることはできん」
動こうとした瞬間、鉛玉が足元を弾く。アナコンダはゆっくり飛んできた方向に振り向く。
「初めてだな。まさかこんな優男がリーダーだったとはな」
「こちらも聡明な青年が軍人の息子だとは、思いもしなかったよ。コードネーム、グレイ・ウルフ。ケビン菊地伍長」
「俺の前歴を知ってるのか?だったら話が早い、大人しく連行されろ」
「勇ましいことは結構、だが、私は逃げるのが得意でね」
オマルは足音に気がつき、振り向くと、数十人の部下がこちらに向かってAK74を構えていた。
「ゲームオーバーだよ、君の父君のように土の中で眠るがいい」
その時だった。クルーザーが大爆発を起こし、近くにいたアナコンダ一味を吹き飛ばし、港口公園の方向から何者かが狙撃し頭を撃ち抜いていく。
「今です!」
二人は背後の敵を排除し、アナコンダの眉間に銃口を突きつけた。
「どうする・・・君の父上も似たようなことをしたよ・・・あの時は助かったがね」
「ケビン!」
「わかってる、やることは一つだ」
顔面を勢い良く踏みつけ、気絶させた。遠くからサイレンが響き渡っているのがわかる。
「殺す前に親父のことを聞き出す。殺しても生き返らないからな」
港口公園の方向を見るが、誰もいない。既に役割を終えたのだろうか。
(蛇の頭を潰した、組織は弱体化するだろう。同時に、沼津の街もボロボロだ・・・コイツのエゴで、大勢の人間が犠牲になった。今度こそ、年貢を納めてもらう)
数日後、事務所に帰還し使った銃のメンテナンスをする。
「終わったな。宏美、冷蔵庫の羊羹取って来て」
「私もクタクタよ・・・何人の一般人を看護したと思ってんのよ」
「まぁまぁそう争わないでください。今日の打ち上げはミスター新垣が奢るらしいですし」
「ちょっ!そりゃないでしょ!?」
この事件で公務員より迅速な行動が可能なPMCの重要性が証明されたものの、復興には多くの時間を要する結果になった。しかし、死亡者の中に一般人はいなかったことを考えると、良かったのかもしれない。ケビン達は報酬全額を沼津復興に回すことにした。
「親父と母さんの仇がアナコンダってことがわかっただけでも、いい収穫だ。復讐は果たした、未練はない」
メンテナンスを終え、浮かない顔のまま、自室へと帰って行った。
「トーマス中将を危険とみなした奴が車に工作し、事故に見せかけた・・・一番悲しかったのは、日本を離れていたケビンだったかもしれないわね・・・」
「私達が出来ることはありませんよ。見守っていきましょう」
雨が上がり、月が見える夜。ケビン達は細やかな祝杯をあげるのだった。
狼の牙は欠けない