東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第13話 「夢見の泉」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

当初の予定通り南と西の歌姫を退治した二人は一時里へ帰還しようとするのだが、里は禍王の手によって封鎖されてしまっていた。その日の晩、新子は不思議な夢を見たのだった。

 

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第13話 「夢見の泉」

 

 

「お前は…熱風…!」

 

「くくく、久しぶりだな、鈴奈庵の男…」

 

「何をしに来た…」

 

父親は机の上に広げていた紙束を乱暴に引き出しにしまい、幻想郷縁起を抱え込んだ。

 

「ん?今何を隠した?見せて見ろ!」

 

熱風はずかずかと歩み寄り、背中を丸める父親の肩を引っ張る。

 

「これは…この本は何だ?」

 

引き出しには気付かず、父親がとっさに抱え込んだ本を取り上げた。

 

「ふっ…”幻想郷縁起”か。私がいくら稗田のもとを捜しても見つからなかった本が、こんなところにあったとは…」

 

熱風がパチンと指を鳴らすと、彼の背後に10人ほどの憲兵団が現れる。そして憲兵は鈴奈庵に入り込み、一斉に父親に向かって行く。

 

「テメェゴルァ!どういうつもりだァ!?」

 

新子は自分に向かってきた憲兵に、思い切り殴りかかった。

しかし、新子の拳は憲兵の体をすり抜けた。それどころか、自分自身の体までもがまるで実体が無いように、やはり憲兵に触れることはできなかった。他の憲兵も自分に気付くことなく、通り抜ける。

 

憲兵の二人が父親を取り押さえる。非力な体格の父親では到底、抵抗できるはずもなかった。

 

「私が稗田を殺したとき、ご主人様の命令で稗田に幻想郷縁起の在り処を聞き出してから火を放った。後日、稗田が吐いた幻想郷縁起の隠し場所を捜したが、そこには何もなかった。その幻想郷縁起が…なァ~~~~~ぜ貴様の家にある!?本居!!」

 

その声と同時に、熱風は父親を思いきり蹴り飛ばした。父親は吹っ飛び、本棚にぶつかった。本がバラバラと崩れ落ち、上に覆いかぶさっていく。

 

「この本は私がもらおう」

 

─…新子よ、私は信じているぞ、お前がいつか必ず帰ってくることを…!─

 

「なんだァ、その反抗的な目は?」

 

熱風が父親を睨みつける。

 

「もっと痛めつけてやれ」

 

熱風からの命令を聞いた憲兵は本に埋もれている父親を引きずり出し、胸を蹴りつける。

 

「やめろォ!」

 

新子も、熱風の不気味に微笑む顔に向かって何度も拳を振り下ろすが、触れられることはなかった──

 

 

 

 

「やめ…!」

 

そこで目を覚ました。背中と額は汗でぐっしょりぬれ、息も苦しい。

燃え尽きたたき火の反対側で、華扇が仰向けで涎を垂らしながらぐっすりと眠っていた。近くの木の上で、竿打が首をかしげてこちらを見ていた。

 

「夢か…。今度のは前のよりも、ずっとハッキリした嫌な夢だったな…」

 

新子は起き上がると、昨夜の泉の方へと向かって行った。

泉まで来ると、金属でできた看板が有った。昨日は暗くて気付かなかったらしい。

 

『夢見の泉』

 

「夢見の泉…?よくわからんな…」

 

そう言いながら、泉に足を突っ込むと、服を脱いでほとりの草むらに置く。

 

「ろくに風呂も入れやしねぇ…これで我慢するしかないか…」

 

泉の水を手ですくって裸体にかける。泉には魚はおろか虫などの生き物が一匹も居る気配はなかった。底も泥ではなく平な石がタイルのように敷き詰められていた。

その石を見て、新子は顔をしかめた。前にも、魔法の森を通った時にこんなような風景を見たような…。鳥の化け物の罠にまんまとかかった時だな。流石に今回はそんなことはないと思うが…。

 

その時、静かだった泉が大きく波立った。

 

「何だ…うわっ!?」

 

直後に、水がまるで生きているかのように水面から飛び上がり、新子の両腕と首に巻き付いた。水のロープは巻き付く力を強め、どんどんと水の面積を広げていく。

 

泉の周りに点々と置かれて岩が少し持ち上がり、その下の暗がりから無数の鋭い目が覗いている。その直後、何もしゃべる暇もなく、新子は水に包まれた。

 

─く、苦し…─

 

水は新子を包んだまま再び泉に戻る。泉の底に敷かれていた平らな石がスライドして、人が一人入れるぐらいの大きさの穴が出現した。そしてどうにもできないまま、水と共に新子はその穴に吸い込まれた。

 

つるつるした水路を水と共に滑っていく。水が顔を埋めていて息もできない。

 

「うぶ…!」

 

そして突然、水路が途切れ真っ逆さまに下に落下した。冷たい石の床に背中からぶつかった。あわてて息を吸い、当たりを見渡す。ここは何かの部屋のようだ。床の隅にある排水溝に一緒に落ちてきた水が流れている。壁に一つだけランタンのような灯りが吊るされていて、薄暗かった。

