今日は趙が帰国する日だ。
「そうだケビン。CEOからお土産」
そう言って大きな麻袋を机の上に置く。中身は分解された銃だった。
「俺これだけのために日本に来てさ、まさか任務の手伝いするなんて思いもしなかったぜ」
「あの時は助かった。だが、早く上海に帰ってくれ。飛行機遅れるぞ」
「うわやっべ、また会おうぜ」
そそくさと事務所を後にする趙。
「いいの見送らなくても?」
近くで事務仕事していた宏美がケビンに話しかける。
「別に構わん。あいつとはなるべく関わらない方がいい、元上海ギャングで相当なワルだったんだ。以前アフリカで仕事したことがあってな、しょっちゅう依頼人と揉め事してた。しかも俺までトバッチリだ」
かなり渋い顔をしながら銃を組み立てていくケビン。手慣れた様子ですぐに終わり、全景が現れた。AK47に似たような風貌だ。
「なんか紛争地帯にありそうな銃ね」
「こいつはサイガ12Sセミオートショットガン。ロシア製で信頼性が高い銃だ」
地下室に持って行き、壁に掛ける。弾薬の在庫も確認すると、ようやく戻ってくる。
「そろそろ昼飯時だ、休憩に入っていいぞ」
「いいんすか?グヘヘ、さっそく急行よ!」
一目散に外へ出て行った宏美。目的は例のメイド喫茶なのだろう。
「去年より騒がしいが、まぁいっか。俺も飯食いに行くかな」
神田にある小さな定食屋に入り、適当に座る。刺身定食を注文し静かに待つ。
(事件なんて起きない方がいい、アフリカや中東で見飽きるほど見てきた。このような世界を、革命と言って虐殺する奴らが見ていたらどれだけ驚くか知りたい限りだ)
ふとケビンの対面に一人の少女が座る。サングラスを外し、顔を見せる。二宮ミコトだった。
「相席いいですか?」
「構わないよ」
ミコトが楽しそうにしているのがわかる。
「そんなに俺が食うところ見るのが楽しいか?」
「だって、先生の昼食シーンなんてなかなか見れませんから」
「まるで一日中空腹みたいじゃないか。俺の仕事は体が資本だからな」
平らげると、ミコトが注文したコロッケ定食が来た。
「そういえば学校はどうした?」
「午前中で終わりです。帰ってる途中で先生を見てそれで」
「ついてきたのか・・・家にモモが待ってるんじゃないか?」
「モモちゃんなら大丈夫だと思います。良い子にしてますから」
モモとはミコトの飼っている犬の名前だ。人懐っこい性格でケビンにも懐いている。
「これから暑くなる。熱中症の心配も、考えた方がいい。それに、忘れたわけじゃないよね」
去年、ストーカー騒ぎがあった。モモの頭の上に小型カメラが仕掛けられ日常生活が丸見えだったことがあった。犯人は彼女のマネージャーで、真相を突き止めたケビンが解決したのだが、そのマンションから引っ越しをしていない。
「あそこは防犯対策ばっちりだから大丈夫だと思うんです」
「あのなぁ、慢心しちゃダメだぞ。どんな防犯でも穴が必ずあるからな」
途端、ミコトのスマホに電話がかかってきた。ケビンは目でOKサインを出す。
「あ、大家さん、どうしたんですか?・・・え・・・わかりました・・・」
彼女に笑顔が消えた。
「どうしたんだ?」
「モモちゃんが・・・撃たれたって・・・」
ミコトのマンションに向かうと、パトカーが数台止まっており入り口には黄色のテープが張られていた。
「もうこんなに・・・」
「何が起きてんだ?」
ケビンはマンションの管理人に話しを聞くことにした。なんでも、モモを撃った犯人がマンションの清掃員も射殺されたらしく、逃走ルートがたまたまミコトの部屋を通り、その際に出くわし覚えられては危険と判断した犯人がやむなく発砲したと、警察は説明しているらしい。モモは動物病院に緊急搬送されたそうだ。
「ミコトちゃん」
小さく震えながら涙を流すミコト。家族を失い、悲しみに暮れる彼女の肩を優しくたたく。
「モモちゃん、ごめんね、一人にしてごめんね・・・」
「大丈夫か?辛いなら、現場から離れてもいいんだぞ」
「うん」
事務所に連れ帰り、ケビンはミコトに紅茶を入れた。彼女は彼の淹れた紅茶が好きだからだ。
「気分はどうだ?」
「だいぶ、落ち着きました」
「そりゃよかった。今日は災難だったな」
小さくうなずく。
「でもどうして・・・あの子は人はおろか、カラスにも吠えないのに」
「確かにそうだったな」
ふけていると、一本の電話が鳴り響く。
「もしもし。あ、根岸さんどうしたんですか?」
「困ってしかたないんだ!」
相変わらず突拍子もなく電話する根岸。
「だから何が?」
「二宮ミコトの愛犬襲撃と清掃員殺害に使われた拳銃がわからないんだ!警視庁のデータベースに照合しても何にもでないんだ!」
