東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第15話 「仮面の人」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

そこで一行は幻想郷から姿を消したと思っていた河童たちと出会った。その河童たちを苦しめているという妖怪兄弟、ケチャルコチルを見事に退治した新子たちだが…?

 

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第15話 「仮面の人」

 

「まさか、本当にケチャルコチルを退治してしまうとは…」

 

新子たちがケチャルコチルを倒したとの知らせを聞いて、にとりと数名の河童がやってきた。おそらく、にとりが所属していた地上監視部の河童たちだろう。

当のケチャルコチルは特製の網でくるまれ、地面に押さえつけられたまま河童に囲まれている。

 

「コイツらはしばらくここに置いて見張らせておくよ。いいだろ?」

 

「ああ。ならば私が見張ろう」

 

バンは名乗り出ると、ケチャルコチルの横に座った。にとりの命令で、他の地上監視部の河童もそこに座る。

 

「一旦、アジトまで戻ろう。その服も着替えなくちゃいけないし、他の荷物も置きっぱなしだ」

 

 

竜の背に乗って河童のアジトまで向かっている途中。

 

「ところで、お前さんらがさっき言っていた、幻想郷を救うってのはどういうことだい?まさか、妖怪の山を越えてマガノ国にでも乗りこむつもりかい?」

 

にとりが二人にそう聞いた。

 

「そうね、言ってもいいかもね」

 

華扇は、にとりに自分たちが旅をしている目的、四人の歌姫計画を話した。にとりは最初の内はまさかと言ったような顔で聞いていたが、次第に真剣な面持ちで聞き入り始めた。

 

「つまり、あのケチャルコチルが山から下りて来たのも、全部マガノ国の歌姫っていう連中の所為なの」

 

「そうだったのか…。危うく私はマガノ国に対する”反逆の引き金”を殺してしまう所だったのか」

 

「そういうこと」

 

竜の飛ぶ速度が遅くなった。すぐそこに例の夢見の泉が見えてきた。竜はゆっくりと降下し、泉近くの林の中に着地した。

 

「私はここで待っていよう。用事を済ませてこい」

 

「ああ」

 

3人は林の中を歩き、夢見の泉の場所まで向かった。林の木々の隙間に、泉のほとりにあった岩が見えてきた時、足を止めた。大鷲の竿打が木の上でじっと視線を下に向けている。新子たちもその視線を追うと、そこには子供の河童が木の棒を持って歩き回っていた。

どうやらさっき騒ぎ立ててにとりが叱った子供たちのうちの1人のようだ。。

 

「アイツ…私らが居ない隙に外に出たんだな!」

 

にとりは林を出ようとしたが、すぐに足を止めた。

 

「こら、君!」

 

岩が横に動き、地下街へと通じる穴の中から女性の河童が現れた。

 

「あ…」

 

子供は咄嗟に違う岩の後ろに隠れ、その河童は子供を捜している。新子と華扇も気付いた。にとりが足を止めたのはこれが理由ではない。近くに、強烈な悪意を感じるのだ。とてつもなく恐ろしい、理解を超えた存在に鳥肌が立つ。

邪悪なものがそばにいる。すぐそばだ。それがどんどん近づいてくるのが分かる。新子は自分のすぐ横を形のない何かが通り過ぎたような気がして危うく大声を上げそうになった。

 

「ほら見つけた!」

 

ようやく子供を見つけた女性の河童が、その子供に駆け寄る。

その時だった。その女性の甲高い悲鳴が響き渡った。恐怖の叫びを耳にして、にとりも叫んだ。そして木の影から悪夢が現れた。フードを被った、真っ黒な巨体が。

影よりも暗い化け物が女性の上にぼうっと浮かんでいる。女性は悲鳴を上げながらよろよろと後ずさる。化け物は動かない。

 

竿打が羽をばたつかせながらしきりに鳴く。

次の瞬間、何か白く細長いものが波のようにうねる巨体から伸びてきた。手だ。獲物を捕らえようとする貪欲な長い指には、爪もしわもなかった。

その指は一瞬ぴくっと動いたかと思うと、するすると伸び始めた。白い指が蛇のように女性に絡みつき、首と全身を締め上げる。瞬きをする間に女性は宙づりにされていた。子供はその光景を前に声も出せないままへたりこんでいる。

猫が鼠を振り回すように、黒い化け物は女性の河童を揺さぶった。女性のうめき声がとまり、ぐったりとなる。化け物は女性をポイと投げ捨てた。フードの中には緑色に光る顔が有り、そしてあたりをチラリと一瞬見渡すと、影の中に消えた。

 

にとりが声を殺して言う。

 

「今のは何だったの…?」

 

