アナコンダ事件も終わり、ケビンは普段の仕事に戻っている。変わったことと言えば宏美と同棲することになったことだろう。先日引っ越しも終わり、嘘のように平和だった。
「ケビン、そろそろ桜が咲くころよね?」
「そ、そうだな。だが花見なんてする輩にみえるか?オマルと新垣が」
「そうだけど、二人で見に行かないかって聞いてんのよ」
「・・・仕事を押し付けることになるけど、行こうか」
「へへん、そうこなくっちゃ」
書類仕事も終わり、休憩していると珍しい客が入ってきた。
「いや~この間はお世話になりました」
「笹山社長、それに、にこちゃんまで」
「社長。どうして私も来なきゃいけないの?」
「にこちゃん、これも映画のヒロインに抜擢されたからだよ。探偵さん、射撃のご指導」
「却下です。ウチは射的屋じゃないんです、それに銃の危険性、ご存じのハズでしょう?」
「そ、そうですが、彼女はスパイアクション系映画のヒロイン役として抜擢されて、実物を持たせて訓練させてほしいって監督が仰っておりまして」
「監督?」
笹山は懐からA4のポスターを取り出す。にこがM10イングラムの握ってポーズを決めている。トリガーに指をかけているのがわかる。
「特命スパイ・リトルフェアリーって映画のタイトルなんだけど、いいでしょう?」
笑顔の笹山と正反対にしかめっ面のケビン。
「社長・・・今すぐこの監督の仕事は取りやめにすることをお勧めします」
「え?」
「証拠はこのポスターに二つあります、よく御覧ください」
「?カッコカワイイですね」
「一つ目は銃を握ってる際、トリガーに指を掛けない。気が緩んで暴発し、思わぬケガをする」
「た、確かに!」
「そしてもう一つは・・・」
イングラムに指を差す。
「この銃は明らかに隠密活動向けではない、彼女が使うなら、9mmハンドガンを使うべき!」
「・・・え、そうなのですか?」
「この資料を見てください」
ケビンはサブマシンガンの射撃テストの結果を見せる。
「にこちゃんが持ってるM10は45ACPと呼ばれる高威力な弾を使ってる。そもそもこの銃は一発一発を狙って撃つ銃ではなく、弾を連射し、ばら撒くようにして撃つ銃。反動もバカにならないから小柄な少女が使うには厳しい。先ほど言ったとおり、スパイが喜んで使うハズがありません。使うなら、コンパクトかつ命中力がある拳銃を選ぶでしょう」
「た、探偵が言うのなら・・・間違いないです」
「理解していただけましたか?なら、お引き取りを」
途端、中途半端なハゲの目立つ男が入ってきた。
「おい探偵!ワシの映画に協力しろ!」
「か・・・監督!」
「監督?彼が?」
「白樺陽一。ジャパンガンマンシリーズを作成した映画監督よ」
「あの駄作映画の監督・・・さっさとお引き取り願いたい」
「て、てめぇ!俺をバカにすんのか!」
「映画を見た感想ですよ。遠距離の敵相手にサブマシンガンでフルオートしたり、ハンドガンの名前を間違えたり・・・ハッキリ言って銃のプロが見たら激怒する内容ですからね」
「上等だ!本物出しやがれ!」
頭に血が上っている陽一に弾を抜いたPx4を見せ、それを手渡す。
「ほぅ・・・グロッグか、いい銃だな」
「おっさんやっぱガンアクションやめろ。ベレッタPx4だ、どこをどう見てグロッグって判断できるんだ?」
Px4を取り上げ、自分のショルダーホルスターにしまう。
「ぐっ・・・」
「それに、人にモノを頼む態度でもないしな。天才って言われて天狗にでもなったのか?」
「こ、ここまで言われるとは・・・」
「あなたは取材が足りない。だから駄作映画って言われるんだ。良いものを作るなら俳優選びも重要だけど、話がダメだったら最悪だ」
先ほどとは違い、しょんぼりした顔で事務所を後にする白樺。
