東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第21話 「博麗神社」

鈴奈庵の娘、本居新子は両親から、禍王の”四人の歌姫計画”を知らされる。新子は仲間の茨木華扇と共に、歌姫計画を打ち破るために旅立った。

父親と東の神獣、天狐の死を悲しむ暇は無い。新子はどうしようもない怒りを胸に秘めながら、ついに博麗神社へとたどり着いた。

 

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第21話 「博麗神社」

 

新子は鳥居をくぐった瞬間、その光景に目を疑った。

青く澄み渡った空、周囲に響くセミの声。後ろを振り向くと、幻想郷の景色が一望できた。ここから左手に見える魔法の森はまるで緑色の大きな海に見え、そこには砂漠なんて見当たらない。向かって右手の方角には、遠くに小さく妖怪の山が見える。これも深い緑に覆われ、木が枯れて岩山がむき出しになっているところも無ければ、醜く禿げた斜面もない。

 

神社の拝殿の前では、背中に羽のついた小さな女の子たちがはしゃぎまわり、大きな木の下では色の薄い着物を着た女の人と紫色の服を着た女の人が談笑している。

そして、拝殿の向こうにある縁側では、自分と同い年くらいの女の子たちが座り、お茶を飲んでいた。

これは昔の風景だ。何百年も昔、まだ平和の一途を歩んでいたころの幻想郷の姿。きっと、この風景の通りに、この博麗神社は賑やかだったに違いない。

ふと視線をずらすと、石畳の床の上に散らばった落ち葉を箒で掃いている少女が居た。一人で黙々と掃き掃除をしていた少女は、新子に気付いたのか、手をとめた。そしてゆっくりと顔をこちらへ向け、次に巫女服の袖を揺らしながら体をくるりと向ける。

そしてにこやかな笑顔で、新子にこう囁きかけた。

 

─博麗神社へようこそ

 

次に聞こえてきたのは、あの少女の囁き声。奇妙な言葉が、何度も何度も繰り返される。

 

─ロックワブルアーゴルカムナセトレーナ…

─ロックワブルアーゴルカムナセトレーナ…

 

竜のロックについて何か言っているようだ。だが、新子には何て言っているのかわからない。きっと、これは外国の言葉だろう。

 

 

「どうしたの?」

 

後ろから肩を揺さぶられて、新子はハッと気が付いた。どうやら自分は幻を見ていたようだ。

目の前の地面は背の高い雑草が伸び放題で、死の空気に満ちていた。そして博麗神社も、壁は薄汚れてひびが入り、壁の下から屋根のてっぺんまで蔦で覆われていた。

後ろを振り向いて、今来た鳥居の向こう側を見る。光を発していたように見えたのは、あの幻か…。さっきの幻の中と同じように、幻想郷の景色を一望しようとする。魔法の森にはぽっかりと丸い砂漠があり、妖怪の山は禿げてところどころ岩肌がむき出しになっていた。これが、今の幻想郷の姿。さっきの幻の面影はほとんどない。これこそが、現実。

 

「…見えなかったのか?」

 

「?…何が?」

 

華扇には何も見えなかったらしい。

 

「あの霧…。どうやら霧の外からだと、神社は綺麗に保たれているように見えるらしいわね。誰かが魔力で撒いたんだわ」

 

確かに、里から見える博麗神社はこんな有様ではなかった。まるで人が居て、誰かがきちんと管理でもしているような状態が保たれていた。

 

「でも何の為に?」

 

「…きっと、博麗神社の巫女への信頼を落とすため、とか?もともと神社への道は、昔から妖怪がけっこう出るから神社へ行く人自体が少なかったんだけど、それを利用しようとしたんだわ。里から神社を見た人に『自分たちがこんなに苦しい生活を強いられているのに、博麗の巫女は何もせずに神社に籠っている』なんて思わせればいいわけよ」

 

「神社に直接来られなければいいのか」

 

