「カルナギ中佐。これが各機体からのデータです」
「ありがとうございます。マチルダ中尉」
差し出されるデータの記録装置。結構ゴツイ。
ホワイトベース隊からのガンダムの稼働データを回収した物だ。
一緒に渡された一覧を見る。
・宇宙空間での敵のMSとの交戦記録
・対MSの白兵戦記録
・ビームライフルの射撃記録
・大気圏突入記録
・地上での戦闘記録
・機動行動による各エネルギーの減少情報
・各種機器の破損状況
げんなり…
これを改めてデータごとに再分配して、各部署に送り、解析した情報を統合して量産MSのソフトウェアにアップデート。
で、アップデートした情報をデータ化して配布。
昇進した段階で、全部放り出して逃げ出していればよかった。
もちろん、この後もお仕事です。
マチルダ中尉を伴って、エレカーに乗りこむ。
この後、マチルダ中尉は各種物資を補充して、再びホワイトベース隊の補給に向かう手はずだ。前回は想定外であった避難民の生活必需品などが主であったが、今回回収してもらったデータにより、ガンダム及びホワイトベースに必要な修理資材がわかった。
そして、それを用意するためには、その物資をどこが管理しているかなどを知る人間が必要となる。
つまり、RXシリーズを作る上で、各チーム分けを行い、それを統合管理し、さらに彼らに影響力を持つ人間。つまりオレだ。
まあ、オレは手はずを整えるのがお仕事で、実際のデータを解析したりはしないけどね。
ああ、そうか。マチルダ中尉へのこの作業も立派に「手はずを整えるお仕事」の内か。
各資材の管理部門へ移動するエレカ―の中で、暇つぶしに話しかけてみる。
考えてみれば、彼女も立派な原作キャラである。
「ホワイトベース隊の様子はどうですか?」
「…さすがに、疲れているようです。必死さで何とか保ってはいますが、危うさが目立ちます」
マチルダ中尉の表情は暗い。まあ、彼女も軍人である異常、避難民の民間人を支援するだけしかできないという状況が好ましいとは間違っても思わないだろう。
「マチルダ中尉は…」
「はい?」
「ニュータイプという言葉をご存知ですか?」
「ニュータイプ?」
「ジオンで研究されている兵器を扱う才能を持つ者のことだそうです。普通ではできないようなことを、事も無げにできてしまう才能の持ち主だそうです」
「アム…いえ。ガンダムのパイロットがそれだと?」
「いいえ。私も言葉を知っているだけで、何か定義があるわけではありません」
突然の話題に、面食らうマチルダ中尉に話を続ける。
「しかし、ジオンの後を追う我々からすれば、ジオンが研究している秘密技術は無視できない。ましてや、その対象が連邦軍にあるとしたら、連邦内部での彼らへの印象は変わってくるとは思いませんか?」
つまりそういう事だ。ホワイトベースへの支援を全面的にバックアップする。そのメリットを才女の彼女ならわかるだろう。「彼らを見捨てる」という最悪の事態を回避する為には、できる限りの手段を講じる必要がある。
例えば、彼らを「ジオンの研究するニュータイプ部隊」という事にして、新技術のテストとして、新兵器の運用テストといった特殊な研究のためと大義名分を得れば、補給部隊として手を差し伸べる事ができる。
彼らを見捨てた挙句、新兵器「ニュータイプ」の実戦投入が後手に回れば、彼らを見捨てた者達には大きな失点となる。開戦当初のモビルスーツのように。
そのリスクに見合うデメリットがホワイトベースにないという事実が、彼らを見捨てない最後の理由になる。
そのメリットを彼女が理解すれば、後は彼女が勝手に動いてくれる。
そして、それは原作準拠を旨とするおれの目的と合致する。
「なぜ、そこまで?」
面識のなかったオレの言葉に疑問を持った彼女に笑って答える。
「RXシリーズの開発管理官は私でした。量産機へのガンダムのデータアップデートが今の私の仕事。そして、一緒に仕事をしたテム・レイ大尉のご子息がホワイトベースでガンダムを動かしている。私が手を貸さない理由の方がないでしょう」
オレの回答に、彼女は何か納得するように小さく笑う。
オレにはその笑みがとてもはかなく感じた。