ソードアート・オンライン──聖剣──   作:kujiratowa

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≪スキル・コネクト≫

 

 

それにしても見事だよな、十一連撃。

んー、そう? キリトだって出来そうだけど?

剣一本で、っていうのは俺にも難しいよ。

ちゃちゃーって、無理なく振ってればいいんだから。たぶん、その気になれば十二とか十三くらいまで連撃も伸ばせそうだもん。

は? いや、それは流石に無理が…………っていうか、それなら最初から最高連撃の≪OSS≫を作ればよかっただろうが。

ダメダメ、≪マザーズ・ロザリオ≫は十一連撃で作りたかったんだから。ちゃんと意味があるんだよ?

ほう、そりゃ初耳だ。だったら、その意味とやらを教えてもらおうか────

 

 

 

 

 

「主の祈り、天使祝詞、栄唱。≪一連ロザリオ≫の威力、いかがですか」

 

幼子にでも問いかけるような甘く優しい声で、ユウナは≪土妖精≫に話しかける。

俺の知っている最強レベルのオリジナルソードスキルの一つであることは、もはや疑いようがなかった。

しかし、そうなると、一体どうやってあのソードスキルを入手したというのか。

聞いた話では、確かアスナしかその技を継承していなかったというのに。

≪絶剣≫の関係者、ということなのだろうか。

彼女の言葉に、いつかどこかで、絶剣と交わした会話を、ふと思い出した。

 

「おう、キリト。暫く見ねぇうちに大きくなりやがって」

 

空より降り立ったクラインのあまり巧くもない冗談に軽く喉を鳴らし、剣を肩に担ぐ。

土妖精のHPゲージは残り1本と半分程度。

ユウナの≪マザーズ・ロザリオ≫に関して聞きたいことは数多くあったが、今はまず目先のボスを倒す方が先だ。

倒れ伏していた土妖精が誇りでも払うような仕草をしながら、剣を支えに立ち上がる。

やや緩慢に見える動作は、奴に大きなダメージを与えていると思ってよいのだろうか。

 

「それにしてもやるじゃねぇか、お嬢ちゃん! まさかあんな連撃のOSSを持ってるなんて、人は見かけによらないもんだな!」

「えへへ、ありがとうございます」

 

のんびり喋ってないで次来るぞ! と言葉にしようと思ったのだが、まずはこの幻視を解かなければならないことを思い出し、素早く解呪を行う。

一瞬、視界が白く霞んだあと、目の高さが変わり、同時に慣れ親しんだ妖精の仮想体へと戻っていくことを感じた。

視界中央に捉えていた土妖精は、立ち上がったあとに大きく両手剣を掲げ、逆手に持ち替えたあとで、そのまま闘技場の床に突き立てた。

いや、ただ突き立てたというより、どちらかというとやや斜めに、刀身を、後ろに向けて。

まるで床を鞘に見立てて抜刀でもするのかというような姿勢を取り、スタンスを広げてこちらへと構える。

左右、クラインとユウナも、奴の一挙手一投足を見失うまいと、それぞれの得物を手に、目を凝らして土妖精の様子を窺っている。

わざわざ檄を飛ばす必要はなかったようだ、俺も二人に倣って≪エクスキャリバー≫を正眼に構えた。

そのときだ、翅を大きく広げた土妖精が、全速力で宙を走り、弾丸の如く俺たちの方へとやってきた。

その手に握られたのは両手剣ではなく、細工の少ない、細身の剣。

瞬きをすれば見逃したかもしれない一瞬に、奴は両手剣から別の剣を引き抜いたのだ。

あの両手剣にどれほどの重さがあったのだろうというくらい、速さを増した妖精の突進技に、俺もクラインもユウナも、大きく弾き飛ばされた。

空中でどうにか姿勢を制御するも、一気に3割近いライフが削られたことに、動悸が激しくなっていくような気がした。

 

「っ────今の、細剣技です。≪フラッシング・ペネトレイター≫」

 

同じように空中を泳いだユウナが、自身も使うのであろうソードスキル名を確固たる自信と共に諳んじた。

なるほど、言われてみれば確かに≪フラッシング・ペネトレイター≫だったような気がする。

しかし、ボスが放つ技だからなのか、何か別の調整が施されているらしく、攻撃範囲も威力も、細剣使いが放つものとは比べものにならないほど強力だった。

 

