ジャブローのモグラども   作:シムCM

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21 昇進と進退

「おめでとう。カルナギ中佐」

 

中佐の内示が出たらしい。

入室するなりコーウェン准将は立ち上がり、歓迎するように俺の両肩に手を置くと嬉しそうにオレを揺さぶる。

 

「V作戦の功績が認められたという事だ」

 

お~い。まだ、サイド7でのテストが丸々残っているんですよ。まあ、連邦軍的には一刻も早いMS開発が急務であり、すでに見切り発車的に量産機のジムの開発は始まっている(先行量産型)。

V作戦はすでに稼働段階に入ったといえるわけだ。

 

「准将も昇進を?」

 

オレの言葉に、抑えきれないようにコーウェン准将の両唇が持ち上がる。なぜだかわかっているが、頭に「黄色いバナナ」を連想した。

改めて言うが、なぜだかはわかっている。

 

「私の場合は、年が明けてからになるだろうな」

 

自分の話だからか、すぐにその話は終わらせる。

当たり前だが、地球連邦軍は組織である。当然、昇進降格配置換えといった人事異動は、緊急でもない限り、決まった時期に行われる。

オレのようなペーペーの佐官なら、ある程度融通が利くのだが、さすがに将官クラスになれば、よほどのことがなければそういったことは起こらない。とはいえ、この段階まで来ると昇進が撤回される例はなく、前例がないことに腰が重い連邦軍組織において、昇進は確定したも同じだ。たとえ、戦闘中にコーウェン准将が戦死しても、昇進したうえで二階級特進といった形式となる。

まあ、連邦の固定化した風習なんてどうでもいいや。

 

今回のオレ達の昇進が、かねてより想定していた事態であるV作戦の担当終了を意味している。あたりまえだが「お前たちは成功したから配置換え」とは言えるわけもない。あくまでも、昇進して配置換えをするから、今の仕事は後任に譲りたまえという話だ。

正しく飴と鞭である。

 

「今後の我々の処置は?」

「安心したまえ」

 

オレの言葉にコーウェン准将が笑みを浮かべたまま答える。

 

「我々は、このままモビルスーツ開発の一翼を担うことになる。V作戦の作業もあるが、その後はモビルスーツの運用に関しても手を貸すことになるだろう」

 

……

……えっ?

コーウェン准将の言葉を、改めて、噛み砕いて、よくよく吟味して、考えてみる。

確かに、連邦軍においてMS開発は誰もやったことのない分野の仕事だ。成功したオレ達(正確にはオレ)のノウハウは当然必要になるだろう。

そういう意味では、直接作業していたオレがこのまま残るという話は、ありえない事ではない。コーウェン准将も、コネ作りしかしていなかったとはいえ責任者としての最低限の責任だけ(強調)は果たしていた。そのまま、その特権の一部をキープするメリットもわかる。

問題は…

 

「君には期待しているよ」

 

…このゴリラ。自分のコネ作り継続のためにジャブローに残る気だ。それも、オレがコーウェン准将の仕事の代行をするという、V作戦開始当初のと同じ流れで丸投げする気だ。

 

そりゃ、V作戦成功の功績だ。軍事力である地球連邦軍において、各前線指揮官が今後の主力兵器であるモビルスーツの第一人者であるコーウェン准将と縁を持ちたいと思うのは当然の流れだ。ジオンのMSに対抗するための連邦軍MS。その配備の優先度、その運用方法。それは前線で命を賭ける指揮官ほど顕著だ。そして、現在の連邦軍主流派閥は“主戦派”だ。

そして、主戦派筆頭のレビル将軍の肝いりで始まったV作戦だ。コーウェン准将の手を離れ、連邦主導になるという事は、連邦軍の主流派閥から抜擢される可能性が高い。

改めて言うが、連邦軍主流派閥は“主戦派”だ。

 

コーウェン准将のコネつくりという目的からすれば、現在は入れ食い状態でうっしゃうっしゃという笑いが止まらん状況なのだろう。

 

つまるところ。

オ・レ・を・巻・き・込・む・な!

月勢力がジャブローとどんなコネを結ぶか知らないけど、オレと関係ないだろ!?

 

…あれ?

もしかして、オレって月勢力の一人と見られているのか?コーウェン准将の部下だし、地球派閥とコネなんてないし。

オレはもともとはジャブローの窓際士官の一人だもん。中枢ともいえる派閥にコネなんてあるわけがない。ついでに、今回の仕事内容も連邦軍人とは関係ない技術者相手だから、ろくなコネにならない。

 

うん?

いやいやいやいやいや。待て待て。ちょっと待て。待って…

オレは地球生まれの地球育ち。一時基地に赴任はしたけど、月にいた時期なんて3年程度。一年戦争開戦を想定して、すぐにジャブローに戻れるように画策していたから、月にコネらしいコネなんてない。

オレ、月勢力なのに月とのコネがコーウェン准将しかない。

つまり、コーウェン准将を裏切れない。なにせ、連邦主流派とのつながりもコーウェン准将。後援者である月勢力とのつながりはコーウェン准将。

他にありそうなコネは、超リアリストの鬼の経理部黒幕のジャミトフ大佐。紅茶の大将に至っては、コーウェン准将の庇護のないオレなんて見向きもしないだろう。

 

オレは今後、連邦軍で頑張るにはコーウェン准将の忠臣としてやっていくしか道がない…だと!?

 

 

 

謀ったなゴリラ!!

 


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