ソードアート・オンライン──聖剣──   作:kujiratowa

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服をひっぺがすデュエル

口元に笑みを浮かべながら、彼女がはっきりと言った。

その凛とした佇まいに、思わず一歩引いてしまいそうになるのを、ギリギリで堪える。

つまり、こういうことか。

彼女は俺の持っている≪聖剣エクスキャリバー≫を狙って≪辻PK≫を仕掛けてきたと────…………いや、彼女はあくまで俺の力量を試したいだけだとも言った……っ、一体何を考えているんだ。

 

「悪いけど、俺は別に≪伝説級武器≫の情報なんて特に……」

「何言ってるんですか、プレイヤーの皆さんが知っていますよ。キリトさんが聖剣エクスキャリバーを持っているって」

 

以前、アスナやユウキのために二刀を振りかざしたことがあったが、やはりそこから爆発的に情報が拡散しているらしい。

憶測の部分や邪推の部分も散見するようだが仕方ない、人の口に戸は立てられないものだ。

 

「おーおーおー、相変わらずモテモテじゃねぇかキリの字よぉ」

「うっさい」

「うふふ、おじさまだって人気高いんですよ? 私はもちろんおじさまのことも好きですから」

 

屈託のない笑顔を向ける彼女に、≪霊刀カグツチ≫の入手経路がわかったとき以来のニヤついた表情を見せるクライン。

本当にクラインはこの子のことを知らないのだろうか、それにしては随分と仲が良さそうにも見える。

一方的に、という言い方がついてくるのだけれど。

 

「────話を戻そう」

 

持っていたドリンクを傾け、喉を湿らせる。

 

「君の言う通りだ。俺は確かにエクスキャリバーを持っている」

「はい」

「それで、そのエクスキャリバーをかけて俺と勝負でもしようというのか。残念だけど、流石に俺もこの武器を渡すわけには……」

「いえ、違いますよ。私が欲しいのはエクスキャリバーじゃありません」

 

眼を丸くしたと思ったら、彼女は右手を顔の前にもってきて、ぶんぶんと横に振り始めた。

 

「だって、さっき欲しいって言ったのは」

「カリバーです。≪聖剣エクスカリバー≫」

「…………かりばー」

「です」

 

ほとんどクラインと同時に顔を見合わせたが、互いに首を横に振るだけだった。

以前、聖剣エクスキャリバーを入手したときの打ち上げで、カリバーとキャリバーのことについて話題が出たことを、何となく思い出した。

…………確かそう、シノンの話を聞きながら、人の器について考えたんだ。

 

「キリトさんの持つ聖剣とは別の聖剣です。私はそれを入手したくて」

「…………偽物?」

「ちっ、違いますよぉ! ひどいですキリトさん!」

 

思わず口をついて出てしまった言葉に、非難の顔色を彼女が向けてくる。

 

「ごめん、失言だった。でも、俺もクラインもそんな武器は聞いたことが無かったから……情報屋から仕入れたのか?」

「え? あ、うーんと、その、偶然というか、たまたまというか、あはは、どっちも同じ意味ですね」

「つまり嬢ちゃんが自分で見つけたってことか?」

「っ、さすがおじさま! その通りですっ!」

 

クラインの助け舟に、曖昧に誤魔化していた彼女の表情が一気に明るくなる。

情報屋にも出回っていない情報────確かに、無くは無い。

もちろん、そのクエストが本当に聖剣入手のクエストかどうかはもちろん定かではないが。

 

「わかった、それで? その聖剣を入手したいならすればいい。これ以上、俺に突っ掛かる理由はないだろう?」

「あ、さっきの試すって言い方、まだ気にしてるんですねぇ、大人気ないんだから。もう一つ理由があるんですよ、というか、こっちが本当の理由です」

 

彼女は左手の人差し指を立てて、語気を荒くしながら捲し立てる。

 

「エクスカリバーを探すのに、キリトさんのエクスキャリバーが必要なんです」

「…………ごめん、言っている意味がわからない」

「もー、だからっ、キリトさんのエクスキャリバーが無いとエクスカリバーを探せないってことですー!」

 

再び、クラインの方へと首を向ける。

クラインは俺の訝しむ表情を見ながら、首を小さく横に振った。

え、なに、諦めろってこと?

