東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第17話 「反逆の引き金」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

元憲兵団のバンを仲間に加え、北の歌姫を目指して妖怪の山を上る一行。そしてついに、北の歌姫が隠されている天狗のアジトへとたどり着くのだった。

 

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第17話 「反逆の引き金」

 

─誰もが問う

─己とは何か

─命とは何か

─幻想郷とは何か

─その答えを知らぬまま幻想の民は死ぬ。それこそが、幻想の宿命

 

 

かつて見た景色。ささやかな平穏、ささやかな希望。それを踏みにじられた時、私は立ち上がる。

その手にある希望、反逆の引き金。私は戦い、逃げ惑い、そして絶望を知った。

人は問う、何故戦う?何故妖怪は殺す?その答えを知らぬまま、人は死ぬ。それこそが、人と妖怪のサガ。

妖怪は愚かだ。だから、この地から去れ。決して4人の歌姫に触れるな。お前たち愚かな種族にはどうすることもできないのだから、無駄だ。おとなしく滅びを受け入れるがいい…

 

 

 

「ここから先が…」

 

新子、華扇、バンの3人はいよいよ天狗のアジトの目と鼻の先までたどり着いた。呆然と前を見つめる3人の前で、遠くの岩々が塔になり、断崖は高い壁となった。

やがて目の前に、巨大な城が現れた。城の中から邪悪がじわりじわりと悪臭のように漏れ出してくる。新子と華扇が息を呑んだ。

 

「あれが天狗のアジトか」

 

新子が若干かすれた声で言った。

 

「ええ」

 

「ああ」

 

華扇は重々しく、バンは何もないように言う。3人は横に並んで、石のタイルの道を歩き出した。

行く手を阻むものは何もなかった。襲い来る怪物も居ない。だが、城の前に近付くにつれ、邪悪な吹雪が激しさを増す。

 

「北の番人はあの中でアタシらを待ってるんだ。やつはアタシらがここに来たことを知ってながらまだ動かねぇ。アタシらが出向いてくるのをじっと待ってやがるんだ」

 

「そのようね。番人は奴のご主人と同じ自惚れ屋ね。だがその自惚れが命取り…」

 

華扇は城の大きな扉を強くノックした。

 

「遠くから見張ってて、竿打」

 

華扇がささやく。竿打は不満そうに鳴いたが、3人の上から飛び立ち、暗闇に消えた。

新子は思った。アタシらは何の策もないまま。敵の罠に飛び込もうとしている。頼みは、アタシ達自身だ。新子は華扇を見た。華扇はにっこりと微笑みかけた。

いくしかないな…。新子は姿勢を正した。

扉の前で、3人は静かに待った。近づいてくる気配はない。華扇は腕をドリル状に変化させると、それを使って扉をぶち壊した。

 

「おいおい…」

 

「何も来ないって事は勝手に入ってもいいんでしょ?」

 

壊れた扉をくぐると、新子たちが通路を通るのに合わせて提灯が灯ってゆく。廊下の床は木でできていて、若干坂道になって上に上っているような感じがする。外観から見た城とは随分変わっているが…

 

やがてゆるやかな坂は、気も遠くなるほど長い螺旋階段へと変わった。外から見えた中で一番高かった塔を上っているのだろう。

 

「敵はこの上に居るハズ。急いで登りましょう」

 

華扇はバンと新子の手を取ると、螺旋階段の手すりの上をピョンピョンと飛び跳ねながら上へと昇り始めた。ぐんぐんと階段の初めの場所が遠ざかっていく。時折点在している窓の外は霧でおおわれている。いや、雲か…?

 

どんどんと登り、ようやく螺旋階段の終わりが見え始めてきた。華扇が飛んでいくスピードを速めるのが分かった。

だがその時、階段の上から、何かが身を乗り出してこちらを見ているのに気が付いた。黒い長衣をまとった化け物の顔は緑色に輝いて、はっきりと鷹鼻の仮面を形作っている。仮面から炎のようにメラメラと燃える目が覗く。ふいに、長衣の袖から白く長い腕がすうっと現れた。そして指を目いっぱいに広げ、向かってくる華扇たちを今にも迎え撃ち、叩き落とそうと構えている。

 

出たな、仮面の人。いや、北の番人の化身!!

