この日は月に3回ほど来るガンスミス、ジョセフが来る日だった。小柄で髪が白くメガネをかけた老人だが腕は確かで、ケビンのレミントンR5をオーダーメイドで改造してくれた男だ。今は銃身に改造を施している。
「おい若いの、お前一人で戦闘員大丈夫なのか?日本の犯罪がアメリカ化してるって話じゃないか」
「それは悩んだのですがね、なんだろう、最近マーキュリーセキュリティーが不祥事起こしたばっかりだから、特別警備会社への風評被害が」
「そもそも求人してないだろうが。粋が良い野郎に声かけて採用したらどうだ?」
「訳有りだけは、勘弁願いたいな。かといって広告か・・・うーん・・・」
ケビンが解決した事件の波紋が自分のところにまで及んで来ており、仕事が少しではあるが減ってきている。もっとも、探偵業の仕事は減っていないが。
「そういや、ワシが来日する前から事件があったのう。なんでも、下町でパキスタン人の女性が殺されたって事件」
「あぁ。犯人は依然として捕まっていない。銃弾数発撃ち込まれて死んでたってやつだったな」
「お前さん何か気づいてんじゃないか、真相を」
「あの事件の捜査協力はしてない。資料と現場見ないとわからんな」
ジョセフが来日する5日前の昼頃、下町のアパートの一室で女性が銃殺された事件があった。報道によれば物音がしなかったため、サプレッサーをつけた銃で心臓部を数発撃ち込まれて死亡していたらしく、彼女の恋人である、パキスタン系日本人のオマルが任意の事情聴取を受けているとのことだった。その報道を見ていたケビンは違和感を覚えていた。
「それもそうか。それよりもできたぞ」
R5の改造が終わり、ケビンに渡す。ジョセフは次の仕事にかかった。
「フラッシュハイダーか。それにフロントグリップもアングルフォアグリップにして、携行しやすくかつ反動制御もしやすくなる逸品だ。よく仕入れたな」
「ガンスミスにも事情はある。流行りやらにもアンテナ張っとかないと商売あがったりだからな」
サイガ12を分解しながら文句を言うジョセフ。
「だいたいお前は堅物過ぎんだ、もっと柔軟な奴雇って賑やかにしやがれ。重苦しいったらありゃしねぇ」
「事務員がいるが、あいつじゃだめか?」
「あの姉ちゃんか。確かに面白い奴だが異性と話すの苦手なんだよ」
「おいおい・・・ある意味職業病じゃないか」
サイガ12の改造が終わったと同時に依頼人が事務所に入ってきた。眼鏡をかけた気の弱そうな少女だ。
「あのぅ、しつ・・・」
少女がサイガ12を手に持ったケビンを見て絶句する。そして
「だ、誰かたすけてー!?」
「ちょっと待って、ここは特別警備会社だから勘違いされたら」
どうにかして落ち着かせたケビンは少女をソファに座らせる。
「・・・ごめんなさい、銃なんて初めて見るものですから」
「いいんだよ。それよりもさ、ここに来るってことは俺に依頼するために来たんじゃないのか?」
少女もとい、小泉花陽はケビンにボディーガードを依頼するためにやって来たという。彼女によれば4日前に誰かに付けられているらしく、下校中にもその人影が見えたり隠れたりしているとのことだった。
「花陽ちゃんさ、ストーカー以外になかったか?たとえば、犯行予告の手紙とか」
「ええっと、確か変な字らしいものが書かれた手紙が届いたような」
「今持ってる?」
「家にあると思います。ですけど」
「まぁ怖いよね、ストーカー相手じゃ。よし、俺が代わりにとってきてやるから家の人に電話入れといてくれ。じいさん、彼女守っといて」
「ワシが!?」
小泉邸に着いたケビンは問題の手紙の中身を見てみることにした。英語やロシア語とも違って、まるで暗号だがケビンには見覚えがあった。
「これはウルドゥー語?パキスタンで仕事してた時によく書かれてたものだけど、まさかね」
数年前、パキスタン郊外へ暴徒鎮圧の仕事していたときによく目にした文字だ。
「とりあえず、花陽ちゃんに知り合いにいるか聞いてみよう」
