「准将。この計画を進めましょう」
オレが差し出した計画書をコーウェン准将が面食らった表情で受け取る。
そこに書かれた内容を簡単に説明し補足すると、その内容にコーウェン准将がこちらを厳しい見る。
「開発系統を分ける?」
「はい。連邦軍のMS開発技術はジオンと比較しても遅れているのは事実です。しかし、こちらには組織としての基礎体力があります。MS開発計画を地上と宇宙で分けるのです」
「ふむ…」
RGM-79ジムはザクよりも性能が上である。しかし、ジオンとて無能ではない。新型MSを開発しているのは間違いない。MS-09ドムだ。なりふりを構わないジオンは、それまでのザクの開発会社であるジオニック社から、ツィマッド社に切り替えたほどだ。
MS開発という分野において、ジオンは先を行っている。それに現状のまま追いつくことは至難の業だ。
そこで目を付けたのがジオンの局地用MSだ。
ただし、水陸両用とか砂漠専用といったミクロな意味ではなく、もっとマクロな意味での二分化だ。あくまで、地上用と宇宙用だ。
「もちろん、開発情報の集約はこちらで行います。短期的にジオンに勝つには、MSの性能を上げる事は必要不可欠です。そのために、機能を取捨する事で、短期間で新技術を盛り込み性能を上げる事ができるはずです」
ジムのハードウェアには一つ欠点がある。
そもそも、RX-77開発時の基礎構造を流用している事。その基本構造は初期段階で完成していたわけではない。一刻も早い連邦MS完成のために、稼働可能というレベルでしかない。
しかし、当然RX-77開発以降も技術開発は進んでいる。新兵器のMS開発において、技術は急成長する新分野だ。
しかし、それらの新技術はRGM-79ジムには盛り込まれていない。
そして、それに関してはソフトウェアで対応できない。ジオンと同じように、新技術を盛り込んだMSを開発する必要がある。
そして、すべての新技術を盛り込むには時間が必要となる。
そこで、MS開発を二分化する。同時に盛り込む新技術を地上と宇宙用に振り分ければ、導入する新技術の数を制限できる。
そして、それはMS開発期間の短縮へとつながる。
ジオンと違い、資本力とMSパイロットの技術力の均一化がそれを可能にする。宇宙に上がったら、MSを宇宙用に改修するのではなく、宇宙用の新しい機体を用意する。
操縦系統は地上も宇宙も変わらず、その補正はソフトウェアで行う。
ジオンには無理でも、連邦軍なら可能だ。
あ、でもテム・レイ大尉がいないから、技術情報の確証がないや。まあ、そんなのは科学者同士ですり合わせてもらえばいいか。
ついでに、ダメ押しで政治的なメリットを加える。
「月の重工業企業なら、准将の顔も効きます。今から動けば、こちらが主導権を握れます」
「しかし、連邦MSの情報が漏れるのはまずい。月企業は完全に連邦側というわけではない」
「だからこその、教育型コンピューターとV作戦です。基礎OSの情報は提供しても、その後の更新情報はジャブローで握っておけば、企業側の首根っこを押さえる事が出来ます」
ジオンのMS信仰はハードウェアに依存する。だから、新機体がぞろぞろ出てくるのだ。
だが、V作戦の有利性は、ガンダムやジムといったハードウェアではなく、その教育型コンピューターによる、操縦補助システムのソフトウェアだ。
連邦もまたMSの性能差をパイロットに依存しているといってもいい。ただ、ジオンのように各パイロットの習熟度によるものではなく、操縦システムのハードとソフトの両面における均一化による操縦のしやすさにあり、MS操縦の必要習熟度の低さにある。
その補助ソフトはジャブローで秘匿する。
月企業からハードウェアの情報が漏れ、ジオンがそこから連邦MSの性能を知ったとしても、それを操縦するパイロットの技量と補助システムの加算分は手に入れられない。
月企業からMSを受領後に、連邦軍でアップデートすればいいだけなので、月企業から手を出されることもない。実戦データは基礎OSで確保しているし、稼働データにそれは必要ないから企業側から求められることもない。
そして、そもそもMSの性能を知られたところで、ジオンはドムやゲルググを開発している。安定性と平均的な能力を求める量産MSの技術が革新的な新技術にはなりえない。MSに関しては、ジオンの方が10年進んでいるのだ。
もしそれらの革新的な技術が必要なら、それは連邦軍で、ガンダムというテスト機体を作り上げてテストすればいい。
「すくなくとも、現在中東での反攻作戦を前に、宇宙での戦闘に向けた動きは始まってもいません。今なら、他から横やりを入れられずに話を進められます」
そして、始めたところでジャブロー側にデメリットはない。都合が悪くなって途中でキャンセルしても、相手は月企業。ジャブローの首脳陣にとっては優先度は低い。
その場合、コーウェン准将の顔が潰れるわけだが、ジャブローでMS開発という基盤を作り上げたコーウェン准将にとって、月企業の後援は絶対必要な要素ではなくなっている。もちろん痛手ではあるが、その場合ジャブローはコーウェン准将に大きな借りができたともいえる。ジャブローに影響をもつコーウェン准将にだ。
月企業と違って、こちらはジャブローも無視できない。
そして、うまくいった時はコーウェン准将の一人勝ちである。月でのMS開発。ジャブローと月企業とのつなぎ役としての太いパイプの上に座れる。
「二つの開発情報の統合に関しては、ホワイトベースから持ち帰ったV作戦の情報統合のノウハウがそのまま使えます。その点のリスクは少なく済みます」
「フム…レビル将軍にお伺いを立ててみよう」
よし、これでこの計画は8割確定。
V作戦時に、情報統合をしていたのがオレである以上、作業責任者として俺の影響力は無視できない。それはコーウェン准将も理解しているだろう。同時に、月での開発組織との直接的なパイプ役としてオレが自動的に組み込みこまれる。ついでに、地上用MS開発へのパイプにもつながっているバイパス機能付きだ。
名実ともに、オレという適任者を無視できない。
さて、次の手と行きますか。