 

「さぁ、キリトさん。今すぐエクスキャリバーを装備して、剣を見せてください。大丈夫です、折ったりしないですから」

「いや、ちょっと待ってくれ、流石にこんな詐欺まがいな話に耳を傾けるほど、俺はお人好しじゃあ…………」

「んー…………────じゃあ、こうしましょう。私と≪デュエル≫してください。キリトさんが勝ったら、私はもう何も言いません。服をひっぺがすなり、頬ずりするなり、キリトさんのしたいことをしてください」

「うわ、お前ぇ最低だな」

「乗せられるなよ、馬鹿武者」

「私が勝ったら、エクスキャリバーを見せてくださいね!」

「はいはい……」

 

草むらから立ち上がり、やや見下ろすような形で薄橙に輝く瞳を向けて来る少女。

その眼光が、梃でも動かないように感じた俺は、数瞬迷ったあとで、コートに貼りついた草を叩きながら、立ち上がった。

思わず溜息が零れそうになるのを堪えて、彼女へと視線を向ける。

自信満々といった笑みを湛えた彼女は、先ほどまで装備していた暗色煌めく細剣を鞘から引き抜いたところだった。

同じように背中へと一本剣を背負い、システムウィンドウからデュエル申請を彼女────≪Yuuna≫…………≪ユウナ≫と読むのだろう────へと送った。

初撃決着モードを選択したことに対して、特に彼女から避難するような声は上がらなかった。

滞りなく手続きが終了し、目の前でデュエルまでのカウントが始まる。

 

10────。

クラインは気を利かせたのか、赤熱の翅を羽ばたかせて、俺たちからやや離れたところへと飛ぶ。

 

9────。

乗せられるなよ、なんて言っておきながらまんまと乗せられているのは、この俺だ。

 

8────。

しかし、この背筋に冷たいものが走る感覚……恐怖ともいえるようなこの感覚を、俺は久しく味わったことが無かったような気がした。

 

7────。

まるで、いつかの死銃事件のときのような、興奮とも冷静ともつかぬ、心の昂ぶり。あぁ、俺はそれを、味わいたいとどこかで願っていたのかもしれない。

 

6──。

彼女──ユウナが、緩やかに剣を構え始めた。

 

5──。

あぁ、そういえば魔法を使っていいとか、飛んでいいとか、そんなルールの話をすっかり忘れていた。

 

4──。

初撃決着で重要なのは、どんなに小さな傷でも相手に与えれば良いのだ。

自分の得物よりも重量のある獲物には、最速の剣技を。

 

3。

自分の得物よりも軽量のものには、重圧な連撃剣技を。

 

2。

肩の鞘に手をかけたまま、剣を抜かず。

 

1。

今度こそ、邪魔は入らない────!

 

【DUEL】の文字に向かって地面を大きく蹴飛ばし、思い切り剣を引き抜いてユウナへと振り下ろす。

見えているのか、彼女もまた俺の剣に真っ直ぐ細剣を伸ばしてきた────予想、通りだ!

手首を少し内側へと巻き込むようにし、ユウナの狙った≪パリィ≫をお粗末なものへと変える。

俺の剣はユウナの右半身側へと泳ぎ、ユウナの剣もまた俺の顔元を掠めるようにしながら、虚空へと線を引いていた。

決着を知らせるリザルト画面は、まだ出ていない。

剣を振った勢いを殺さず、そのまま空中を跳ねるようにして左踵を武器にした後ろ回し蹴りを放つ。

しかし彼女はそれをしゃがみこんで回避。

目端に捉えた彼女を逃すまいと、さらに回転を続け、慣性に逆らいながら気合で持ち上げた右踵を打ちおろす。

そこから転がるようにして受け身をとった彼女を、僅かの差で捉えきることができず、周囲の草を散らした。

休ませは、しない。

立ち上がろうとする彼女に向かって、体を左から捻りながら回転切りを放つ。

体が開く大技であり、防がれたり回避されたりした場合には大ダメージ必須だが、それも布石だ。

膝立ちになった彼女は細剣を地面と垂直に構え、もう片方の手の甲で細剣の刀身を支えるという細剣独特の防御姿勢を取った。

全力で右腕を振るいながら、あの≪スキルコネクト≫を使っているときと似たような分割思考を使い、左手を素早く虚空へと走らせる。

振り払った右手に何も持たない俺を、ユウナはどんな気持ちで見ていたのだろう。

予期していた衝撃が来なかったときの驚愕は、どんなものだったのだろう。

彼女の眼が、大きく見開かれた。

俺はたぶん、口元を大きく緩めていた。

右手を追うようにしてついてきた俺の左手に、先ほどまで右手で装備していた剣が、しっかりと握られていたのだ。

≪ソードスキルMod≫の≪クイックチェンジ≫を使った時間差の一撃。

完璧なタイミングで防御してみせようとしていた彼女の思惑を完璧に打ち破り、鈍い金属音を辺りに撒き散らせる。

検圧に押された彼女が、姿勢を保てなくなり、そのまま後方へと体を流した。

好機────!

