研究者にして技術者の最大の欠点は何か?
「だから、こんな出力はいらないでしょう?」
「なにいってるんです!? エネルギー効率が12%も変わってくるんですよ。6%の消費増ですよ。2倍の効率なんですよ!!」
つまり、最高の技術で最高の性能を追い求める所である。
あれから、二次予算が正式に降りた。予算会議には出席しなかったがコーウェン准将から、連絡だけはもらった。
二次予算を皮切りに、おれはV作戦軌道変更計画(脳内)を発動させる。
その槍玉に挙がったのが、ビーム兵器チームである。
技術者にとって、最高の製品を最高の能力で提供するのが使命のようだが、残念な事に、顧客の要望に応えられなければ、それは無駄だという事を理解していないのが、致命的である。
当然、そこを突かせてもらう。
「エネルギー消費を6%上げる余裕なんてないですよ」
「まだ余剰キャパが十分あるだろう」
なんで技術者って、割り当てられたエネルギー量を「最低ライン」という認識で物を作るのだろうか? 余裕をいれて多目に計算して提示しても、きっちり使い切った上に、さらにお代わりを要求する始末である。
「あれは、予備用のエネルギーです。割くわけにはいきません」
「これは、主武装となる新兵器だぞ。ここに全力を向けないでどうする? 鉄の棺桶でも作るのか? 我々は、君たち連邦軍の要求する戦艦の主砲クラスの武器を開発しているのだ。その性能を保持するために、全力を尽くしてくれる約束だぞ」
そんな感じのビーム兵器開発リーダーの、押せ押せ交渉である。事実、2回ほどお代わりを要求され、少ないエネルギー配分をやりくりしてその要求には答えてきた。
「では、現状では、必要な性能の物は作れないと?」
「あと6%だ。6%だけでいい。頼む」
強気で出て、その後に優しくする。まるでヤクザの交渉術のようだ。が、残念ながら見切ってしまえば、それまでである。
「現状の性能で兵器を開発していただくわけには? 性能の低下には目をつぶりましょう」
それができれば、そもそもお代わり要求なんてしないわけで。
「それができないから言っておるのだ、現段階でエネルギーの安定性が……」
ごまかすために専門技術でごちゃごちゃと煙に巻く。
「仕方ありません。では、ここまでにしましょう。プロジェクトは一時凍結させます。来月いっぱいで計画の調整を行いますので、開発資料の整理に努めてください。」
そういって、机に出した資料をまとめだす。一瞬ポカンとしていたリーダーさんが、怒ったように大声を出す。
「凍結ってどういう事だ!」
「こちらの提示する要件で製品を開発できないなら、開発作業を凍結するのはやむを得ないでしょう?」
「モビルスーツの主力武装だぞ!!」
「ええ、武装です。その為に、モビルスーツの開発計画をとん挫させるわけにはいきません」
最悪、MS開発計画においてビームサーベルだけでもあれば最低限(ほんとに最低の最低だが)は事足りる。
「ほかのどんな兵器が、ビーム兵器の代用になるっていうんだ? 120㎜の豆鉄砲か?」
「それは、今後の調整次第ですね」
「あんただってわからないわけじゃないだろう。どうせ、再開させる羽目になるんだ。あんたの経歴にだって傷が付くのは嫌だろう?」
脅し透かしになってきたけど、なんだかなぁ。まあ、元々マイナー技術畑の人だし、中小企業的には、これでも交渉で頑張っている方なのかもしれないか。
「私の経歴なぞ。連邦の勝利に比べれば、考慮するまでもない事ですよ」
笑って敬礼して、部屋を出た。