【リストラ候補】
違う違う。
【廉価MS製造開発要員割振り】
うん。おためごかしだな。
いくら基礎構造を流用するからとはいえ、ジムを作るための要員は必要だ。当然、その人材は、現在バリバリMS開発をがんばっているモビルスーツ部門から引き抜く必要がある。
廉価版とはいえMSを作るわけだから、それだけの能力が必要だ。
しかし、だからといって各部門の主要メンバーを引き抜くわけにはいかない。ジムへの移行を気取られるわけにはいかないし、そもそも、現在開発中のRXシリーズが完成することが前提だ。引き抜いた結果ガンダムが開発できませんでしたでは、本末転倒である。
となると……
「若手からの大抜擢という形で引きぬくしかないんだよな……」
まだ、実績のない若手要因に任せるという話だ。
オレの計画通りなら、将来V作戦がジムへと移行するに当たり、この責任者の立場は後任にとって代わる。その場合、影響力の小さい若手なら、栄転という形で量産機開発の管理者から外すことができる。プライドの出来上がった高齢層だとそれが難しい。新しいことに挑戦する意欲がなくなるとか、慣れ親しんだ今の状況から離れたくないとか……
その為に、用意した人材リストから、やたらと目立つ人名に目を向ける。
別にその人の名前が珍しいわけではない。
『ウッディー・マルデン中尉』
こいつか……
若手で実績はないけど管理能力のある士官。図ったかのように条件にあてはまる人材だ。
別に、この人に問題があるわけではない。
オレがためらっているのは、原作の話だ。この人は原作で婚約者を結婚前に失って、その上ジャブローに攻め込まれた際、ジオンの赤い彗星に、コクピットごと破壊されて殺されるのだ。
もしかして『大抜擢→将来に見通しが出る→プロポーズ→そして原作へ』の天国から地獄ルートをオレが推したことになるのか?
……かなりヘビーな気持ちになるが、俺だって連邦士官だ。人に「死ね」という軍人だ。
それに、結婚前とはいえ、あの婚約者のマチルダさんといちゃいちゃできるボーナスステージがあるんだ。そう思って、現実から目をそらそう。
リア充爆発しろが実現するのも嫌な話だ。
「廉価版ですか……」
「あくまで、軍としての意向です。人材に関してはこちらで調整します。叩き台だけでいいので手伝ってほしいのです」
ジャブローの一室で、テム=レイ大尉と協議をする。もちろん、このジムにはテム君はノータッチ。かかわらせることはない。君はガンダムにすべてを捧げてくれ。
ウッディーの話のせいか、この人の今後の事もいろいろ考えてしまうが、それを頭から追い出す。考えたところでどうしようもないのだ。オレは自分の事が精いっぱいなただの人間で神様ではない。
オレの葛藤をよそに、廉価版MSの概案が出来上がる。
肩のキャノンは取り払われ、装甲も高価で重いルナチタニウム合金を排除。その分の軽量化によりエンジン回りの見直し、関節部分の簡略化と手を加えていく。
「ここまで必要ですか?」
オレがくわえていく修正事項に、レイ大尉が聞く。たしかに、項目を上げているだけだが、その数は結構な数になる。
「拡張性がありすぎるように見えるのですが」
「それが必要なんですよ。レイ大尉。これは、戦後も使えるモビルスーツです。ジオンとの戦争の後、地球連邦政府には地球圏の復興という使命があります。これは戦中そして何より戦後も使うモビルスーツになるんです」
「はあ……」
「大丈夫ですよ。レイ大尉にこれを作れなんて言いません」
オレの言葉に納得するレイ大尉。
まあ、新技術であるモビルスーツの一線級の技術者だ。量産用の廉価版に魅力を見出せないも仕方ない。悪いが、レイ大尉には最後までガンダムを作ってくれ。
再び原作のテム=レイ大尉の最後を思い出す。主人公アムロの初戦闘で宇宙に吸い出されて酸素欠乏所となり、そのまま中立コロニーに流れついて、ジャンク屋で働きながら、最後は階段を踏み外して……
考えるなコウイチ=カルナギ。お前はただの連邦士官で、原作知識を持っただけの人間だ。自分の事しかできない人間だ。誰をも救える人間じゃない。
ルウム戦役で家族が死に、すでにこの戦争で同期の半数近くが死んでいる。だが、何をしろというんだ。
士官学校で最初に教わった事じゃないか。近代戦において、目に見えない相手を殺す以上に、身近にいる仲間に死ぬかもしれない命令をするのが士官なのだと。
仲間を助けるのが良き兵士。仲間を見殺しにできるのが良き士官。
「こんなものでいいしょう」
本当は、もう少し追加したい要素があるのだが、そこらへんは後で随時追加させるとしよう。現時点で廉価版MSに不自然に力を入れると怪しまれる。
ついでに、今のおかしな方向に行く思考もリセットだ。
コウイチ=カルナギは地球連邦軍士官だ。
それでいい。