ジャブローのモグラども   作:シムCM

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19 V作戦の完成

「V作戦は連邦モビルスーツの開発計画だったと聞いているのだが」

「もちろんです。現在RX-78は開発段階です。順調とは言えませんが、スケジュール通りに進んでおります」

「この量産機は?」

「RXシリーズは型番からわかるとおり試作機です。正式採用された機体ではなく試作機です。これが量産化されるわけではありません」

「V作戦はそもそも連邦軍の主力モビルスーツを作る計画だと思っていたのだが?」

「もちろんです。RX‐78はザクを超えるモビルスーツです。そして、この量産モビルスーツの性能もまたザクを超えています。その上で、RXシリーズの運用データを組み込んで効率化したシステムにより性能使用率を上げることができます。もちろんコストの面でもです」

 

茶番劇のような会議で、コーウェン准将すら差し置いて回答している一佐官はオレです。

質問者はジャミトフ・ハイマン大佐。ああ、向こうも一佐官か。

会議には連邦軍上層部も出席している。そのうち何人かは、苦虫をかみつぶしたような顔だ。

 

まあ、わからなくもない。

現在RX-77ガンキャノンが組み上げてテストしようとしている段階だ。そして、ガンキャノンのデータを使って作るのがV作戦の集大成ガンダムだ。

オレ達の失敗とかV作戦の主導権奪取をたくらむ者達からすれば、RX-78を開発しているところで、問題を爆発させたかったのだろう。そうすれば、V作戦の集大成であるRX-78そのものを手に入れたうえで、MS開発計画を手に入れられる。

その前に、経理部がこの問題を提起したことで、彼らのもくろみは絶たれた。

正確には、こちらから量産化計画の予算請求を行ったことで、問題がすり替えられたともいえる。ガンダムを開発し、その生産費用を出してからの問題提起ではなく、ガンキャノンを開発して、その上での量産用MSの予算請求だ。

案の定、他の部署からの質問はない。

当たり前である、ガンダムが開発されていない段階でRX-78についてケチがつけられるわけがない。

量産MSについてもそうだ。圧倒的に情報がない。ジオンでいえば、旧ザクとヅダの量産MSのコンペしている段階で、ザクタンクの情報を手に入れるくらい無理難題だ。

今回の会議の前に資料は提示している。ただ、コーウェン准将にすら土壇場まで秘密にしていた量産MS開発計画(旧廉価版MS開発)を察知できた者はいない。

この段階での量産MS開発計画は、彼らにすれば青天の霹靂だろう。

 

原作で量産MSジムという存在を知っていたオレでなければ、この状況を作り出せないし、この状況に対応できない。

チート知識で笑いが止まらんという話だな。

 

 

 

「ご存知の通り、V作戦の概要は完成した形で始まったわけではありません。ましてや、本計画の予算計画が二次三次と段階的に確定している現状で、それに見合う成果を出しています。その成果が納得できないというならともかく、予算定義の段階で疑問視されるというのは、何か明確な理由があるのですか?」

 

オレの少し喧嘩腰になった言葉に、隣に座るコーウェン准将の肩がピクリと怒る。

同時に、言葉を向けられたジャミトフ大佐の片方の眉毛もピクリと持ちあがる。

う~ん、この狸と狐の名演技。オレは相変わらず掌の上の猿だわ。裏で話がついているのにこのリアクション。そんな小さな反応でも、周囲の緊張感が一段上がる。

だが、そこまでだ。

確かに、経理部は予算定義への質疑を行える立場だが、計画の精査は連邦上層部の仕事だ。割り当てる金額の精査はしても、計画の是非を問う資格はない。そして、計画に非を告げるための材料は他の誰も持っていない。そもそものV作戦の集大成ガンダムの開発はまだ始まってすらいないのだ。

要するに、そこまで話はついているわけだ。どう見ても茶番である。

 

「…予算に関しては、検討ののち回答する」

 

しばしの沈黙の後、これで質問は終わりというかのようにジャミトフ大佐が座る。

これで質問する資格のある人間からの質疑は終了だ。

そして、V作戦の支持者であり、主流派筆頭のレビル将軍に逆らえる者がいない以上、この計画はこのまま上層部の承認という大義名分を手に入れる。

 

こうして、ガンダムが開発されるより早く、V作戦はジャブローの近く深くで完成した。

 


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