 

「うおおおおおおおお!!」

 

番人の化身に臆することなく、こちらも化身ごと打ち破る勢いで飛んでいく。華扇は包帯の腕を巨大な拳の形へと変え、それを化身に振り下ろそうとする。

しかし、突然視界から番人の化身が消えた。その上、さらに続く階段が目の前に現れたのだ。

 

「なに…どういうこと!?」

 

バンが驚きの声を上げながら下を見る。新子もつられて下を見ると、なんと化身は自分たちの下に居た。勢い余って化身を通り過ぎてしまったのだろうか?

 

「いや、新子、違うわ!階段が出現したのでも、番人を越えたのでもない…!私たちは落ちているんだ!”ひっくり返された”んだ…何らかの方法で、”進行方向を上下逆さまにひっくり返された”んだッ!!」

 

それを聞いた新子が階段の手すりに捕まろうと手を伸ばす。手すりを掴むと、また方向を変え、もう一度番人の化身目がけて跳躍する。

今度も同じだった。気が付けば、自分たちはいつの間にか逆を向いている。

 

「クソ…厄介だな!」

 

新子がそう悪態を付いた瞬間、突然、緑色の顔が目の前に現れた。燃える目がぐにゃりと薄気味悪く笑う。直後、3人は巨大な腕によって叩きのめされた。3人は別々の方向に吹き飛び、螺旋階段に落ちた。

化身は前に出てきた時よりも格段に力を増していた。本当にこの近くに、奴の本体である北の番人が居る。敵がこんなに強いのに、新子の能力が発動しない。

奴はどんどん強くなる。こうなれば、本体を直接叩くしかない。

 

「テメェだろう、河童を殺して、スラッグを攻撃したのはよォ!!テメェは番人に遠隔操作されていたんだ、河童の時はあまりにも遠すぎて、アタシたちと河童を間違えて殺し、さっきもアタシらとスラッグを間違えて攻撃した」

 

緑色の仮面の目が、だから何だ、とでも言っているように新子を見る。

 

「だが今度はテメェは間違っちゃくれねぇ。確実にアタシらをしとめるだろう。だから、もっと簡単なほうを叩くとするぜ!」

 

新子は螺旋階段を駆け下り、一番近いところにあった窓をたたき割ろうと拳を打ち付けた。窓は砕け散り、外の冷たい突風が塔の中に吹き抜けて来る。

化身の頭がカタカタと震えた。どうやら嘲笑しているらしい。

確かに、窓を壊したはいいが、この塔をどうやって登っていけば…。その時、華扇が口笛を鳴らした。大きな音の口笛は窓の外まで響き、それは塔の下へ…城の外へ…どんどん響いていく。

 

「この化身は私たちが何とかするわ、新子は上へ!」

 

壊れた窓から、見慣れた顔が突き出てきた。黄色いクチバシ、鋭い目、白い羽毛…竿打だ!

 

「よし、行くぜ!」

 

新子は竿打の背中へと飛び乗り、竿打は塔の外をぐんぐん飛んで上へ昇っていく。そしてついに、当の最上部が見えた。壁は一面ガラスになっていて、中は薄暗い部屋になっている。

その部屋の中央には、上向きの矢印をかたどった玉座が佇んでいる。そしてその玉座に座り、肘を付いてこちらを見て不気味な笑みを浮かべているのは…。

 

「アイツが北の番人か…!!」

 

竿打はガラスへと突進し、バリーンと音を立てて部屋へと殴りこんだ。新子は竿打の背中から飛び降り、背中のバッグからバットを抜いて床へ着地した。そして、玉座の上でふんぞり返っている番人を睨みつける。

赤と白の混ざったメッシュの長いぼさぼさ髪に、その髪の隙間から飛び出ている2本の角。新子よりも高い位置に居るはずなのに、こちらを睨めあげてくる恨めしそうな目つき。

 

「何とかたどり着いたようだな、小娘…。この北の番人、鬼人正邪(きじんせいじゃ)のもとへ↑」

 

「なに、鬼人正邪だと…!?」

 

鬼人正邪…あの洞穴の前に有った墓石にかかれていた名前じゃないか!