 

「何だってんだ、ここは…」

 

「…人間、ね」

 

反対側の部屋の隅から声が聞こえた。それに驚いた新子はビクッと体を震わせてそこに振り向く。

 

膝を曲げて座っていたのは、薄汚れた白いシャツの上に灰色の上着を羽織り、灰色のズボンを履いた女だった。伸びた金髪の隙間から鋭い目が新子を見つめている。

 

「うわぁ!いつからそこにいた!?」

 

「2か月くらい前かしら。ずっとここにいるの」

 

「2か月も…?それにお前、その服は…マガノ憲兵団か!?テメェがやったんか…ヘックション!!」

 

「落ち着きなさいって。お前も奴らに生け捕られたのよ…」

 

「生け捕られただと…?」

 

新子は鼻をこすりながら呟いた。

 

「風邪をひく、これを羽織ってな」

 

女憲兵は灰色の上着を新子の方へ差し出した。

そういえば、服も下着も全て泉に置いてきてしまったようだ。仕方なく、その灰色の上着を羽織る。汚れているので着心地は良いとは言えないが、何も着ないよりはいいだろう。

 

「…んで、なんで憲兵がここにいるんだよ?」

 

「もう2か月ほども前だ…私の隊は3人いて、丁度あの泉のほとりで一晩休むことにしたの。そしたら、突然泉の水が溢れて、私たちをここへと攫ってきた。まず初日に隊長がどこかへ連れていかれ、戻ってこなかった。一か月後に、もう一人のメンバーが連れていかれた。私一人が残ったんだ…」

 

「何の為に連れていくんだ?」

 

「さぁ?」

 

女憲兵は肩をすくめてそう息をついた。

 

「とにかく、ここへ来たらもう助からないね。他のメンバーも多分もう既に死んでるよ」

 

「何でわかる?」

 

「憲兵の隊は兄妹のようなものでね。顔も似ていれば性格も似てる…そして隊のメンバーに何かあった時は、何となくだが感じ取れるんだ」

 

前々から、憲兵は隊ごとに顔や声が似通っていると思うことが有ったが、そういうことだったのか。きっと、憲兵は禍王に魔法か何かで生み出された兵隊なんだ。そして、憲兵自身はそれを知らない。

 

その時、女憲兵が寄りかかっていた壁が扉のように開いた。暗かった部屋に光が差し込んでくる。その光の中に、小さな無数の影がシルエットとして浮かんでいる。

 

「テメェらか!アタシをここへ連れて来たのは!?」

 

新子はそう叫んだ。影は一斉に部屋へと入り、女憲兵と新子を押さえ込んだ。

 

「おとなしくしろ。おい、もうあっちの憲兵は古すぎる。さっき捕まえた憲兵を使うぞ」

 

ようやく、新子と女憲兵の目が光に慣れ始め、その影が鮮明になった。普通の人間よりも一回り小柄で、水色のツルツルした服に身を包んでいる。今、命令を下したリーダー格らしき女も、その他も全員が怯えきったような表情をしている。

 

「おい、コラ!アタシらをどうするつもりだ!?」

 

「黙れ、卑劣なマガノ国憲兵団め!お前たち憲兵団を、私たちがどう使おうが勝手だろう!憲兵などに慈悲は無いのだから」

 

「アタシは憲兵じゃねぇ!」

 

「ふん、嘘をつくな。女の癖にそんな図体と目つきをしたヤツが居るかァ!」

 

どうやらコイツらはアタシまで憲兵だと思い込んでいるらしい。

早く誤解を解かないとヤバそうだな…

 

頭を床に押し付けられる。すると、床が微かに揺れているのが分かる。ガタガタと何かが打ち付けるような音も聞こえる。この連中の仲間が向かってくる足音だろうか。

 

「お前たちは大事な、奴らの餌だ…」

 

「…餌だと…?」

 

「何だ、この揺れは…?」

 

リーダー格の女が天井を見上げながら呟いた。新子も、足音のようなガタガタ音が、何かを削るようなガリガリという変わっているのに気付いた。

 

「よそ見したな!」

 

新子はすぐに自分を押さえていた小柄な影を突き飛ばし、そこから脱する。さっきの女憲兵も立ち上がって影と奮闘している。リーダーの女だけは音のする天井をじっと見上げ、背中に背負った金属の箱のようなものから飛び出している機械の腕を向けている。

 

新子が自分に向かってきた最後の影を殴り飛ばしたとき、天井がひび割れた。

 

「新子!そこにいるの!?」

 

「華扇!」

 

華扇が包帯の腕をドリルのような螺旋状に変形させ、天井の壁を削ってここまでやって来たのだ!だが、華扇がこの部屋へ降りたってもまだ天井を削る音は聞こえる。不思議に思ったその時、見覚えのある赤いものがチラリと見えた。竜の爪だ!竜の爪が崩した天井の穴を広げようと掘っていた!