「別パターンってことか?」

「おそらく」

 

袴を翻しながら、クラインが目を細める。

クラインの言葉に相槌を打ちつつ、このボスに関してはHPゲージに頼ったパターン変更が効かないということを、改めて情報として整理し直した。

まだ一手目だが、今までとの違いでいくと“速さ”に重きを置いたパターンということだろうか。

 

「あれです、キリトさん」

「あれ?」

「えぇ、あの妖精が持っている剣。あれこそ、私が探し求めていたもの。≪聖剣エクスカリバー≫です」

 

ユウナは、妖精の握った一振りの剣を指差して、声を発した。

彼女の緊張する様子が伝わってくる、そんな声色だった。

再び、緩慢な動作でこちらを振り返った土妖精の右手で、剣が白銀に輝く。

あれが、もう一つの聖剣。

 

「おいおい嬢ちゃん、聖剣っていうのは≪細剣≫だったのか? 俺ぁてっきり、≪片手剣≫かと」

 

クラインの言葉に、俺も一緒になって頷く。

そう、何となくだが、勝手に片手剣カテゴリーの伝説級武器だと思っていた。

でも確かに、彼女が使う得物を考えれば、細剣というのも納得がいかないでもない。

 

「すみません、言ってませんでしたね。そうです、細剣カテゴリーの武器です。一応、設定上では、最初のエクスキャリバーを作っていた神々が、バランスを追究するあまり、どんどん刀身を削ってしまって生まれた一本目の聖剣らしのです…………がっ!!」

 

他愛ないような口調で話し始めたユウナの表情が険しくなり、空を蹴って真っ直ぐに土妖精へと飛ぶ。

直後、土妖精の剣とユウナの剣が交錯し、互いにいくつもの刺突を放った。

少しでも目を逸らせばその剣戟の速度についていけなくなってしまうような速さで、甲高い金属の衝突音が弾けては消える。

思い出したように俺も地面へと降り、そのまま床を蹴って土妖精へと肉薄する。

クラインも俺に遅れること数歩といったところで、土妖精に斬りかかり始めた。

三本もの剣が次々に打ちだされるが、ある剣は躱し、ある剣は弾き、またある剣は巧みに捌いてみせ、なかなか土妖精に決定的なダメージを与えることができずにいた。

毒づこうにも、その余裕すら見当たらない。

 

「ユウナ、もう一回≪マザーズ・ロザリオ≫は打てるかっ!」

「準備させてもらえば、いくらで、もぉっ!」

 

ユウナの言に安心し、土妖精と無理矢理ブレイクするべく、単発重攻撃のソードスキルを放つ。

二つの聖剣がぶつかり合い、その中心から衝撃波のような風が同心円状に広がり、周囲へと吹き抜ける。

直後、俺と土妖精の身体は後方へと弾けた。

 

「クライン、アレやるぞ! 61層!!」

「あ、あれ? ろく……っば、折れちまったらどうするんだ!」

「そんな鈍らだったらユウナも笑って済ませてくれるさ! いくぞ!!」

「だぁっ、くそっ、知らねぇからな!!」

 

何とか体勢を立て直しながら、前方で土妖精に向かって駆け出そうとしているクラインに、ありったけの声で呼びかける。

説明する時間が惜しく、端的に叫んだワードの意味を、クラインはよく酌んでくれたようだ。

同時に一抹の不安も過るが、それは結果が出てから考えればいい。

思考を無理矢理押し込み、彼方で剣を構えるユウナに指示を出す。

 

「俺とクラインで隙をつくる! ユウナはそこを逃さないでくれ!」

「了解です!」

 

小気味良い返事に思わず口角が上がってしまうのがわかる。

何とも言えない高揚感を味わいながら、クラインに遅れること数歩、俺もまた土妖精へと向かう。

 

「いくぞぉぉおぉぉっ! キリトよぉおおおっっ!!」

 