事務所に帰ると、困り果てるミコトに強く迫っている花陽の姿があった。ジョセフは地下の射撃場で銃の整備をしてるのだろう。
「ミコトちゃん。サインの次は写真を一緒に撮ってください、お願い!」
「え・・・でも・・・引退」
「ひとの事務所で何してんのかな?ここはコンサート会場じゃないんだぞ?」
ケビンが間に入ることで事態は収束する。
「ごめんなさい・・・つい、目の前にスターが現れた思ったら」
「・・・まぁいい、ところで知り合いにインドかパキスタンに行ったことある人とかいる?この手紙の文字はインドやパキスタンで使われてるウルドゥー語だ、出身か数年以上いないと読むのも苦労する言語を手紙で送るとは考えにくい」
「?いませんよ?」
「そうか。残念だが俺でも読めない」
ケビンは内容を知るためにはウルドゥー語が読める人間が必要になる。ウルドゥー語を日本語に訳するには、辞書で数日かけて調べるよりも、二カ国できる人間を使ったほうが手っ取り早い。
(・・・ん、そういえばパキスタン人女性が殺害された事件の容疑者もパキスタン系だったな。よし)
ケビンはスマホで根岸に電話する。
「あぁ根岸さん、オマルの家の住所を知りたいんだが」
根岸の紹介でオマルの家のアパートへ向かった。呼び鈴を鳴らすと180センチほどある、オールバックの目の細いパキスタン系の男が現れた。
「さきほど連絡したケビン菊地です」
「お待ちしてました、ささ、お入りください」
オマルは彼を部屋に招き入れると、作っておいた冷やしたストレートティーをグラスに注ぐ。
「話は聞いています、手紙を読ませてください」
ケビンは手紙を渡すと、オマルはその内容を黙読する。
「こ、これは・・・間違いなく脅迫状です。3日後下校途中に友達ごと殺すと書いております」
「なんだって!?」
二人は驚いた。まさか本当に脅迫状だとは思わなかったからだ。
「殺害方法は銃殺。彼女にボディーアーマーを着せておいたほうがいいですね」
「・・・なぁ気になることがあるんだが、何でお前から火薬のにおいがするんだ?」
「元々パキスタン陸軍にいました。ですが、祖国が嫌になって日本へ来たんです」
「なるほど、じゃあ俺が銃持ってることもわかってるってことか」
「えぇ。ハンドガンをショルダーホルスターで携帯してるのですね?」
こいつただ者ではない。ケビンはそう肌で感じる。
「ご名答。それと同時にアンタはストーカーではないことがわかった。日本語がうまい」
「入国して3年経ってますから。それに、ストーカーとは?」
「そのことなんだが」
ケビンは花陽の写真を見せた。
「彼女を知ってるか?」
「μ’sのメンバーだった、小泉花陽でしたか?テレビじゃ見たことあるけど、本人を直接見たことはないですね」
「今、彼女のボディーガードをしている。訳あって離れているけどな」
「なるほど。ウズマ殺害事件と彼女のストーカー事件が繋がっていると、考えているのですね?」
「ウズマ?」
「テレビでやってる殺人事件です。元軍人で第一発見者というだけで事情聴取受けましたが、死亡推定時刻に僕が喫茶店でケーキ食べていたことを証言してくれた店員さんがいて、無実だとわかってくれました」
(花陽ちゃんに話を聞く必要性が出てきたな)
夕方、ケビンは花陽に事件現場近くにいたか聞いてみた。すると、意外なことを口にした。なんと逃げていく外国人を目撃したという。
「まさか」
「そのオマルって人が犯人だと思っていました。特徴が似てたので」
「体格が似ていたのかい?」
「背丈も服装も、髪型も」
ケビンは根岸に電話することにした。
「根岸さん、被害者の親族関係かつ日本への最近になって渡航歴ある人間調べてくれますか?・・・えぇ、そいつらが怪しいかと」
電話を切ると花陽に向かって
「君の目撃証言が今回のストーカー事件に関係してあるかもしれない。だが、絶対に君を守る」
「え?」
「君が見たのは真犯人だっただろう。犯人はおそらく君を見つけ次第行動を起こすだろうな」
