ジャブローのモグラども   作:シムCM

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24 ガンダム大地に立った後で~その2

「まず、早急にサイド7に残されたV作戦の回収をお願いします」

「サイド7に残っているテスト機は破壊されているはずだが?」

「実機ではなくテストデータの回収です。ジオンの赤い彗星がホワイトベースを追ったというのなら、サイド7にまだデータが残っているはずです。それがあればV作戦は進みます」

 

それが君の限界だ赤い彗星。

本当にV作戦を追うのなら「V作戦が何か」を調べるべきだった。

だが、それをしなかった。優れた指揮官で、優れたパイロットであるが故に、目の前にある実機に固執してしまった。

試作機RXシリーズはテストデータ収集機体である。すでにガンダムは、ほとんどのテストを完了している。そのデータだけでも量産機ジムのアップデートは可能だ。それには、最初から完成したデータを入れる必要はない。追加分を後から更新していくだけだ。

ジオンのMSとは構想が違う。ザクはザク用のハードとソフト。グフはグフ用のハードとソフト。それは、ザクには最適だろう。グフには最適だろう。だが、それに対応したパイロットはザクの操縦熟練者。グフの操縦熟練者だ。だから、専用機といった自分用にカスタマイズされる。

汎用ソフトという概念ではない。

 

…ああ、そういう意味でジオンの「統合整備計画」があるのか。

チラリと、レビル将軍の横に座るエルラン中将を見る。

彼が裏でつながっているのがジオンのマ・クベ大佐。そして、統合整備計画の発案実施者もまた同じ人物。

パクリか、この壺チン野郎(卑猥な意味ではありません)。

とはいえ、そこに気が付いたのがマ・クベ。そこに思いが回らないのがシャア。

その差か。

 

「RXシリーズは必要ないと?」

「いいえ。ただ、V作戦においてRXシリーズ自体は、すでに必須の物ではありません。ただし、RXシリーズのデータは量産MSの性能効率を上げる意味を持ちます。言い換えれば、テストデータを収集できないRXシリーズには意味がありません」

 

主力MSジムへのデータ更新は、ぶっちゃけるとガンダムである必要がない。もちろん、高性能なガンダムからの反映は、性能を上げる最良の情報である。だが、今後生産される量産機のデータを集計統合すれば、代用することはできる。

V作戦によるデータ更新は、ジムの初期段階をどこまで押し上げるかという話であり、一定の初期データでも、順次アップデートしていくことで、そのクオリティに持っていくことは、不可能ではない。

 

オレの言葉に、レビル将軍の眉毛がピクリと上がり、その下から鋭い眼光がオレを向く。

 

「しかし、ジオンがホワイトベースを見逃すわけがない。あれがジオンの手に渡ってもよいと?」

 

おおう、さすが派閥の長。最悪の場合の責任をこっちに向けてきやがった。とはいえ、こっちは佐官。責任をとるという意味では圧倒的に首の重さが足らない。おそらくコーウェン准将まで飛び火するという意味だろう。

 

「渡ったところで問題はありません。RXシリーズはデータ収集用のテスト機です」

 

だが、残念なことにそれは杞憂というものだ。

笑みを浮かべてレビル将軍に答える。

うん?コーウェン准将の意志?紅茶の大将に無理難題言われた時のゴリラのように華麗にスルーだ。

 

そもそもRXシリーズは連邦ですら量産を見送ったハイコスト機体である。

ジオンが仮に奪取したとしても、ガンダムの量産は絵空事。ガンダムの技術を転用するにしても、ジオンのMS開発構想から、技術転用したMSを一から作る必要がある。

連邦量産MSにアップデートするデータだが、そもそもその存在理由をジオンが知らない。仮に知ったとしても、それを入れるソフトがジオンには存在しない。ザク用のソフト。グフ用のソフトだ。ジム用のソフトを作り、その上でジム用のハードを作るしかジオンには方法がない。

正直な話、ガンダムが奪われるよりもV作戦完了時のジムを盗まれる方が問題だ。ただ、その時はジムの量産化体制が完了したことになるので、V作戦を秘匿する必要すらなくなるわけだ。

RGM-79ジムが量産した後のガンダムの扱いを見れば分かるだろう。新技術や新装備のテスト機以外の使い道がない。もともと、その程度の機体なのだ。それがあそこまで活躍したのは、パイロットのアムロ・レイの異常性に過ぎない。

 

「ジオンが見逃さないなら好都合です。実戦テストに事欠きません。必要な支援を送ると同時に、データを持ち帰ればV作戦の精度は増し、本来の目的を果たせます」

「馬鹿な!危険すぎる」

「では、赤い彗星が援軍をルナ2に呼び寄せるまで待ちますか?今なら、赤い彗星だけに対処すればよいのです。それが危険であることは知っています。しかし、同時にしのぎ切ることは不可能ではない。それは、サイド7からルナ2まで撃破されずにたどり着いたことが証明しています」

 

兵器はそろえてうれしいコレクションじゃないという話だ。

…しかし、こうやって見ると俺ってホントにひどい奴だな。主人公の生命の危険を無視して「お前の命よりテストの方が重要だ」と言って無理難題を言うDQN科学者まんまである。

 

まあ、危険な事をさせている自覚はあるさ。

 


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