裂帛の気合を乗せたクラインの刀が土妖精の構える聖剣にぶつかる。

金属同士の衝突する甲高い音を意に介す様子もなく、そのままクラインは大きく右足を踏み込み、刃を滑らせて、聖剣の意匠を凝らした鍔に刀の鍔を押し当てた。

刀ソードスキル──≪鍔顎≫の発動が、クラインの手元より輪のように広がった赤黒い燐光から見て取れた。

 

今は懐かしい第61層、サブイベントの目的地となった古城エリア。

そこで出会った落武者風の一団──確か、≪百鬼夜行≫を相手にクラインと大殺陣を演じたときのことだ。

その首領であり、まるで独眼竜を思い起こさせるような戦兜を誂えた武者姿のモンスター≪夜闇≫と対峙したとき、偶然見つけたのがシステム外スキル──≪鍔顎≫からの≪強制スタンスイッチ≫である。

鍔顎による鍔迫り合い状態の二人に、どちらからかその拮抗を崩すことによってスタンを付与したスイッチが決められることを、俺とクラインはよく覚えていた。

 

場所が鋼鉄の城から妖精の世界へと移り変わっても、どうやらそのシステム外スキルは存続しているようだった。

最も、難易度は相変わらず難しく、下手をすれば仲間のソードスキルを崩してしまったり、敵ではなく仲間にスタンを与えてしまったりする可能性があるのだ。

だが、今は悠長にそのタイミングを図っている場合ではない。

クラインと土妖精のもとへと駆け寄りながら、距離3メートルを切ったところで、前方へと飛び上がる。

最小限の姿勢制御を取ると共に、クラインの背中を踏み台に、前方へと体を泳がせながら、引き抜いたエクスキャリバーをクラインの刀に叩きつけた。

心地好い金属の音と同時に、青白いライトエフェクトが剣を中心に迸る。

たたらを踏みつつも手にしたエクスカリバーを放さなかった土妖精の筋力値を称賛するとともに、がっくりと片膝を折った姿に思わず口許が弛む。

衝突の余波を利用して空中に浮かんだ身体で蜻蛉を切りつつ、ユウナの名を呼ぼうとして大きく息を吸った。

だが、彼女はそれよりも早く、そして正確に、戦況を見極めていた。

土妖精が地に着けた左膝の方から、暗色の軌跡を引きながら、ユウナがやって来た。

その手に、一際大きなライトエフェクトが瞬いている。

 

「クライン!」

「今度は合わせろよ、キリの字!!」

 

互いに考えたことは一緒だった。

ユウナの放った≪マザーズ・ロザリオ≫の全てが暴力的な威力を発揮して土妖精へと叩きつけられるのを確認しつつ、体勢を立て直した俺たちは吹き飛んでいく土妖精へと駆ける。

一足早く辿り着いたクラインは、その勢いを殺すことなく前宙を披露し、縦の回転エネルギーを余すことなく土妖精に解放した。

≪茜焔≫と呼ばれる単発重攻撃の刀ソードスキルにより、土妖精の身体が闘技場のリングに弾かれ、中空へと跳ね上がる。

絶好のチャンスを逃すことなく、しかし焦らずに放った≪ヴォーパル・ストライク≫が、2本目のHPバーもろとも土妖精を吹き飛ばした。

残るゲージは、1本。

 

「はっ……はぁっ、はぁ……っ…………やるじゃねぇか、キリト」

「ふぅっ…………っ、あれで外す方が、どうかしてる」

 

荒い呼吸を抑えず、互いに見遣ることもしないまま、クラインと会話を交わす。

逆手に刀を持ち、闘技場へと突き立てていたクラインが、空いた左手を緩々とこちらに伸ばしてきた。

意図を理解し、剣を握ったままの右手をクラインの左手へと伸ばす。

拳同士を突き合せる、互いの健闘を讃える行為。

そこに、新しい手が一本加わった。

思わず俺もクラインもそちらへと顔を向ける、そこには大きく顔を綻ばせたユウナの姿があった。

 

「すごいです、キリトさん! クラインのおじさまも!! あんなにも、簡単に息を合わせるなんてっ」

 

ぶつけた右手に続けて左手を伸ばしてきたユウナは、そのまま俺とクラインの拳を両手で包むように握り、興奮気味に切り出した。

 