 

「っ、ぉおぉぉぉぉぁっ!!」

 

銀色のライトエフェクトを帯びた刀身をユウナに向けて垂直に放つ。

獣王の爪痕を刻む片手剣三連撃技──≪シュープネイル≫。

対地に対してアドバンテージのあるソードスキルに、彼女は再び目を見開いた。

それが驚きから来る反射ではないことに気がついたとき、俺の剣はその悉くを丁寧に≪パリィ≫されたあとだった。

三度目の打ち下ろしを光を帯びた細剣の切っ先が力強く弾く。

そのまま神速の如く打ち込まれた細剣ソードスキル≪リニアー≫が、俺の胸の前数センチを残して、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………負けたよ、降参だ」

 

リザインを告げると、デュエル終了を知らせるリザルト画面が目の前に表示された。

どこか物寂しいBGMも、一緒に流れ始めた。

そうか、俺は負けたのか…………っ──。

 

「キリトさん、ありがとうございました」

 

左手に掴んだままの剣を見やり、柄の部分を何度か握り締め直す。

声をかけられ、顔を上げれば、いつの間にか帯剣を解除していたユウナが深々とお辞儀をしていた。

 

「そんな、俺は別に…………あぁ、あの、頭は上げてくれないか。戦って勝ったのは、君じゃないか」

「それでも、です。しっかりと向き合ってくれて、本当にありがとうございました!」

 

尚も頭を下げたまま、大声で彼女が感謝を口にする。

再び顔を上げた彼女の瞳が微かに潤んでいたように見えたのは、俺の気のせいだったのだろうか。

あんまりまじまじ眺めているのも失礼だと思い、装備を解除しながら、彼女へと背を向ける。

すると、ちょうどクラインが手を振りながら飛んでくる姿が見えた。

 

「いやぁ! 凄ぇデュエルだったじゃねぇか、二人とも!!」

 

着地するなり、割れんばかりの拍手をしながら、興奮気味にクラインが叫んだ。

 

「にしてもキリ公、お前ぇ本気で勝ちにいこうとしてただろう。そんなにそこの嬢ちゃんであんなことやこんなことを楽しもうと思ってたのか、この野郎っ」

「え? キリトさん、あたしであーんなことやこーんなことをしたかったんですか? もう…………」

「君まで乗ることはないよ……あぁもう、顔を赤らめるな! あとクライン腹抱えて笑うな!」

 

癪ではあるが、クラインのおかげで場の空気が和んだということも、また事実だった。

 

「────それじゃあ、あの、キリトさん」

「あぁ。約束の通りだ。今から見せるよ」

 

右手に片手剣を装備し直す。

数秒と経たないうちに、俺の背中には新たな剣が生成されていた。

そう、それは黄金の剣。

かつて≪全ての鉄と木を斬る剣≫と讃えられた伝説級武器の一。

鞘から引き抜き、逆手に持ち替えて地面へと切っ先を向ける。

 

「これが、聖剣エクスキャリバーだ」

「うわぁ………………すごい、綺麗……」

「それで? これでどうやって君の聖剣を探すんだ?」

「え、あ、はいっ、それはですね…………キリトさん、そのまま剣を放してもらっていいですか?」

「は? このまま?」

「えぇ、お願いします」

 

わけのわからないお願いをされてしまったが仕方ない、お願いはお願いだ。

短く息を吐き出して、右手で握った剣を放す。

エクスキャリバーはそのまま地面へと落下し、やがて土を削るようにしながら草原の上に倒れた。

 

「なるほど…………つまり、こっちですね!」

 

倒れたエクスキャリバーの刀身が指した方向を、ユウナは同じように指差す。

…………えぇと、つまり、これは。

 

「……ダウジング?」

「すごい、キリトさん良くご存じですね。そうです、ダウジングですー!」

 

…………なんだか眩暈のするような気持ちになった。

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