2人は、神社の本殿へと近づいた。ここだ、ここから邪悪な力が漏れ出しているのが分かる。ガラスが粉々に砕けている戸を開け、真っ暗な内部へと足を踏み入れる。中はほこりっぽく、物は散らかり、百年近くは誰も足を踏み入れていない事は確かだった。

 

暗い部屋を、足元に気を付けながら歩いていると、ふいにコンクリートの壁に当たった。変だ、この神社は木造だったのに、ここだけコンクリートの壁になっているだなんて。まるで、何かを隠しているような…。

 

「ここに歌姫が…」

 

一目でわかった。いや、見なくても分かる。敏感に感じ取れたのは、東の歌姫の甘く美しい歌声。

大地の荒廃と畑の不作に悩まされて、やっとの思いでこの神社にたどり着き、ここで神に拝んだ者も、博麗の巫女という希望にすがってここまで来た者も、ここで絶望を与えられたんだ。この中にある、東の歌姫によって。

今すぐにこの歌姫の歌声を悲鳴に変えてやりたい。他の3人のように、みっともないうめき声で命乞いをして見ろ。お前たちの所為で、父さんは死んだんだ。だから…

 

「退いていて」

 

華扇が数歩後ろへ下がった。包帯でおおわれた右腕を後ろへ引き、腕をドリルの形へ変化させる。

新子はよろよろと横へ退いた。

 

「上品なやり方じゃないけど、絡まった紐は解こうとするより切ってしまった方が簡単な場合もあるでしょ?」

 

ドリルの先端を壁へと向けて構えた。そして、華扇は勢いよく体を前に踏み込み、壁を殴った。

ガキン!という音の後、壁を削ろうとする耳障りな音を立てる。振動が床を伝い、新子の足まで響く。しかし、その直後、壁から発せられた謎の波動によって、華扇のドリルははじき返されてしまった。

 

「いたっ…!どうやら不思議な魔力が壁を守っているらしいわ」

 

華扇は新子に話しかけた。

 

「お願い、力を貸して」

 

新子は華扇の肩に手を置き、神獣に力を貸すときのように、湧いてくる力を送り込んだ。壁にはちょびっとの穴と亀裂が入り、そこから感じる歌姫の魔力に反応して、新子の力も少しずつ高まってきている。

 

「これなら…!」

 

もう一度、ドリルを壁へぶつけた。物凄い音と共に、またドリルが弾かれた。石がパラパラと崩れ落ちる音がする。

うまくいったか?新子はうずうずして、華扇の後ろから首を伸ばした。壁はヒビだらけ、中心のあたりに小さなギザギザした穴が空いている。

 

「さあ、見えて来たわ!」

 

ドリルが真っすぐ亀裂に突っ込んだ。大きなコンクリートの破片が音を立てて地面に崩れ落ちる。

 

「よし、もう一度!」

 

2人はまた突進した。ガシャーン、という今までにない音が響く。

うしろへ下がってみると、足元にはコンクリートの破片が山となり、あたりにはもうもうと粉塵が立ち込めている。2人が壊した壁の面はほとんど跡形もなく、代わりに真っ黒な穴が、大きな口を開けていた。

華扇が膝に手を付いて息を切らしている。新子の両手もぐっしょり濡れていた。髪から滴る汗が目に染みる。服の袖で額をぬぐった時、手が震えているのに気付いた。

 

漆黒の闇をたたえた穴が、墓穴のように目の前に口を開けている。奥に何があるのかは、全く見えない。

華扇が新子の手に、火をつけたロウソクを押しつけた。受け取って、穴にかがみこむ。ロウソクの炎が狂ったように燃えた。息をつめてロウソクを穴に差し入れた。

コンクリートの破片が散らばっているほかは、穴の中は空っぽだった。

 

「何もねぇぞ」

 

新子の声がコンクリートの壁に不気味にこだまする。

ロウソクが震える新子の手から滑り落ち、コロコロと2回転して何もない空間の床に転がった。揺れる炎が、がれきの下に横たわる灰色の床を照らし出す。

新子はハッとなった。小さくかがんで、今にも消えそうなロウソクを取り、床に散らばす破片を押しのける。

 

「これを見ろ…」

 