「た、探偵さん、言い過ぎでは?」
「正直、この前の件でイライラしてたんだ・・・実際に映画面白くなかったけど」
依頼を受けることなく、再び静かな事務所に戻る。自分の椅子にもたれかかり、うなだれる。
「はぁ・・・ダルい」
「嵐のようだったわね。大丈夫?」
大丈夫じゃないと言わんばかりに手を横に振る。
「二人休みなんだから、事務所閉めてもいいんじゃない?疲れてんだし」
「ウチは不定休だって知ってんだろ?今度はまともな依頼人が来ると思うぞ」
数分後、ロバートが訪問してくる。
「お疲れ様。ケビン、どうしたの?」
「見ての通り、面倒な客に疲れただけです」
「実戦と比べたら?」
「実戦の方が疲れない」
「うーん・・・まぁ部下の様子がわかったし、本題に入るよ。アナコンダの残党が護送される奴を救出しようと画策しているんだ。残党と言っても武器もあるわけだし油断はできない。警察庁からの正式な依頼だ、引き受けてくれる?」
「いつ作戦実行です?」
「5日後。奴には手錠及び身体にGPSを組み込んで、頑丈な護送車で成田まで運ぶ。そこから国際裁判所で裁きを受けるって算段だ。みんなには東京~成田まで警護してほしい。武器は自由、爆発物の使用は許可、頼めるかな?」
「・・・俺達だけじゃ厳しくないです?もしかしたら、ゴースト達も狙ってる可能性も」
「確実に現れるだろうね、車から飛行機に乗るところを狙撃するかもしれない。成田空港にはSATも配備されるから、連携も忘れないでね」
「これだけ情報があるなら、引き受けます。・・・アメリカではどのように?」
「僕達が引き継ぐ。久しぶりに前線に立つよ」
「スケアクロウがお出ましですか・・・失敗したら?」
「まぁ咎めないよ。なんたって、極悪非道だし、報酬も最近減ってるし。公務員じゃないんだからケチらないでほしいよね。じゃっ、またね」
笑顔で事務所を出て行った。今度はR5を持ち、射撃訓練しに向かった。この時のスコアは普段よりも高いものだったという。
ケビンは気分転換に本屋に行くことにした。探偵神宮寺三郎の新作小説が今日販売だからだ。
(待ってたぞ、さぁ一日で読破するぞ)
目的のものを買い、満足げに帰ろうとすると、悲鳴が聞こえる。ひったくりが現れたらしく、事務所の方角へ逃げているのが見える。Px4を抜き、ひったくりに発砲。弾丸は通行人の間を通っていき、肩に命中する。突然の痛みに勢いよく転げていった。ひったくりに近づき、銃口を向ける。
「動くな。盗んだものを渡せ」
無理矢理奪うと、グリップで頭を殴り気絶させた。被害者に盗品を返すと、そのまま帰っていった。
(9mmと言っても、人混みで使うもんじゃないな)
気分が沈んだまま戻ると、穂乃果とことり、海未、ミコトが遊びに来ていた。
「おや遊びに来てたのか?」
「えぇ。今からカラオケに行くんですけど、ご一緒しませんか?」
「そろそろ高校卒業ですから、思い出作りにと」
「一緒してもいいけど、俺下手だよ」
結局、一緒に行くこととなったが、ケビンの歌のうまさに誰もが肝を抜いたのは知る由もなかった。帰り際、ことりは母親にこう言った。センスは難ありだったけれども、もし同世代だったら、自分達より人気が出たかもしれないと。
その夜。ひとりで報告書を読み終え、東京~成田までのルートが記された地図を見る。
「高速を使い、空港へ入る時も特別車両が入るところから入り、飛行機でニューヨークか。高速でカーチェイスする可能性もある・・・いや、銃撃戦も考えられるな。どちらにしろ一筋縄じゃあないな」
ケビンの予感は大いに当たり、困難を極めたことは言う間でもなかったが、それは後の話である。
ケビンの選曲:セガサターン、シロ!等の熱い曲しか歌ってない