「ライフリングが、どれも合わないと?」
「そう。ケビンなら銃に詳しいだろ?助けてくれんか?」
「・・・わかったよ。報酬ふんだくるから覚悟してくださいよ」
「おお感謝する。わかっていることなんだが、種類は9×19で誰も音を聞いていないことからサプレッサーか何かをつけたかもしれん」
「ほかには?」
「高所清掃用ゴンドラに清掃員の遺体が発見されたんだが、かなり残虐的でな、20発くらい胴体に撃ち込まれてたんだ。犬にも4発撃ち込まれていたんだよ。空薬莢が数だけ落ちておった」
「なるほどな。目撃者はいたのか?」
「それが・・・誰もいないんだ」
「住人及び仕事に入った他の面子もか?」
「そのようなんだ」
「わかった。後は調べておくよ」
電話を切ると、ケビンは脳内で情報をまとめるため、紅茶を飲んだ。
(薬莢が落ちていたってことは、リボルバーではなくオートマチックを使ったってことだ。警察のデータベースに乗っていないとなると、拳銃じゃない可能性が高い。だとしたら・・・)
推理中に宏美が帰ってきた。かなり有頂天な様子だ。
「グヘヘ天国だった・・・って、あれ?」
「あ、引退会見で取り乱してた記者さん」
「どうしたの?依頼かしら?」
警戒してケビンの後ろに隠れるミコト。
「大丈夫だ。一応、ここの事務員だから」
「そうよ、もうつけまわしたりしないから安心して?」
ミコトが落ち着いたところで事件の概要を宏美に話す。
「ワンちゃん撃れてたって・・・どこの誰よそんなことしたの!?」
「それがわかっていたら、俺がそいつを捕まえてるよ。少しは落ち着け」
「グヌヌ・・・それもそうね」
「でだ、今回ばっかりは俺一人で仕事をやらせてもらう。ヤバそうな気がするんでな」
Px4を取り出し、マガジンを装填する。
「相手は昼下がりに銃ぶら下げて歩く野郎だ。なるべく早く解決しないとまずい」
「先生・・・」
「俺は簡単には倒れんよ。これでもレンジャー上がりだ、戦いには慣れてるつもりだ」
ケビンは地下に向かい、壁にかけていたR5を手に取り、布製ソフトケースにしまった。
「ミコトちゃんを頼んだ。現場に行ってくる」
事件のあった現場に足を運んだケビン。
「いきなり現れてどうしたんだケビン。遺体なら検死中だぞ」
「俺が知りたいのは遺体が乗っていたゴンドラです、見せてもらってもよろしいですか?」
根岸に案内されてゴンドラを見ることができた。試しに乗ってみると、成人男性が4人乗れる広さとケビンの肩くらいの高さがあった。血が付いていた箇所は足元に近いあたりに集中していた。どうやら座っているときに攻撃されたようだ。
「貫通してるな、仏は細かったか?」
「確かに筋肉が付いてる感じじゃなかった。部屋も見てみるか?」
「あぁ」
部屋に入ると、外からカギを開けるために窓ガラスが半月に最小限にくり貫かれている。割るよりもリスクの低い方法だ。用意周到な人間だということを確信する。
「モモの撃たれた箇所は?」
「両足に1発ずつ、胴に2発。犬に恨みでもあるのか?」
「おそらく、覚えられたら困るからだろう。犯人が、犬アレルギーか否か聞いたほうがいいな」
現場をあとにして数分後、根岸のケータイに電話がかかってきた。
「もしもしどうしたんだ?・・・え?清掃会社の社員がどこかに消えた?わかった、緊急配備を命じる」
電話を切り、ケビンにも内容を伝えた。
「清掃会社に行ってくる。根岸さんは探しといてくれ」
同じころ、宏美はミコトと一緒に動物病院に来ていた。なんでも、手術が成功し奇跡的に助かったため、そのお見舞いだ。
「よかったわね、モモちゃん回復傾向だって」
「うん、でも入院1ヶ月」
「つ、辛いわね」
両足が撃ち抜かれあげくに胴にもダメージを受けたのだ。入院期間も妥当だとも言える。
「治療は先生に任せて、私達は戻りましょ」
ミコトを連れて事務所に帰る途中、誰かにつけられていることを感づく。宏美は進路を変え、追っ手を撒こうとするがなかなか撒けない。
(まさか犯人?だとしたら、ケビンに連絡する必要あるわね)
後ろを気にしながらメールを送る。
「どうしたの?」
「誰かが私達を追ってるわ。どうにかして、あなたを守る」
啖呵を切ったはいいが、ケビンと違い素人かつどこか頼りない。しかも銃を忘れてきたという、失態を犯してしまっている。
「宏美さん、ドジ?」
「くやしいけど、そうみたい・・・」
すると、誰かが倒れた音が聞こえ、急に振り向く。
「だ、誰!?」
