ジャブローのモグラども   作:シムCM

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12 目的は達成させるもの

あの後、会議は滞ることなく進み、オレの意見を取り入れた流れで進むことになった。

はからずも、オレの名前が高級官僚に売れた瞬間でもある。ここぞとばかりに、ワイアット大将が話しかけてきて、オレとのつながりをアピールしたりとかあったが。まあ、まだ様子見の人がほとんどだ。

帰りのエレカーまでコーウェン准将がつきっきりだった。満面の笑みで。

 

自分のオフィスに帰って、一つの分析をする。

今回の過程だ。対ガンタンク用にグフを開発した。それはなぜか。連邦の次期主力MSがガンタンクだとジオンが誤認したとすれば、その理由がはっきりする。

はからずも、ガンタンクは旧兵器派の意をくんだMSだ。それまでの連邦の大艦巨砲主義を継承しているといってもいい。連邦のMS構想がそうなるという誤解は十分にありうる話だ。

となれば、こちらの対応は決まっている。静観だ。誤解したまま、進めるだけ進んでもらおう。開発する時間と資材と人材を浪費してもらう。

 

 

 

しかし、重要なのはそうではないのだ。

オレが重要視しているのはそこではない。

 

オレの中で、今まであった様々な事が整理されていく。そうする事で、今までおこった事の理由を分析し、その後の行動を見直していく。

 

そして、一つの結論が導き出される。

 

「……これが策略か」

 

もしこれを意図的に行ったら?

その為には何が必要か?

その為には何をするか?

そう考えるのだ。

 

だから戦略。だから政略。

 

「ふッ。フフフフフ。クククク」

 

戦術があり戦略があり政略があるではないのだ。

政略があり戦略があり戦術がある。

 

古来より、囲碁将棋チェス。戦場遊戯の多くを将軍はたしなんできた。

それはなぜか?

こう来たら、こう返す。

そんな物は小手先の技だ。そんなものを目的としてたしなんでいるわけではない。

本当に必要なのは、

 

『相手をどう動かすか』

 

なのだ。

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからずや」

 

敵の分析がどれほど重要か。相手の思考を考え、相手の行動を考え、その行動に己が行動する事で修正をくわえ、目的を達する。

それは戦場だけの話ではない。戦場に立つ前に100戦のうちの1戦は始まっているのだ。いや、そういう意味では100戦の内99戦は戦闘に入る前の策略の範囲に入る。

 

それは敵だけの話ではない。

ガンタンク作成での采配。

あれも同じだ。敵だから奪い、味方だから与えるというのは短慮でしかない。自分の目的のために敵であろうとも与え、味方であろうとも奪う。

結果、自分は目的を達成し、他の誰かはそこから利益を得る。

与える奪うが目的ではない。達成することが目的なのだ。

重用なのは目的を達成させる事。

 

そのために自分がどう動くのか、相手をどう動かすのか。

名将や名軍師が、戦場遊戯の巧者ではあっても王者でない理由はこれだ。遊戯に勝つために遊戯をしているわけではない。相手をどう動かすかが重要だから、ゲームの勝敗はその次なのだ。そんなものは、結果に過ぎない。遊戯の勝利を求めているわけではないのだ。

 

「戦いは二手三手先を読むものだ」赤い彗星の名言だ。だが、その読む舞台を作る段階が抜けているから、君は最後まで前線指揮官なんだよ。

 

そうなると、自分の優位性が見えてくる。

最終目標をどれだけ具体的にしているかが、優位になるのだ。しかし、それはより遠い未来を目標にするほど、不確定要素が加速度的に増えて行く。だから、すべての人間が、この戦争とその戦後しか見ていない。

 

この世でただ一人、オレを抜かして。

 

「ハ、ハハ、アハハハハ」

 

なんてチートだ。なんて反則だ。

オレは知っている。オレは未来を知っている。連邦軍とジオン軍。天才にも名将にも、その他の数多の将軍たちにも見えていないモノが見えている。そうだ、双方の陣営は勝利しか見えていない。勝利を目的にしかしていない。それは正しい。

だから、オレはその先を行ける。

この世の中でジオンが敗北し、ティターンズが起こり、エウーゴが対抗し、アクシズが帰還し、ネオジオンがアクシズを落とそうとして失敗する未来を想定している者はいない。

その為の、道筋を認識できる存在は一人だけだ。

 

その先に派生する諸問題にどう対処するかなんてどうでもいいのだ。

原作に持っていく事がオレの目的だ。その先がどうなるか知っているから、余計な選択肢を無視できる。

他の誰かは、無数の選択肢の中で最良の選択を模索する中、オレは最適解答を目指してすでに行動しているのだ。

これをチートと言わずに何といえよう。

 

ガンガンと蹴りつけるデスクから書類がバラバラと落ちる。

 

「ハハハハハ。ハーッハハハハハ!」

 

たった一人の笑い声だけ響かせて。

 


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