ジャブローのモグラども   作:シムCM

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39 かつての上司

ジャブローが襲撃された。そのニュースは当然ジャブロー全体に広がり騒然となる。

連邦本部ジャブローについにジオンのMSの手が伸びたのだ。

…まあ、ジオンの手が伸びるのは宇宙船ドックで、オレは当然そんな危険地帯にはいない。

戦闘自体も、騒ぎの割にはそう大きくなることもなく終息した。

 

そんな中、一人の人間から呼び出しを喰らう。

もちろん非公式というかプライベートでだ。

これで相手がきれいな女性士官ならうれしいのだが(そんな当てはないのだが)相手は、その正反対にいるような人間だった。

 

 

 

「何を考えておる」

 

バーのカウンターで悪役顔の老人が詰問するような強い口調で聞いてくる。

もちろん相手は、オレを呼び出した相手。ジャミトフ・ハイマン大佐だ。

横目でにらむ鋭い目から視線を逸らすように、グラスに口を付ける。

 

「査察が動き始めた。お前だってわかっているだろう」

「ええ、そのようですね」

「…」

 

オレの言葉に、横目で様子を窺うのをやめてこちらを見る。

グラスをおいて、首をひねってジャミトフの目を見る。

そこから何か読み取ったのだろう。ジャミトフの眉間に皺が寄る。

 

「それは逃げだぞ。いや、諦めといってもいい」

「違います。これは結果です。これまでの行動も、そしてこの結末も」

「…」

 

なにが?と聞かないところがジャミトフ大佐のいいところだ。どうせ聞いても答えないとわかっているから、余計な事は聞かない。

そういう意味でも、オレの理想の上司かもしれない。部下を切り捨てることができる人間だ。

 

オレから視線を外し、グラスに口を付けながら、何気ない風を装ってジャミトフ大佐が口を開く。

 

「もし、椅子を用意してやると言えば、考えは変わるか?」

「…いいえ」

 

その言葉に一瞬息をのむ。

オレの状況を読み取った彼の最適解の行動の『ニュータイプ専用MS開発』の研究所を掌握することだ。オレとの密約でコーウェン派閥主導となっているが、研究所を用意をしたジャミトフの影響力はまだ残っている。オレやコーウェン少将との関係が悪化するが、落ち目の人間に配慮する必要もないし、これからかかる火の粉を振り払うために、ジャミトフの強引な手法に対抗する余裕が無くなる。

それが、最も利益を得る方法だ。

そのはずなのに、あの実利主義の権化が、最適解ではなく次善策を差し伸べている。

 

その配慮に感謝しつつも、首を横に振る。

己の保身を考えていたなら、オレはこの場にはいない。

 

「そうか。わかった…」

 

そういうと、ジャミトフはグラスに残っていた酒を一気にあおる。そして、グラスを置くと体勢を変えオレを正面に見るように座り直す。

そして、鷹のような鋭い目をこちらに向ける。

 

「…」

「お前はどうしようもない奴だ。行動は早いが、確認を怠る悪い癖がある。お前は本来もっと多くのミスをしている。それがなかったのは、周りのフォローと、ただ単に運がよかっただけにすぎん」

 

ジャミトフの言葉に、頬が少し緩む。

それが、新任少尉としてジャブローの経済部でしごかれ、その後月へ配置換えが決まった時、二人だけでバーで飲んだ時と同じだったからだ。

 

「前と違って、根回しをする事を覚えたのは褒めてやる。だが、相変わらず悪い癖は治っておらん。そういう意味では、今回の改善では不完全という事だ」

 

あの時と同じ、悪い所、良い所を列挙していく。

事務的に、単的に。

そして、

 

「そこについては、自分で考えて改善するがいい」

 

前の時と同じように、そうやって話を締めくくる。それが彼の流儀。彼流の手向けなのだろう。

そのままジャミトフは席を立つ。それで終わりだ。

前の時と同じように、それで終わる…

 

 

 

…はずだった。

肩に手が置かれる。そして、言葉が続いた。

 

「それが出来たら、椅子を用意してやる」

 

驚いて見たかつての上司は、振り返りもせずバーから出て行った。

 


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