新子は小声で言った。華扇が新子の隣にひざまずいた。揺れる光の中、2人は床にはめこまれた石碑に刻まれた文字を読んだ。文字はついさっき刻まれたばかりのようにはっきり読める。

 

”負けて勝つのか 勝って負けるか

 鈴奈庵のアバズレ女よ お前が選べ

 逃げ出すがいい さもなくば

 お前も幻想郷も 運の尽き”

 

新子は怒りに真っ赤になった。突然襲ってきた吐き気がおさまるのを、眼を閉じてじっと待つ。

この文の問題は、この禍王の言葉だ。人を嘲笑うような言葉が、アタシに、アタシだけに向けられていることだ。

 

「今までの碑文とは違うわね。西の歌姫の時は、竜の墓場の恐ろしさを説いていて、北の歌姫の時は鬼人正邪が何のあてもなく書いたものだった。でもこれは、一人に向けての言葉よ」

 

「そうだ!本居新子、お前に向けての言葉だ!」

 

背後から声が響いた。2人が驚いて振り向くと、拝殿の外から入り込んできた日の光を背に、両手を広げた男が立っていた。色黒の肌に白髪、新子よりも背の高い、黒服を纏った姿。にやりと歪んだ口元と、鋭い目が光の中に浮かび上がる。

 

2人は身構えた。熱風は両腕を広げたまま、目線を新子から後ろの壊れた壁へと移し、最後に華扇を見た。そして次の瞬間、恐ろしい言葉が発せられた。

 

「ああ、さっきから誰かと思っていたら…。”茨歌仙”さんではありませんか…東の歌姫の番人である本居新子の護衛、お疲れさまでした」

 

場の空気が凍った。

 

「あ…え?」

 

新子は胸と頭が熱くなるのを感じた。心臓が早鐘のように動いている。思わず華扇の方を見た。華扇は表情一つ変えずに熱風を見ている。

 

「どうかしたか、東の番人?お前がいつまでたっても番人としての自覚を持たないから、茨歌仙と共に他の歌姫と番人を見させて番人としての能力を磨かせようとしていたのが、そんなに意外だったかな?」

 

嘘だろ?

 

「行く先行く先で、居場所を教えてくれて感謝するよ茨歌仙さん…」

 

もう一度華扇の方を見る。

 

「違うわ、嘘を信じないで!」

 

新子の肩を掴み、体を揺さぶっている。だが、その華扇の必死の呼びかけも、もはや新子には届いてはいなかった。

確かに、いつも居場所が敵に知られていたのも、熱風の言う通りに華扇が敵と繋がっていたと考えれば辻褄が合う。それに、4つの歌姫の場所を調べ上げたのは華扇だった。これも元から知っていたとすれば…?

だが、本当に…?華扇は今までアタシと一緒に戦ってきた。マガノ国にとって歌姫が重要であるならば、アタシに協力など絶対にしないハズ。ていうか歌姫の事なんて教えないハズ。

 

「おい…アタシが東の歌姫の番人ってどういうことだ…寝言は寝てから言え!」

 

新子は熱風に向けて殴りかかる。だが、あっけなく受け流され、かすりもしない。

 

「寝言だって?ふふふ、違うな。お前は正真正銘東の歌姫の番人なんだよ。例えば、お前のその能力」

 

熱風の指が新子に向けられた。

 

「いつもそうだったろう、お前が歌姫と戦う時は、歌姫に近づけば近づくほど力が増す。それは番人としての能力だったんだぜ?歌姫を守る存在なんだから、歌姫から力を貰うのは当然の事だろう?違うか?」

 

”お前のその能力、知ってから後悔することになるぞ”

”何故お前は邪悪を前にして力が増す?何故お前は、私のような歌姫の番人のように、歌姫に近づけば近づくほど、強くなる?”

