「無理難題をおっしゃられる」
「わかっています」
呆れ顔のテム=レイ大尉を前に、オレも肩をすくめる。
「まだ解析すら終わってないところがあるのに、開発成果を求められても困ります」
「わかっていますよ」
というわけで、あのあとコーウェン准将のオフィスから戻って、自分の所にあげられた書類から、必要なものをかき集めて、大まかな形にしてからレイ大尉に話を持ってきたのだ。
「だから、MS開発の成果を乗せない形でMSを作ってしまえばいい」
と、集めた資料と一緒に、適当に描いたラフ画を出す。
つまり、ガンタンク計画である。
「めちゃくちゃだ!」
悲鳴を上げるレイ大尉。これをモビルスーツですと言い放ったらそりゃ詐欺だろう。
「二足歩行は、解析が終わっただけなのでオミットする。戦車のキャタピラをつけてもらって機動力を確保。主兵装は遠距離砲撃だ。下半身がこれだ白兵戦は考慮しないで……」
「少佐!」
バンッ!
オレの言葉を遮るようにレイ大尉が机をたたく。
「もうしわけないが、こんなマガイ物を作る為に、ウチから人は割けませんよ」
お~、怒ってる怒ってる。でもそれは想定内。
「当たり前だ」
オレの言葉にレイ大尉も返答に困る。
「いいかね? 下半身のキャタピラは既存の戦車部門に丸投げする。主兵装の遠距離砲も陸上部隊の物を流用しよう。索敵用のモニターも通信システムも既存のモノがある。君たちの出番がどこにある?」
「……両腕のマニピュレーターでしょうか?」
「よし。ではそこも無くそう。そこはバルカンに変更だ、武器管制もほとんどいらなくなるな」
「……なにがしたいのです?」
そろそろ、こちらの意図を読み始めるレイ大尉。
「つまりだ。このMSモドキにモビルスーツ開発部門の手は不要だ。だが、MS開発するうえで、今使えるところはどこだ?」
「!!」
ようやく、オレの意図が飲み込めたようだ。おれがレイ大尉にこの話を持ってきたのは、力を貸せという意味ではないのだ。今実行可能なレベルで、稼働テストが必要な場所はどこかという話なのだ。
どうせ作るなら、MS開発と組ませて実践テストをしてしまおう。
この計画の良い所は、旧兵器部門の主導で製作されるため、MS開発の技術が漏れる点だ。一見これは欠点ではあるが、こちらが漏らせる技術を選べるならば、その技術のすり合せを丸投げして、旧兵器部門の作るMSという結果の集大成を知ることができる点だ。
幾ら向こうが主導とはいえ、どのみち統括はこちらなので情報は丸裸である。
「少佐の考えは?」
「姿勢制御とかは二足歩行になるから無用だ。私のもくろみは射撃システムだ。MSの汎用性を生かすなら、その為の操縦の基礎を確立させたい。移動、射撃、回避。そのほかの基本的な行動だ」
連邦のMS開発はまだ初期段階である。しかし、白兵戦が主となるMSであっても、その主武装は射撃武器だ。となれば、戦車のように停車してから砲撃ではなく、機動射撃の開発は不可欠であった。
……あれ?これがあのガンダムの双眼鏡型照準システムに発展するのか?
「確かに。しかし、それだけでは不十分です」
「というと?」
「集団戦闘では情報の共有化が必要不可欠です。観測、通信、データ共有とその解析情報があれば、今は不要でも、後のMS用兵器に武器管制が役に立ちます」
「なるほど。となるとソフトウェアで…いやいや、待てよ待てよ」
レイ大尉の言葉に、オレの中でひらめく物があった。
「少佐?」
「そうか。情報収集用の中核(コア)を作ればいいんだ」
「はい?」
「つまり、情報を記録して集約する装置を用意するのさ。さっき言っていた観測や解析データ、操縦の基本情報を集積し、最終的にまとめるシステムを積み込ませるのさ」
「そこまで高性能な情報処理システムを組み込む余裕が……」
「ある!」
身を乗り出したオレの断言にレイ大尉がのけぞる。
原作知識万歳。つまり、教育型コンピューターと、コアファイターだ。
そうか、だからコアファイターなんだ。
ガンタンクのハードウェアを作る陸上兵器部門に、解析作業でピークになっているMS開発部門。彼らにそんなものを作る余裕はない。そんな事ができる余裕がある部門は一つしかない。
旧兵器部門の二大トップは陸上車両系と、航空機系だ。新規MSを陸上系にまかせながら、その中核となる教育型コンピューターを航空系に振り分ける。こうする事で、双方がMSの主導を握ることを抑止できる。
そして、最終的にMS開発部門が「両方(の経験)を美味しくいただきました」になる。
教育型コンピューターは、MS開発後は無用のものになるし、新規MS(ガンタンク)は正規MS(ガンダム&ジム)にとって代わられるからだ。その利権のすべてを双方に差し出しても問題ない。
なにこの孔明の罠レベルの名采配!? 大事な事なのでもう一度言っておこう。原作知識万歳。
「すばらしい。カルナギ少佐。早急に上にあげる事にするよ」
あの後、レイ大尉と煮詰めて3日で草案まとめて提出されれば、コーウェン准将だって満面の笑みだろう。
あ、そうだ。ついでに、
「いっそ、この時期に二次予算申請すれば、どこからも文句でないんじゃないですかね?」
従来兵器部門をヨイショした後だから、この恩を最大限に売りつければ、予算案決議で賛同してもらえる可能性もある。
「それは早計だな。この時期に予算が下りたら旧兵器部門に予算を持っていかれるぞ」
「そうですか……」
さすがに、そこまで何もかも上手くはいかないか……