 

「…アタシは見たぜ、アンタは死んだんじゃなかったのか?墓を見たぜ」

 

「ほう、あそこに行ったのか。あれは私が死んだと思わせる罠だ。この通り、私は北の歌姫の番人となった。あそこに私の墓を立て、死んだように見せかければ、誰も番人が鬼人正邪だとは思うまい。もっとも、ここまで来たのはお前が初めてだがな」

 

「だったら何故、お前は歌姫の番人なんかになったんだ?お前は昔マガノ国で無理やり戦わされてたんだろ、そのマガノ国に今更付くなんて…」

 

「ケケケ、ククッ、ハハハハハハハハハハ↑↑無知とは恐ろしい事よ、お前は自分を正義と信じているのかもしれないが、この幻想郷を守っているのはこの私なのだ。この鬼人正邪こそ、お前たち人間の守護者なのだよ」

 

「な、何を言っている!?」

 

高笑いしながらそう言う正邪に、新子が戸惑いながら言い返そうとする。

 

「マガノ国に支配されることが、人が生き残る唯一の道なのだ。そこから外れたお前たちを、これ以上好きにさせる訳にはいかん。幻想郷の為に…死ぬが良い」

 

正邪が座っている玉座の横から、細長い矢印の形をした槍が突き出した。咄嗟にバットで槍を殴り、方向を変える。

 

「ははん、なかなかいい力を持っているな。その力がどんな力なのかも知らずに…」

 

正邪は玉座から立ち上がると、膝にかけていたマントを背中に羽織る。すると、玉座の影が蠢き出し、巨大な怪物へと形を変えた。黒い影のような化身の長衣の中に正邪が入り込むと、化身のフードの中の緑色の顔が現れた。

新子の2倍も3倍もある巨体が目の前に腕を組んで立ちふさがる。

 

「これが私の北の番人としての能力…『仮面の反逆者(マスクドトレイラー)』」

 

「出やがったな、仮面ヤロウ!今度こそ…なっ!?」

 

正邪の化身が組んでいた腕を解くと、その白い手には…ぐったりとうなだれた、ボロボロの華扇とバンが握られていた。

 

「コイツらなど、取るに足らなかったな」

 

仮面から正邪の声が響いた。

そして2人を長衣の中に押し込む。

 

「テメェ…ッ」

 

ここからは新子一人で戦わなければならない。この強大な影の塊と。だが、新子も丸腰ではない。今まで遠隔で使われていたこの化身相手には能力が発動しなかったが、今は違う。あの化身は今、本体である鬼人正邪と合体している…つまり、その鬼人正邪の妖力に反応して、新子は強くなる!

 

「それがお前の能力か、小娘」

 

正邪は一旦しゃがみ込むと、一気に部屋の天井まで跳躍した。そして勢いをつけ、その巨大な拳を振り下ろす。

物凄い速度で落ちて来る正邪をじっと見つめる新子。新子も負けじと飛び跳ね、正邪の拳に自分の拳をぶつけた。部屋に突風が巻き起こり、両者の間に稲妻が走る。

 

だが、このお互いの初撃は、落下の勢いがあった正邪が勝った。新子は地面へと吹き飛ばされ、そのままバウンドしてもう一度正邪の目の前まで来てしまった。すかさずもう一度殴り、壁に向かって突き飛ばす。

 

「ッラァ!!」

 

新子は壁と垂直に上手く着地すると、壁を走り出す。そのまま降りて来る正邪へと近づき、手にしたバットを思いきり振り下ろした。バットの一撃は伸びてきた白い指に当たり、その指はへし折れると同時に粉々に消し飛ぶ。

そして、再び両者の拳がぶつかり合った。

今度はほぼ互角。仮面の顔と新子の額がぴったりとくっつく距離まで接近している。

 

「かつてお前のように、幻想郷のために歌姫と戦ったヤツがいたよ…その行いが逆に幻想郷を破滅に追い込むとも知らずにな…」

 

「何を言ってんのか、ゼンゼン分からねぇんだよ!!」

 

「分かる必要はない↑どうせすぐに死ぬのだ」

 

正邪は新子をはじき返すと、妖気の衝撃波を放ち、再び新子を壁へと吹き飛ばす。

そして白い指が赤と青の尖った矢印へと変わり、一直線に新子へと向かって行った。矢印は新子の足や肩、腕を貫通し、そのまま後ろにあったガラスの壁に縫い止めるように突き刺さった。

近くで竿打がけたましく鳴き、塔が揺れた。

 

「クソが…」

 

新子はバットを杖にしてよろよろと立ち上がる。傷口からは絶えず血が流れだしている。

 

