ジャブローのモグラども   作:シムCM

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00 転生者

地球連邦軍所属コウイチ・カルナギ大尉は、転生者である。

日本の首都東京より微妙に離れた地方で生まれ、一流でもない微妙な学校に進学をし、大企業ではない中小企業に入社した。

そして、特に波乱に満ちたわけでもなく、結婚することもなく、心不全によって突然死した。彼はごく普通に弔われ、人生の終焉を迎える。

何か彼の特筆すべきものを上げろと言われれば、ただ一つ。

彼はガンダムオタクだったのだ。

 

 

諸君。

君が機動戦士ガンダムが大好きで、シリーズ全話をビデオ時代から閲覧し、様々なハードで発売された様々なゲームを遊び倒し、数々のプラモデルを作っては生活スペースを圧迫し、出版された様々な漫画や小説を買いあさるほどガンダムが大好きだったとしよう。

そんな自分が、ガンダムの世界に転生したらどうする?

 

そりゃ、モビルスーツに乗っちゃうだろ。

既存知識で勝ち馬にのってウハウハするとかいろいろあるが、とりあえずモビルスーツ。できるなら専用機。さらに贅沢をいうなら、ニュータイプでファンネルで無双しまくる。

誰だって、そうする。

オレだって、そうする。

 

そんなわけで、オレの人生は、自我が芽生えた段階で確定していた。

オレの人生は勝ち組であった。

オレの父親は地球連邦軍の将校で上流家庭。

父方の家系は先祖代々軍人。

幼いころから軍人になるべく、体を鍛え、勉学に励む。

悪くはない成績、親の欲目と、本人のぶれることない将来設計。

予定通り士官学校に入学。

 

そして、オレの人生のピークはこの時までであった。

 

【対衝撃機能欠損症】

 

短期間で高いGの変動が起こる際、人体で当然起こる血圧の調整機能に欠損がある病気である。

つまりどういう事か。

打ち上げシャトルの発進で生死の境をさまよい。コロニーの軌道エレベーターで病院送り。戦闘機のシミュレーターなんぞしようものなら、酸っぱい匂いが充満する。

原因は不明、治療も不明、先天的な症状とされていた。

モビルスーツにのるなんて不可能です。本当にありがとうございました。

 

士官学校入学時の健康診断で、発覚したこの症状を聞いて絶望したね。

20歳を超えた成人男子が、声を上げて泣いたよ。あれは、いい経験だった。

と、今なら振り返れるが、当時はどん底でした。

欠陥がみつかってから、それまでチヤホヤしていた家族が没交渉。連絡一切なし。入学式も卒業式もオレ一人。配属先に関してもコメントどころか連絡もなし。実家への連絡は留守番電話にメッセージを入れるだけだった。

今思えば、よくダークサイドに落ちなかったものだと思うのだが、運よくというか、悪運強くというか、当時まだ発言力と人数のいた人権団体というやつのおかげか、こんな状態のオレでも、士官学校で教育を受けて卒業し、地球連邦軍の新米少尉になれた。

 

アニメキャラにもあったよ。それも二人。

一人は新任でジャブローの経理部に配属されたときに、ワシ鼻の悪役っぽい顔のおじいちゃん。

そう、後のティターンズ指令ジャミトフ・ハイマン大佐。

もう、人間計算機でいつ寝ているんだって人だった。しょっちゅう怒られたけど、かわいがられたんだと思う。何度か個人的に飲みに連れて行ってもらい、いろいろ薫陶をもらったものである。どうでもいいが、この人カラオケが上手かった。

で、もう一人が、経理部を異動した後、月面基地の監査官だった時の上司である。

ジョン・コーウェン准将。

ゴリラである。原作では、質実剛健の軍人でござい的なキャラだったのに、もうゴリラ。月にいる高級官僚なんて、月企業の接待攻撃でズブズブなんだけど、そういったお店で金髪半裸のおねえちゃんをヒザの上に乗っけて、おっぱいプルプルさせてた時の、鼻の下の伸びた顔は、マジゴリラ。動物園の飼育員もバナナ投げちゃうレベルである。

まあ、オレもその腰ぎんちゃくよろしくサルだったんだけどね。

 

まあ、なんでこんな話をしているかというと。

今目の前にいるわけだ。

ジョン・コーウェン准将が。

 

「久しぶりだね。カルナギ少佐」

 

 

 

 

この日、コウイチ・カルナギ大尉は、この世から消えた。

代わりに新しくコウイチ・カルナギ少佐が現れた。

新しい階級章と。

たっぷりの厄介ごとを抱えて。

 


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