 

鬼人正邪、その通りだ、知ってから後悔しているよ…。歌姫を倒す切り札だと思っていた力が、本当は歌姫を守るための力だったなんて。

 

「新子、アイツは混乱を誘おうとしているのよ?耳を貸しちゃダメ!」

 

─無駄だよ、茨歌仙

 

「ッ…!?頭の中に直接…!」

 

─その力は、使う者が一番よく知っている。だから本能的に察したのだ、自分が本当の番人だったと

 

「アンタは…アンタは一体、何者なの…?」

 

─初代東の歌姫の番人だよ。200年近く番人をやって来たが、生憎俺は人間だ。やはり限界というものがやってくる…そこで、俺は素質のある別の人間に番人の力を移し、ソイツに番人の座を譲ろうとした。そして見つけたのが…

 

「新子だったって訳ね…。私もてっきり、新子が自分で覚醒させた力とばかり思っていたけど…」

 

─禍王様は何でも計算づくだったのだ。新子を歌姫討伐の旅に出向かせ、そこで死んでくれればもっと素質ある者に番人を譲れる。お前が歌姫の在り処を調べ上げたのも計算の内だったようだぞ、お前が居れば、こうして上手く新子の心に闇が付け入る隙を作れるからな。もし新子が死ななければ、いずれこの東の歌姫の場所にたどり着いた時、こうなるという計算もあった

 

「なるほどな」

 

冷めきった声が2人の耳に届いた。

 

「思い出したぜ、熱風…お前の事をな。ずっと昔の事だけどよ…」

 

「そうか。だったら、俺と一緒に来るのだ。共に邪悪の濁流に身をゆだね…」

 

「まぁだ話は終わってねぇんだよコノヤロウ!!…誰が、父さんを殺した相手と一緒に行くって?勘違いするなよ、アタシの生き方はアタシが決める!アタシはこの能力を何かのために使うつもりもねぇ、今はタダ、この力でお前たちを倒す!」

 

「まさか…」

 

「ああ、どっちが本当か分からねぇ、絡まった糸は解くよりもぶった切った方が早い…そうだろ、華扇?」

 

「だから、ソイツの言ってることは…」

 

「うるせぇ!いっつもいつもくどくどと口うるさく言いやがって!!もうお前なんて知らねぇよ!」

 

「ええ、そうね…もう、そんな奴の言い分を真に受ける新子なんて、もう知らない」

 

「…あばよ」

 

ああ、行ってしまった…。

華扇の心に、大きな穴が空いた。

 

新子は再び熱風へと向かった。腕を振り下ろし、一気に熱風の胸を貫いた。どうだ、とほくそ笑みながら熱風を見るが、不思議なことに傷口からは一滴も血が出ていない。

 

「禍王様は俺に不死身の身体を与えてくださった…お前ごときに俺が倒せるか!」

 

熱風は自身に刺さった腕を引き抜き、そのまま新子を投げ飛ばした。胸の傷は瞬く間にふさがり、傷跡も残らない。

 

「本当に不死身なのかよ…!」

 

「そうだ、お前も来れば、同じような不死身を手に入れることができるぞ…」

 

「ふざけた事をおお…!!」

 

新子の身体から、邪気がプシューと噴き出した。それを見た熱風は思った。あともうひと押し…。

だがその時、熱風の顔面に新子の拳がぶち当たった。上体が後ろへ反れ、そのまま床へ叩きつけられる。

 

「何…!?」

 

「そんなモンかァ…熱風!!」

 

さらに拳を何度も何度も叩きつけられ、その身体は原形をとどめないほどグチャグチャに潰されていた。

 

「馬鹿な…お前如きが、それまでのパワーを…。ならば!」

 

熱風は回復しかけた顔で、例の石碑に目を移した。そして右手を掲げると、床にはまっていた石碑が粉々に砕け散った。目もくらむばかりの白い閃光が炸裂した。

華扇が目を押さえて後ずさる。穴がぽっかりと口を開けた。邪悪な力がドロドロと、悪臭のように湧き上がってくる。新子はがっくりと膝をつき、目を見張った。涙があふれるが、目を逸らすことができない。

床下の暗闇の奥で、何かがきらりと光った。宝石のように美しいものが新子を招いている。

 

『東の歌姫』だ。

 

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