「あと1本…………いけます、よね?」

「ははっ、たりめぇだよ、嬢ちゃん! ここまできて、退散だなんて真似は────」

「…………余計なフラグ、立てやがったな」

 

意気揚々と返事をしたクラインの声が、唐突に掻き消される。

多分、俺の呟きも一緒に消されてしまった。

それにしても、なんてあからさまな咆哮だ。

 

「マジかよ……」

「…………アイス、ドラゴン」

 

先ほど、自分が化けた悪魔と同程度の大きさの氷竜が、土妖精の吹き飛んだ先から姿を現した。

 

「お二人とも、竜殺しの経験は?」

 

先ほどまでの笑みを消し、ユウナは氷竜へと向き直って、俺たちに問いかける。

クラインと二人顔を見合わせ、それぞれに決意をもって答えた。

 

「あるよ、何度も」

「俺もあるぜ。なんてったって、ナンバリング作品も全部押さえたくらいだからな」

 

訂正、クラインはまだまだ冗談を言う余裕もあるらしい。

 

「ふふっ、頼もしいです。でも、そう、まずは回復をしていてください」

「回復を、って…………馬鹿言うな、お前一人で相手をするつもりか!」

「えへへ、流石に私一人じゃ時間稼ぎが精一杯です」

「時間稼ぎって……、嬢ちゃん、竜ってのは普通パーティー上限で挑むもので────っ、キリト! 俺ぁ結晶使うぞ!!」

 

クラインの言葉を最後まで聞くことなく、氷竜へと真っ直ぐユウナが走り出す。

クラインの言葉に同意する時間も惜しんで、アイテムストレージより回復結晶を取り出す。

胸に押し当て、回復呪を唱えながら、すぐにでも走り出すべく、前傾姿勢を取る。

 

そのとき、見えた。

ユウナの左手に、アイテムジェネレートの燐光が宿るのを。

 

ユウナが懐へと飛び込んでくるのを待ち構えていたように、氷竜は四足で伏せた状態のまま、鋭利な氷結晶が所狭しと生える尾を、鞭のようにしならせる。

その一振り目を跳躍で躱した彼女は、勢いをつけて戻ってきた尾に、右手のレイピアを狙い定める。

大きく波打つ氷竜の尾は、歪にたわみ、弾けた。

空中でも発動が可能な細剣三連撃ソードスキル≪グラス・レイ≫────豪快な刺突を叩き込む技を、彼女は器用にも、同じ箇所に向けて刺突し続けた。

そして────

 

「おい、キリの字! ありゃぁ、お前さんの!!」

 

────ユウナの左手に握る剣が、新たな光を湛える。

 

「…………≪スキル・コネクト≫だ」

 

前傾姿勢のまま走り出せなかった俺は、棒立ちのままのクラインに、目の当たりにしている現象の答えを口にする。

≪二刀流≫の存在しない新生アインクラッドで俺が至った境地の一つ、それが両手に片手剣を装備した状態でスキル硬直を埋めながら放つ連続ソードスキル攻撃──スキル・コネクト。

右手の剣で放ったソードスキルの最終動作に合わせて、左手の剣でソードスキルを放つという一人連携技は、時として在りし日の二刀流最大攻撃回数に匹敵するチェインを見せることができた。

しかし、右手と左手のスイッチを切り替えるには、誤差コンマ数秒の世界の調整が必要であり、俺の知る限り、他のプレイヤーでスキル・コネクトを扱える人物は、見たことがなかった。

しかも────

 

「────見ろよ、クライン」

「…………俺ぁ、夢でも見てるのか」

 

彼女の左手に輝く剣は、細剣と呼ぶには余りに刀身の太い、俺が使う≪片手剣≫と同じカテゴリに属するであろう剣。

右手の細剣と同じ鉱石で作製されたのか、同じような色味のその剣が、4本の剣閃を走らせた。

水色のエフェクトライトを引く高速四連撃≪バーチカル・スクエア≫。

垂直斬りより始まるそのソードスキルは、間違いなく片手剣カテゴリのソードスキル。

彼女は────

 

「────ユウナは、細剣と片手剣で…………≪スキル・コネクト≫をやってのけている」

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