新子たちに気付いた竿打がこちらに降り立った。

 

「あれは命あるものじゃないわ…。少なくとも生き物ではない…」

 

「だが妖怪を殺すことはできるわけだ」

 

華扇の推測に、新子が苦々しく言う。

にとりがようやく飛び出し、子供と動かない女性のもとへ近づいた。

 

「気を付けて…仮面の…人…」

 

ぼそりと小さな声で呟いた。女性の脈を調べるが、すでにもう死んでしまっていた。首と絞められた箇所には痣と凍傷のような傷が有り、その身体は冷凍保存でもされていたかのように冷たかった。

 

 

 

「そんな事が…。何という事だ…」

 

河童の長が死んでしまった河童の前に座り込んで手をこすり合わせている。

さっきの子供は親らしき河童と手を繋いでそれを見ていたが、体はカタカタと震えていた。さっき話を聞いたが、今の隙に山に行って山の様子を見れば、夢見の泉の水を飲んで大人たちと一緒に山へ行けると思って外に出たらしい。それがまさかこんな事になるとは思ってもいなかっただろう。

 

「絶対にマガノ国だ…ついにここがばれたのか…」

 

にとりが冷や汗をかきながら呟く。他の河童も不安そうにざわざわと声を漏らす。

既に以前の服装に着替え、荷物を持った新子と華扇はその様子を見ているしかなかった。一部の河童の視線が、明らかな疑いの念を持って2人へと向けられていたからだ。

 

「今すぐここを出るんだ。後の処理は私と長で何とかする」

 

にとりはこっそりと新子に耳打ちした。

 

 

2人が外に出ると、大きな荷台に拘束されたケチャルとコチルが地上監視部の河童たちによって運ばれてきていた。その最後尾には女憲兵のバンが居た。

その地上監視部たちは、さっきの事件を知らないんだ。ただケチャルコチルを退治した、その喜びに顔を輝かせている。2人はやはりすぐに山へ向かおうと思った。

 

「待て。私も同行しよう」

 

「…バン」

 

「私は元憲兵…山を通ってこっちへ来たんだ…だから今の山は私の方が詳しい」

 

3人は再び竜の背に乗り、妖怪の山へと向かった。

 

「なぁ、アンタはアタシらを妖怪の山まで運んでくれるのか?山は確か麒麟のなわばりだったろ、何を言われるか…」

 

「麒麟とな?」

 

竜はあくびをした。

 

「ひょっとするともう死んでいるかもしれない。北の領域はもう以前のものではない…マガノ国の怪物の巣窟だ。眠っているうちにやられてしまったかもしれないな。それに、領域を犯して空を飛ぶのは竜の得意分野だ。その竜がここに居るのに、何をためらう」

 

竜に乗って飛んでいる間、新子と華扇はずっとさっきの黒い怪物の事を考えていた。黒いフードの中に見えた、緑色の顔。顔には白い眼と長い鷹鼻だけがあり、白い蛇のような指も思い出される。

 

その事をバンにも話したが、バンは知らないと言った。そもそも普通の憲兵には歌姫の存在は知らされておらず、今が初耳だったようだ。

 

「だが、ケチャルコチルが面白い事を言っていたわ」

 

「面白い事?」

 

『へへへ…何故俺らが山を降りてふもとに現れたのか分かるか…けけけ…。山にはもっと恐ろしい奴がウロウロしてるんだ…”怪物スラッグ”とかな…だがそれよりももっと得体の知れねぇのがいる…影よりも暗くて氷より冷たい怒りの塊だ…だからそれに気を付けろ…絶対に手を出すな』

 

「怒りの塊…どうやらそれが歌姫らしいな」

 

「それに怪物スラッグ…良い感じはしないわね」

 

”気を付けて…仮面の…人”

 

新子の頭にはずっとその言葉がずっと頭にこだましていた。影よりも暗くて、氷より冷たい怒りの根源…。それが歌姫…?

 

 

まだ暗いうちに竜は降り立った。いつの間にか妖怪の山の中腹当たりまで来ていたらしい。ここは崖の底で、そこをうなるように吹く風が遠くの怪物や獣の声を運んでくる。

 

「今夜はここで休むとよい。ここだけは無事でよかった…昔に一度だけここで眠ったことが有る」

 

3人と竜はそこで一晩眠った。

 

 

目が覚めると、上に見える太陽は既に真上まで登っていた。まぁ寝付いたころにはすでに日が昇り始めていたからしょうがないか。

新子は空を見上げた、上空で竿打が旋回している。少し遠くの窪んだところには目を覚ました竜が岩のように動かずにじっと空を見上げていた。いや、見ているのは空ではない、上の方の壁だ。そしてその壁には、無数の光る目や泡が流れてきている。壁は生き物の気配で満ちていた。