メールを受け取ったケビンは清掃会社から聞き込みを終え、いなくなった社員の自宅に向かう途中だった。緊急のメールに驚くが、現在地まで丁寧に教えてくれてたため、急行することができた。
「おい、生きてるか?」
「えぇ・・・なんとか」
「っで、誰なんだ。その子は?」
瑠璃色の美しい長髪に低くもなく高くもない背丈の少女がそこにいた。
「確か・・・園田海未って名前の先輩」
「μ’sのメンバーの一人よ。でもなぜこちらを追ってたのかしら?」
すると、腹の虫の声が聞こえる。どうやら空腹らしい。
「まさか食わずにいたのか?仕方ない、持って帰ろう」
連れ帰り、ソファに寝かしつける。その後、ケビンは二人に写真を手渡した。髭が濃い白人の男が写っている。
「こいつはダニエル・マルクス。見たことある名前だと思ったら、マイアミで高校銃乱射事件の容疑者として指名手配されているとわかった。おそらく密入国してこの国に来たんだろうな。じゃなきゃ普通には入国できない」
「ちょっと、どうしてあんな奴雇ったのよ!?」
「これも推測に過ぎんが、経歴を偽ったんだろうな。ミコトちゃんはここで泊まっていけ、宏美は・・・別にいいか」
「なによ、人を攻撃されないと思って!?」
「いくら奴とて、変に動いたらバレる。根岸さんにも伝えたから、街の警備も万全のはずだ」
宏美が騒がしかったのか、海未が目を覚ました。
「う・・・ここは?」
「トライデント・アウトカムズの事務所だ。出前の親子丼があるから食ってくれ」
親子丼をかき込む。よっぽど腹を空かせていたらしい。
「ごちそうさまでした。ことりが言っていた探偵さんって、あなたですか?」
「確かに俺だが?」
「逞しい体に鋭い眼光・・・確かに恐れるものはありますね」
「おいおい、まるで怪物みたいだな」
「それだけじゃありません。学院の制服泥棒事件も解決してくれた、ヒーローでもあるんです」
「それは結構だが、二人を追っていたのにも理由があるのか?」
「実はですね。UTX学園の知り合いに、最近怪しい人影が右往左往してるって話を、ことりと聞きまして、誰か優秀な警備員がいないかって・・・そうしたら、ことりがあなたを紹介してくれました」
「・・・ひとつ、思ったんだが。どうして電話入れなかったんだ?ことりちゃんに名刺渡したから、知ってるはずだけど?」
「あ」
どうやら考えが及ばなかったようだ。
「まぁいい。ところで、どんな人か聞いたかな?」
「髭の濃い、白人の男性だと聞きました。それ以外はなにも」
ケビン達は内心焦っていた。仮にその男がダニエルだとしたら、この街の平和が脅かされるだけでなく、最悪死傷者が出ると予想できるからだ。
「なるほどな。情報提供ありがとう」
途端、外から銃声が響く。辺りから悲鳴も響き渡り、外へ出ると人々が混乱して逃げ惑っている。
「先生・・・」
「ここにいろ、俺が出たらドアの鍵を閉めておけ」
人ごみを掻き分け音のする方へ走ったケビンは自分の勘の鋭さを呪った。大柄で髭の濃い白人の男、そう、ダニエル・マルクスが黒髪ロングでスレンダーな少女を人質に、英語で現金と逃走用車両を要求していたのだ。よく見ると、警察官の死体が転がっている。
「ダニエルここまでだ!おとなしく彼女を解放しろ!」
R5を構え、彼の脳天に狙いを定める。
「あぁ?日本の警察はライフルも使うようになったのか?」
「俺はあいにくPMCの職員でね。凶悪犯の射殺は許可されてる、死にたくなかったら彼女を放せ!」
「うるせぇ!俺はこの女が気に入ったんだ、さっさとどけ色黒野朗!」
ダニエルの右手を見ると、MP9サブマシンガンが握られていた。これで多くの命を奪ったのだと確信する。
「そのMP9で、罪のない人間と犬を殺したのか?」
「そうだ。俺は愛犬家でね、殺さずに手加減したぜ?」
ケビンの心中は怒りで満ちていた。罪悪感なく国を渡り殺人を犯し、さらに逃亡しようとするこの男を野放しにしてはいけないと。
「どうした、要求が飲めねぇのか?」
「・・・その子が盾になるのか、考えたことあるか?」
「なに!?」
ケビンはダニエルが取り乱したのを逃さなかった。少女がしゃがんだことを確認した一瞬で脳天に556NATOの1発を撃ち込み、無力化した。
「ぁ・・・ぁ・・・」
「もう大丈夫だ、あいつは地獄に送った」
腰を抜かし、放心状態になった彼女を安心させるため、武器を収め、距離をとって接する。数分後、根岸が駆けつける。
「ケビン、無事か!?」
「大丈夫だ。それよりも彼女を頼む」
朝から曇っていた空から一粒の雨が降ってきたと思ったら、急に降水量が増してきた。
「雨に濡れればって気分じゃないな。帰ろう」
サスペンス系でよく出る丼は好きだ