サイガ12を手に取り、マガジンを装填した。
「相手が銃なら、こっちも銃で対抗する。目撃者を消そうなんて考えやがって」
それをソフトケースにしまい肩にかけると、ケビンは花陽を家まで送ることにした。すっかり日が暮れてしまったが、あえて距離を大きく離しての護衛、これはストーカーの正体がわからないためだ。
(護衛を雇ったと知ったら、おそらく変更を余儀なくされる。その一瞬を捕まえればラッキー、そうでなくてもつけている証拠を掴める)
予想通り、陰からオマルと同じくらいの大きさの人物が花陽をつけている。ケビンは気づかれないよう背後から近づき、背中にPx4を突きつけた。
「動くな。握っているものを捨てるんだ」
金属を落とした音が聞こえる。街灯の光を反射するそれは、ナイフだった。
「よろしい」
グリップで叩きつけ相手を気絶させた。ケビンの予想通りその男はパキスタン人だった。
「丸坊主か。カツラ被れば確かにオマルに化けれるな」
心配そうにしながら花陽が戻ってきた。
「心配ない、気絶しただけだ。これでストーカーは来ないよ。あとは俺に任せてくれないか?」
根岸に男の身柄拘束を任せると、ケビンは自分の部屋で根岸からの連絡を待っていた。
「まだか」
そう思った矢先、スマホが鳴り響く。
「根岸さんか。吐いたか?」
「あぁ、自供はしたが何か隠してるんだ。まるで複数犯のような感じでな」
「・・・こいつは他の連中と渡航したのですか?」
「そのようだな、しかも親族の男3人で」
「滞在場所は?」
「浦安の一軒家らしい。管轄外だ」
「そうか、あとは大丈夫でしょう。また飲みにいきましょう」
「おぉそうだ。いい忘れていたんだが、被害者は犯人の妹だったようだな」
ケビンは背筋に電撃が走った感触を覚える。恋人、渡航、親族、パキスタンの田舎。すべてが繋がった。
「住所教えてください・・・わかりました。お休みなさい」
電話を切ると、サイガ12の入ったソフトケースを手に取り、レンタカーに乗せた。
(こいつらは野放しにできない。オマルはともかく、花陽ちゃんが安心して暮らせなくなる・・・おそらく相手も犯人を救うため銃は持っているだろう。その前に俺が奴らを始末する)
教えてくれた住所の通りに車を進め、ケビンはサイガ12を手に降りる。呼び鈴を鳴らすと、何も知らないパキスタン人の男が出てきた。彼の腹にめがけて引き金を引き、ダウンさせる。銃声を聞いた銃を武装した他の男たちも駆けつけるが、サイガ12の前には無力だった。
『もう一発くらいたくなければ武器を捨てろ』
英語でそう伝えると、男たちは銃を捨てた。
『お前たちのしたことは犯罪はもちろん、社会的にも認められない行為だ。貴様らからすれば英雄気取りかもしれんが、少なくともこの国の人間たちからは狂人にしか見えん。大人しく出頭するか、ここでくたばるか、どちらか選ぶといい』
暴徒鎮圧弾から通常の散弾にマガジンを交換した。数分後、千葉県警といるはずのない、根岸が駆けつけた。
「悪い予感がしたから、予め千葉県警に連絡したんだ。まぁ予想通りケビンが犯人を見つけてくれたんだな」
「殺しませんよ、少しばっかり痛い目にあわせただけですから」
「しかし、何故、こいつらも共犯だとわかったのかね?犯人が自供してようやくわかったのに」
「こいつらと被害者の出身でわかったんだ。家長の怒りに触れた被害者が日本へ逃げるように留学しパキスタン人の男と恋人同士となり、一緒に暮らそうとする。しかし、それを気に食わない家長が親族を集め、殺害を計画。体力的に優れた親族を実行役にし、大方、明日帰る予定だったが実行役が捕まったことで帰れなくなったってことだろうな」
「なんじゃそりゃ、まるで面子潰されたから殺したみたいじゃないか」
「ご名答、これは名誉殺人。パキスタンやインドの田舎などにある、腐った風習だ。愚かな奴だ、そんなものに振り回されていようとはな」
後日の捜査により、彼らの犯行が実証され、捜査は世界にまで広がったという。