「少佐。君には期待している」
「はっ?」
あの、意味わかんないんですが。
いぶかしむ俺をよそに、コーウェン将軍は言葉を続ける。
「君の能力は私もよく知っている」
将軍といたのって2年もなかったんですけどね。
「私は君に、この反攻作戦の中核を任せたいと思っている。君しかできんことだ。君にしか任せられん。難しい仕事であることは理解している。私も全力でサポートするつもりだ」
「閣下。自分にその計画の総括をしろと言っているのですか?」
どう見ても、佐官クラスの仕事じゃねぇよ。ってか、それはお前の仕事だろ。
「本来なら、それは私の仕事でもある。だが、現在のジャブローでは、それができん」
コーウェン将軍は、窓の外の天井のある風景を見る。
「月にいた私はここでは外様だ。旧態依然としたこの地では、私のような外様は手足をもぎ取られているようなものなのだ。笑ってくれ。月にいた私が、地球で息をすることにすら苦労する始末なのだ」
将軍はデスクの上の大きな封筒を手に取ると、オレに渡す。
「ジオンの新兵器に対抗するには、老人の凝り固まった価値観ではなく、若者の柔軟な発想が必要だ。君にはそれがあると私は確信している。佐官用の個室の用意がある。君の補佐をするための従卒もつけた。優秀な秘書官だ。必要なものは、彼女に言えば用意しよう。私も最大限努力する。以上だ」
5分後。
ふっざけるなぁぁぁぁぁ!!
おめえが楽したいだけじゃねぇか。
なにが、「息をする事すら苦労する始末だ」だ。うまい事言ったつもりかよ。
つまりあれか、オレはお前の腰ぎんちゃくよろしく、「コーウェン准将の命令で」を繰り返して、調整を取って、しかも失敗したら「君には失望したよ」か!?
お前が、ジャブローでおっぱいプルプル接待に鼻の下伸ばしているときに、オレは技術士官とスケジュール調整してろってか!?
どこからどう見ても100%間違いなく完全無欠に「エリートのいる地球で職務そっちのけでコネ作りに来てる」だけじゃねぇかよ。
ひとしきり暴れてみたが、そもそも軍は縦社会。准将と大尉(少佐だけど)には、でっかい開きがあるわけで、断る事すらできん。
ましてや、連邦の反攻作戦の要である。「やっぱなし」ともできないのが現状だ。
連邦の量産MSであるジムを作れって話なら、そう難しい事でもあるまい。
とりあえず、思いっきり地面にたたきつけてぐしゃぐしゃにした帽子をクリーニングしてもらう事を、従卒にお願いする事にしよう。