あちらの穴から尖った鼻がつきだしたかと思うと、こちらではカギ爪が壁を掻きむしる。岩の裂け目から灰色の泡が音もなく膨らみ、ずるずると下へ滑ってくる。

 

「起きたのか。あの怪物どもはお前たちを襲いたくてしょうがないようだが、私が居るので手が出せないらしい」

 

その時突然、岩壁を揺るがすような轟音が轟いた。光っていた目が一斉にすべて消えた。飛び出していた爪や尻尾も引っ込み、急にあたりが静まり返った。

今の轟音を聞いて、華扇とバンも飛び起きた。竿打が矢のようにさっと降りて来たかと思うと、突然暗くなった。竜が崖の上まで舞い上がったのだ。そしてあわてふためいたように一声吠えた。

 

3人の視界から竜が消えた。代わりに現れたのは、緑色の巨体だった。牙を剥いては吠え、まるで空中に床があるかのように強靭な四肢を使って空を駆けている。緑色の鱗の身体に、黄色い棘の列や黄金のたてがみ、馬のような毛の尻尾が生えている。正しく、それは北の領域に住まう3体目の神獣、麒麟だった。

竜が自分の領域に入っているのに勘づき、麒麟が目覚めたのだ。

 

「なわばりを破ったな!!コソドロめ!恥を知るがいい!」

 

雷のような声が響き渡る。空を舞う竜を追いかけ、背中に前足を叩きつけようと強靭な腕を振り下ろす。竜がもう一度吠えた。そして麒麟は竜を追いかけるように、空の彼方へ消えてしまった。

 

「あんなのが名誉と力の象徴、か…」

 

竜は麒麟は名誉と力の象徴だと言っていた。もっと気高い種族だとイメージしていたが、ただ怒りっぽいだけだった。

確かに昔からある領土の境界を被られれば怒るのもわかるが…。

 

「だけど、竜もいない、あの麒麟も協力してくれそうにない。どうするの?」

 

「3人で進むしかないということでしょ」

 

それがどういうことか、新子は分かっていた。今までの南の歌姫や西の歌姫を倒したときは、グリフォンと竜に手伝ってもらった。神獣と新子の力が合わさり、華扇がサポートをして初めて歌姫を倒しうるだけの力を発揮できるのだ。

だが、竜も居なくなり、北の歌姫戦での希望でもあった麒麟も、あの様子では手を貸してはくれないだろう。

 

「でも歌姫は妖怪の山のどこにあるのかしら?」

 

「普通に山の頂上とかか?だとしたら自力で登るのは無理かもしれねぇな」

 

「…憲兵が近づいてはいけない場所が有る。ここより幾らか登ったところに、昔は天狗たちのアジトだったという敷地がある。そこからは邪悪な力が漏れ出していて、そこに近づきたくても、私たちただの憲兵には近づくことが許されていない。もしかしたらその場所こそが…」

 

新子と華扇はハッと顔を見合わせた。そこしかない。

 

「やはりそこか。案内しよう」

 

壁に再び光る目やヌルヌルと光る泡が見え始めていた。邪魔をしていた竜が居なくなったので、再び顔を出し始めたのだ。3人はすぐに走ってそこを去った。

 

 

妖怪の山と言えば、とにかく高いことで有名だ。もちろん、里に住む人間の中で山まで行こうと思う者はいない。里からも地平線の先にポツンと見える程度だが、それでもどれほど大きい山かが分かる。

昔は天狗の長である天魔とかいう奴が治めていたらしいが、もうそいつらも山には居ない。華扇も昔は妖怪の山に住んでいて、沢山の動物を飼いながら暮らしていたそうだが、マガノ国の侵攻に伴って動物たちも居なくなり、山を出ることを余儀なくされたらしい。山に住んでいたすごい神様も居たようだが、その神様たちも山を捨てたそうだ。代わりに山を支配しているのは、マガノ国の魔物どもだ。華扇の話だとかつては緑の木々に覆われ、遠くから見ると青く見えたらしいが、今ではかつての面影はほとんどなく、禿げた斜面を剥き出して不気味に聳えているだけだ。そして妖怪の山を越えればそこはもうマガノ国、禍王の目と鼻の先だ。また、マガノ憲兵団も妖怪の山からやってくるといわれている。

そして、北の歌姫も…。歌姫を倒せば、あの山は以前のような自然を取り戻すのだろうか。山を追われた妖怪は戻ってくるのだろうか。

 

どんな奴が番人で、どんな危険が待っているのだろう。そして、あの仮面の人は何なのだろう。そんな疑問を心に浮かべながら、新子は目的地を目指して進んでいた。

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