爆発事件から2日後、ケビンは近くの総合病院に入院している金剛に事件当初の状態を聞いた。彼によれば月に一回ほど倉庫内を自分で掃除するらしく、その際に中の品々の有無を調べるのだが、自分が入れた覚えのない花火の玉が入っていることは想定外だったらしい。
「ところで、倉庫の鍵は誰が持っているんですか?」
「私と秘書、妻が持ってるのですが。まぁ今回探偵さんが壊したから買い直しするけどね」
「申し訳ありません」
「いえ、そうでもしなかったら今頃は下敷きになっていたでしょう。しかし、いったい誰が・・・」
包帯の巻かれた痛々しい顔で考え込む。
「鍵を外すことができる人は限られてますが、つけるとなると別です。あのタイプは南京錠のように誰でもできます」
「確かに」
「ところで、あの倉庫にはどのようなものが置かれていたのですか?」
「あそこには趣味で集めた掛け軸に屏風、借金のかたで頂いた骨董品が入ってありました。だから花火なんて入ってませんよ。桐箱を開けたら、ぎっしりに詰められた三尺玉が入っていたんです!」
(・・・しかし、三尺玉は勝手に運んでもいいものなのだろうか。600メートルぐらいまで飛ぶ火薬を可燃物だらけの場所にしまうなんて考えられないな)
病室を出、金剛の友好関係を洗うことにした。最初に注目したのは秘書である三上正治と妻の黒澤翡翠。
「奥さん。知り合いに火薬に詳しい人間、もしくは花火職人はいますか?」
「いえ、主人の友人にそのような方は」
二児の母とは思えない若々しい姿の女性。
「私も存じ上げません。探偵さん、社長は確かに抜けてるところはありますが、汚職には程遠い方です。恨まれることはないかと」
黒のスーツにメガネと典型的な真面目系男が主についてこう見えていたらしい。
「わかりました。ところであなた方は倉庫に入ることがありますか?」
「秘書であるからには、一緒に倉庫の整理をすることはありますよ。ですが、今回は何故か一人でやると言い出しまして」
「私は確かに鍵をもらっておりますが、一度も入ったことはありません」
「・・・三上さん、どこにいたか説明できますか?」
「社長の指示で上のお嬢様に数学を教えておりました。爆発音はお嬢様の部屋で聞きました」
「ルビィちゃんのお姉さんの・・・なるほど、質問は以上です。俺は他に聞き込みがあるので失礼します」
(そういえば、かなり教育に厳しい親だと花丸ちゃんから聞いたが・・・自分に緩くて他人に厳しくしてるのか?・・・姉妹二人から話を聞くのがベストだな)
「そうだルビィちゃん、お姉さん病院に来てないけど、どこにいるか心当たりあるかな?・・・あ」
相変わらずケビンが話しかけると、硬直してしまっている。ミコトが問いかけると、彼女の耳元で述べる。
「行き着けの甘味処にいる可能性が高いと。甘党らしいので」
「なるほどね、そこまで行ってみよう」
病院から車で5分、ルビィの姉、黒澤ダイヤがいるであろう甘味処に入った。一人抹茶プリンを頬張る、黒髪姫カットの少女がいた。
「お姉ちゃん今いい?」
「どうし・・・どなた?」
「俺は君の親父さんに依頼されて爆発事件を調べてる探偵のケビン菊地だ」
「助手の二宮ミコトです」
「元アイドルと探偵さんが何の用ですか?」
「単刀直入に聞こう、親父さんやお母さんを恨んだことがあるんじゃないか?」
プリンを食べる手が止まる。
「恨みではありませんが、やり過ぎだと思ったことはありますよ。普通ならテレビぐらい自由に見せてるはずです。何より、この子のお金の使い方を探偵さんに調べてもらうような両親ですから、私達は信用されていないと思います」
「・・・言いたいことはもっともだ。正直言って腹立たしいと思ってたところだ」
「依頼人をそう思ってたの?」
「身元調査依頼する人間の多くはターゲットを信頼してないケースが多いからな。憐れにも程がある」
席に座り、抹茶ラテを注文する。
「親が子を信頼しないでどうする。世間体気にしてその鬱憤を子供に押し付けてるだけにしか見えない」
渡し忘れた自分の名刺をダイヤに渡した。
「あら、東京の方でしたか。しかも秋葉原・・・スクールアイドルの聖地みたいな場所に事務所を」
「俺が決めたわけじゃないが。それよりも、君の家は普段から誰か出入りしてること、あるかな?」
「三上さんしか普段から出入りしてませんね。しかも、監視カメラの類はありませんし」
「ほぅ」
「入ろうと思えば誰でも入れますよ」
(資産家にしては無防備にも程があるな、理由があるのか?)