「まだ戦う力が残っているのか。その反逆精神は誉めてやろう」

 

影の巨体が上から覆いかぶさるように襲い掛かって来る。新子は立ち上がったまま動こうとしない。そしてついに、正邪はボディプレスをかまし、床に小さなクレーターが出来上がった。

 

「死んだか…。…ぬ」

 

化身の腹の下で何かが動くのを感じる。あの小娘か、これでは仕留めきれなかったか。まあいい、これでは息もできまい、いずれ死ぬ。

 

 

巨大な化身の身体に閃光が走った。爆発のような衝撃が襲う。

 

「何だと…↑?」

 

正邪の背中から、高速回転する何かが長衣を突き破って現れた。何かは3つに分裂し、空中に浮きあがった正邪の前に降り立つ。

一つは、右腕をドリルのように回転させている華扇だった。隣に居るのは、憲兵用の爆弾を手に持っているバン。その後ろに居るのは、勝ち誇った笑みを浮かべている新子…。

 

「小娘が…↑長衣の中をそいつを使ったのか」

 

「ああそうだ、お前をギタギタにするにゃ、これしか思いつかなかったんでよ」

 

「北の番人よ、覚悟しろ!」

 

バンが目にもとまらぬ速さで駆け出し、風でバサバサと揺れている長衣の袖に捕まった。纏わりつくバンを引きはがそうと伸びてきた白い指に捕まる前に、バンは身軽な身ごなしで長衣を上っていく。ついには緑色に光る大きな仮面の場所にまで上り詰めた。

そして、尖った鷹鼻の上、両目の間に、短剣を深く突き刺した。仮面の目が怒りに燃え、正邪ではなく化身の耳をつんざくような叫び声が響く。

 

「新子、あれをやるわ!」

 

「おう、やってやろうぜ!」

 

華扇の腕の包帯が解け、新子に巻き付いていく。そして空中へ飛びあがり、それを正邪へと狙いを定め、包帯をバネのようにして勢いよく新子を射出した。西の歌姫戦で使用した、あの技だ。

 

「邪魔だ」

 

正邪は仮面に貼りつくバンを自由自在に操れる矢印の槍で叩き落とし、今だ空中に留まっている華扇を吹き飛ばした。

そして白い手を広げ、向かってくる新子を受け止める態勢をとる。

他の奴はもういい、今のが最後の力と見た。先刻の戦いで散々痛めつけてやったし、残るはあの小娘を叩きのめせば終わりだ。

 

そして、鈍い音を立てながら、新子の拳が正邪の手の平に激突した。受け止めてやったぞ、不敵な笑みを浮かべる正邪だが、受け止めている腕が衝撃に耐えられず、グニャグニャと崩れていく。

白い手のしわの無い皮が破れ、緑色の邪悪な光が漏れ出す。その時、正邪は目を見張った。自分から漏れ出た魔力が、新子に吸い取られるようだ。魔力は新子の気となってその身体の周りに纏われていく。

 

「私の魔力を取り込むつもりか↑」

 

正邪は自身の能力を使い、自分にかかる重力を反転させた。一瞬で天井に移動し、そのまま平然と天井に立って見せる。

 

「なるほど、伊達にここまでたどり着いたわけではないな。しかし悪あがきもこれまでだ…もうそこまでボロボロなお前たちでは、もはや一かけらの勝ち目もない↑」

 

「ガタガタ言ってんじゃねぇ!このアタシが、負ける訳はねぇんだよ!イバラが、バンが、にとりたちが、このアタシを信じてる!誰にも信じられねぇテメェに、負ける訳ァねぇんだぜ!!」

 

新子の周りに膨大な気の渦が発生した。高まりに高まった力を一気に使うつもりだ。

 

「ならば私は、全力でお前を潰そう──↑↑!」

 

正邪も負けじと力を込め、妖気と魔力の混じり合ったエネルギーの渦を発生させ、一気に塔の天上をぶち抜いた。

そして塔の上へと舞い上がり、長衣の袖から飛び出た何百本もの白い指が互いに重なり合い、一つの巨大な矢印を形作った。

 

「喰らうがいい、『リベリオントリガー』ァァァァァアアア↑↑↑!!!」

 

上から襲い来る正邪の巨大な矢印を、新子が両腕で受け止める。大きな衝撃波が塔から妖怪の山全体にまで広がった。

 

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