 

「起きたら泉に服を置きっぱなしで居なくなっていたから、竜を呼んで一緒に探してたの」

 

「な、何だ…何が起こってるんだ!?」

 

突然の光景に驚きを隠せないリーダー女。そのリーダー女の胸に、華扇の蹴りが命中した。

 

「うぐっ…!」

 

さらに華扇が振り下ろした螺旋状の包帯が、女のかぶっていた帽子のツバにかすり、帽子が飛ばされる。

 

「覚悟!」

 

包帯を回転させながら、後ろに倒れ込んだ女に先端を向ける。女ももうダメかと思ったのか、ぐっと目を閉じた。

しかし、包帯は女の額に当たる寸前でとめられた。女が恐る恐る目を開ける。

 

「…あなた、もしかして…河童?」

 

 

 

「いや~、何だ何だ!お前さんの身内だったのか~、茨木華扇!」

 

さきほど、華扇が新子を助けに来てから3時間が経っていた。どうやら華扇はこの連中とえらく昔に絡んだことがあるらしい。

 

「悪かったな~、この河童のアジトに近づく憲兵は手当たり次第捕らえているんだ。そんな悪いツラしてる人間が来ちゃ憲兵と間違えてしまうよ」

 

「か、河童?今河童って言ったか?」

 

「ああ。私は河童の河城にとりさ。地上監視部の部長のね」

 

「河童…他の妖怪と共に絶滅したと聞いたぜ?それがこんな所で生き長らえていたとはな~」

 

新子が河童たちの差し出したきゅうりを齧りながらそう言った。

 

「…そうさ、私たちはもう150年近くも故郷の妖怪の山を離れてここで暮らしているのさ」

 

「でも、他の妖怪はもう幻想郷を捨て去ったのでしょう?何故河童たちは残ることにしたの?」

 

「当然だよ、愛する妖怪の山、そして幻想郷をそう簡単に捨てられないよ。他の者らが去りゆく中、私たちはマガノ国軍に抵抗し続けた。何十年も抗い続けた…ついに後が無くなり、妖怪の山を追い立てられた頃には、周りの妖怪は皆いなくなっていたのさ。だから仕方なく、山から随分離れたところに穴を掘り、この地下街を作った。でもこんなことになるなら、私たちも早くみんなと一緒に去っていれば…」

 

にとりと一緒に座っていた他の河童たちも暗い顔でうつむく。

河童は高い建築技術を持っているという。それでもここまで見事な地下街を作ったというなら、これはとんでもなく凄いと思う。まさに河童の技術のたまものだろう。

 

「でも諦めずに少しでも抵抗したのは凄いと思うぜ、アタシは」

 

「そ、そうかい?」

 

「ああ。逆に他の野郎どもは腰抜けだ、マガノ国のクソ共に降参して逃げるなんてよ…」

 

「それにしても、まだ何かありそうだな。どうして憲兵を捕まえてる?そして憲兵を何に使ってる?」

 

後ろの方の壁に寄りかかって座っていた、さっきの女憲兵が口を開いた。まだその腕はロープで結ばれている。

 

「私たちはまだお前たち憲兵団を許したわけじゃないからね」

 

にとりは女憲兵を睨みつけた。それに対して、女憲兵は目を逸らしてため息をついた。

 

「…私たちはここに居住を置いてからしばらくして、山に帰ろうと思った。でもね、ここから山への道にある妖怪共が居座ってて通れないんだ」

 

「ある妖怪?」

 

「そう。その妖怪のなわばりに入って怒りを買っちゃってね」

 

「なるほど。それで脅されて私ら憲兵を捕まえてその妖怪共に渡しているのか」

 

確かに、さっきの河童たちが酷く怯えた表情をしていたのはそんなわけだったのか、と新子は思った。

 

「別に憲兵を渡せって要求じゃないよ。人間でも河童でも誰でもいいから渡せばいいんだ。でも、丁度この上にある泉を利用して、そこに集まった憲兵を捕らえるのが一番簡単だからそうしているだけさ」

 

女憲兵は鼻を鳴らした。

河童たちが互いに不満の声を上げ始める。その時、華扇が新子の肩をちょんちょんと叩いた。

 

「ところで新子。私、すごく変な夢を見たの…まるで本当の出来事のようにとてもハッキリした夢。朝方に目を覚まして泉に水を飲みに行ってからまた寝た後だったわ…場所はあの泉、そこには新子が居て水に浸かっていた。すると突然水がうねって新子を引き込んでしまった。そこで目を覚まして、どうしても胸騒ぎがするから新子を捜しに行ったらどこにも居なくて…。その夢を見たからここが分かったのよ」

 

「ハッキリした夢…?」

 

私も見た。鈴奈庵での父親の夢だ。

 

「何だアンタら、知らなかったのかね?」

 

部屋のドアが開き、奥からかなり年寄りと見える老婆が入ってきた。白く長い眉毛が垂れ、歩き方的に足腰はまだ元気なようだが杖を突いていた。

 

「あ、長!」

 

にとりがその老婆に振り向く。老婆は河童たちの長らしい。

 

「それは…本当の事なんだよ」

 

新子は思わず固まった。

 

「夢見の泉の水を飲んで普段思っていることを心に念じると、眠りについた時の夢の中で”魂のみ”が見たかったものや会いたい人の所へ行けるんだよ」

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