抹茶ラテが机に置かれると、ケビンはそれを一気に飲み干した。
「ありがとう、あとは姉妹で楽しんでくれ」
ケビンとミコトは車に戻り、専用ノートPCをネットに接続させ、黒澤姉妹の名前を検索する。すると、彼女達の父親、入院中の金剛の姿が画像検索で引っかかったのだ。
(どういうことだ?何故彼が・・・)
画像をクリックし、世界的SNS、ツイスターの画面に移動した。ハンドルネーム抹茶プリンがこの画像を添付したことがわかった。記事には資産家K何者かに殺されそうになる、と書かれていた。レビューには彼を蔑むメッセージしか並べられていなかった。
「抹茶プリン・・・目のところは伏せているが、誰なのかわかるな」
しかもカメラ目線で撮られているとから、彼の顔見知りなのではないかと推測する。名前負けしているこの男が、雑誌記者などに易々顔写真なんて撮らせてくれるとは思えなかったからだ。
「とりあえず、金剛に定期報告しよう」
スマホを取り、金剛に電話する。
「もしもし探偵さん、捜査はどうかね?」
「順調じゃあないですがね。それよりも俺より前に見舞いに来て写真撮った人間がいませんか?」
「写真?・・・あぁ女房が撮りに来ましたね、なんでも、二度も入院しない戒めだとか」
「戒め、ですか。なるほど・・・まだ調査が済んでないので、これで失礼します」
電話を切り、エンジンをかけた。
向かった場所は黒澤邸。ケビンは翡翠のいる部屋を訪ねた。偶然、三上もいる。
「探偵さん、いかがなさいましたか?」
「これを見て頂きたい」
金剛の写った画像を見せる。
「・・・これが何か?」
「この写真を上げたのは、あなたですね?」
「私は何も知りません。ましてや写真なんて」
「金剛氏はあなたが写真を撮っていたと証言しています。なぜこのようなことを?」
「これは失礼、確かに私が撮った写真ですが、ツイスターにはあげておりませんよ」
ケビンは頭を傾げた。
「何故、ツイスターだってわかるのですか?」
「!?」
「目的もいわずSNSに上げるのは肖像権の侵害です、どうしてそのようなことを?」
「・・・そろそろ、娘の教育方針を切り替えさせようと思ったからです」
「教育方針?」
「私たちは二人に対して厳しく接してきました。ですが、私は外出していると、ルビィがこっそりアイドルグッズを購入して応援していることを知ってしまいました。その時思ったのです、そろそろ自己判断で自由にやらせるべきではないかと。主人に言っても聞いてくれません、だからこれを脅迫材料にして交渉しようと思っていたのです」
「・・・そうでしたか、ですが金剛氏はこんなことでは考えを撤回しないでしょう、彼は自意識過剰なところがあります、それこそ、自分の命が危険にさらされても」
皮肉たっぷりな言い方をする。
「ですが私は殺そうとは思っていません、信じてください」
「信じましょう。その代わり、質問に答えてください。改めて聞きます、あなたか金剛氏の知り合いに、火薬を扱う人間はおりますか?」
「・・・宮田紀彦という、イベント会社の方がおります。事件の起きる二日前、反物の入った桐箱を倉庫に収めたところを見ましたわ」
「宮田様はとても穏やかな人柄で、社員から人望のある方だと伺っております・・・先ほどはうそを申し上げてしまい、すいません」
「宮田・・・その箱は大きかったですか?」
「反物一着入れるにしては、高さのある箱でしたわ。それが何か?」
「わかりました。失礼します」
ケビンは黒澤邸を後にした。
「先生、どうでした?」
「あぁ、トリックがわかったよ。今回は金剛本人に問題があったから起きた事件だ」
「え?」
助手席のミコトは首を傾げた。
「犯人は、借金のかたを倉庫に収めることを利用したトリックを思いついたんだ。まず、二重構造の箱を用意し下の段に三尺玉、上の段に反物を入れる。中身が反物だと箱を開け安心させ、下段が開くように細工して倉庫に収める。そうすればまさか三尺玉が入ってるなんて思わないだろうからね。次に掃除に来た金剛は箱を開けると、中には反物ではなく三尺玉が入っていて、驚いた拍子に火の付いたタバコが導火線に落ち、暴発したんだ」
「そんな・・・」
「犯人は金剛が掃除をする日程および、タバコを吸いながら掃除することを知っていたんだ。確かに彼は汚職こそしないけど、取引先とかに偉そうに振舞っていたことで恨みを買っていたんだろうな、倉庫の鍵を閉めたのも彼だろう。報酬はがっぽりもらっておく予定だよ」
翌日、沼津署に宮田紀彦が自首したらしい。奇しくもその行動パターンがケビンの推理通りだったそうだ。黒澤家から現金300万の報酬をもらい、ケビンからは家族で今後の方針を話し合うことを約束させた。わだかまりこそ残っているが、姉妹によればテレビ視聴の自由は勝ち取ったらしい。
何故、二人がうそをついたのか。それは次回明らかになります